スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

新政権誕生から1年

2007-09-19 07:08:54 | スウェーデン・その他の政治
ちょうど一年前に総選挙があり、保守党(Moderaterna)を中心とする中道右派の連立政権が誕生した。

総選挙に先駆けること数年前から、保守党は、それまでの新自由主義的政策路線を改め、税制による所得再配分制度を基本とする福祉国家モデルや、労使間の自主管理を基本とする従来のスウェーデン型労働市場モデルを尊重する、という方針に切り替えてきた。そのため、彼らを中心とする新政権の政策も、スウェーデン型福祉国家の抜本的な改革は行わず、部分的な修正にとどめてきた。そのため、今回の政権交代はmaktshift(権力の交代)であって、systemshift(システムの交代)ではない、といわれてきた。

さて、あれから経済も好調で、失業率も下方傾向にあるなど、政権党にとっては嬉しい限りだが、それとは裏腹に支持率は低迷している。実は、総選挙後3ヶ月ほどの世論調査で、すでに野党である左派ブロックの支持率が上回っていたのだ。
以前の書き込み:支持率の崩壊(2007-01-21)

最新の世論調査の結果もほとんど変わらない。
右派ブロック(政権党)41.9%
左派ブロック(野党)53.3%


政党別の支持率
左から:左党、社民党、環境党(以上、左派ブロック);中央党、自由党、キリスト教民主党、保守党(以上、右派ブロック)

出典:SVTニュース(2007-09-15)より


面白いことに、新政権の行った労働所得税の減税によって、実は国民の大部分の人の手取りが増えているのだ。(私の手取りも増えた! 月当たり1,2万円ほど)

平均的な共働きの家庭の場合は、労働所得税減税住宅税減税のために月当たり1900クローナ、可処分所得が増えた。一方、失業保険の保険料の引き上げや、労働組合費の非控除化自動車強制保険の保険料引き上げによって700クローナ出費が増えることになったが、それでも全体では月当たり1200クローナ(21000円)だけ可処分所得が増えているのだ。

イラストは同じくSVTのニュースより


それなのに、支持率はこの有様だ。

国民が政権党を支持するかしないかを決めるときに重要なのは「実際にどう変わったか?」という事実ではなく、「実際にどう変わった、と感じているか?」という主観的な認識のほうだ。SVTの世論調査によると「家計が豊かになったと感じている」のは19%に過ぎず、64%が「以前とほとんど変わらないと感じている」と答えている。一方で、国民の大部分が「新政権の政策によって恩恵を受けているのは主に高所得者だけ」という認識を持っているという。

上に挙げたように、新政権は、多くの国民の可処分所得を増やしたが、一方で出費も増やした。また、それ以外にも失業保険や疾病保険の給付額も減額したし、住宅税や資産税の減税は、大きな家や資産を持つ人々を特に優遇することになった。そのような「マイナス面」が国民には「プラス面」よりもより強い印象を与えているようなのだ。ラインフェルト首相の問題点は、世論とのコミュニケーション。政権側が考えているように、これらの改革がどうしても必要なのならば、それをもっと説得力のある形で、国民に説明する必要がある。しかし、メディアを通した主張はあまり行われていない。

また、ヨーテボリ大学行政学部のSören Holmberg教授は「財布が厚くなったからといって、国民がすぐ政権を支持するほど、単純ではない」と言っているが、まさにその通りだ。

もしくは、去年の総選挙の実質は、実は前首相ヨーラン・パーション(Göran Persson)に対する信任投票だった(つまり、反パーション票が右派ブロックに流れた)のだと見ることもできる。それならば、パーションが姿を消し、モナ・サリーンが社民党の党首になった今、再び社民党に票が戻ってくるのも、不思議ではないかもしれない。

最後になるが、現在の与党は、自らの支持者の間でも人気が低迷している。与党支持者の19%が「今の政権に不満」と答えているが、こちらのほうはむしろ「もっと抜本的な福祉の削減と減税、そして労働市場の規制緩和を期待していたのに、期待はずれだった」という理由が主であろう。つまり、現政権は左からも右からも不人気なのだ。

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