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スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

スウェーデンの仲介によるジャーナリスト解放

2009-08-07 04:41:24 | スウェーデン・その他の政治
アメリカ元大統領クリントンが北朝鮮を電撃訪問し、12年の禁固刑という判決を受けていたアメリカ人ジャーナリストを無事本国へ連れ帰ることに成功した。アメリカと北朝鮮の水面下での交渉の結果だが、背後にはスウェーデンの仲介があったようだ。

写真の出典:Dagens Nyheter

事実、クリントン元大統領とともにアメリカに到着した二人は、まずクリントンに謝辞を述べるとともに「在ピョンヤンのスウェーデン大使Mats Foyer(マッツ・フォイエル)にも厚く感謝したい」と述べている。

アメリカは北朝鮮と国交を持たないため、北朝鮮には大使館を開設していない。一方、スウェーデンは西側の国としては国交を持つ数少ない国の一つであり、大使館を置いている。そして、アメリカと北朝鮮の外交窓口という役割も担ってきた。

北朝鮮とスウェーデンとの関係は歴史が比較的長いようで、朝鮮戦争後、38度線の停戦ラインに非同盟中立国としてスイスとともに停戦監視団を派遣している(現在も国連部隊として数人ほどいる)。おそらく同時期に国交を結び、大使館を開設したのではないかと思う。

ヨーロッパ諸国では現在、他にイギリス、ドイツ、ポーランドが大使館を持っている。では、なぜスウェーデンの大使館がアメリカとの窓口に使われているかは謎だが、おそらく中立国という伝統のおかげや小国であることなどの理由で、北朝鮮が当初から信頼を寄せてきたためではないだろうか。(そもそも、イギリスやドイツが国交を結んだのが遅い時期であったのならば、スウェーデン以外に西側との窓口になりうる国がなかった、ということになる。)

現在は交渉の窓口だけでなく、北朝鮮内にわずかにいるアメリカ国民やカナダ・オーストラリア国民を非常時に保護・支援するといった領事館的な役割も果たしている。また、EUの国民に対しては、上に挙げたヨーロッパの3つの大使館とともに領事業務を分担している。

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今回解放されたアメリカ人記者が北朝鮮の国境付近で逮捕されたのは、今年3月半ばのこと。二人の記者はアル・ゴア元副大統領が創設者の一人であるCurrent TVで働き、中国領内に逃れてくる脱北者を扱ったドキュメンタリー番組を作成するために撮影を行っている途中、氷の張った豆満江を渡っていたところで国境警備隊に拘束されたと言われている。

この事件が韓国のメディア経由で世界的に明るみになった直後から、アメリカ政府はスウェーデンを通じて北朝鮮とコンタクトを取ってきた。そして、3月末にはアメリカの要請でスウェーデン大使Mats Foyer(マッツ・フォイエル)が拘束された二人と実際に面会した。その後、解放に向けた努力がスウェーデンの仲介のもとで水面下で行われてきた。

今回の件について、スウェーデン外務省「沈黙の外交の成果だ」とコメントするのみで詳細については明らかにしていない。

スウェーデンがEU議長国に

2009-07-04 23:09:41 | スウェーデン・その他の政治
スウェーデンがEU議長国のバトンを引き継ぎ、2009年下半期のEU政治をリードしていくことになった。議長国は今回が2回目だ。

出典:駐日欧州委員会代表部

EUの議長国は半年ごとの持ち回りだ。EU議長国といえば、スウェーデン人なら誰でも2001年6月のヨーテボリ暴動を思い起こすことだろう。2001年上半期、スウェーデンはEUの議長国を初めて経験した。この半年間に、様々なEU閣僚会議がスウェーデン各地で開催され、そのたびにデモ隊と警官隊が小競り合いを起こすという事態になった。

スウェーデン警察はそのような戦闘的なデモ隊に対処する準備があまりできてなかったようで、警備の手薄さが指摘された一方で、あるときは必要以上の暴力行使が批判されてもいた。しかし、お揃いのユニフォームにヘルメットと楯を装備した機動隊員は、誰が誰なのか第三者には分からない。そのため、警官が過剰な暴力を働いても、責任追及が難しかった。そのため、スウェーデン警察は急遽、すべての機動隊員のヘルメットに識別番号をつけることにしたのだった。警察もこの半年間に多くのことを学んだようだ。

