goo blog サービス終了のお知らせ 

スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

EUのバトン渡し-フランスの影とスウェーデンのフライング

2009-01-20 09:25:17 | スウェーデン・その他の政治
2009年が始まり、半年ごとに替わるEUの議長国も新しくなった。2009年上半期にEUをまとめるのはチェコ共和国だ。チェコといえば2004年春にEUに加盟した新参者。もちろん、議長国を務めるのは今回が初めてだ。

しかし、議長国に就いた当初から大きな問題がチェコに重くのしかかった。イスラエルのガザ侵攻、そしてロシアのガス供給問題。

でも、それよりも大きな課題は、チェコの前に議長国を担当した国があまりに大きなインパクトを持っていたので、その影に隠れてしまい、リーダーシップがなかなか発揮できないのではないかという点だ。

その議長国はというと、そう、フランス。フランスが議長国を務めた2008年下半期は、ロシアのグルジア侵攻や金融危機など、いくつかの課題が出現したが、サルコジ大統領が活発に動き回り、外交手腕を発揮した。彼は果たして、EUの議長国の代表としてこれらの活動を行ったのか、それとも、フランス大統領として自国の存在感を世界に誇示しようとしたのか……? 「ドゴールの再来」と呼ぶ政治解説者もいるほどだ。EU首脳部としては、EUが国際舞台において一つにまとまり、影響力を及ぼすことを期待している。だから、一国がワンマンプレーをして自国の威信ばかりを誇示することは嬉しくないはずだ。一方、EUが抱えた様々な課題の解決は、フランスの外交力やサルコジ大統領の手腕のおかげによるところも大きいだろう。

世界各国の外交部は、フランスがEU議長国であった半年の間に、EUの電話番号=(イコール)パリのエリゼ宮殿だと覚えておけばそれで十分、と理解するようになった、なんていうジョークも聞かれる。(エリゼ宮殿はフランス大統領官邸)

いや、ジョークでは済まないかもしれない。年が変わり、EU議長国のバトンがフランスからチェコに移ったのにもかかわらず、ガザをめぐる問題に関してEUと協議するためにイスラエル外相リヴニが向かったのは、実はプラハではなく、パリだったのだ。EUが中東に派遣した外交代表団にも、本来は含まれないはずのフランス外相が加わっていた。それとは別に、サルコジ大統領もイスラエルに足を運んでいる。

とにかく、サルコジが大統領になってから、フランスが外交力を発揮して、国の存在感を誇示するようになってきた。さて、彼は第二のドゴール的存在になるのだろうか。

「サルコジ」と変換しようとするたびに「サル誇示」となるのは単なる偶然だと思いたい

――――――
さて、チェコの次にEU議長国のバトンを受け取るのは、スウェーデンだ。2001年上半期に次いで2度目のお役だ。新参者のチェコには無難に仕事をこなしてもらって、いざスウェーデンがバトンを受け取った後は、EUの代表として、今年12月にデンマーク・コペンハーゲンで開かれる気候変動枠組条約締結国会議(COP15)を成功に導いてもらなわなければならない。

と思ったら、スウェーデンはフライング・スタートして、既に議長国の役割を担い始めているというではないか。

どうしてかというと、チェコには海がない。だから、EU共通政策の一つの柱である「漁業政策」については、知識も経験もあまりない。そのため、漁業政策に限っては、スウェーデンが議長国という立場をチェコから委譲されることになったのだ。正確にいえば、ヨーロッパの海の北半分だけだが。(南半分はフランスに委譲)

つまり、スウェーデンはEUの漁業問題に関しては、一年ものあいだ、そのリーダーシップを発揮することができる。実はあまり知られていないかもしれないが、EUの共通漁業政策には問題が山ほどある。だから、スウェーデンがここでも力を発揮してくれることが期待される。

住民投票: 自然を守るか? 経済と雇用を重視するか?

2008-11-24 09:18:02 | スウェーデン・その他の政治
スウェーデンでは国民投票が過去に6回行われたことがある。一方、市や県といった地方レベルでの住民投票はもう少し頻繁に行われている。過去10年ほどの統計を見ると、スウェーデン全体でだいたい年に2件から8件ほどのようだ。橋や道路、病院、ショッピングセンターの建設、市(コミューン)の分割などの問題が扱われている。2006年にストックホルム県で行われたストックホルム市中心部の「乗り入れ税・渋滞税」の導入をめぐる住民投票も記憶に新しいところ。

先週日曜日にもある町で住民投票が行われた。スウェーデン北部のラップランドのVilmelmina(ヴィルヘルミーナ)と呼ばれる町で、町を流れるvojmån(ヴォイモーン)川の存続をめぐって票が投じられた。

写真の出典:Dagens Nyheter

この町には、国営の電力会社Vattenfall(ヴァッテンファル)vojmån川から導水トンネルを引き、24km離れた水力発電所に水を送って発電に利用する、という計画を打ち立てていたのだ。24kmに及ぶ導水トンネルが建設され、vojmån川から水が送られるようになると、この川を流れる水の8割は消えてしまい、川はこれまでとは全く違う姿になってしまうという。

この計画自体は1980年代に持ち上がったものだが、地元の強い反対で棚上げされていた。

写真の出典:Dagens Nyheter

そして今、再び計画が持ち上がったのだ。

電力会社の側は、vojmån川が半ば干上がってしまう代償として、この町に4000万クローナ(5~6億円)のお金をかけてインフラを整備すること、また風力発電所を建設することを提示している。風力発電所は、完成すれば年間500~700万クローナ(6000~9000万円)の収益を上げると試算されている。また、導水トンネルの建設に伴って合計600人分の雇用が4年半に分けて提供されるという。

日本語で書かれたスウェーデンに関する本には「スウェーデンには地域格差の問題はない」などと現実に即さないことを書いているものもあるが、実際は過疎・過密問題は大きな問題だ。この町Vilhelminaもあまり産業がないため、若い人の流出が多く、高齢化が進んでいる。現在の人口は7000人ほどで、10年前と比べると1000人以上減少している。

そのため、電力会社からの代償案に対して、市議会の議員は与野党を問わず、ほとんどの議員が「寛大だ」と、それを受け入れる態度を示している。もちろん、電力会社が支払ってくれる代償だけでなく、導水トンネル建設に伴う経済効果という面でもこの町は恩恵を受けることになる。また、住民の間でも少なからずの人がこの導水トンネル建設計画を支持している。「特に今は不景気だから、このプロジェクトがこの町には必要なんだ。」とある住民は言う。

一方、手つかずの自然を失ってしまうことに対する懸念も大きい。大金が町に降り注ぎ、そして建設による経済効果の恩恵を受けるのは、わずか数年のことに過ぎない。そんな目先の利益に目をくらまして、貴重な自然を手放してもいいものか。ある住民は「電力会社はお金を撒くことで、天然資源を安く手に入れようとしている。そして、安く手に入れた資源で大きな利益を掠め取って行く。まるで植民地みたいではないか。」と批判する。

vojmån(ヴォイモーン)川は全長65kmの川で、Vilmelmina(ヴィルヘルミーナ)の北側を流れている。ここはフライフィシングなど、釣りには絶好の場で、夏には多くの釣り客が訪れる。そのため、観光収入という形でこの町の経済に貢献してもいる。(例えばこの川の年間の「釣り許可証」の売り上げは1300近く。)


