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スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

政治的ストライキについて

2007-11-19 07:51:54 | スウェーデン・その他の政治
前回の①について
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フランスで起きている公共交通のストライキは、政府の公務員年金改革に対する抗議が目的だという。通常、ストライキというと、賃金水準や勤務条件に関して労使間で行われる団体交渉が決裂した場合に、組合側が使用者(企業)に自分たちの要求を飲ませるべく行う行為だ。一方、今回のフランスのストは、政府に要求を突きつけている、という点で、通常のストとはちょっと異なるのではないかと思う。(問題となっている年金改革が、公共交通の職員の労働に直接関わることであり、また、公共交通の場合の使用者(企業)とは最終的には政府になることを認めたとしても。)

スウェーデンでは、政治的目的による抗議行動・デモ行動としてのスト行為は「政治的スト(politisk strejk)」とよび、労使間の通常のストとは分けて考えられる。後述するように、スウェーデンでは「政治的スト」はほとんど無い。

「政治的スト」のイメージを分かりやすくするために、例を挙げるとすれば、例えば、政府が福祉政策の大規模削減を提案したり、その他、自分たちの労働生活に関わる大きな政策変更を提案したりしている時に、抗議の意を込めて各組合が一斉スト(ゼネスト)を行う場合などだ。抗議の対象が「ある国との特定の条約締結」とかでもいいのだが、自分たちの労働生活と直接的な関係がない事柄に対して組合を総動員するのは難しいかもしれない。

スウェーデンで過去に起きた代表的な「政治的スト」には次のようなものがある。数はあまり多くない。
・1902年、普通選挙権を求めた大規模なゼネスト
・1928年、労使間団体交渉に関する規定を国が法制化しようとしたのに抗議したゼネスト
・1981年、繊維・衣料品産業に関する国の政策に抗議(繊維・衣料品産業系の組合)

スウェーデンでは「不争議の義務」があり、一度結ばれた協定の発効期間中はその協定の内容の変更を求めたストは行えない、と書いた。では、この「政治スト」も不争議の対象になるのか?

実は「不争議の義務」を規定している『共同決定法(Medbestämmandelagen)』(前回の記事を参照)は、使用者(企業)と労働者の関係を規定しているだけなので、第三者に抗議する意味での「政治的スト」をしてはいけない、とは書かかれていない。だから、それを逆手にとって、規定が無いのならやってもいい、という解釈もできる。

また、ここ十数年間にいくつか労働裁判所の判断が下されており、それによると「使用者側の経営に大きな支障を与えない範囲内であればいい」とされている。

2000年代に入ってから、欧州委員会による「港湾サービス自由化」のEU指令案に抗議するために、港湾労働者の組合がヨーロッパ一斉ストを数回にわたって行ったが、スウェーデンでは1回につきたったの約4時間程度だった。それ以上になると、上記の労働裁判所の判断に抵触すると考えられたためだ(他方、ヨーロッパの他の国では48時間も続き、機動隊と衝突する事態になった所もあるとか)。2003年には、ストックホルム地下鉄の労働者の一部を組織するシンディカリスト組合(SAC)が、ヨーロッパにおける鉄道と公共交通の規制緩和と民営化に抗議するために、政治的ストライキを行ったたが、この時は24時間に留まった。(それでも使用者側は長すぎると抗議したが、労働裁判所は判断を避けた)

以上から分かるように、スウェーデンでは労働組合が「政治的スト」を行う権利を持つと解釈されるものの、合法的だとされるのは数時間か、せいぜい24時間に過ぎない。しかも、政治的ストがもたらす直接的な効果もよく分からない。使用者(企業)とは直接関係ないことに彼らを巻き込むだけだと言えるかもしれない。だから、このような目的で多くの人に賛同してもらうのは今後も無理のような気がする。

実際、社会保障政策の削減が政治問題となった1990年代以降、先ほどのシンディカリスト組合などは、抗議のための一斉ストをLOなどに呼びかけたものの、誰も賛同しなかった。(一方、LOなど大手の組合は、普通のデモンストレーションという形での抗議は行う。)


(注) 「不争議の義務」には2つの例外があり、その1つによると、他の業種・組合に対する支援ストは認められている。この例外を利用して、国外の組合に同調するという形での政治的ストの例もあるが、話が複雑になるので省略した。

同性の結婚 - 結婚法からの性別規定の撤廃(2)

2007-10-29 08:02:29 | スウェーデン・その他の政治
前回の続きです。
この議論に関しては、私自身は普段あまり関心がないので、いろいろ調べて分かりやすくまとめようと努力しましたが、結構複雑で、どこまで分かりやすくできたか疑問が残ります。疑問、質問等あったらコメントのほうにください。
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前回の議論をもう一度整理しなおしてみよう。

論点は、同性の“結婚”も、これまで歴史的に使われてきた『結婚』という概念に含めるのか、それとも『結婚』という概念はあくまで異性同士の“結婚”だけを今後も指すようにするのか?

キリスト教関係者の一部やキリスト教民主党(kd)などは、後者の立場を取り続けてきた。「結婚法」とは別に「パートナー法」が制定され、現在では同性のカップルも異性カップルと同等の権利と義務を持ちえているのだから、それで十分ではないか!という意見だ。

そして、たとえ「結婚」と「パートナー」の垣根を取り払い、規定する法律を統一させるとしても、「パートナー」という概念によって異性・同性の“結婚”を法的に包括するべきだ、と彼らは考えている。そうすれば「結婚」という概念を一段高いところに置いて、その歴史的・宗教的な意味合いを維持できるからだ。(これが前回の選択肢①のほう)

一方、世論の大多数は選択肢②を支持しているようだ。つまり異性・同性を問わず「結婚」という概念で統一してしまおう! ということ。左党、社民党、環境党、中央党、自由党はこの路線を支持してきた。保守党は、保守的な価値観を持つ支持者を抱えているため、これまで党内で議論が続いていたが、今週末に行われた党大会で②の路線を正式に推し進めていくことが決まった。よって、同性の結婚に反対しているのは、キリスト教民主党だけとなった。

もちろん、教会関係者からの反発も予想される。「結婚式を挙げる法的権利(挙式権)(vigselrätt)」はこれまでは教会にもあったが、今後は同性の結婚式を教会で行うことを拒む神父も出てくる可能性が高い。ただ、一つ重要なことは、この「挙式権」は権利とともに義務でもあって、その教会で結婚を行いたいという人を神父が拒むことは難しい。もし、同性のカップルの挙式を教会が拒んだ場合、彼らは不当に差別されたとその教会を訴えるだろう。

そのようなイザコザを防ぐためには、これまで教会が持っていた「挙式権」を教会側が放棄するべきだ、という提案がある。結婚に伴う「法的な契約」の手続きは市役所が行い、その上で、宗教的な意味での結婚の祝福を受けたい人だけが、教会に行って儀式を行えばよい、という考えだ。そうすれば、そのような儀式を同性のカップルに対しても行うか否か、宗教的な意味での「結婚」を同性カップルにも認めるか否かは、各教会、各神父が決めればよいことになる。