しかし、混乱の極めつけは2001年6月ヨーテボリで開催されたEU首脳会議だった。加盟国の首脳だけでなく、アメリカ・ブッシュ大統領までもが参加したこの首脳会議には、スウェーデンやヨーロッパ中から相当数のデモ隊が駆けつけ、一部の若者が暴徒と化して、商店を破壊したために、一番の目抜き通りであるアヴェニュー通りで警官隊と対峙。そして、警官隊と投石を続ける若者との間で混乱が続くなかで、孤立した機動隊員が拳銃で若者一人を撃つという事態にもなった(弾は貫通し、命に問題はなかった)。また、警察は暴徒鎮圧のために騎馬警察を投入したものの、若者に石を投げつけられて、早々に退却するなど不手際も多かった(いろいろな面で費用のかかる騎馬警察なんて、今どき必要なのだろうか?)。


資本主義の象徴であるマクドナルドなど、沿道の飲食店から盗んだ椅子に火をつける


警官が包囲


写真はここにも:http://www.yelah.net/news/20010615160127

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そんなEU議長国の番が、今年再び回ってきたのだった。しかし、幸いにも今回は比較的規模の小さい閣僚会議が各地で開催されるのみで、ヨーテボリで開催されたような首脳会議は予定されていない。だから、少しは安心できる。

いや、そうは言ってられない! この半年の間に解決すべき問題が山積みなのだ。

まずは、新しい欧州委員会の委員(任期5年)の選任。中でも一番重要なのが委員長ポストだが、現在のホセ・マヌエル・バローソ(José Manuel Barroso)が続投することで27の加盟国政府はすでに合意している。しかし、欧州議会の承認が必要であり、ここでゴタゴタするとその折衝に余計な労力を費やすことになる。

ちなみに、このバローソ現委員長元ポルトガル首相なのだが、若いときは自国の独裁政権に反対する立場から毛沢東主義者を名乗り、その後、保守系政党の政治家になって首相を務めたという変わった経歴の持ち主だ。一方、欧州委員会の委員長になってからは市場統合の推進だけでなく、温暖化対策にも力を入れてきた。そして、加盟国をうまくまとめ上げて2020年までに温暖化ガス排出を20%削減する、という目標を採択することに成功した。

2つ目の難題は、EUの新しい基本条約となるリスボン条約。これは27加盟国のほとんどの国が既に批准しているものの、アイルランドが国民投票で一度No!と言ってしまったために、暗礁に乗り上げ再協議が続けられてきた。そして10月にアイルランドで再び国民投票が行われるが、ここでYes!にならなければ、EUの意思決定手続きの効率化や欧州議会の権限の増強といった改革が再び座礁し、さらなる協議が必要になる。

そして、一番大きな難題は、今年12月コペンハーゲンで開催される国連の気候変動枠組条約の第15回締約国会議(COP15)だ。EU27カ国をまとめ上げて、EUとして一丸となって、国としての取り組みが遅れているアメリカや中国、日本などと交渉をし圧力をかけて、数値目標を盛り込んだ新しい議定書の採択が必要だ。

しかし、現在の金融危機のおかげで、東欧諸国やイタリアなどEUの中でも後進国が温暖化対策を後回しにし、経済を優先させるような動きを見せている。この障害を乗り越えた上で、COP15に先駆けた準備交渉では大国を相手に妥協点を見出さなければならない

ただし、この点に関しては確かに難題ではあるものの、問題解決型の思考と行動がしっかりとできるスウェーデンがきちんとリーダーシップを発揮すれば、何とか乗り切ることができるような気が私はする。ある日刊紙の社説は「スウェーデンは、経済的発展と環境対策をいかにして同時に達成するかを、他の国に提示するという教育的課題を背負っている」と書いているが、まさにその通りだ。あとはラインフェルト首相がどこまでリーダーシップを発揮してくれるかに掛かっているだろう。


欧州議会選挙、終わる (2)

2009-06-13 01:51:57 | スウェーデン・その他の政治
前回の最後に、海賊党(パイレーツ党)について少しだけ触れた。既成政党に魅力を感じない無党派層の票を集めて大躍進した党だ。このような党のことをスウェーデンでは「不満の党(missnöjesparti)」と呼んでいる。

「不満の党」といえば、前回2005年に「EUからの離脱」を掲げて、いきなり3議席も獲得したユニリスタンがある。EU懐疑派の有権者の支持を集めたのだった。しかし、今回は支持が伸ばせなかった。

以前も書いたように、前回の選挙では「スウェーデンがEUに留まるか否か」ということ自体が争点の一つだったが、現在はより多くの有権者がEUの意義を認めており「EUをどのように導いていくべきか?」「スウェーデン選出の議員としてEUの政策決定にどのように影響を与えていきたいか?」ということが争点となっていた。だから、「EUからの離脱」という主張の他に、目立った主張のないユニリスタンは支持を伸ばせなかったようだ。

