前回の①について
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フランスで起きている公共交通のストライキは、政府の公務員年金改革に対する抗議が目的だという。通常、ストライキというと、賃金水準や勤務条件に関して労使間で行われる団体交渉が決裂した場合に、組合側が使用者(企業)に自分たちの要求を飲ませるべく行う行為だ。一方、今回のフランスのストは、政府に要求を突きつけている、という点で、通常のストとはちょっと異なるのではないかと思う。(問題となっている年金改革が、公共交通の職員の労働に直接関わることであり、また、公共交通の場合の使用者(企業)とは最終的には政府になることを認めたとしても。)
スウェーデンでは、政治的目的による抗議行動・デモ行動としてのスト行為は「政治的スト(politisk strejk)」とよび、労使間の通常のストとは分けて考えられる。後述するように、スウェーデンでは「政治的スト」はほとんど無い。
「政治的スト」のイメージを分かりやすくするために、例を挙げるとすれば、例えば、政府が福祉政策の大規模削減を提案したり、その他、自分たちの労働生活に関わる大きな政策変更を提案したりしている時に、抗議の意を込めて各組合が一斉スト(ゼネスト)を行う場合などだ。抗議の対象が「ある国との特定の条約締結」とかでもいいのだが、自分たちの労働生活と直接的な関係がない事柄に対して組合を総動員するのは難しいかもしれない。
スウェーデンで過去に起きた代表的な「政治的スト」には次のようなものがある。数はあまり多くない。
・1902年、普通選挙権を求めた大規模なゼネスト
・1928年、労使間団体交渉に関する規定を国が法制化しようとしたのに抗議したゼネスト
・1981年、繊維・衣料品産業に関する国の政策に抗議(繊維・衣料品産業系の組合)
スウェーデンでは「不争議の義務」があり、一度結ばれた協定の発効期間中はその協定の内容の変更を求めたストは行えない、と書いた。では、この「政治スト」も不争議の対象になるのか?
実は「不争議の義務」を規定している『共同決定法(Medbestämmandelagen)』(前回の記事を参照)は、使用者(企業)と労働者の関係を規定しているだけなので、第三者に抗議する意味での「政治的スト」をしてはいけない、とは書かかれていない。だから、それを逆手にとって、規定が無いのならやってもいい、という解釈もできる。
また、ここ十数年間にいくつか労働裁判所の判断が下されており、それによると「使用者側の経営に大きな支障を与えない範囲内であればいい」とされている。
2000年代に入ってから、欧州委員会による「港湾サービス自由化」のEU指令案に抗議するために、港湾労働者の組合がヨーロッパ一斉ストを数回にわたって行ったが、スウェーデンでは1回につきたったの約4時間程度だった。それ以上になると、上記の労働裁判所の判断に抵触すると考えられたためだ(他方、ヨーロッパの他の国では48時間も続き、機動隊と衝突する事態になった所もあるとか)。2003年には、ストックホルム地下鉄の労働者の一部を組織するシンディカリスト組合(SAC)が、ヨーロッパにおける鉄道と公共交通の規制緩和と民営化に抗議するために、政治的ストライキを行ったたが、この時は24時間に留まった。(それでも使用者側は長すぎると抗議したが、労働裁判所は判断を避けた)
以上から分かるように、スウェーデンでは労働組合が「政治的スト」を行う権利を持つと解釈されるものの、合法的だとされるのは数時間か、せいぜい24時間に過ぎない。しかも、政治的ストがもたらす直接的な効果もよく分からない。使用者(企業)とは直接関係ないことに彼らを巻き込むだけだと言えるかもしれない。だから、このような目的で多くの人に賛同してもらうのは今後も無理のような気がする。
実際、社会保障政策の削減が政治問題となった1990年代以降、先ほどのシンディカリスト組合などは、抗議のための一斉ストをLOなどに呼びかけたものの、誰も賛同しなかった。(一方、LOなど大手の組合は、普通のデモンストレーションという形での抗議は行う。)
(注) 「不争議の義務」には2つの例外があり、その1つによると、他の業種・組合に対する支援ストは認められている。この例外を利用して、国外の組合に同調するという形での政治的ストの例もあるが、話が複雑になるので省略した。