教会の側から見れば、無難な選択肢だといえる。フランスやドイツでは、まさにこの方法が取られている

しかし、かつてはスウェーデンの国教会(プロテスタント派)であり、現在でも国内最大のキリスト教組織である「スウェーデン教会(Svenska Kyrkan)」は、先週の総会で「挙式権を今後も維持し、さらに、同性カップルの結婚を教会で行うことを認めようではないか!」という結論を下したのだ。教会組織の決定としては、世界的にも類を見ないという。

ただ「同性カップルの結婚を教会で行うことを認める」といっても、ここでも“結婚”が単に「法的な契約」という意味での結婚なのか、宗教的な意味を含めた結婚なのか、は未だ明確ではない。教会で同性の挙式を行うことに賛成の神父でも、それはあくまで「パートナー」としての挙式であって、本来の意味での「結婚」とは呼びたくない、という人も多い。

ともかく、教会組織というと、どの国でもたいていは保守層の集まり、と見られているが、面白いことに「スウェーデン教会」はリベラルな人が比較的多いことで知られているのだ。プロテスタントの影響かもしれないし、または、他のヨーロッパ諸国に比べかなり非宗教化(secularized)したスウェーデン社会を反映して、教会組織も現実的・理性的な視点を多く取り入れているせいかもしれない。スウェーデンでも人々の教会離れが進んでいる。その流れに歯止めを掛けるためには、教会自体が社会の流れや変革に適応して、一般の人々との接点を維持していかなければならない、と考えている教会関係者も多い。とはいえ、もちろん同性の結婚を教会で行うことには反対の人々もおり、今後も議論が続いていくものと見られている。

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政府の調査委員会は、法改正に向けた提案を今年の春に提出しているが、ここでも「教会に挙式権を残すべき」とされていた。教会側がOKを出し、さらに保守党が賛成に回ったことで、来年始めにも法改正される可能性が高い。

政府の調査委員会の報告書(スウェーデン語)

スウェーデンの霞ヶ関 『Rosenbad』の名前の由来

2007-10-24 05:29:20 | スウェーデン・その他の政治
スウェーデンの政治の中心は、ガムラスタン(旧市街地)の手前にある国会議事堂と、水路を挟んだ向かい側にある首相官邸および官庁街。官庁街には様々な省が所狭しとオフィスを構えている。前を通るドロットニング通りにはレストランや土産物屋、アトリエなども並んでいて、官庁街だとは思えない雰囲気がする。

さて、首相官邸や内閣府などの官庁がある一帯は「Rosenbad(ローセンバード)」と呼ばれており、これが内閣府の別称になっている。例えば、内閣による記者会見が行われるときは、報道記者が「Rosenbadからの生中継です」と言ったりする。日本で言う「霞ヶ関」と似た使い方だ。
(首相官邸の建物自体はSagerska palatset(サーゲシュカ・パラッツェット)と呼ばれる)


「Rosenbad」とはrosen(薔薇)bad(浴場)の意。では、なぜこの様な名前が官庁街についているのか? 政治と何か関連があるのか? 15世紀のイギリスで起こった「バラ戦争」との関連は? 1520年にデンマーク王がスウェーデンの反デンマーク・独立派を粛清した「Stockholms blodbad(ストックホルムの血浴)」という惨事があるが、血 → 赤 → バラ と 血浴 → 浴場 という連想で、こんな名前になったのか?

でも、ちょっと詮索しすぎ! 答えは実はもっと簡単なのだ。首相官邸や官庁街になる以前、ここに実際に『バラの浴場』があっただけのことだ。

ストックホルムの町は運河に囲まれており、水が豊富にあるものの、中世には清潔な街とはいえず、不衛生のために住民の死亡率、とくに幼児の死亡率が高かった。公衆浴場の数は少なく、その上、水に浸かって体を綺麗にする、という習慣があまり定着していなかった。人々は亜麻(リネン)の衣類を身につけ、定期的に洗っていたので、それで十分だと考えていたのだった。

この状況を何とかしたい、と考えたChristopher Thielという人は、今の官庁街の場所に土地を買い、大きな公共浴場を建設し1684年に完成した。この公共浴場、実は普通の浴場だけではなく、何と『癒しの浴場』も用意されていたのだった。

『癒しの浴場』は3区画に分かれ、一つはrosenbad(バラの浴場)、一つがliljebad(ユリの浴場)、もう一つがkamomillbad(カモミールの浴場)とされ、薔薇や百合、カモミールの花びらが心地よい香りを漂わせていた。ここは特に、結婚式を4日後に控えた新婦のための浴場としても使われた。新婚前の入浴をし、浴場に隣接するレストランで特別ディナーを食べるのが、ストックホルム中で人気を博し、当時のファッションになったとか。そして、特に人気のあった「薔薇の浴場」の名前を取って、この浴場全体が「Rosenbad」と呼ばれるようになった。その浴場も1780年代末に取り壊されるが、その名は、そのまま地名として残ったのだった。

現在の内閣府の建物は1902-04年にかけて建築された。

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という、隠された歴史があったのです。でも、もし「バラの浴場」ではなく「カモミールの浴場」がより有名になっていれば、今頃、内閣府はKamomillbadと呼ばれ、首相の記者会見のときも、テレビでは「記者会見の行われる『カモミール浴場』からの生中継です」と、今頃言っていたとしたら、ちょっと滑稽かも。

ビルト外相:「最終決定は民主選挙を待ってから」

2007-10-20 06:27:55 | スウェーデン・その他の政治
多目的戦闘機Jas-39のタイへの輸出についてだが、スウェーデンのCarl Bildt(カール・ビルト)首相
「政府間の交渉は始めるものの、スウェーデン政府としての最終的な態度決定は、12月23日の民主選挙を待ってから行いたい。タイが軍政である限りは、戦闘機の輸出契約を締結するつもりはない。
と、コメントしている。

タイ側が約束している民主選挙とその後の民主制への移行を見守ってから、というのは無難な措置と言えるだろう。と同時に、この態度がタイの軍政にとって民主化移行に向けての何かしらのプレッシャーになればいいが。

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ちなみに、タイへの戦闘機の売り込みは、足掛け12年の長い準備の末の快挙という。タクシン首相はロシアのSu-30にほぼ決定しかけていたという。そこでクーデターが起こり、選定は白紙に戻った。アメリカは交渉を降りた。タイ軍幹部はロシア機よりもスウェーデン機のほうが自国の土地柄や防衛事情に合うと判断し、最終的にJas-39を選んだという。結果からすれば、クーデターのおかげといけるかもしれない。