釣り客向けの観光パンフレットより

ともかく、この小さな町が賛成派と反対派で二分してしまい、町で見かけても挨拶しないなど、住民の間の雰囲気も重苦しいものになってしまったらしい。

------
そして、先週日曜日に行われた住民投票の結果は「Ja」が47%、「Nej」が53%。投票率は74%。

僅差だが、反対派が勝ったのだ。スウェーデンの住民投票は、原則としては「結果が拘束力を持たない」のだが、この住民投票をするにあたって市の執行委員会も電力会社も「結果を尊重する」と言っていたから、プロジェクトは行われないことになる。

電力会社Vattenfallはこの結果に落胆しているが、ラジオのニュースでは次のようなコメントを残していた。「もちろん残念だが、電力会社としてこのプロジェクトを巡って町や住民たちと活発な議論ができたのは良かった。地元住民や市とのコミュニケーションの重要性という点で、我々の今後の活動のお手本となるだろう。

新しい時代の予感

2008-11-06 07:38:25 | スウェーデン・その他の政治
今日はVäxjö(ヴェクショー)へ行くために、朝早くから家を出て、電車に乗った。ラジオでアメリカ大統領選挙の速報をずっと聞いていた。オバマ氏の勝利宣言が1時間ほど前に行われたばかりで、彼の演説が流され、スウェーデンの国会議員やジャーナリスト、論説委員などが次々とコメントをしていた。

ラジオなので映像が見えないのだけれど、勝利演説の声と内容だけ聞いていても、このオバマ氏というのは演説がとても上手だな、と感心した。


SVTより

帰宅してから、演説の映像を改めてテレビで見たけれど、声から想像していた以上の自信に満ち溢れる態度だった。人々の心に訴えかける、希望を与えてくれる言葉。そして、時たま見せる、はにかんだ笑みがさらに人の心を掴むのだと思った。

もちろん今日の演説しろ、これまでの演説にしろ、具体的な政策の提示や議論よりも、「大きな」言葉ばかりが詰め込まれ、一種の「お祭り」的雰囲気を作り上げているだけなのだけど、暗いニュースがばかりが続き、将来になかなか希望が見出せない今だからこそ、この歴史的に新しい大統領の誕生が、人々に希望を与え、現在の危機を少しでも早く乗り越えさせてくれるのではないか、という予感さえ感じる。

------

ところで、今年初めてのを見た。

ヨーテボリも明け方は0℃を下回ることが増えてきたのだけど、雪はまだまだ降らない。しかし、ヨーテボリから東に向かったスモーランド地方は、いくら同緯度でも森に囲まれた高地なので、雪が既に降っていたようだ。


線路だけでなくて、向こうのプラットホームにも雪が積まれているのが見える

これもまた民主主義・・・

2008-11-04 08:56:21 | スウェーデン・その他の政治
アメリカ大統領選挙の投票日がついにやって来た。

民主主義の実践のされ方にはいろいろなタイプがあり、アメリカの大統領選挙も民主主義の一つの形なのだろうが、スウェーデンの民主主義と比べるとかなり違う。いろいろな友人と議論したり、テレビやラジオの論説などを聞いていても、私だけでなく、スウェーデン人の多くが「異様な」感情を抱いていることが分かる。

アメリカ大統領選の大きな特徴は、具体的な政策を議論して、政治の選択肢を国民に提示して選ばせる、というよりも、むしろ候補者個人の人柄これまでもか!、というくらいスポットライトを当てて、その人間性やカリスマ性、信仰心の強さが強調される点だ。しかも、候補者自身ならまだしも、その配偶者、両親、そして彼らにまつわる「美しいエピソード」「家族主義の素晴らしさ」までが選挙戦の大きな武器となりうる。

言ってみれば「美人コンテスト」である。

いや失礼。正確に言えば、共和党民主党はそれぞれ異なる政治イデオロギーを提示しており、それを巡っての政治的論戦はもちろんある。その論戦を根拠に、支持政党を決める人もいるだろう。また、政治的信念を強く持っている人は、積極的に党を選んでいるだろう。(選べる選択肢が二つしかない、という点も、多くの州では既に色が決まっていて、選ぶ余地すらない、という点も、別の大きな問題だが。)

しかし、それ以上に重要な鍵を握るのが、流動的でどっちつかずの有権者だ。彼らを自分の党に取り込むために、建設的な政策議論を行うならまだいいのだが、そうではなく「人柄」や「カリスマ性」を使った「イメージ作戦」が選挙戦の大きな部分を占めるようになる。

さらにいえば、自分の人柄や家柄、家族の素晴らしさを訴えて、自らのイメージを売り込むだけならいいのだが、そういったネタが尽きてくると、今度は「ネガティブ・キャンペーン」と呼ばれる、相手陣営のこきおとしが始まる。

「オバマはイスラム教徒だ。その証拠に彼のミドルネームは“フセイン”だ。」
「オバマは社会主義者だ。」
「オバマはテロリストとつながっている。」

などと突然言われると、根拠のないデタラメだったとしても、それまでイメージだけで民主党のオバマ氏を支持していた人々は不安になり始める。(“フセイン”は本当。でも、それがどうしたって言うの? また、社会主義者といった場合も、先進諸国を見ればどの国にも、国による所得再配分や社会保障制度といった要素が多かれ少なかれあるので、“社会主義”と罵るだけでは相手を罵倒したことにならないと思うけれど。)

相手の些細な発言を、過大に解釈して「揚げ足を取る」のも常套手段のようだ。


スウェーデンのある日刊紙の社説の挿絵

------
今晩は、ヨーテボリ大学で大統領選に関する講演があった。講演者はアメリカ人の若い社会人類学者。(彼は強い英語訛を交えながらも、スウェーデン語で講演をこなしていた)

彼が言うには、両候補者の演説やテレビキャンペーンなどを分析した研究によると、オバマ陣営のキャンペーンの70%マケイン陣営のキャンペーンの10%が自身の政策や人柄、スローガンをアピールすることに費やされ、その残りがまさに「ネガティブ・キャンペーン」だったという。

それから、近年の大統領選では「都会のエリート」vs「地方の庶民」という構図が盛んに利用されているという。例えば、民主党の候補者指名をめぐる争いでは、ヒラリー・クリントンがオバマを指して「彼はエリートであり、地方の人々を蔑んでいる。」といった印象を人々に与えて、地方の有権者の票を集めようとした。

