小学校の国語の教科書にこんな話があったのを記憶している。
人類がまだ誕生する以前の遠い昔、銀河系のある星から宇宙船がやってきて地球に降り立った。中から出てきたのは高度な知能を持った宇宙人だった。この地球上にも高度な文明を持った生物がいるのではないかと期待してやってきたが、調査した結果、ジャングルが生い茂り、大きな生き物と言えば恐竜くらいだということが分かった。しかし、数万、数十万年後、いや数百万年後にはもしかしたら高等生物が文明を持つかもしれない。そこで、彼らに宛てて、自分たちがやってきたことを示すメッセージを残すことにした。不治の病を治す薬の作り方や、宇宙船の組み立て方など、役に立つ知識も添えることにした。長い年月が経っても朽ちないように丈夫なカプセルに入れ、砂漠地帯に置いた。植物も河川もなく安定した場所だと考えたからだ。
そして、それから数え切れないほど長い時間が経ち、地球上には人類が登場し、次第に文明を発展させていった。しかし、宇宙人が残したそのメッセージが彼らの目に触れることはなかった。砂漠地帯にカプセルが埋もれていることなど知る由もなく、人類はその砂漠で核実験を行い、カプセルもろとも吹っ飛ばしてしまったからだった・・・。
たしか、作者は星新一ではなかったかと思う。話の詳細は違っているかもしれない。いずれにしろ、この話がなぜか今でも印象に残っている。そして、この話を再び思い出す機会が半年ほど前にあった。スウェーデン核燃料処理機構(SKB)への視察に、通訳として随行したときのことだった。
――――――――――
高い放射性を持つ使用済み核燃料の再処理を選択した日本とは異なり、スウェーデンは地中深くに最終処分場を建設し、貯蔵する処理法を選んだ。そして、その処分場の設置場所が昨年、ストックホルムから北に70kmほど行ったところにあるオストハンマル(Östhammar)に決定した。この町には3機の原子炉をもつフォッシュマルク(Forsmark)原発が既にあり、地元の反発は小さかった。
計画では、その原発付近の海岸線の地下500mに処分場を作る予定だ。スウェーデン全土にいえることだが、このあたりは火山活動が終了してから長い年月が立っているため、地下の岩盤は非常に安定していると考えられる。日本とは全く条件が異なっている。
使用済み核燃料は鋳鉄で覆い、銅製の分厚いカプセルに入れる。それを岩盤に掘った6000個の穴に一つ一つ、ベントニート粘土と呼ばれる特殊粘土と一緒に埋め込んでいく。カプセル一つで2トン、全部で12000トンの使用済み核燃料を埋設した後、作業のために掘った連絡道および入り口を埋めて完全に塞いでしまう。
さて、このような形で処分した核燃料は、だいたいどれくらいの年月の間、保管する必要があるのだろうか? 100年? 1000年?
いやいや、答えは10万年! いや、同様の形で処分を考えているアメリカでは100万年は必要だと考えられているようだ。つまり、それだけ長い年月が経たなければ、放射線の量がある一定レベルまで減少しないということらしい。スウェーデンの議論でも、廃棄物の放射能の量は、10万年経ってやっと、天然に存在するウラン鉱石と同じくらいのレベルに減少する、という話を耳にしたことがある。そう、100000年。
だから、処分の方法は少なくとも10万年は耐えうるものでなければならない。核燃料を覆うために使う銅製カプセルなどの素材選びもさることながら、岩盤が10万年の間にどのような影響を受ける可能性があるのかを考慮しなければならない。例えば、微少な地殻変動でも10万年もの時が積み重なれば大きなものとなる。また、氷河期が到来すれば氷の重みで強い圧力が加わるだろう。その他、様々な可能性が考えられる。
私が随行した視察ではそんな話題に加えて、別の話題も飛び出した。「ここに高放射性の使用済み核燃料を埋めましたよ」という情報をいかにして後世に伝えていくのか?、という、その方法までスウェーデンの関係機関は調査を始めようとしている、ということだった。
そんなこと、大きな看板を地上に立てて置けば済むんじゃない? とか、議会図書館や王立図書館、その他、様々なアーカイブに残しておけばいいでしょ? と思われるかもしれないが、それは私たち人類の社会が今後10万年もの間、存続していればの話。それ以上に可能性が高いのは、かつての恐竜と同じように何らかの理由で絶滅してしまうこと。そうすれば、情報も断絶してしまう。その後、何か別の生物が文明を持つかもしれないし、宇宙から高度な生き物がやってくるかもしれない。もしくは、絶滅を逃れたわずかな数の人類がいまとは別の文明を築くかもしれない。そのとき、何も知らない彼らが最終処分場を掘り起こして、高い放射性を持つ物質を拡散させてしまうことがあってはいけない。
では、どうやってメッセージを残す? いまの地球上に存在するありとあらゆる言語でメッセージを書き、看板を立てたり、CDに刻み込む? 地球上の別の生き物が文明を持ったり、宇宙人がくることも考えて、絵文字にしておく? どこまで本気か知らないが、そのような研究や議論を始めなければならない、という話を視察の際にスウェーデンの関係機関の担当者から耳にしたのが非常に印象的だった。
原発の是非は別にしても、考えてみれば1970年代から現在に至るわずか40年の間に、処理に10万年も100万年もかかる物質を使って、私たちはこの豊かな現代社会を動かしてきたわけだ。非常に滑稽なことではないだろうか。自分の一生をはるかに超え、責任というものを負うことのない、10万年という長い時間の先のことまで真面目に考えることが私たちに本当にできるのかどうか? 私は非常に懐疑的だ。
