イースター休暇を来週に控えているスウェーデンだが、小売・流通業界の従業員からなる労働組合Handelsが、ストライキを発動しようとしている。現在続いている賃上げ交渉に絡むイザコザが背景にあるのだが、どうも様子がおかしい。交渉相手である、使用者(雇用者)側の業界団体Svensk Handelとは今後3年を規定する集団交渉についてきちんとした合意ができているのだ。では何が問題なのか?
------
現在続いている、今後3年間を規定する集団賃金交渉は、各業界ごとに行われている。先日は製造業界の労使間で合意が達し、今後3年間で計10.2%の賃上げがされることになった。さて、そのあとに続いたのは小売・流通業界で、交渉の末に労使間で結ばれた賃上げ率は、今後3年間で12.6%となった。
なぜ、小売・流通業界で製造業を大きく上回る賃上げが可能になったか、というと、女性の賃金水準向上が、今回の賃上げ交渉の大きなテーマであったからだ。
スウェーデンでも男女間での賃金格差が残る、といわれるが、これは日本のように同業界・同職務内容なのに、様々な形(パート・正規間の差別、一般職などの肩書きの違い、etc)で男女間に賃金差が残っているのとは違い、スウェーデンでは格差のほとんどが、男性従業員の多い業界と女性従業員の多い業界・業種で、賃金水準が違うからだ、といわれる(あとは、同業内でも管理職や上級職に男性が多いためにも、男女間で平均賃金の格差が生まれる)。特に指摘されるのは、女性の多い医療・福祉分野(ほとんどが地方公務員)の賃金が平均水準よりも大きく下回ること。そのため、これらの職員が多く加入する労組Kommunalは2004年に大規模なストを長期に渡って決行した。(だが、収穫は少なかった・・・)
さて、医療・福祉部門だけでなく、小売・流通業界でも女性の占める割合は他の業界に比べ高く、一方で、賃金は低いと指摘されてきた。そのため、この業界での賃金引上げが“平均賃金”における男女間格差改善のための課題の一つとされてきたのだった。しかも、近年スウェーデン経済は好調で、小売・流通も大きく潤っているから、要求を突きつけるいいチャンス! というわけだ。
通常、経済全体における賃金構造の是正には苦労が付きまとう。ある業界が他の業界に比べて賃金水準が低いからといって、賃上げに成功しても、別の業界が「あの業界で何%の賃上げが決まったのだから、うちの業界も少なくともそれだけは引き上げたい」となり、各業界で次々と引き上げた結果、あとで気付いてみたら、各業界の賃金水準が一様に持ち上げられただけで、経済全体で見た業種間の賃金構造は、ほとんど変わらなかった、おまけに、それと等しい割合で物価上昇も起こって、実質賃金は変化なし、なんてことになるのがオチだ。
ただ今回は状況が異なる。ブルーカラーの各種業界の労組をまとめる「傘」の労組であるLOも、女性の賃金水準向上の必要性を訴え、男性職員の多い業界での賃上げは、ほどほどに抑えるべき、という方針を提示していたからだ。
こうして小売・流通業界では、交渉の末、使用者(雇用者)側である業界団体Svensk Handelと労組Handels側が3年で12.6%の賃上げに合意して、みんな満足したかに見えた。
しかし、ここで口を挟んできたのは、業界側の「傘」団体であるSvenskt Näringsliv(The Confederation of Swedish Enterprise、前身はSAF)だ。小売・流通の業界団体Svensk Handelはこの「傘」団体に加盟しているため、この業界の交渉に「傘」団体が拒否権を持っているのだ。これに怒ったのは、もちろん労組側。当事者同士でせっかく達した合意を第三者に破棄され、ストを決行する、と訴えている。使用者(雇用者)側の業界団体は、むしろ労組側に同情的のようだ。
何だか、対立の構図がおかしい。
合意が破棄されたために労組がストをしようとしている相手は、むしろ労組側に同情的。かといって、問題の元である「傘」団体にストをする手段はない。国には、交渉決裂の際に備えて、労使間の間に入る調停機関があるが、これは交渉当事者同士の仲介をするのが役目。でも、件の当事者同士はそもそも合意に至っていた・・・。調停のしようがない!