また、かなり裕福なマケイン氏は、ペイリン氏を副大統領候補に抜擢して、彼女に「庶民らしさ」を訴えさせることで、地方の人々や、クリントンを支持していた人々を味方に付けようとしてきた。彼女が盛んに使う言葉は「Joe(典型的なアメリカ人)」「6-pack(庶民が買う、缶ビールが6本ひとまとめになったパック)」「hockey mom」などだ。これをオバマ氏は逆手にとって「マケイン陣営は、ブッシュと同様“カントリー”が好きで、あまりインテリジェントでなく、肝心の経済や政治のことになるとチンプンカンプン」などと反撃もしている。

なぜこのような構図が好まれるのか。どうやら、近年は貧富の格差がさらに進み、特に地方では都市部の裕福層・エリートに対する「cultural resentment(文化的敵意)」がじわじわと醸成しているのらしい。オバマ氏は大学出身のエリートというイメージが強いらしい。このことに対する反感をワザと植えつけて、自分のもとへ支持を引き付けようというのがマケイン陣営の作戦らしい。

------
さて、どちらが勝つのか? 前回のように、得票率では優っているのに負ける、なんてことがなければいいのだが。そもそも、投票が無事に行われて、ちゃんと集計されるのかも見所だ。(国連かOSCEに選挙監視団の派遣でも頼むべきだったかも・・・!?)



<ネガティブ・キャンペーンの例>







ゴットランド島の「政治ウィーク」 (2)

2008-07-16 08:32:17 | スウェーデン・その他の政治
「政治ウィーク」の一週間、各党は以下の順番で屋外演説を行った。

6日(日) 自由党
7日(月) 中央党
8日(火) 社会民主党
9日(水) キリスト教民主党
10日(木)環境党
11日(金)保守党(穏健党)
12日(土)左党

どの党も党首が夕方7時から30分程度の演説を行った(土曜日の左党は午前中) 。自分の党の政策マニフェストを、レトリックを交えながら聴衆に訴えていくという感じだ。

小さな党は、自分たちの得意な政策領域を持っており、自由党は学校教育と原発、中央党は中小企業・起業家支援と環境政策、環境党はもちろん環境政策、左党は税制・民営化反対などを中心に強調しながら、演説を展開していく。

これに対し、大所帯であり、与野党それぞれの第一党である社会民主党保守党は、社会保障政策や税制、外交、国際平和などより幅広い分野について、自分たちの政策主張を展開していた。

ただ、それぞれの党の政策主張はこの「政治ウィーク」に限らず、これまで様々な場所で繰り返されてきたので、メディアも一般の人々も既に大体把握している。だから、あまり驚くような内容はほとんどない。しかも、今年は次回の総選挙まであと2年もあるので、与野党双方に目立った動きはなかった。

そうはいっても、たまに世論を驚かせて支持率を伸ばそうと挑む党が、いきなり予期しなかった政策提言を行ったりする。特に連立の影に隠れてしまいがちな小さな党が、他の党にはない自分たちのプロフィールを強調しようとする傾向がある。

今回であれば、今までそんなこと一言も言ったことがなかったキリスト教民主党が「バルト海のタラの乱獲を防ぐ措置を取るべき」という主張を自党の政策に盛り込んでいた。問題認識もアイデアも別に目新しいものでは全くない。スウェーデン近海やヨーロッパにおける漁獲資源の枯渇は以前から問題視されており、特に環境党が「抜本的な措置を取るべき」と数年も前から訴えていたのである。また、自由党も中道右派連立の各党間の協約を破って「原発の増設を!」などと訴えていた。

――――――
今年のビックリは、社会民主党党首モナ・サリーンの演説の前に、あるコメディアンを起用して、スタンドアップ・コメディーをさせたこと。私も以前から好きなコメディアンで、彼のまくし立てた20分間は会場から笑いが絶えなかった。社民党を讃えるのではなく、むしろ皮肉を交えながら面白おかしく批判して、最後に「社民党よ! 党のアイデンティティを失ってはいけないよ!」と釘を刺していたのが重要な点だったと思った。


早口で喋るので、手話通訳も大変!

そして、モナ・サリーンの長い、長ーい演説。その前のコメディーが面白かっただけに、こちらの本編のほうは、ちょっと退屈だった。

しかし、彼女は最後に40年前にこのイベントをスタートさせたオロフ・パルメを讃え、今は亡き彼の代わりに、彼の妻を壇上に招き、花束を渡したのだった。3000人を超える観客で溢れていた会場は拍手喝采!!!


ゴットランド島の「政治ウィーク」

2008-07-14 04:59:37 | スウェーデン・その他の政治
ゴットランド島ヴィースビュー(Visby)で開催された「政治ウィーク」が終わった。一週間にわたって朝早くから夕方まで様々なシンポジウムやセミナーが同時並行で開かれ、しかも面白そうなテーマが同じ時間帯に並んでいたりしたので、選ぶのに苦労したし、一つの会場から別の会場へすばやく移動するのが大変だった。この一週間で開かれたシンポジウムやセミナーの数は500前後。

そして、晩は各政党の党首が日ごとに交代で野外演説を行う。

前回の書き込みで、このイベントを「政治の祭典」と呼んだけれど「政策主張のマーケット」とか「政策アイデアの見本市」とも呼ぶことができそうだ。それだけ様々な団体が自分たちの主張やアイデアを多くの人に広めようと努力し、また一般の人や様々なオピニオンリーダーが一つのセミナーから別のセミナーに梯子しながら、世論の動向を分析したり、説得力のある政策主張は何なのかを探ったりしていたのだった。


ただし、そのような“真面目な”イベントだけでここまで多くのスウェーデン人が集まるわけではない。この一週間のもう一つの楽しみは、毎日、夜から深夜にかけて開かれる「交流会」。雑誌やテレビ、その他のメディア、シンクタンクなど様々な団体が独自に開いていている。友人と一緒にいくつか参加したけれど、シャンペンを片手に立ち話をしながら、周りを見渡してみると、あちらこちらに政界やマスコミ・メディアの著名人がいた。なーるほど、スウェーデンの「政治/メディア・エリート」はこうやって自身のネットワークを広げて、キャリアに繋げているのかがよく分かった。(こういう場では、顔の広い友人と一緒に参加するのがいかにお得か、ということもよく分かった。)ただ、政界やマスコミ・メディアの著名人とはいえ、スウェーデンでは一般に若い人々の勢いが活発なので、このような「交流会」における年齢は多くが20~40代だ。

――――――
このイベントは、毎年この時期に行われているものだが、ここまで大きな政治イベントに発展したのは最近のことなのだ。

事の始まりは1968年。当時はエランデル(Erlander)が首相を務めており、オロフ・パルメ(Olof Palme)はまだ教育大臣だった。パルメは毎年、夏休みをゴットランド島の北部にある小さな島で過ごしていた。このことは、彼の属する社会民主党のゴットランド支部もよく知っていた。それなら、せっかくだから地元で小さな演説会を開き、パルメが夏休みを終えてストックホルムに戻ってしまう前に、一言喋ってもらおう、という企画が立ち上がったのだった。