とはいえ、タイの購入は12機(+小型偵察機2機)。実はそれよりも大きなお客さんがタイの次に待ち構えている。どこか? そうインド

インド空軍126機の戦闘機の購入を検討中で、スウェーデンのJas-39も候補の一つだ。タイでの選定結果が、インドでの選定に有利に働き、この大口注文を手中に収めることをスウェーデンは願っている。

バカンスはキャンセルしても、戦闘機輸出は・・・

2007-10-19 09:20:01 | スウェーデン・その他の政治
今朝(10/18)の朝刊DNのショート・コラムより。


「財務大臣Anders Borgは昨年の冬にタイでのバカンスを計画していたが、軍事クーデターのあと、それを取りやめた。
1年後の今、タイではクーデター首謀者がいまだに権力の座に座ったままだ。しかし、スウェーデン政府は、それでもJas-39 グリペンをその政体に売る用意がある。
タイでバカンスを取ることは、当然のことながら、戦闘機を輸出することよりも深刻なのだ。」

2つの事実を付き合わせた皮肉です。(注:財務大臣のバカンス取りやめの本当の理由はこの記事からは分かりません)

Aj aj aj… 軍事クーデターのタイへ戦闘機を輸出か・・・

2007-10-18 08:07:02 | スウェーデン・その他の政治
今日のトップニュースは戦闘機輸出の話。輸出するのはスウェーデンが誇る多目的戦闘機JAS-39(通称グリペン)。武器輸出もさることながら、輸出先も良くない。タイなのだ。

戦闘機の新たな購入を検討していたタイ空軍は、選定の候補であったアメリカのF-16ロシアのSu-30との比較の末、スウェーデンのJAS-39を12機購入するすることを決定した。他の戦闘機に比べ運用費が安いことに加え、購入後2年間のメンテナンスをスウェーデン側が提供してくれることが、決定の主な理由だという。周辺機器や要員の教育などを含めると、総額70億クローナ(約1300億円)の輸出になる。JAS-39を販売しているのはGripen Internationalという企業だが、彼らは武器輸出の世界市場における地位を維持できたことに加え、他のアジア諸国の市場への今後の足がかりになることが期待されるため、大喜びだ。

写真の出典:スウェーデン・ラジオ

武器の輸出自体を問題視することももちろんできる。実際に、輸出すること自体を批判する声はスウェーデン国内でもある。一方、スウェーデン政府は"一応"、輸出に際してのガイドラインを設けており、他国と戦争中の国や平和に脅威をもたらしかねない国、国内で紛争を抱える国、人権侵害が行われている国などへの輸出は禁止している。ただ、今回の取引は、このガイドラインにも反している可能性があるため、反対の声は今まで以上に強い。

理由は2点。まず、タイでは昨年、軍事クーデターが発生し、民主的に選ばれた首相がポストを追われ、現在は軍事独裁政権の支配下だ。クーデター以降、戒厳令が敷かれ、報道・言論・集会の自由や政党活動に制限が加えられたり、検閲が行われたりしている。第二に、タイの南部では国内で少数民族であるイスラム教徒とタイ政府の間で衝突が散発しており、彼らに対する人権侵害も懸念されている。これらの点を考慮すれば、ガイドラインに反していると批判されてもおかしくなさそうだ。

タイ空軍の決定を受けて、今後はタイ政府とスウェーデン政府の間で、実際の契約を締結する手続きに入る。スウェーデン・アムネスティーやSvenska Freds(スウェーデン平和協会)などは、スウェーデン政府が交渉を破談にしてくれることを願っている。

一方、スウェーデン政府はこの戦闘機の売り込みにむしろ積極的で、手続きを予定通り進めていくものと見られている。順調に行けば、来年には既に6機がタイ側に渡るという。

批判の矢面に立っているのは外務大臣Carl Bildt(カール・ビルト)だが、彼は「国際的に評価の高いアメリカやロシアの戦闘機を抑えて、スウェーデンの戦闘機が選ばれたことは、スウェーデンの最先端技術の優位性を象徴することであり、むしろ喜ぶべきこと」とのコメントをしている。

軍事政権に対する武器輸出に問題があるとは思わないのか? との質問に対しては、「タイの現軍事政権は12月23日までに民主選挙を実施し、その後、憲法に基づく民主制へ段階的に復帰していくことを決定している。彼らのこの決定は信頼できるものと判断している。タイは、今でこそ軍事独裁下だが、民主制への移行期にあると見ることができる。人権侵害の状況も改善に向かっている。残る問題も、今後の対話の中で指摘し、改善を促していきたい。」と、返答している。また「タイは過去に何度も軍事クーデターを経験しており、何も珍しいことではない。重要なのは今後、どのような道筋を目指していくのか、ということ」と発言している。

このような武器輸出の過程では、当然ながら、ジレンマも想定される。つまり、スウェーデンが戦闘機の売込みを中断しても、それはアメリカやロシアの戦闘機を選定において有利にするだけなので、状況は何も変わらなかったかもしれない、というものだ。ただ、一部の報道(スウェーデン・ラジオなど)によると、アメリカ政府は、軍事クーデターによって権力を奪取した政権とは交渉しない、というガイドラインを設けており、売り込み競争から既に降りていたという。しかし、スウェーデン外相はこの事実を否定している。

これから、スウェーデンの国会やメディアで起こるであろう議論を見守りたい。予定されている民主選挙の実施と、タイ南部の状況の改善を少なくとも待つことはできないのだろうか?

<追加>
タイのタクシン前政権は、むしろロシアのSu-30にほぼ決定していたが、クーデターにより振り出しに戻り、アメリカが降り、最終的にスウェーデンのJAS-39に決まったらしい。

クーデター以降、タイ軍事政権の軍事支出は66%上昇している。

またもやスキャンダル

2007-10-04 06:40:43 | スウェーデン・その他の政治
北欧有数の投資銀行の中に、Carnegie(カネーギェ)と呼ばれるストックホルムに本社を置く銀行がある。19世紀初頭にヨーテボリで創業した貿易および酒造会社が発祥だという。

(アメリカにカーネギー(Carnegie)財団があるが、これとは全く別組織。元を辿れば両者ともスコットランドの資本家の名前らしい。産業革命前後のスウェーデンには、スコットランド出身の資本家がいくらか移民して来て、主にヨーテボリを拠点に産業活動を始めたという歴史がある。)

この投資銀行は、ここ2年の間、オプション株の取引で生まれた利益や所有ポートフォリオの時価を水増しし、過大な会計報告を行っていた。そして、その会計報告に基づき、役員や従業員が多大なボーナスを引き出していたのだった。スウェーデンの金融監督庁(Finansinspektionen)は、先週、Carnegie投資銀行に法律で規定された最大の罰金額である5000万クローナ(8.8億円)を課した上に、取締役や役員の入れ替えを命じたのだった。

また今年の5月には、スウェーデンの経済犯罪特捜部(Ekobrottsmyndigheten)が、同じくこの投資銀行で行われたスウェーデン史上最大規模のインサイダー取引を告発し、立件したのだった。

