スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

福島原発で期待されるスウェーデン製の特殊カメラ

2011-04-08 00:57:52 | コラム
福島第1原発の緊急事態に対処するために、アメリカやフランスなどから原子力の技術者などが日本へ送られている。フランスからは遠隔操作が可能なロボットも送られたが、スウェーデンからも大急ぎで発送されたものがある。強い放射線に耐えられる監視カメラだ。


スウェーデンの南部にある小さな企業ISECは、1990年の創業以来、画像や音を通じて監視を行うシステム(Industrial Audio Visual Control Systems)を産業用に開発してきた。ボルボやサーブ、エリクソンなどの大企業における製造ラインや鉄鉱採掘現場、パルプ工場の生産プロセスを監視するシステムのほか、道路の交通監視システムや省庁の建物のセキュリティー、刑務所の監視システムなども手がけてきた。しかし、なかでも最も重要な顧客の一つはスウェーデン国内の原子力発電所だった。原発の異常などを早期に発見するシステムを提供してきたのである。

しかし、原発内でも原子炉に近いところなどでは放射線の強い場所もある。そこでこのISECスウェーデンの原子力業界と共同で、強い放射線にも耐えられるカメラの開発を6年前から行ってきた。他社の製品でも放射線に耐えられるカメラは以前からあったのものの白黒だった。しかし、ISECが開発したカメラはカラー画像なのだそうだ。3つの特許がこの製品の鍵を握っており、一つは放射能を抑える素材、一つは電子部品を冷却する装置、もう一つは利用しないときには自動的に防御モードに入るための仕組みだという。

ちょうど開発段階が終わり、商品化に漕ぎつけたところで、さあ、これから国外の市場にも進出しようとしていた矢先だった。国際マーケティングの一環で、日本にも見本を送っていた。どうやらその噂を東京電力は聞きつけたらしい。

そして、先月の後半に東京電力から注文が入ってきた。早急に製品を送って欲しいという。しかし、製造には4ヶ月から5ヶ月がかかる・・・。

幸いにも、少し以前にフォッシュマルク原子力発電所(チェルノブイリ事故を最初に発見したスウェーデンの原発)が23台のカメラを発注し、製品が既に完成していた。東京電力の危急の注文を耳にしたフォッシュマルク原発は「自分たちは急がないから、福島原発への支援になるなら、その23台をすぐに福島原発に回してよい」と申し出たらしい。

そして、今週火曜日の朝に注文の一部が福島原発に到着したとのことだ。ISECによると、東京電力はこの特殊カメラを放射能の強い原子炉付近や原子炉内の監視に用いるつもりだという。作業員が危険な場所に近づくことなく、継続的に問題の箇所を監視できるようになれば、作業員の身を守ることができる(設置には人手が必要だが)。

ちなみに、このISECという企業は従業員はわずか4人で、あとは外部の技術コンサル企業などに頼っている小さな企業だ。2009年の年間売り上げは460万クローナ(6000万円)だったという。この新製品に対しては、その技術の信頼性を疑う声も原子力業界にはあるようだが、もし福島原発でうまく機能し役に立てば、このISECにとってはまたとない実証となるだろう。