スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

キプロスの預金課税

2013-03-18 02:23:22 | スウェーデン・その他の経済
なかなか更新できませんが、この週末に発表された、キプロスの預金課税のニュースが気になったので、簡単にまとめてみます。


財政危機に陥っているEMU(欧州通貨同盟)加盟国のキプロスは土曜日、他の加盟国からの100億ユーロに及ぶ支援を受ける条件として、国内の銀行預金に対する一度限りの課税を発表した。税率は、預金10万ユーロ以下で6.75%、それ以上だと9.9%の税率となる。これにより58億ユーロを捻出する考えだ。

キプロスは低い法人税(10%)のために外国投資家の預金が多く、またロシア富裕層をはじめ租税回避のためにキプロスが利用されてきた結果、金融セクターが肥大化していた。預金全体の37%を外国人が占め、そのうちの大部分がロシア富裕層とのことだ。

そんなキプロスの金融セクターの主要投資先の一つがギリシャだった。しかし、財政危機に伴うギリシャ国債の部分的帳消しにより、多額の損失を抱えることになった。その結果、政府の資本注入がなければ大手2行が破綻しかねない事態となっている。また、それに伴う信用不安や、金融システムの崩壊による企業の連鎖倒産も懸念されている。そのため、他のユーロ加盟国からの支援が欠かせないものとなった。また、キプロス政府は6月に満期を迎える国債の償還のために70億ユーロを必要としており、総額170億ユーロの支援を当初、ユーロ加盟国に求めた。しかし、それでは、キプロスの国債残高がGDPの130%を上回り、財政再建が危うくなることをEUやIMFが懸念し、70億ユーロ分の捻出をキプロス政府に要求したようだ。

総額100億ユーロになる支援の条件は、法人税引き上げ(10%→12.5%)、資本課税強化、そして、この預金課税が盛り込まれている。国が預金の一部を、財政再建のために差し押さえたと見ることもできる。キプロスの財政危機の引き金となっている金融セクターに財政再建の負担を負わせるという論理だが、外国の富裕層だけでなく、国内の中小預金者も負担を負わねばならず、国内では大きな反発が広がっている。

週末にはATMに長い行列ができ、現金がすぐに空となった。また、土曜日に営業していた信用組合系の金融機関には、預金の払い戻しを求める顧客が殺到し、1時間に及ぶ混乱の末、閉店。日曜日に予定されていた議会での投票は翌日に延期。(未確認情報だが、月曜日は休日であるため、決定後初めての平日となり、金融機関が営業を開始する火曜日までに課税を実行したいようだ)

キプロスには、ロシアの富裕層だけでなく、年金生活者をはじめとするイギリス人6万人が居住するほか、イギリス兵3万人も駐屯。今回の預金課税によって英兵士がこうむる損失に対して、イギリス政府は補償を約束すると発表している。

預金課税という過激なアイデアが出た背景には、財政支援の大部分を負担することになるドイツの要求があったようだ。ユーロ加盟国によるキプロス支援は、ドイツ連邦議会での可決を経ねばならない。その審議に際し、特に野党である社会民主党が厳しい要求を突きつけたようだ。また、これまでマネーロンダリングを認めていたキプロスの金融機関に対する支援に、オランダやフィンランドも反発していた。

ちなみに、EUはこれがキプロスだけに限った特別な解決策であり、財政危機に陥った他の国では同様の預金課税を要求することはないと強調している。将来、そのような国々で、取り付け騒ぎが発生することを考えた配慮であるが、どこまで有効だろうか。

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1 コメント

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Unknown (Noboru)
2013-03-23 11:11:39
新聞もテレビもない生活で数年。ネットの情報のみですが、この度のキプロスの預金課税のくだり、こちらを拝見して経緯が理解出来ました。日本のネット新聞では、「課税10%」の文字だけが踊り、それに対する反応も「利子にでなくか?」と言った議論で、降って湧いた話しは、ドイツの考えや、どこまで広がるのかまったく一市民には予測不能。このプログの解説と同じレベルの知性を日本のメディアに期待するのは間違いか?と益々ネットの奥に潜り込み・・

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