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と、ここで終わればいいのだが、このスキャンダルにはさらなる続きがある。

昨年誕生した中道右派のラインフェルト政権の公約の一つは、国営企業の売却。どこの国もおそらくそうだが、スウェーデン政府もいくつかの企業を全体的、もしくは部分的に所有しており、業績のよい企業からは毎年、多額の利益が国庫を潤しているのだ。

ラインフェルト政権はそのうちの27社の随時売却を考えているが、まず手始めに以下の6つの企業の完全売却を行う方針を打ち出している。
OMX(ストックホルム株式市場):政府の所有率6.6%
Nordea(北欧最大規模の銀行):同19.9%
SBAB(住宅金融公庫):同100%
Vin och Sprit(酒造、Absolute Vodkaで有名):同100%
Vasakronan(不動産):同100%
TeliaSonera(電話通信、NTTに相当):同37.3%

これらの企業の売却は、財務省の中でも、財務大臣の下に設置された「地方自治体および金融市場担当大臣」Mats Odell(マッツ・オデル)(キリスト教民主党)の管轄である。

地方自治体および金融市場担当大臣・Mats Odell
トミー(富)とマッツ?

Mats Odellは企業売却のプロセスを進める上でのアドバイザーとして、民間から専門家を雇い入れていたのだが、これが実はCarnegieの元部長だったのだ。さらに、スウェーデンでは各省の事務方のトップである政務次官(statssekreterare)は政権によって任命されるため、政権が変わるごとに入れ替えられるのだが、Mats Odellの任命した政務次官も最近までCarnegieで勤務していたのだった。

というわけで、Carnegieの大きなスキャンダルを受けて、大臣Mats Odellに雇われていたこの二人も解雇された。

Mats Odellは経済界と太いパイプを持っているが、あまりに経済界にベッタリと引っ付いており、民間からの人選や民間企業との取引において冷静な判断ができない、と批判されてきた。1994年にストックホルム国際空港と市内を結ぶ特急(Arlanda Express)ができたときも、破格の値段と条件で民間委託を行い、激しい批判を受けた。

荒波の中を突き進むラインフェルト政権。次の大臣辞任も近いか・・・?

新政権誕生から1年

2007-09-19 07:08:54 | スウェーデン・その他の政治
ちょうど一年前に総選挙があり、保守党(Moderaterna)を中心とする中道右派の連立政権が誕生した。

総選挙に先駆けること数年前から、保守党は、それまでの新自由主義的政策路線を改め、税制による所得再配分制度を基本とする福祉国家モデルや、労使間の自主管理を基本とする従来のスウェーデン型労働市場モデルを尊重する、という方針に切り替えてきた。そのため、彼らを中心とする新政権の政策も、スウェーデン型福祉国家の抜本的な改革は行わず、部分的な修正にとどめてきた。そのため、今回の政権交代はmaktshift(権力の交代)であって、systemshift(システムの交代)ではない、といわれてきた。

さて、あれから経済も好調で、失業率も下方傾向にあるなど、政権党にとっては嬉しい限りだが、それとは裏腹に支持率は低迷している。実は、総選挙後3ヶ月ほどの世論調査で、すでに野党である左派ブロックの支持率が上回っていたのだ。
以前の書き込み:支持率の崩壊(2007-01-21)

最新の世論調査の結果もほとんど変わらない。
右派ブロック(政権党)41.9%
左派ブロック(野党)53.3%


政党別の支持率
左から:左党、社民党、環境党(以上、左派ブロック);中央党、自由党、キリスト教民主党、保守党(以上、右派ブロック)

出典:SVTニュース(2007-09-15)より


面白いことに、新政権の行った労働所得税の減税によって、実は国民の大部分の人の手取りが増えているのだ。(私の手取りも増えた! 月当たり1,2万円ほど)

平均的な共働きの家庭の場合は、労働所得税減税住宅税減税のために月当たり1900クローナ、可処分所得が増えた。一方、失業保険の保険料の引き上げや、労働組合費の非控除化自動車強制保険の保険料引き上げによって700クローナ出費が増えることになったが、それでも全体では月当たり1200クローナ(21000円)だけ可処分所得が増えているのだ。

イラストは同じくSVTのニュースより


それなのに、支持率はこの有様だ。

国民が政権党を支持するかしないかを決めるときに重要なのは「実際にどう変わったか?」という事実ではなく、「実際にどう変わった、と感じているか?」という主観的な認識のほうだ。SVTの世論調査によると「家計が豊かになったと感じている」のは19%に過ぎず、64%が「以前とほとんど変わらないと感じている」と答えている。一方で、国民の大部分が「新政権の政策によって恩恵を受けているのは主に高所得者だけ」という認識を持っているという。

上に挙げたように、新政権は、多くの国民の可処分所得を増やしたが、一方で出費も増やした。また、それ以外にも失業保険や疾病保険の給付額も減額したし、住宅税や資産税の減税は、大きな家や資産を持つ人々を特に優遇することになった。そのような「マイナス面」が国民には「プラス面」よりもより強い印象を与えているようなのだ。ラインフェルト首相の問題点は、世論とのコミュニケーション。政権側が考えているように、これらの改革がどうしても必要なのならば、それをもっと説得力のある形で、国民に説明する必要がある。しかし、メディアを通した主張はあまり行われていない。

また、ヨーテボリ大学行政学部のSören Holmberg教授は「財布が厚くなったからといって、国民がすぐ政権を支持するほど、単純ではない」と言っているが、まさにその通りだ。

もしくは、去年の総選挙の実質は、実は前首相ヨーラン・パーション(Göran Persson)に対する信任投票だった(つまり、反パーション票が右派ブロックに流れた)のだと見ることもできる。それならば、パーションが姿を消し、モナ・サリーンが社民党の党首になった今、再び社民党に票が戻ってくるのも、不思議ではないかもしれない。

最後になるが、現在の与党は、自らの支持者の間でも人気が低迷している。与党支持者の19%が「今の政権に不満」と答えているが、こちらのほうはむしろ「もっと抜本的な福祉の削減と減税、そして労働市場の規制緩和を期待していたのに、期待はずれだった」という理由が主であろう。つまり、現政権は左からも右からも不人気なのだ。

国防大臣、突如の辞任

2007-09-06 01:23:59 | スウェーデン・その他の政治
保守党(穏健党)を中心とした現連立政権は支持率が低迷しており、首相ラインフェルトのリーダーシップが問われてきたが、ここに来て、さらなる問題が発生した。国防大臣Mikael Odenberg突如、辞任を表明したのだった。

記者会見で辞任を表明するOdenberg

国防大臣は近年の国防費の削減とそれに伴う国防軍の縮小に大きな危機感を抱いてきており、これ以上の縮小が続くと、スウェーデンが参加している国際平和維持軍の活動に大きな支障が出る、特に、装備の維持や更新が難しくなる、との見方を強くしていた。また、スウェーデンは従来、中立国として自国の武器は基本的に自国で賄う、という立場を採ってきたが、国防費の縮小で、開発活動も今後は難しくなる、と考えていたようだ。