町の中心の公園に荷台の開いたトラックを置き、それをステージにして演説を行った。たまたま町に居合わせた観光客や地元の人、数百人が聞いた。

写真の出展:Dagens Nyheter

その後、パルメはほとんど毎年のように同じ場所で演説を行った。とはいっても、最初のうちはごく小規模なものだった。

そのうち、パルメは自分の演説の内容がメディアによく取り上げられて、ニュースに流れていることに気付いた。実はスウェーデンの7月といえば、多くのスウェーデン人が夏休みを取る月。政治にしても経済にしてもあまり動きがなく、ニュースの話題に乏しい季節なのだ。だから、いくら小規模とはいえ、パルメが演説を行うと、メディアは待っていましたとばかりにニュースのネタに使う。だから、パルメもそれを意識して、人々の心に訴えかけるような、もしくは、世論を掻き立てるような内容を盛り込んだりしたのだった。

それを傍で羨ましそうに見ていたのは他の政党。パルメの社会民主党ばかりが注目を浴びるのは気に食わない!、それなら、自分たちもゴットランド島に赴いて、独自の演説会を開こうではないか!と、闘いを仕掛けることにした。先陣を切ったのは保守党(穏健党)の党首Gösta Bohmanで、1976年からパルメの社民党と同時期に演説会を行うようになった。そして、他の党も続いた。すべての党の党首が初めて勢揃いしたのは1982年のこと。それから、単に演説だけでなく、社会民主党が1982年から「経済政策セミナー」を開くなど、政治に関連するセミナーも開かれるようになる。

おそらく喜んだのはメディアだっただろう。また「民主主義」という観点からも非常に意義の大きいイベントではないかと思う。というのも、各党が演説や政策議論を行うときの内容というのは、日本のように抽象的で漠然としたものではなく、非常に具体的なのだ。普段は日々の生活に忙しいスウェーデン人も、この月はのんびりと休みを取っている。そして、ニュースを聞きながら、各政党が今どのような具体的な政策主張を様々な政策分野において持っているか、知ることになる。

パルメが暗殺されたのは1986年のこと。ゴットランド島のこのイベントの立役者はパルメだっただけに、彼がいなくなれば、このイベントも下火になり、ついには消滅するだろう、と多くの人が思った。

しかし、1990年代に入ってからも何とか生き残り、2000年代に入ってからは規模が急成長した。政党だけでなく、財界や雇用者団体、労働組合や利益団体、NPOなども合わせてセミナーやシンポジウムを開いて、自分たちの主張を行うようになった。今では200を超える各種団体が参加し、500以上のセミナーを開くに至っている。

休む暇なくゴットランド島へ

2008-07-09 01:01:08 | スウェーデン・その他の政治
アイスランドからスウェーデンへ戻り、自宅で1泊した後は、翌朝の便で大学の友達4人とゴットランド島へ。

今週一週間は「Politikerveckan i Almedalen」という大きな政治の祭典が開かれている。

主要政党や関連する青年部会をはじめ、各種の労働組合雇用者団体、業界団体、財界団体、メディア、シンクタンク、環境団体、自治体連合会、公的研究機関、その他の利益団体NPOが様々なブースセミナーを開いていて、自分たちの主張を行ったり、スウェーデン社会の中でちょうど今、ホットな話題について、様々な立場の人々を呼んでディベートを行っている。


そのため、この1週間は観光客だけでなく、上記の団体の関係者や、政治家、各種オピニオン・リーダー、ジャーナリスト、研究者などがゴットランド島の中心であるVisby(ヴィスビュー)に溢れかえっている。

レストランやバーに入ると、テレビでよく見かける政治家やジャーナリストがあちこちにいる。バーで友達とお酒を飲んでいると、隣のテーブルに座っていたのは、2006年秋に10日で辞任した元文化大臣だった。

そういえば、ゴットランド島へ向かう飛行機の中でも既に、ヨーテボリ市長と通路を挟んで反対の席に座ることになった。(彼はSAS(スカンディナヴィア航空)ではなく格安の航空会社のエコノミーを使っていた)
------

と言うわけで、今週一週間は朝から晩までいろんなセミナーやシンポジウムで大忙し。


月曜日の晩は中央党の党首Maud Olofssonが野外講演。


夜のくつろぎのひととき。一緒にゴットランドに来ている友人と。

5月初日の休日 メーデー

2008-05-02 05:12:29 | スウェーデン・その他の政治
5月1日は「första maj(フォシュタ・マイ)」、英語で言うメーデーだ。スウェーデンを始めとする多くの国では休日となっている。

スウェーデンでは全国各地でデモ行進が行われる。しかも、社会民主党や左党など、それぞれのグループごとに独自のデモ行進が行われるのだ。行進の後には演説集会が開かれる。

首都ストックホルムでは今年は5つのグループがそれぞれのデモ行進を行った。
・社会民主党
・左党
・シンディカリスト・グループ
・共産主義者グループ
・アナーキスト・グループ

最初の2つは国会に議席を持つ国政政党だが、あとの3つは小規模の、いわゆる極左といわれる集団だ。旧共産党である左党とは独自の政治運動を展開している。シンディカリストやアナーキストなどは主に若者からなるが、特に後者のグループなどは、脅迫や暴行、破壊などの犯罪行為に多かれ少なかれ手を染めていると言われる。

一番オーソドックスなのは社会民主党のデモ行進。社会民主党は、ブルーカラー系労働組合のまとめ役であるLOとともに行う。


デモの終点はLO本部。ここで演説集会が行われる。

左党のデモ行進も規模が大きい。

カメラマンの遊び心。左党のデモ行進をバックに「ここは左側通行」という標識を写している。
写真の出展:SVT

以下はヨーテボリにおける社会民主党のデモ行進。

デモ行進には警察も警備にあたる。先導するのはヨーテボリ名物の「自転車警察隊」


今年の社会民主党のスローガンは「Frihet kräver rättvisa(自由には正義(公正)が必要だ!)」


犬もデモ行進、というより、デモ行進のついでに犬の散歩、なんて考えた飼い主に連れられた可哀想な犬!?