人類がまだ誕生する以前の遠い昔、銀河系のある星から宇宙船がやってきて地球に降り立った。中から出てきたのは高度な知能を持った宇宙人だった。この地球上にも高度な文明を持った生物がいるのではないかと期待してやってきたが、調査した結果、ジャングルが生い茂り、大きな生き物と言えば恐竜くらいだということが分かった。しかし、数万、数十万年後、いや数百万年後にはもしかしたら高等生物が文明を持つかもしれない。そこで、彼らに宛てて、自分たちがやってきたことを示すメッセージを残すことにした。不治の病を治す薬の作り方や、宇宙船の組み立て方など、役に立つ知識も添えることにした。長い年月が経っても朽ちないように丈夫なカプセルに入れ、砂漠地帯に置いた。植物も河川もなく安定した場所だと考えたからだ。
そして、それから数え切れないほど長い時間が経ち、地球上には人類が登場し、次第に文明を発展させていった。しかし、宇宙人が残したそのメッセージが彼らの目に触れることはなかった。砂漠地帯にカプセルが埋もれていることなど知る由もなく、人類はその砂漠で核実験を行い、カプセルもろとも吹っ飛ばしてしまったからだった・・・。
たしか、作者は星新一ではなかったかと思う。話の詳細は違っているかもしれない。いずれにしろ、この話がなぜか今でも印象に残っている。そして、この話を再び思い出す機会が半年ほど前にあった。スウェーデン核燃料処理機構(SKB)への視察に、通訳として随行したときのことだった。
高い放射性を持つ使用済み核燃料の再処理を選択した日本とは異なり、スウェーデンは地中深くに最終処分場を建設し、貯蔵する処理法を選んだ。そして、その処分場の設置場所が昨年、ストックホルムから北に70kmほど行ったところにあるオストハンマル(Östhammar)に決定した。この町には3機の原子炉をもつフォッシュマルク(Forsmark)原発が既にあり、地元の反発は小さかった。
計画では、その原発付近の海岸線の地下500mに処分場を作る予定だ。スウェーデン全土にいえることだが、このあたりは火山活動が終了してから長い年月が立っているため、地下の岩盤は非常に安定していると考えられる。日本とは全く条件が異なっている。
使用済み核燃料は鋳鉄で覆い、銅製の分厚いカプセルに入れる。それを岩盤に掘った6000個の穴に一つ一つ、ベントニート粘土と呼ばれる特殊粘土と一緒に埋め込んでいく。カプセル一つで2トン、全部で12000トンの使用済み核燃料を埋設した後、作業のために掘った連絡道および入り口を埋めて完全に塞いでしまう。
さて、このような形で処分した核燃料は、だいたいどれくらいの年月の間、保管する必要があるのだろうか? 100年? 1000年?
いやいや、答えは10万年! いや、同様の形で処分を考えているアメリカでは100万年は必要だと考えられているようだ。つまり、それだけ長い年月が経たなければ、放射線の量がある一定レベルまで減少しないということらしい。スウェーデンの議論でも、廃棄物の放射能の量は、10万年経ってやっと、天然に存在するウラン鉱石と同じくらいのレベルに減少する、という話を耳にしたことがある。そう、100000年。
だから、処分の方法は少なくとも10万年は耐えうるものでなければならない。核燃料を覆うために使う銅製カプセルなどの素材選びもさることながら、岩盤が10万年の間にどのような影響を受ける可能性があるのかを考慮しなければならない。例えば、微少な地殻変動でも10万年もの時が積み重なれば大きなものとなる。また、氷河期が到来すれば氷の重みで強い圧力が加わるだろう。その他、様々な可能性が考えられる。
私が随行した視察ではそんな話題に加えて、別の話題も飛び出した。「ここに高放射性の使用済み核燃料を埋めましたよ」という情報をいかにして後世に伝えていくのか?、という、その方法までスウェーデンの関係機関は調査を始めようとしている、ということだった。
そんなこと、大きな看板を地上に立てて置けば済むんじゃない? とか、議会図書館や王立図書館、その他、様々なアーカイブに残しておけばいいでしょ? と思われるかもしれないが、それは私たち人類の社会が今後10万年もの間、存続していればの話。それ以上に可能性が高いのは、かつての恐竜と同じように何らかの理由で絶滅してしまうこと。そうすれば、情報も断絶してしまう。その後、何か別の生物が文明を持つかもしれないし、宇宙から高度な生き物がやってくるかもしれない。もしくは、絶滅を逃れたわずかな数の人類がいまとは別の文明を築くかもしれない。そのとき、何も知らない彼らが最終処分場を掘り起こして、高い放射性を持つ物質を拡散させてしまうことがあってはいけない。
では、どうやってメッセージを残す? いまの地球上に存在するありとあらゆる言語でメッセージを書き、看板を立てたり、CDに刻み込む? 地球上の別の生き物が文明を持ったり、宇宙人がくることも考えて、絵文字にしておく? どこまで本気か知らないが、そのような研究や議論を始めなければならない、という話を視察の際にスウェーデンの関係機関の担当者から耳にしたのが非常に印象的だった。
原発の是非は別にしても、考えてみれば1970年代から現在に至るわずか40年の間に、処理に10万年も100万年もかかる物質を使って、私たちはこの豊かな現代社会を動かしてきたわけだ。非常に滑稽なことではないだろうか。自分の一生をはるかに超え、責任というものを負うことのない、10万年という長い時間の先のことまで真面目に考えることが私たちに本当にできるのかどうか? 私は非常に懐疑的だ。