さて、中道右派政権は2007年から早速、勤労所得税額控除を行ったが、その恩恵を受けられない年金受給の高齢者からは不満が相次いだ。しかし、4党の連立からなる政権側は突っぱねた。その理由は、以前の記事に書いたとおりだ。
社会民主党などの野党は、そもそも勤労所得税額控除の制度そのものが嫌いだったから、その撤廃を求めていた。だから、高齢者の声に応じることはなかった。いや、1回ある。社会民主党は2007年秋に新聞に寄稿したオピニオン記事にて、年金受給者の基礎控除額を引き上げる提案を行った。しかし、それがきっかけで大きな議論が議会で始まることもなく、その年は終わった。
さて、2008年。政権側は第2次の勤労所得税額控除を行い、勤労によって得た所得に対する減税の幅を拡大した。年金受給者と現役世代との間で、所得税課税の大きさにさらに差がついたわけだ。このときも、高齢者からは不満が上がった。しかし、政権側は揺るがなかった。当初は。
2008年3月に、連立4党の一つであるキリスト教民主党が、早くも連立政権の足並みを乱して、主張を行った。「年金への所得税課税を軽くすべきだ!」 キリスト教民主党といえば瀕死の党であり、支持率が常に4%ハードルの前後をさまよっていた(注:選挙での得票率が4%を超えないと1議席も獲得できない)。しかも、支持者の大部分が中高年や高齢者で占められている。だから、内部から圧力を受けながら、ここぞとばかりに支持率を伸ばそうとしたのだろう。
すると4月には同じく連立与党である自由党までが似たような主張をし始めた。それを受けて、連立政権は4党で意見を調整したうえで、6月に共同声明を発表した。「2009年から高齢者を対象にした減税を行なう。でも、勤労所得税額控除をそのまま年金所得にも適用するのではなく、あくまで基礎控除の拡大にとどめる。それに、対象となるのは主に年金受給額が少ない低所得層だけにする。」 そして、その声明どおり、10月の予算案に盛り込まれ、2009年から実行されたのだった。
しかし、予算案が組まれた2008年10月といえば、リーマンショックの直後であり、景気が急降下し、スウェーデン中が真っ青になっていたときだ。税収が確実に減る一方で、現役世代の失業対策に莫大なお金がかかる。そんな状態だったから、本来は高齢者に対する減税を行なう余裕はなかっただろう。でも、既に約束したことだったから、実行せざるを得なかった。アンデシュ・ボリ財務大臣は苦々しい思いをしたことだろう。主要日刊紙の社説も、「勤労所得税額控除の当初の理念に反する」と、年金受給者減税を批判していた。
とはいえ、連立政権はそれと同時に2009年初めから第3次の勤労所得税額控除を行った。だから、年金受給者の所得税が若干軽くなった一方で、現役世代の勤労所得はさらに減税を受けることになったのだ。これではイタチごっこだ。
しかも、この年はこれまでと少し状況が違っていた。株価が大きく後退し、経済成長もマイナスとなったため、年金財政のバランスを保つために「年金ブレーキ」がかかった。新年金制度で設けられた、いわゆる「自動財政均衡メカニズム」が作動したのだ。それは、2010年から数年間にわたって年金の給付額が減額されることを意味していた。このメカニズムは、新年金制度の優れた面でもあり、同時に受給者にとっては厳しい面でもあるのだ。
この結果、年金給付額の減額を巡って政治的な議論へと発展していき、減額分を年金所得への所得税課税の軽減によって補い、年金受給者をサポートすべきだ、という声が強まって言った。その結果、連立政権は2010年から高齢者の基礎控除をさらに拡大したのだった。
とはいえ、2010年からは第4次の勤労所得税額控除が実施されたため、勤労所得のある人はさらに減税を受けることとなった。また、イタチごっことなった。
そして、総選挙が近づいてきた。さて、この論点に対して各党はどう挑むのか?(続く・・・)
社会民主党などの野党は、そもそも勤労所得税額控除の制度そのものが嫌いだったから、その撤廃を求めていた。だから、高齢者の声に応じることはなかった。いや、1回ある。社会民主党は2007年秋に新聞に寄稿したオピニオン記事にて、年金受給者の基礎控除額を引き上げる提案を行った。しかし、それがきっかけで大きな議論が議会で始まることもなく、その年は終わった。
さて、2008年。政権側は第2次の勤労所得税額控除を行い、勤労によって得た所得に対する減税の幅を拡大した。年金受給者と現役世代との間で、所得税課税の大きさにさらに差がついたわけだ。このときも、高齢者からは不満が上がった。しかし、政権側は揺るがなかった。当初は。
2008年3月に、連立4党の一つであるキリスト教民主党が、早くも連立政権の足並みを乱して、主張を行った。「年金への所得税課税を軽くすべきだ!」 キリスト教民主党といえば瀕死の党であり、支持率が常に4%ハードルの前後をさまよっていた(注:選挙での得票率が4%を超えないと1議席も獲得できない)。しかも、支持者の大部分が中高年や高齢者で占められている。だから、内部から圧力を受けながら、ここぞとばかりに支持率を伸ばそうとしたのだろう。
すると4月には同じく連立与党である自由党までが似たような主張をし始めた。それを受けて、連立政権は4党で意見を調整したうえで、6月に共同声明を発表した。「2009年から高齢者を対象にした減税を行なう。でも、勤労所得税額控除をそのまま年金所得にも適用するのではなく、あくまで基礎控除の拡大にとどめる。それに、対象となるのは主に年金受給額が少ない低所得層だけにする。」 そして、その声明どおり、10月の予算案に盛り込まれ、2009年から実行されたのだった。
しかし、予算案が組まれた2008年10月といえば、リーマンショックの直後であり、景気が急降下し、スウェーデン中が真っ青になっていたときだ。税収が確実に減る一方で、現役世代の失業対策に莫大なお金がかかる。そんな状態だったから、本来は高齢者に対する減税を行なう余裕はなかっただろう。でも、既に約束したことだったから、実行せざるを得なかった。アンデシュ・ボリ財務大臣は苦々しい思いをしたことだろう。主要日刊紙の社説も、「勤労所得税額控除の当初の理念に反する」と、年金受給者減税を批判していた。
とはいえ、連立政権はそれと同時に2009年初めから第3次の勤労所得税額控除を行った。だから、年金受給者の所得税が若干軽くなった一方で、現役世代の勤労所得はさらに減税を受けることになったのだ。これではイタチごっこだ。
しかも、この年はこれまでと少し状況が違っていた。株価が大きく後退し、経済成長もマイナスとなったため、年金財政のバランスを保つために「年金ブレーキ」がかかった。新年金制度で設けられた、いわゆる「自動財政均衡メカニズム」が作動したのだ。それは、2010年から数年間にわたって年金の給付額が減額されることを意味していた。このメカニズムは、新年金制度の優れた面でもあり、同時に受給者にとっては厳しい面でもあるのだ。
この結果、年金給付額の減額を巡って政治的な議論へと発展していき、減額分を年金所得への所得税課税の軽減によって補い、年金受給者をサポートすべきだ、という声が強まって言った。その結果、連立政権は2010年から高齢者の基礎控除をさらに拡大したのだった。
とはいえ、2010年からは第4次の勤労所得税額控除が実施されたため、勤労所得のある人はさらに減税を受けることとなった。また、イタチごっことなった。
そして、総選挙が近づいてきた。さて、この論点に対して各党はどう挑むのか?(続く・・・)