写真は私自身が撮影

今年は社会民主党の党首であるMona Salin(モナ・サリーン)がヨーテボリにて演説を行った。演説では、政党の政治アジェンダと、その時点で特に強調したい政治的テーマが主張される。モナ・サリーンは与党の政策を批判するとともに、今年は「人手不足の業種のために、失業者に対する職業訓練にもっと力を入れるべき」との自党の政策方針を展開した。メーデーは単に労働者の日を祝うだけではなく、このように政策批判・政策主張の場でもあるのだ。
SVTの動画

メーデーというと、左派系の政治グループの晴れ舞台だが、近年では中道・右派系の政党も自分たちのデモ行進を行ったりもしているようだ。特に保守(穏健)党などは、2003年以来、自分たちを「労働者のための新しい党」と称しているので、メーデーにも自党の存在感を見せようとしている。彼らのスローガンは「Titta uppåt, himlen är blå!(見上げてご覧、空は青いよ!)」。青は、保守党および右派政党のシンボル・カラーなのだ。

公共ラジオP1では、保守党の党官房であるPer Schlingmann(パー・シュリンマン)が自党の「メーデー演説」を行っていた。

私が思うに、これは良い傾向ではないだろうか。 左派政党だけでなく、中道・右派の政党も政治主張に加わっていく。社会構造が多様に変化した今、メーデーが“労働者”だけでなく、様々な立場の人が意見を言い合える場になっていけばいいな、と思う。

------
社会民主党は昔から「国際的連帯」をスローガンの一つに掲げているので、デモ行進には様々な国の旗を掲げるのだが、今年は興味深いことに中国の旗はなかった。また、南部のある町で演説したLO代表は国際的な労組のキャンペーン“Catch the flame”にも触れて「中国の独裁政権に対抗すべき」とも述べていたそうだ。

スウェーデン首相・環境相が訪日

2008-04-19 11:32:27 | スウェーデン・その他の政治
さて、中国を訪問したスウェーデンのラインフェルト首相カールグレン環境大臣だが、その足で今週は日本も訪れていたのだった。

ラインフェルト首相は16日に福田首相と会談。また、カールグレン環境大臣も記者会見を行ったようだ。

<毎日新聞より>
福田首相:スウェーデン首相と会談 平和構築で人材協力
スウェーデン環境相:サミットに「ポスト京都」前進期待
温室効果ガス:米大統領の声明 「ゼロでなく削減を」--スウェーデン首相

<日本経済新聞より>
温暖化ガス削減、「産業」別の日本案評価・スウェーデン首相

また17日には東京・表参道にある国連大学にて「持続可能な都市の発展」と題するスウェーデン・日本のジョイントシンポジウムが開かれ、両氏はそれにも出席。




ラインフェルト首相

カールグレン環境大臣

スウェーデン初の宇宙飛行士 クリステル・フーグレサング


私も観客席で聞くことができた。会場では日本のスウェーデン大使館でインターンシップをしているヨーテボリ大学の学生や、日本とスウェーデンの両国に関わっている日本の方などにお会いすることもでき、とても有意義だった。

スウェーデンと中国の首脳会談

2008-04-14 00:55:18 | スウェーデン・その他の政治
首相フレドリック・ラインフェルト(Fredrik Reinfeldt)が中国を公式訪問している。

「アジアのダボス会議」と呼ばれる「Boao Forum for Asia」に出席するのが理由の一つ。もう一つの理由は、昨年の中国政府のスウェーデンへの公式訪問を受けて、そのお礼として。スウェーデンの首相としては12年ぶりの訪中という。中国は環境・温暖化問題への取り組みを積極的に世界にアピールし、技術協力を促進するために、スウェーデンの訪中を強く希望していたという。

2009年12月にコペンハーゲンで行われる気候変動国際会議(COP13)では、中国の動き方が交渉の行方を大きく左右する。スウェーデンとしても早い段階から中国と対話を持ち、温暖化ガス排出抑制のための国際的な取り組みに中国など途上国を引き入れたい考えだ。

写真の出展:SVT
------
「アジアのダボス会議」のあとは、スウェーデンと中国の首脳会談が行われた。

そもそも、3月のチベットでの騒乱とそれに対する中国の武力による抑えつけを受けて、この訪中自体をキャンセルすべきだ、という声も高まっていた。そのような声に対し「対話が重要」とラインフェルト首相は訪中を予定通り行うことにした。では、彼は対話の場で中国主席に対してどのような問題提起や指摘・要求を行うのかが、スウェーデンでは注目されていたのだった。

写真の出展:SVT

土曜日に行われた50分に渡る会談の中で、ラインフェルト首相はまず、中国の抱える人権問題を指摘したという。その上で彼は、13人の中国人政治犯の名前を中国に提出し、彼らの釈放を要求した。

実は、今回の訪中に先駆けて、国際人権NGOであるアムネスティー・インターナショナルのスウェーデン支部はラインフェルトに対し4人の政治犯の釈放を要求するように願っていた。それに対し、首相は「個別の事例を取り上げるつもりはない」との態度を表明していたのだったが、実際の会談の席ではこの4人を含む13人の名前を挙げて中国政府に要求したのだった。そのため、アムネスティーもスウェーデンの野党も大きく評価している。アムネスティーが当初指摘した4人はHu Jia、Ye Guozho、Chen Guangcheng、Yang Chunlin。不当な理由で逮捕や監禁をされており、国際的にも名前が知られている人権活動家だという。

また、スウェーデン首相は、中国で行われている死刑制度や問題の多い司法制度についても指摘した。

チベット問題に関しては、武力・暴力の行使をやめることダライ・ラマとの対話の道を開くこと、そして、チベットへの出入りを自由にすること、などを取り上げたという。

ただし、首脳会談のメインテーマはやはり環境問題。ラインフェルト首相は中国に対し、環境・温暖化対策に一層の力を注ぐこと、そして、環境税(二酸化炭素税)などの経済ツール(人々に需要抑制のための経済的動機付けを与えるメカニズム)をスウェーデンにならって導入するよう求めたらしい。

------
やはり、今回の注目はラインフェルト首相が中国政府に対し、チベット問題や人権問題をどこまで強く要求するか、という点だったと思う。スウェーデン政府に対し、普段は強い要求をする人権NGOアムネスティーも、今回の首脳会談での首相の態度を高く評価しているところを見ると、これらの問題がしっかりと取り上げられた、と解釈できるのだろう。

さて、問題は当の中国がスウェーデン首相の要求をどこまで真剣に受け止めたのか。さらに、スウェーデン首相が中国主席にこれらの要求をした、というニュースがスウェーデン国内だけにとどまらず、国際メディアでちゃんと伝えられたか、ということも重要になってくるだろう。

ヨーテボリ市議会 - 子連れ議員・若手議員

2008-03-03 09:17:03 | スウェーデン・その他の政治
ヨーテボリ市市議会を見学したが、市議会において多数を構成する社民党+環境党と、それ以外の党との論戦がなかなか面白かった。

議会で論議したいテーマについてはあらかじめ提出されている。まず、その提出者(多くの場合、野党側)がその主張を述べた後は、どの議員でも議論に参加できる。発言したい者は机上のボタンを押す。早い者勝ち。ボタンを押した順番に議場前の大きなスクリーンに議員の名前と所属政党が表示される。一人ひとりの発言は3分以内でなければならないが、一つの議題を議論する制限時間は無いようだ。何人もが何度も発言するので、いつまでも続く。順番待ちの発言者があと3人、あと2人と減っていくと思ったら、急に議論が白熱しはじめ、5人くらいが一斉にボタンを押して、順番待ちが再び膨れ上がることもある。興味ないテーマのときは聞いている側はかなりシンドイ。

前回の記事から分かるように、女性議員の割合も多いし、20代や30代の議員も多い乳児を議場に連れてきて、論議に参加している30代の女性も見かけた(社民党のAnna Johansson議員。前回の記事参照)。