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フランスで起きている公共交通のストライキは、政府の公務員年金改革に対する抗議が目的だという。通常、ストライキというと、賃金水準や勤務条件に関して労使間で行われる団体交渉が決裂した場合に、組合側が使用者(企業)に自分たちの要求を飲ませるべく行う行為だ。一方、今回のフランスのストは、政府に要求を突きつけている、という点で、通常のストとはちょっと異なるのではないかと思う。(問題となっている年金改革が、公共交通の職員の労働に直接関わることであり、また、公共交通の場合の使用者(企業)とは最終的には政府になることを認めたとしても。)
スウェーデンでは、政治的目的による抗議行動・デモ行動としてのスト行為は「政治的スト(politisk strejk)」とよび、労使間の通常のストとは分けて考えられる。後述するように、スウェーデンでは「政治的スト」はほとんど無い。
「政治的スト」のイメージを分かりやすくするために、例を挙げるとすれば、例えば、政府が福祉政策の大規模削減を提案したり、その他、自分たちの労働生活に関わる大きな政策変更を提案したりしている時に、抗議の意を込めて各組合が一斉スト(ゼネスト)を行う場合などだ。抗議の対象が「ある国との特定の条約締結」とかでもいいのだが、自分たちの労働生活と直接的な関係がない事柄に対して組合を総動員するのは難しいかもしれない。
スウェーデンで過去に起きた代表的な「政治的スト」には次のようなものがある。数はあまり多くない。
・1902年、普通選挙権を求めた大規模なゼネスト
・1928年、労使間団体交渉に関する規定を国が法制化しようとしたのに抗議したゼネスト
・1981年、繊維・衣料品産業に関する国の政策に抗議(繊維・衣料品産業系の組合)
スウェーデンでは「不争議の義務」があり、一度結ばれた協定の発効期間中はその協定の内容の変更を求めたストは行えない、と書いた。では、この「政治スト」も不争議の対象になるのか?
実は「不争議の義務」を規定している『共同決定法(Medbestämmandelagen)』(前回の記事を参照)は、使用者(企業)と労働者の関係を規定しているだけなので、第三者に抗議する意味での「政治的スト」をしてはいけない、とは書かかれていない。だから、それを逆手にとって、規定が無いのならやってもいい、という解釈もできる。
また、ここ十数年間にいくつか労働裁判所の判断が下されており、それによると「使用者側の経営に大きな支障を与えない範囲内であればいい」とされている。
2000年代に入ってから、欧州委員会による「港湾サービス自由化」のEU指令案に抗議するために、港湾労働者の組合がヨーロッパ一斉ストを数回にわたって行ったが、スウェーデンでは1回につきたったの約4時間程度だった。それ以上になると、上記の労働裁判所の判断に抵触すると考えられたためだ(他方、ヨーロッパの他の国では48時間も続き、機動隊と衝突する事態になった所もあるとか)。2003年には、ストックホルム地下鉄の労働者の一部を組織するシンディカリスト組合(SAC)が、ヨーロッパにおける鉄道と公共交通の規制緩和と民営化に抗議するために、政治的ストライキを行ったたが、この時は24時間に留まった。(それでも使用者側は長すぎると抗議したが、労働裁判所は判断を避けた)
以上から分かるように、スウェーデンでは労働組合が「政治的スト」を行う権利を持つと解釈されるものの、合法的だとされるのは数時間か、せいぜい24時間に過ぎない。しかも、政治的ストがもたらす直接的な効果もよく分からない。使用者(企業)とは直接関係ないことに彼らを巻き込むだけだと言えるかもしれない。だから、このような目的で多くの人に賛同してもらうのは今後も無理のような気がする。
実際、社会保障政策の削減が政治問題となった1990年代以降、先ほどのシンディカリスト組合などは、抗議のための一斉ストをLOなどに呼びかけたものの、誰も賛同しなかった。(一方、LOなど大手の組合は、普通のデモンストレーションという形での抗議は行う。)
(注) 「不争議の義務」には2つの例外があり、その1つによると、他の業種・組合に対する支援ストは認められている。この例外を利用して、国外の組合に同調するという形での政治的ストの例もあるが、話が複雑になるので省略した。