とまあ、この調子で実際にストが決行されると、イースター休暇のド真ん中で買い物客やレストランの客が多い時期を直撃する。IKEAや大手スーパーの職員の一部もストをするらしい。それに加え、同情的スト、というのもあり、他の業界の労働者がストに加わるケースがある。
そもそも、なぜ業界側の「傘」団体がNej!といったのかはよく分からないが、とにかく、男女の格差の改善には、スウェーデンでもこの様な苦労がつきものだ。
------
現在続いている、今後3年間を規定する集団賃金交渉は、各業界ごとに行われている。先日は製造業界の労使間で合意が達し、今後3年間で計10.2%の賃上げがされることになった。さて、そのあとに続いたのは小売・流通業界で、交渉の末に労使間で結ばれた賃上げ率は、今後3年間で12.6%となった。
なぜ、小売・流通業界で製造業を大きく上回る賃上げが可能になったか、というと、女性の賃金水準向上が、今回の賃上げ交渉の大きなテーマであったからだ。
スウェーデンでも男女間での賃金格差が残る、といわれるが、これは日本のように同業界・同職務内容なのに、様々な形(パート・正規間の差別、一般職などの肩書きの違い、etc)で男女間に賃金差が残っているのとは違い、スウェーデンでは格差のほとんどが、男性従業員の多い業界と女性従業員の多い業界・業種で、賃金水準が違うからだ、といわれる(あとは、同業内でも管理職や上級職に男性が多いためにも、男女間で平均賃金の格差が生まれる)。特に指摘されるのは、女性の多い医療・福祉分野(ほとんどが地方公務員)の賃金が平均水準よりも大きく下回ること。そのため、これらの職員が多く加入する労組Kommunalは2004年に大規模なストを長期に渡って決行した。(だが、収穫は少なかった・・・)
さて、医療・福祉部門だけでなく、小売・流通業界でも女性の占める割合は他の業界に比べ高く、一方で、賃金は低いと指摘されてきた。そのため、この業界での賃金引上げが“平均賃金”における男女間格差改善のための課題の一つとされてきたのだった。しかも、近年スウェーデン経済は好調で、小売・流通も大きく潤っているから、要求を突きつけるいいチャンス! というわけだ。
通常、経済全体における賃金構造の是正には苦労が付きまとう。ある業界が他の業界に比べて賃金水準が低いからといって、賃上げに成功しても、別の業界が「あの業界で何%の賃上げが決まったのだから、うちの業界も少なくともそれだけは引き上げたい」となり、各業界で次々と引き上げた結果、あとで気付いてみたら、各業界の賃金水準が一様に持ち上げられただけで、経済全体で見た業種間の賃金構造は、ほとんど変わらなかった、おまけに、それと等しい割合で物価上昇も起こって、実質賃金は変化なし、なんてことになるのがオチだ。
ただ今回は状況が異なる。ブルーカラーの各種業界の労組をまとめる「傘」の労組であるLOも、女性の賃金水準向上の必要性を訴え、男性職員の多い業界での賃上げは、ほどほどに抑えるべき、という方針を提示していたからだ。
こうして小売・流通業界では、交渉の末、使用者(雇用者)側である業界団体Svensk Handelと労組Handels側が3年で12.6%の賃上げに合意して、みんな満足したかに見えた。
しかし、ここで口を挟んできたのは、業界側の「傘」団体であるSvenskt Näringsliv(The Confederation of Swedish Enterprise、前身はSAF)だ。小売・流通の業界団体Svensk Handelはこの「傘」団体に加盟しているため、この業界の交渉に「傘」団体が拒否権を持っているのだ。これに怒ったのは、もちろん労組側。当事者同士でせっかく達した合意を第三者に破棄され、ストを決行する、と訴えている。使用者(雇用者)側の業界団体は、むしろ労組側に同情的のようだ。
何だか、対立の構図がおかしい。
合意が破棄されたために労組がストをしようとしている相手は、むしろ労組側に同情的。かといって、問題の元である「傘」団体にストをする手段はない。国には、交渉決裂の際に備えて、労使間の間に入る調停機関があるが、これは交渉当事者同士の仲介をするのが役目。でも、件の当事者同士はそもそも合意に至っていた・・・。調停のしようがない!
とまあ、この調子で実際にストが決行されると、イースター休暇のド真ん中で買い物客やレストランの客が多い時期を直撃する。IKEAや大手スーパーの職員の一部もストをするらしい。それに加え、同情的スト、というのもあり、他の業界の労働者がストに加わるケースがある。
そもそも、なぜ業界側の「傘」団体がNej!といったのかはよく分からないが、とにかく、男女の格差の改善には、スウェーデンでもこの様な苦労がつきものだ。