一方、財務大臣Anders Borgのほうは、国防費をさらに削減することで、保守党が公約として掲げてきた減税を可能にしたいと考えてきた。8月の段階でそのような考えをメディアに発表した。首相はその考えに賛意を示したものの、国防大臣とは事前にコンセンサスが取れておらず、この二人の間に大きな亀裂が生じたのだった。

内閣はもうすぐ来年の予算案を国会に提出するため、今は内閣と各省の間で激しい折衝が続いている。国防費は武器調達維持費に関して30~40億クローナの削減を余儀なくされ、それに応じることができなかった財務大臣は、辞任という形で、財務大臣と首相に最後の抵抗をしたのだった。「数字だけが先行するばかりで、どこに削減の余地があるのか、とか、具体的な長期プランなどの土台がないまま予算作りが進んでいる」と顔をしかめる。

Mikael Odenbergというと、1991年から保守党の国会議員として活動してきた重鎮。しかも、ここ数年の保守党の路線・イメージ変更(中道寄り)首相Reinfeldt財務大臣Anders Borg労働市場大臣Sven Otto Littorinと共に支え、保守党を中心とした連立政権の誕生に大きく貢献した立役者。

だから、そんな彼が、国防省の側に立ち、辞任にまで踏み切ったということは、財務大臣との軋轢がそれほど大きかったものだと見られる。一方、ラインフェルト政権にとっては、自党の閣僚を、しかも、予算折衝の真っ只中に失うことで、さらに大きな苦難に立たされることになった。リーダーシップの弱さとメディアを通じた世論とのコミュニケーション不足が、さらに追及されそうだ。

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さて、辞任から3時間後に新しい国防大臣が任命された。現通商担当大臣Sten Tolgfors(ステーン・トリフォシュ)だ。彼は、去年の総選挙直後に同職を辞任したMaria Boreliusに代わって、通商大臣として突如、入閣することになった。
以前の書き込み:
発足当初の内閣
一週間で辞任
そして、今回も思いがけず、国防相という重い職に就くことになった。

苦境に立つソラマメ君と、新しい国防大臣

面白いことに、彼は若い頃に徴兵を拒否し、兵役の代わりに別の社会的活動で補ったという。だから、そんな彼が国防大臣としてどう活躍してくれるか、ある意味、興味深くもある。

ブッシュも絶賛、スウェーデン製の草刈り機

2007-08-02 07:04:30 | スウェーデン・その他の政治
今年5月にスウェーデンのラインフェルト首相は、アメリカを公式訪問した。ホワイト・ハウスに招かれ、ブッシュ大統領と会談。その際にお土産を持参した。

ソラマメ君とお猿さん

何だったかというと、チェーンソーで有名なスウェーデンのメーカーHusqvarna(フースクヴァナ)の草刈り機。ブッシュ大統領は自宅の農園で庭仕事をするのが趣味だということを、ラインフェルト首相の側近が突き止めたためだった。

そして、先日、ブッシュ大統領からラインフェルト首相宛にメッセージが届いた。そこでは、5月の公式訪問に対する感謝と共に、お土産の草刈り機を使った感想が書かれていた。「既に自宅の農園で使ってみたが、とっても使いやすくて、重宝している。」

これに喜んだのは、もちろん製造元のHusqvarna。このメーカーは、チェンソーや芝刈り機、ミシン、バイクなどを作っており、本社はヨンショーピンの隣のフースクヴァナ(Huskvarna ← 綴りが違うことに注意!!)にある。このメーカーは特にアメリカではチェンソーで有名で、アメリカは大事なマーケット。草刈り機の分野ではアメリカでは少し出遅れているために、「ブッシュ大統領も使っている草刈り機」という宣伝文句で今後、売り込みができれば!、何て考えているようだ。もちろん、公式にそのような宣伝ができなくても、噂でアメリカに広まってくれるだけでも嬉しいとか。

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スウェーデンの首相の訪米の目的は、気候変動や環境政策、通商についてブッシュ大統領と協議することだった。気候変動への取り組みを頑なに拒んできたブッシュから少しでも協力の意思を取り付けることが期待されていたのだが、ラインフェルト首相はスウェーデンの立場を伝えるというよりも「気候変動に対してアメリカの戦略を頑張って理解したい」と、あくまでアメリカの考え方を汲み取ることに重きが置かれていたみたいで、スウェーデン国内では「ブッシュに対してプッシュ(押し)が足りない」と批判されていた。

ただ、会談後の記者団に対するコメントが面白い。ブッシュ大統領の印象を尋ねられたラインフェルト首相は

「… Och bilden av Bush som mindre begåvad och lite korkad är svår att förstå när man mött honom öga mot öga. Man känner kraften i hans ledarskap.
(… それから、ブッシュのイメージとして、あまり才能がなく、ちょっと馬鹿だ、と言われているが、実際に目と目をつき合わせて会ってみると、そのようなイメージは理解しがたい。彼の持つリーダーシップの力を感じさせる。)」

と答えている。一応、ブッシュの人柄を賞賛した、と解釈されているのだが、いくら巷の噂だからといっても、mindre begåvad(才能があまりない)とかlite korkad(ちょっとお馬鹿)なんて言葉を普通に(悪気もなく)使っているところが、単刀直入なスウェーデンの首相ぽくって良いと思う。(それとも、計算された皮肉!?)

またもやEU指令・・・!?

2007-07-19 07:01:42 | スウェーデン・その他の政治
EU(ヨーロッパ連合)による欧州統合は、国家や民族を超えた一つの理想的な共同体の誕生、そして、ヨーロッパにおいて二度と戦争が起こらないようにするための一つの道具だとして、諸外国では賛美される。そのような見方にももちろん一理はあるのだが、EUに参加している加盟国やそこに暮らす人々にとっては、物事はそう簡単ではないようだ。

ヨーロッパの辺境に位置するスウェーデンでは、EUへの積極的な統合を求める声がある一方で、EUへの懐疑心も根強い。「スウェーデン人」というアイデンティティー加えて「ヨーロッパ人」というアイデンティティーを感じるか? という世論調査に対しても半分以上の人がNej!と答えている。ドイツやフランス、イタリアを始めとするヨーロッパ大陸諸国での出来事やニュースは、いくら同じヨーロッパ内とはいえ、やはりどこか遠い所の話、とスウェーデンでは感じられるし、福祉政策や家族政策・男女平等政策など、スウェーデンの持つ政治制度・社会制度には独自のよさがあるので、社会構造も政治システムも様々なヨーロッパの“平均”に統合されてしまっては大変、という思いがあるためだと思う。(それとは逆に、スウェーデンの福祉政策や高い税金などにうんざりしている人々は、むしろ欧州統合を訴えて、“ヨーロッパ並み”の福祉制度、税率に収斂してくれることを願っている。)