子連れの議員

子供がたまに泣き出すと議場にそっと出て行く。他の議員も議場へ盛んに出入りしているので、見ている側は特に気にならない(市議会は17:15スタートなので、ちょうど夕食時でお腹がすく。一方で議会のほうは休憩なし。なので、各自適当に時間を見つけて議会食堂で何か食べているのだと思う)。この彼女は自分の発言の番になると席に戻ってくる。発言の時は最初は子供を抱えながらだったが、そのうち主張に力がこもってくると、子供を隣の席の男性議員に預けて、発言を続けていた。その間、男性議員が「ヨシヨシ」と子供をあやしている光景が、とても和やかで他の議員にも傍聴席の市民にもほのぼのとした笑いを与えた。

子供をあやす男性議員。発言中の女性議員が隣にいるが、ランプの影になっている


一番白熱した論戦は、25歳のAxel Darvik(自由党:野党)が、市執行部議長(市長)である63歳のGöran Johansson(社民党:与党)に食いかかって、善戦していたときのこと。議題は「未成年の暴力事件」について。件数の増加を懸念し、「市としてもっと予防措置をすべきだ」と主張するAxel Darvikに対して、「市もできることはしている。それに統計によれば増加はしていない」と防戦する市長のGöran Johansson。


Axel Darvik(25歳) 対 Göran Johansson(63歳)

その日は、2007年のヨーテボリ市統計年鑑が全議員と傍聴者に配布されていたので、市長はそれを片手に反論する。それに対し「この統計は物事のある一面しか捉えていない。それに増えたか増えてないかが問題ではなく、そのレベルが問題なのだ」と盛んに突っ込みを入れる。

最初のうちは、Axel Darvik(若いほう)も「市執行部議長であるGöran Johanssonに見解を求めたい」と姓名で呼んでいたのだが、そのうち「Göran(ヨーラン)、その意見には俺は賛成できないぞ」と下の名前で呼びだす(いくら年の差はあれ、このこと自体はスウェーデンでは別に珍しいことではない)。それに対し、Göran Johansson(年配のほう)も「Axel(アクセル)よ! お前は現実ももっとよく見なきゃならん!」と、まるで祖父が孫をたしなめようとするような口調で反論していた。議論の内容から判断すれば、この論戦では若いAxelに軍配を上げたい、と私は思った。


反論する市執行部議長(市長)Göran Johansson

ちなみに、このAxel Darvik(アクセル・ダルヴィーク)。2006年9月の選挙でヨーテボリ市の市会議員となったときは24歳で、地元の工科大学の大学生だったのだが、実はその前には、国会議員をしていたのだ。

小さいときから政治や社会問題に関心があり、活発に活動していた彼は、2002年の総選挙で自由党の立候補者名簿に名を連ね、20歳にして自由党の国会議員に選出される(この選挙では自由党が大躍進を遂げたため)。その後、任期の4年間に、学生や若者に関する問題を国会や委員会で積極的に取り上げ、若いなりに活躍したのだった。

議員職はあくまでも社会奉仕(2006-07-05)


国会にしろ、地方議会にしろ、幅広い年齢層の議員がそれぞれの立場から、政治に参加をしている。たとえ若かろうが、一人前に扱ってもらえ、自分で経験を積んでいける。(ナントカ・チルドレンなんて呼ばれる必要もない)

早いうちから訓練を重ねて、若くして成熟した政治家がちゃんと生まれ、これが政治や社会的議論に活力を生み出している要素の一つではないかと思う。

ヨーテボリ市議会 - 余暇を使った議員職とは・・・?

2008-02-29 08:25:37 | スウェーデン・その他の政治
今日はヨーテボリ市議会夕方17:15から会議を開くことになっていたので、初めて傍聴してみた。

3月に地方政治の調査をお手伝いすることになっており、ヨーテボリ市の議員や政策決定に携わる人々にインタビューする予定なので、その予習と下見のため。


市議会が夕方から開催? どうして日中に市議会を行わないのか? と思われるかもしれない。その答えはというと・・・、ほとんどの議員が本職を持っており、日中は忙しいから。

そうなのです。地方議会の議員のほとんどは「fritidspolitiker (free-time politician)」と呼ばれ、本業の片手間で市会議員としての仕事をしている。仕事・家事以外の時間(free-time・余暇)を利用して、地域の政治に関与しているから「余暇政治家」とでも訳せるのだろうか? ともかく、政治だけを本職としているわけではないことを強調したい。

ここヨーテボリ市の市議会は、議席数が81。このうち、13人はkommunalråd(市執行部メンバー)と呼ばれるフルタイムの政治家であり、市の内閣にあたる「市執行部」の構成している。ちなみに、日本にように直接選挙によって選ばれる「市長」はいない。市執行部の議長になった人が「市長」にあたるのではないかと思う。

そして、この13人の市執行部メンバーを除いた他の議員のほとんどが、「fritidspolitiker (free-time politician)」なのだ。どのような仕事を、市会議員としての職務と兼務しているのだろうか? 81人すべてを見ていくのは大変なので、社会民主党、穏健党(保守党)、自由党の議員に絞って見てみよう。(社会民主党は数が多いので、第1選挙区と第2選挙区の議員のみを挙げた。ヨーテボリ市は全部で4つの選挙区からなる)

<社会民主党>
Klara Martinsson, 25 歳、女性、看護婦
Anders Hernborg, 35歳、男性、タバコ売店経営
Anna Johansson, 35 歳、女性、オンブズマン
Abdullahi Hassan, 36 歳、男性、教育者
Henrik Johansson, 36 歳、男性、オンブズマン
Gunilla Dörner-Buskas, 39歳、女性、市の部長級
Ann Lundgren, 40 歳、女性、教員
Ann-Sofie Hermansson, 41 歳、女性、党政策秘書
Lena Malm, 47 歳、女性、コミュニケーション・コンサルタント
Pija Ekström, 49 歳、女性、大学教官
Mats Karlsson, 49 歳、男性、鉄道機関士
Abbas Zarrinpour, 52 歳、男性、技術コンサルタント
Per Berglund, 52 歳、男性、市執行部(フルタイムの議員)
Eshag Kia, 53 歳、女性、エコノミスト
Humayun Kaisar, 54 歳、男性、ITデザイナー
Ann-Margreth Rydén, 54 歳、女性、医療関係秘書
Britt Solberg, 62 歳、女性、保険会社勤務
Arne Hasselgren, 66 歳、男性、元学習オンブズマン