さて、EUに対するスウェーデン人の懐疑心を強めている一つの大きな要因は、欧州委員会が発する“EU指令(directive)”だ。欧州委員会は、いわば欧州議会に対する内閣のような存在である。欧州議会で様々な政策決定がなされる一方で、欧州委員会も“行政通達”のような形で、EU指令を加盟国各国に発し、有無を言わさず従わせる。すべての加盟国に一律に発せられるこのEU指令に対しては、加盟国それぞれの事情を考えていない!と、反発の声が起こることもよくある。特に、EUの目指す目標の一つが“EU市場の創出”であり、加盟国それぞれで作られたモノやサービスがEU全体で障壁なく自由に取引され、競争されることを目指しているため、EU指令も自然と経済の自由取引を重視したものになりがちで、それ以外の社会的側面などが考慮されていない、との反発も強い。

一つの象徴的な例としては、ギリシャでは賭け事への依存から国民を守るという目的で、スロットマシンなどのギャンブル機の流通が制限されていたが、EUはギャンブル機を製造・販売するEU内企業の活動や競争を疎外する、との理由で、この制限の撤廃をギリシャに求めたことがある。

EU指令に加え、EU裁判所の判決や判断も、加盟国を拘束する。例えば、以前もここで取り上げたように、EU裁判所でのある判決を根拠に、労働時間を制限するEU指令が数年前に発せられた。勤務シフトを設定する際の細かな規定や休暇の取り方などを上意下達的に制限するこのEU指令は、スウェーデンでは大きな批判を受けている。
以前の書き込み:公共部門の労働シフトはピンチ?-EUの新通達(2007-02-13)

(スウェーデンでは本来、労働市場に関する規定は労使間のコンセンサスで決められ、国の立法は極力立ち入らないようにされてきた。例えば、スウェーデンには法定最低賃金は存在しない。一方で、フランスなどは中央政府が法律に労働時間の取り決めや休暇、賃金について細かく規定する傾向にある。問題のEU指令もおそらくフランス的な考え方が背景にあるのだと思われる。)

さて、また新たにEUから通達が発せられた。今回は、EU裁判所が「スウェーデンのワインに対する課税がビールに比べて高すぎる」との判断を下したのだった。つまり、この“不平等な”課税のために、スウェーデン国内のビール生産業者が優遇され、国外のワイン生産業者が差別されている、というもの。

ただ、実際の税率を見てみると、ワインとビールに対する酒税はそんなに違わない。しかも、そもそもワインとビールを別々のcommodity(財)と見れば、異なる税率を課すことも間違ってはいないかもしれない。もしくは、そういうことを完全に抜きにしても、加盟国それぞれが自分たちの議会を通して決めたことに対して、それを越えたところからモノを言うのはどうなのか・・・。EU通達が発せられるたびにスウェーデンではこのような疑問の声が上がる。

もし、EUが域内市場の自由競争の観点から、このような通達や判断を下すのならば、批判の対象となっている加盟国の政策の背後にある目的なり意図なりを、しっかり考慮する必要がある、と思う。もし、この“不平等”とされるビールとワインの課税が、本当に国外のワイン流入を疎外する目的で課せられたものであったり、ギリシャのギャンブル機の規制がある特定の経済的特権を保護する目的で作られたものなら、EUの通達にも一理あるだろうが、もしかしたら、他の目的(社会的影響への考慮、etc)が実際はあるのかもしれない。そのような点への考慮なしに、上から一方的に規制や通達を発していては、EUの正統性も揺らいでしまう・・・。

スウェーデンの非同盟中立の変遷(2)

2007-05-23 06:18:33 | スウェーデン・その他の政治
ヨーテボリのハーフマラソン大会「Göteborgsvarvet」が開催された同じ週末、ヨーテボリの港に見慣れない軍艦があちこちに集結していた。NATO加盟国の海軍が寄港していたのだ。なぜかというと、NATOの共同軍事演習がバルト海で企画されていたためだ。


デンマークとスウェーデンの海峡での小規模な演習をしたあと、バルト海で大規模な軍事演習「Noble Mariner 2007」を行う。バルト海における有事を想定した演習で、民間の商船の保護も含んだものだという。そのために大小43のNATO艦艇とスウェーデン海軍の駆逐艦が、演習を控えてヨーテボリに立ち寄っていたのだった。

そのため、ハーフマラソン大会と同じ日に、ヨーテボリ市内では大きな抗議デモが繰り広げられた。その上、ハーフマラソンのコース上のあちこちには何者かが「NATO kommer. Spring för livet!(NATOがやって来るぞ。命が惜しければ走って逃げろ!)」と書いていた。(マラソンと掛けた機転の利いたジョーク&抗議に思わず笑ってしまった)

スウェーデン人の一部がNATO軍の寄港に大きく反発したのも無理はない。公式には非同盟・中立を維持しているスウェーデンの領海に、軍事同盟であるNATOの艦艇を入れてもいいのか、疑わしいからである。また、集団防衛行動のための共同演習を目的としたものであり、これまで行われてきた国連ミッションにおけるNATOとの協力とは、わけが違う。特に、抗議に加わった多くの人が「こうして共同訓練を重ねることで、NATO加盟のための既成事実が作られてしまうのではないか?」という恐れているようである。

さらに挙げられた問題は、今回寄港するNATO艦艇の中には核兵器を搭載している疑いがあるものが混じっていたことであった。スウェーデン政府としては、「スウェーデンの国内法が核搭載艦、および原子力推進艦をスウェーデンの領海に持ち込むことを禁じている」ということを演習参加国に通達するだけで、それ以上の手は打ったなかった。各国がこの法律を遵守してくれることを信じる、に留めたのだ。

ただ、今回のヨーテボリ寄港で注目されることになったNATOとの共同演習は、どうやら氷山の一角に過ぎないようだ。国連のマンデートの下での平和維持軍の活動(コソボ、アフガニスタン、レバノン沖の地中海など)は90年以降、NATOとの協力が欠かせなくなってきていることは、前回書いたとおりだが、それ以外にも協力関係は強まっている。例えば、スウェーデン空軍はアメリカでも訓練の一部を行っているし、その他にもスウェーデン海軍の潜水艦を乗組員付きでアメリカ軍に長期的に貸与し、浅海における索敵演習の標的として使わせたりもしている。(アメリカを始めとするNATOとのこれらの連携は、スウェーデン国防省がどんどん推し進め、政府が追認する、という形で進んできたようだ。)

そのため、NATOとの密なる連携が既成事実として出来上がっているのなら、パートナーシップ協定に留めず、正式な加盟国になるべきではないか?という声も強い。現在の中道右派政権を構成する保守党と自由党は、まさにこの立場である。彼らが言うには「今のような協力関係だけでは中途半端。加盟国との情報共有が保証されているわけではないし、NATOの政策決定における影響力もない。今後さまざまな国連ミッションでNATOの協力がますます強まるのなら、それならいっそのこと正式加盟国になって、影響力を持とうではないか」ということである。さらに「近年の国防軍縮小でスウェーデン軍には自国防衛の能力はなくなった。可能性が小さいとはいえ、起こりうる外的脅威に対抗するためには、スウェーデンだけで国防軍を組織するよりも、NATOの集団安全保障の枠組みの中で国防を行うべき」という論拠もある。

ただ、去年の選挙戦では、この事項は大きなテーマにはならなかった。今でもこの点に関する世論の関心は低い。そのため、風もないのに余計な波を立てたくない国防大臣は、NATOとの協力関係は今後も強めていくが、NATO加盟は今の時点で議論すべき問題ではない、との立場を取っている。

スウェーデンにおける様々な意見を整理すると以下のようになる。

従来のような大規模徴兵制によって、非同盟中立を裏付けられる 規模の国防軍を維持すべき・・・ 左派の論客(作家)であるJan Gillouなど

国防軍を縮小し、なおかつ非同盟中立を今後も維持すべき・・・左党、環境党、社会民主党(?)

国防軍を縮小する一方で、NATOへの加盟を実現していくべき・・・保守党、自由党、それに加え、社会民主党(?)


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統一通貨ユーロへの参加の是非を巡る論争と同じように、非同盟中立の理念とNATOへの加盟をめぐる論争でも、「wait & see」の立場で傍観するか、積極的に加わっていくべきか、が問われている。

私が思うに、本当にその必要がないならば、これまでの方針(つまり、非同盟中立)を変えず(つまり、NATOには加わらず)、刻々と変化する日々の情勢(つまり、国連ミッションにおけるNATOとの連携増大)には、解釈の変更などで対応していく道もいいのではないか、と思う。

スウェーデンの非同盟中立の変遷(1)

2007-05-16 07:49:39 | スウェーデン・その他の政治

日本で繰り返し繰り返し巻き返される問題が、憲法と第9条の問題であるように、スウェーデンでも終わりの尽きない論争がある。

非同盟中立、の問題である。

スウェーデンの安全保障政策は、非同盟中立に基づいてきた。正確に言えば、平時に非同盟主義(alliansfrihet)を貫くことで、戦時に中立(neutralitet)を保てるようにするのである。

第二時世界大戦後はヨーロッパは冷戦に突入する。東西両陣営のどちら側にも属さないのではあるが、西側がスウェーデンに攻め込んでくることはほぼありえないので、仮想敵国は常にソ連とワルシャワ条約機構軍。

ソ連と国境を接し、しかも第二時世界大戦では2度もソ連に侵攻され領土を奪われたフィンランドほどの切迫感はないにしろ、スウェーデンでもヨーロッパが再び戦場になることを想定して、徴兵制のもとで国の規模に比して大規模な国防体制を確立させる。ちなみに、中立非武装中立はもちろん同義ではない。中立をいくら掲げてはいても、それを裏付ける実力がなくては、絵に描いた餅、だとスウェーデンでは考えられた。そのため、国防軍の役割は非同盟中立をもっともらしく仮想敵国にアピールするための抑止力であった。

兵器の調達も自国で行わなければならず、自国での生産が始まる。小さな国のため、自国での必要分を賄うためだけに兵器の開発・生産を行っていたのでは、多額の開発費の元が取れない。そこで、兵器の輸出が始まるが、次第に主要な輸出産業の一つになっていてしまうのである。それから、東西両陣営が核兵器を突きつけてお互い睨み合っている真っ只中にいる恐怖から、スウェーデンでも核武装論が50年代にもっともらしく論じられたという。

さて、非同盟中立の建て前ではあるが、次第にNATOとの協力関係が始まっていく。始めは兵器開発の技術交換という形で始まる。スウェーデンだけで自国の兵器開発をしていても、国際的な最先端からは遅れを取ってしまうので、主にアメリカの技術協力を必要としたのだろう。(その一方で、アメリカのベトナム戦争や帝国主義的態度をスウェーデンは大きく批判していた。兵器技術協力とは別問題、と割り切った外交を展開していたのがスウェーデンの面白い所) 政府の解釈は、非同盟中立と兵器技術協力は両立する、ということだった。

冷戦の終結ともに、スウェーデンを取り巻く環境は一変する。それと共に経済危機に見舞われたため、90年代には次第に国防軍の縮小が行われた。国防軍の任務は ①侵略に対する防衛、②国連軍といった形での国際平和活動、であったが、次第に②のほうへ重点が移っていく。

95年に停戦合意に至ったボスニアには、国連の要請を受けて平和軍(SFOR)を派遣するが、実際の指揮権はNATOが握っていた。また、その後、同じく旧ユーゴのコソボにも平和軍(KFOR)を派遣するが、これもNATOの指揮下。2003年のアフガン戦争後はこれまた国連のマンデートのもとで平和維持軍を派遣するが、これまたNATO指揮下。こういった現実を前に、スウェーデンの国防軍は、装備や指揮系統、要員教育など、NATOスタンダードに合わせる努力を既にしてきている。このようにNATOとの関係がますます強まっている。そういえば、2006年夏のレバノン危機の後に国連マンデートをもとに、スウェーデンは駆逐艦をレバノン沖に派遣したが、この指揮もNATOだった。

一方、国防軍自体の規模はこの間もドンドン縮小されていき、事実上、国防のための兵力は国内にほとんどない。総動員をかけても、数ヶ月で10000、1年かかって最大の65000の兵力が召集できるのらしい(2006年時点)。ただ、外的な脅威がない今日、それでも別に構わない、というのが世論の大勢だ。むしろ、躍起になっているのは国際任務以外に存在意義がなくなってしまった国防軍のほうで、盛んにPR作戦に出たりしている。

むしろ、可能性が小さくなった外的脅威に対抗するためには、スウェーデンだけで国防軍を組織するよりも、NATOに加わって、集団安全保障の枠組みの中で備えをしたほうが現実的、と政府は考えつつあるようだ。1994年にNATOと「平和のためのパートナーシップ」を締結し、情報の共有や共同軍事演習などを行ってきている。(つづく)

イラン外相のスウェーデン訪問

2007-05-10 07:43:03 | スウェーデン・その他の政治
日本を取り巻く国際情勢では、北朝鮮の核開発が大きな問題であるように、ヨーロッパにとっての大きな関心事とは、イランの核開発である。国連による核査察を拒否し、ウランの濃縮を進めており、核兵器の保有も時間の問題ではないか、と見られているのだ。