<穏健党(保守党)>
Henrik Nilsson, 35 歳、男性、市職員(予算課)
Jonas Ransgård, 35 歳、男性、エコノミスト
Marie-Louise Hänel Sandström, 37 歳、女性、医師
Åsa Hartzell, 43 歳、女性、自営業/会社経営
Bahram Atabeyli, 43 歳、男性、研究ラボ室長
Pär-Ola Mannefred, 45 歳、男性、自営業/会社経営
Maria Rydén, 45 歳、女性、看護婦
Kristina Tharing, 45 歳、女性、イベント企画リーダー
Ingela Ferneborg, 46 歳、女性、手術看護婦
Elisabet Rothenberg, 46 歳、女性、栄養士
Susanna Haby, 49 歳、女性、市執行部(フルタイムの議員)/看護婦
Åke Björk, 49 歳、男性、銀行員
Agneta Granberg, 55 歳、女性、市執行部(フルタイムの議員)/ソーシャルワーカー
Lisbeth Boethius, 57 歳、自営業/会社経営
Roland Rydin, 58 歳、男性、大学教官
Jan Hallberg, 60 歳、男性、市執行部(フルタイムの議員)
Lars Bergsten, 61 歳、男性、市の部長級
Roger Björn, 61 歳、男性、国防軍 士官
Lennart Widing, 63 歳、男性、牧師/聖職者
Gunnar Ek, 65 歳、男性、経営コンサルタント

<自由党>
Axel Darvik, 24 歳、男性、大学生(元国会議員)
Stefan Landberg, 34 歳、男性、市職員(事務方の上級職)
Helena Holmberg, 36 歳、女性、政治学者
Mikael Janson, 41歳、男性、市執行部の代理人
Helene Odenjung, 41歳、女性, 市執行部(フルタイムの議員)
Piotr Kiszkiel, 57 歳、男性、ソーシャルワーカー
Ann Catrine Fogelgren, 52 歳、女性、自営業/会社経営
Kjell Björkqvist, 65 歳、男性、市執行部(フルタイムの議員)
Kerstin Ekman, 77 歳、女性、エンジニア

と、このように幅広い職業に就いている人が市議会に議席を持ち、市の政策議論に関与しているのだ。(年齢は2006年9月の総選挙時のもの)

自らの社会経験や勤務経験を生かして、地域の政治に関与したいと思えば、それまで働いてきた会社を辞めることなく、市の議員になれる。社会生活の一部として議員職を担当できるのは面白いと思う。

余暇政治家「fritidspolitiker (free-time politician)」といえども、どのくらいかは知らないが若干の議員報酬が市から出るようだ。

(続く)

忙しいカール・ビルト外相の大きな趣味

2008-01-07 03:18:34 | スウェーデン・その他の政治
スウェーデン人の中で最も忙しく世界中を飛び回っている人といえば、おそらくこの人、カール・ビルト(Carl Bildt)外相だろう。2006年10月に外相のポストに就いてから1年間に40以上の国外出張を行ってきた。(去年の春には国王夫妻とともに東京にも)

驚くことに、これだけ忙しいにも関わらず、彼には大きな“趣味”があるのだ。それは何とブログを書くこと。しかも彼のブログ、人気が非常に高くて、一週間の訪問者が5~6万に及ぶという。

タイトルは「Alla dessa dagar」(英訳は“All these days”だが、日本語で意訳すれば“渦中の日々”くらいになるのかな?) 以前は「En utrikesministers liv och vardag」(外務大臣の生活と日常)というサブタイトルが付いていたが、今ははずされた。(その理由は後述)

内容は、日々の国内外ニュースに対する個人的コメントや、休みの日の生活、外交の裏話(もちろん限られた範囲内で)、受けた批判に対する返答、などなど。私はてっきり何人かの秘書が代行して書いているのかと思ったが、本文はすべて彼自身が書いているとのこと。基本的に毎日更新されるからスゴイ! おまけに、2つ以上の書き込みがなされる日もある。

メディアや評論家、新聞記者も彼のブログを日々チェックしている。時には、彼のブログの書き込みを根拠にニュース速報が流れたりすることもある。

例えば、不公正だと批判されていた昨年12月のロシア総選挙の直後にロシア外相と会談したビルト外相は、会談後、自身の小型パソコンから「プーチン大統領は自身が望む選挙結果を導くため、国営テレビのプロパガンダや政治資金の操作を通して手はずを整えてきた」とブログに書いた。これは記者会見で正式なコメントが発表される以前だったらしく、スウェーデンの新聞はこの書き込みを頼りに会談の第一報を書いたのだった。

それから、世界中の政・財界の重鎮が一同に集まる極秘国際会議(Bilderberg conference)にビルト外相の参加が噂されたことがあったが、このときスウェーデン外務省はメディアに対してノー・コメントを貫いた。しかし、ビルト外相がその開催地からブログにて「私は今××にいる」と書き込んだので、メディアはそれをもとに「今年はビルト外相も参加」と記事に使ったのだった。

さらに、元首相パーションとの政争の中で、カール・ビルトが「パーションは嘘をついている」とブログにて反論すると、メディアもそれを参照したりもした。


公式な晩餐会の合間にメールのチェック? それとも、ブログの書き込み?
「いま食べたキャビアはイマイチだった・・・」 な~んて

簡単な登録さえすれば、彼のブログに誰でもコメントをできるのも凄い! 一つの書き込みに100近くものコメントが寄せられることもある(基本的に返事はしない)。ただ、相手が現役の外相本人とだけあって、極左・極右からの極論や、ある特定の民族に対する誹謗中傷もなかには混じっている。彼がある民族問題を取り上げたときには「××人を根絶やしにすべき」というような中傷が寄せられた。彼自身、コメントの管理は定期的に行っているというものの、時には1ヶ月以上もブログ上に放置されたこともあった。スウェーデンには1998年に「電子掲示板の管理責任に関する法」ができ、ブログの所有者がブログ上のすべての情報に責任を持つことになっている。民族差別的な誹謗中傷は大きな犯罪であるため、昨年の夏にはビルト外相のブログ管理責任を問って、検察が立件に向けた準備調査を開始したこともあったほど。

ビルト外相もかなり懲りているらしいが、中には価値のあるコメントや情報もあるため、コメント機能を削除するつもりは無いのらしい。去年4月の段階では「コメントもすべて私一人で管理しているから、大変」と言っていたが、最近は何人か側近に頼んで不適切なコメントを削除しているようだ。

さて、問題はそれ以上に、一国の外相が政府というチャンネルを通さず、個人的なブログで自由に発言するのが許されるのか?ということだろう。彼ももちろん配慮がある人なので、何でも好き勝手に書いているわけではない。それに、外相としてではなく、あくまでビルト個人として書いている、という。(サブタイトルが削除されたのもおそらくこれが理由だろう)

ただ、彼がいくらそのつもりでも、彼個人の書き込みが現政府の立場の表明と受け取られてしまうこともある。例えば、外国の大統領・首相に対する個人的な批判発言が、外相としての発言として受け取られ、外交問題に発展することもある。なので、彼の属する保守党内からも「ブログ上で何でもかんでも喋りすぎ」との批判がある。

私としては、政府の堅苦しい(そして退屈な)公式発表よりも、彼自身の考えがブログで読めるのは嬉しい。

だから今後も、一国の外相という立場と、個人ブログの著者という「二重の役割」が両立していけるのか、注目したい。

カール・ビルトの個人ブログ:Alla dessa dagar

(あの鼻は“つけっぱな”(しかも眼鏡と一体化したやつ)との噂もあったが、やっぱり本物らしい・・・)
文中の写真の出典:Dagens Nyheter
------
P.S. 彼はもともと英語でブログを書いていたのだが、外相になってからはむしろスウェーデン人の読者に向けて発信しようということで、英語ブログは2007年1月以降更新されず。
カール・ビルトの英語ブログ:Bildt Comments