また、イラン革命以降の厳格な宗教的統治のもと、基本的人権が大きく侵害されていると言う。特に、女性の権利が、男性のそれよりも半分以下しかなく、多くの女性活動家が監獄に入れられている。
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そんな中、今週月曜日にイランの外務大臣Manouchehr Mottakiが、スウェーデンを公式訪問した。様々な問題を抱えるイランだけに、この公式訪問を受け入れることにはスウェーデン内でも異論が上がっていたが、スウェーデン政府としては「対話を続けることが大切」という立場から受け入れた。副大臣であるMaud Olofssonとの会談、外交問題研究所での講演と、外務大臣であるCarl Bildtとの夕食が訪問の日程。首相Fredrik Reinfeldtは、面会しない、と予め表明していた。

案の定、いくつかの抗議活動が沸き起こった。スウェーデンにはイランから政治亡命をして逃れてきた人が約9万人いるが、彼らが抗議活動の中心だった。

ニュースはそれだけではなかった。スウェーデンの副大臣Maud Olofsson(女性)との会談のあと、彼女は握手を交わすために手を差し伸べたのだが、イラン外相はこれに応じなかったというのだ。女性と握手することは、彼の宗教的信条に反するためだらしい。そして、その信条の背後にあるのは、女性の地位を卑しんで見る宗教的戒律だと言われる。イラン外相は握手で応える代わりに、自分の胸の上で手を交差させて、挨拶を返したらしい。

もともと、このイラン外相(そしてイラン政府)のこの宗教的信条は、スウェーデン政府の知るところであった。それでもなお、スウェーデンの副首相は、西側世界のスタンダードである基本的人権と男女同権のプリンシプルをイランが受け入れてくれるかを試すために、敢えて手を差し出したのらしい。

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単なる「カルチャーショック」として片付けられがちな一つの出来事だが、ここに西側諸国とイランを始めとするいくつかの中東諸国との対立の、大きな根源が潜んでいるようにも思える。宗教や文化・伝統を隠れ蓑にして、女性への迫害を続けるイラン。一方、基本的人権と男女同権の保障は現代のユニバーサルな価値観と信じて疑わないスウェーデン。

宗教的戒律のために彼が握手に応えないだろう、ということを知った上で、敢えて手を差し伸べたスウェーデン副首相の行動は、見方によれば「嫌がらせ」として映りかねない。でも、多くの政治犯を抱え、女性だけに適用される「投石処刑」と呼ばれるような不当な処置など、国際社会としても見過ごすことができない大きな問題を抱えるイランの政権を、思うがままにはさせておけない、というスウェーデン政府の意思表明かもしれない。

もしくは、そういったことをすべて抜きにしても、ホスト国の挨拶に同じやり方できちんと応えることは、外交の場では常識であるようだ。

モナ・サリーン と チョコレート

2007-04-30 06:04:19 | スウェーデン・その他の政治

スウェーデンにいると、この言葉の組み合わせが、『海と老人』とか『猫に小判』とかと、同じくらいしっくりして聞こえてくる。

3月に正式に社会民主党党首となったMona Sahlinだが、1995年にスキャンダルによって政界を追われる羽目になったことは以前に何度か触れた。さて、このスキャンダルの真相は何だったのか?

< 以前の書き込み >
Mona Sahlin 正式に党首へ(07-03-18)
社会民主党の新党首(07-01-19)
社会民主党党首の後任は・・・?(06-11-24)

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トブレローネ・スキャンダル(Tobleroneaffären)」(1995年10月)
時は1995年。1991年から3年の間、政権の座を追われた社会民主党は1994年9月の総選挙で、政権を取り戻し、Ingvar Carlsson(カールソン)首相が内閣を率いていた。(カールソンは1986年から1991年の間も首相に就いていた。)Mona Sahlinは当時、副首相

そのカールソンが党首および首相の座から引退すると表明。その以前から新党首および新首相の候補選びが始まっていたが、この時点で有力だったのは、Mona Sahlinのみだった。

しかし、その後、タブロイド紙の一つ「Expressen」がスクープを流す(1996-10-13)。1990-1991年にかけて、当時、労働市場大臣だったMona Sahlinが、職務に掛かる経費を支払うために国会から与えられているクレジット・カードを使って私物を購入した、というものだ。その私物の一つとして挙げられたのがデンマークの有名なチョコレート「Toblerone」であったため、通称「トブレローネ・スキャンダル」と呼ばれるのだ。

実際の使途は、チョコレートだけでなく、衣服、私用のためのレンタカーの借り出し、クレジット・カードによる現金の引き出し、などだった。しかし、Mona Sahlinはこれらの明細をきちんと提出し、私用の分を自腹で後でちゃんと支払っていた、とされる。しかし、タブロイド紙は、国会のクレジット・カードの使用規定に「私的な購買に使用しない事」とあることを指摘。さらに、彼女が行ったクレジットの引き出しを「国会に利払いをさせた無利子ローン」だ、と解釈したのだった。一方、これらの払い戻しの手続きが不明瞭だったことを指摘されたMona Sahlinは「内閣府の経理の手続きがややこしく不明瞭だった」と弁明、さらに、クレジットの引き出しについては「給料の前借りをしたつもりだった」と説明した。

しかし、このスキャンダルの火種が大きくなっていくと同時に、ベビーシッターを闇で雇っていたことや、TV受信料が未払いだったこと、駐車料金の未払いが数多くあり、国の債務管理局から取り立てられていたこと、などもスクープされた。

1996年10月16日の記者会見で、政界からの一時的引退を表明(time-out)。メディアのさらなる追求を避けるため、一家そろって海外へ退避した(モーリシャス諸島へ)。その後、社民党党首および首相への立候補の断念を表明したのだった。これをもって、Mona Sahlinはスウェーデンの政界から、姿を消したのであった。そして、ほとんど人気がなかったGöran Persson(ヨーラン・パーション)の名前が次期党首および首相の候補として徐々に挙がっていくのである。

スキャンダル発覚後から、検察庁は立件に向けた初期調査を行っていたが、犯罪を裏付けるものがない(もしくは、犯罪性が薄い)との理由から、調査は中止され立件もされず。よって、裁判も行われていない。
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果たして、一人の政治家の政治生命を奪うほど、大きく取り上げられるべき政治スキャンダルあったのか? それとも、メディアが事実を必要以上に誇張して世論をあおっただけだったのか? 意見は分かれる。実際、検察も立件を行っているわけではないし、彼女も有罪とされたわけではない。

また、クレジット・カードの私的使用も、悪意があってやったのか、後で返せばいい、という軽い気持ちでやったのか、明確な答えは分からない。

一方で、このスキャンダルから数年後にも、彼女には駐車料金の未払いが100件近くあり、その案件の多くが国の債務管理局に引き継がれていたり、税金の払い込みが数ヶ月遅れていたり、自動車税の納入も遅れていたりしたことまでが発覚している。だから、彼女は家計管理がいい加減だ、ということは少なくともいえるようだ。

Tobleroneって、こんなチョコレート。でも、たかがチョコレートとあなどっていると痛い目に遭う。Mona Sahlinはこれで失脚したし、下の男はこの食べすぎで腹がここまで出てしまった。しかも、首相の座という“棚から牡丹餅”を得た。