両方やってくれたら面白いのに・・・。

ロシア-ドイツ間の海底パイプライン(2)

2007-11-28 07:46:39 | スウェーデン・その他の政治
プロジェクトに反発する声は、スウェーデンからだけでなく、バルト3国ポーランドからも上がっている。冷戦崩壊以降、ロシアの影響下から必死に脱しようと努力してきたこれらの国々は、ヨーロッパ諸国に対するロシアの影響力が再び強まることを懸念しているのだ。これらの国々は、海底にパイプラインを引くくらいなら、むしろ地上ルートで、つまりバルト3国とポーランドの上を通せばいい、と主張している。ロシアのパイプラインに対する影響力を少しでも持ちたいということだろうか。一方、ロシアがパイプラインを海底に通したい理由のひとつは、まさにこの「他国の影響をなるべく受けない形でガス供給をおこなう」なのだ。(この地上ルート案は、スウェーデン国内の反対派からも主張されている。)

EU内の議論に目を向けると、天然ガスの供給を欲するドイツ・フランスなどの国々と、プロジェクトに反対するバルト3国・ポーランドの間で対立が生じている。EUでまとまった意見形成が困難ということは、国際政治におけるEUの発言力の減少を意味する。この現状を見て、ほくそ笑んでいるのは・・・、そうロシアのプーチン大統領であろう。だから、このプロジェクト自体がプーチンにとっては外交の一つの武器でもありうる。

スウェーデンの現政権の反応はどうか?Carlgren(カールグレン)環境大臣は「この問題に関して、スウェーデン政府は環境影響評価の提出をもとに許可を与えるか否か、の決定権しかもっていない」「環境影響評価が今だ提出されていない段階で、政府として見解を述べるのは望ましくない」としている。

これに対して、野党を始めとする反対派は「環境の観点からベストな選択肢を事業主体が選ぶよう、他の選択肢を含めた慎重な事業計画策定を要求すべき」「この案件は単なる経済事業ではなく、政治的要素も十分に含んできるから、スウェーデン政府はこの案件を国会審議にかけた上で、スウェーデンとしての態度を決めるべき」と反論している。

反対派の指摘によると、スウェーデン政府は環境影響評価を判断し認可決定を下すにあたり、事業者側が環境影響評価を行ったそのルートだけに対して「Yes/No」という判断を下すだけでなく、他の考えられうる選択肢においても同様の評価が行われるよう事業者側に要求することもできる、そして、これはEUの環境影響評価に関する法令に根拠を持つ、と反対声明の中で述べている。

ロシア-ドイツ間の海底パイプライン(1)

2007-11-27 07:33:08 | スウェーデン・その他の政治
ロシアからドイツ天然ガスを輸送するために、バルト海の海底にパイプラインを敷く計画がある。ドイツやフランスを始めとする大陸ヨーロッパ諸国はエネルギー需要を賄うために、ロシアからの潤沢な天然ガスの供給を望んでいる。そのためにロシアとドイツの共同企業体である「Nord Stream(ノード・ストリーム)」がパイプラインを敷き、2010年に完成させる予定なのだ。


写真の出典:Sveriges Radio

バルト海といえば、スウェーデン、フィンランド、ドイツ、バルト3国、ロシアに囲まれた内海だ。計画されているパイプラインはロシアのViborgからドイツのGreifswaldを繋ぐ予定だが、途中、ゴットランド島沖のスウェーデンの経済水域を通過するため、スウェーデンの利害とも絡んでくる。また、いくつもの問題点がスウェーデン国内外で指摘されており、EUを二分した政争にも発展している。

ゴットランド島からのバルト海の眺め

写真の出典:SVT

問題点を挙げてみると、

○ 航路の妨害
敷設予定ルートは、バルト海上の交通量の多い幹線航路を3度も横切る。いくらパイプラインとはいえ、航行中の船舶が緊急時に碇を下ろすことが困難になる、とスウェーデンの海上交通庁(Sjöfartsverket)が指摘している。

○ 漁業区域の妨害
トロール漁をする漁業関係者は、網が引っかかる可能性を懸念。敷設ルートももっと南(デンマークのBarnholm島の南)に変更するよう要請中。

○ 環境汚染の懸念
敷設が予定されている海底には、第二次世界大戦中の機雷や沈没した軍艦の残骸、それに投棄された兵器が数多く存在する。敷設作業に伴い、海底のこれらの物体が巻き上げられることになれば、機雷の触発の危険だけではなく、燃料や化学物質が付近に散乱する恐れがある。(上の地図の“黒斜線”の部分は「機雷の危険がある区域」“赤斜線”「第二時大戦後に兵器(化学兵器を含む)が海上投棄された区域」“緑斜線”「EUのNatura2000に基づく環境保護区」“黄点”「不発弾・不発機雷がある区域」

一番最後の「環境汚染の懸念」に対しては、「Nord Stream(ノード・ストリーム)」は環境影響調査を行っている最中で、この結果を近いうちにスウェーデン政府に提出し、許可を待つことになる。

このプロジェクトには以前から反対の声が上がっていたのだが、今週月曜日に野党3党(社民党・環境党・左党)が「スウェーデン政府はNejというべき」という共同声明を発表している。また、与党議員の一部も野党に同調する動きを見せている。ちなみに、野党3党の共同声明の中で指摘されている主な問題点は「環境汚染の懸念」だが、実際にはそれ以上に大きな問題が背景にありそうだ。

それは
○ 安全保障上の問題
パイプラインが敷設されれば、この経済的資産を保護するために、ロシアの軍艦がスウェーデン近海を頻繁に航行するようになる。これに伴い、スウェーデンの安全保障に大きな影響を与えかねない。

○ ロシアに対するエネルギー依存がさらに拡大することの懸念
EU(そしてNATO)ロシアは常に政治的対立関係にある。次第に独裁化が強まるロシアに対して民主主義と基本的人権を掲げるEUは危機感を抱いているし、ロシアは周辺国に対するかつての覇権を次第にEUやNATOに奪われていくことを懸念している。EUがエネルギーの大部分をロシアに依存してしまうようになると、この先、ロシアがさらにおかしな方向に進んだり、妙な要求をEUや諸外国に突きつけてきたとしても、EUとして断固とした態度が取れなくなってしまう。実際のところ、ロシアが天然資源供給を外交の武器に使った例は、ここ数年いくつかある(対ウクライナの供給差し止めなど)。ロシアの天然ガスを牛耳っているのは国営企業のGazprom(ガスプロム)であり、プーチン大統領の影響力も強い。ちなみに、パイプライン敷設を計画しているNord Streamの株主もGazpromだ。だから、このプロジェクトはEUの安全保障とも関連してくるのだ。

(続く)