「EUからの離脱」を掲げていた党といえば、左党(旧共産党)もその一つだ。この党も大幅に支持を落とした。ただ、この党の場合は、前回の選挙キャンペーンで人気の高かった、40代男性候補者が今回は立候補していなかったことが、大きな敗因の一つであった。

「不満の党」といえば、右翼政党であり、支持者にはスウェーデン南部の中高年男性が多い「スウェーデン民主党」もまさにそうだが、不満票はパイレーツ党(海賊党)に流れていったようだ。

「EUからの離脱」といえば、環境党も長い間この公約を掲げていたが、昨年の党大会で削除することを決定した。そして、今後はEUの意義を認めた上で、どのようにEUの政策を変えていくかということに焦点を絞っていくことにした。しかし、興味深いことに、環境党の候補者名簿の第一位に掲げられ、選挙キャンペーンではこの党の顔的存在だった40代男性議員は「私はいまだにEU懐疑派であり、民主主義の観点からスウェーデンはEUから脱退すべき、という信念は持ち続けている」と公言していたのである。

環境党今回の選挙で大躍進した党の一つであるが、もしかしたらこのねじれ現象のおかげで、EU積極派とEU懐疑派の両方の有権者の支持を取り付けることに成功したのかもしれない。ただし、各種メディアが伝えるところでは、やはり環境党の大きな勝因は、スウェーデンの有権者の環境問題・温暖化問題に対する懸念が高まっており、このような問題こそEUレベルで対策を講じていくべきだと感じる有権者が増えたおかげではないか、という。

ちなみに世論調査や出口調査によると、18歳~30歳の有権者の間で支持が圧倒的に高かった党は、パイレーツ党(海賊党)環境党の2つの党だったらしい。特に、若者男性が前者、若者女性が後者を支持する傾向にあったとか。

社会民主党は前回とおなじ得票率をドンピシャリで維持することができた。社会民主党保守党(穏健党)も国政選挙ほどの支持は集められなかった。

逆に、自由党大躍進しているが、これは候補者名簿第1位の60代の女性候補者の人気と選挙キャンペーンでの活躍によるところが大きいようだ。

(コメントありがとうございます。時間がなく返事ができませんが、ちゃんと目を通しています)


欧州議会選挙、終わる

2009-06-09 08:21:45 | スウェーデン・その他の政治
欧州議会選挙が終了した。5年前の選挙と違い、今回は個人的に応援していた候補者がいたので、選挙戦の最後の一週間の動きを追うのがとても面白かった。そして、ついに投票日の日曜日がやってきた。その晩はあるレストランを借りて、21時から始まる開票速報を大きなスクリーンに映しながら、50人くらいの人たちと一緒に見守った。


投票は21時に全国の投票所で締め切られたものの、すでに21:10頃には公共テレビの出口調査をもとにした得票率の予測が大々的に発表された! レストランでは歓声で沸き立った。

それと時を同じくして、全国に5600ヶ所ほどある投票区では開票作業が始まっていた。

22時過ぎ。半分ほどの投票区では開票作業が既に終わり、その結果だけを集めた得票率がカウントダウンに続いて発表された。レストランの熱気は少し冷めた感じがした。「あれ? 出口調査による予測をかなり下回っているではないか・・・・・・」 しかし、まもなくあることに気づいた。開票作業が短時間で終わるのは、農村部の小さな投票区だ。一方、私が応援していた党は、都市部のしかも教育水準の比較的高い (← ここだけ小声)有権者の間で支持率が高い傾向がある。だから、そのうち上昇するに違いないと。

まさにその通りだった。開票作業が終わった投票区が3000、3500、4000と増えていくにしたがって、投票率がどんどん上昇していき、最終的に満足できる結果となった。私が応援していた候補者もほぼ当選確実のようだ。この夜は1時を回る頃までレストランには人が残っていた。

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全体の結果は次のようになっている(グラフの括弧内の数字は5年前の選挙結果との比較)。


左から

左党(5.6%)
社会民主党(24.6%)
環境党(10.9%)
中央党(5.5%)
自由党(13.6%)
キリスト教民主党(4.7%)
保守党(穏健党)(18.8%)
―――以上の6党がスウェーデン議会にも議席を持つ国政政党

ユニ・リスタン(3.6%)
―――以上の7党が現在、欧州議会にも議席を持つ政党

スウェーデン民主党(3.3%)
海賊党(パイレーツ党)(7.1%)
フェミニスト党(2.2%)
その他(0.2%)

4%ハードルがあり、これを上回らないと議席は獲得できない(ただし、EUの中でスウェーデンに与えられた議席数は18議席なので、ハードルがなくても4%くらいは超えられなければ議席は獲得できないだろう)。棒グラフに描かれた白丸(○)は獲得議席数を表している。

今回の結果に私が不満な点は、海賊党(パイレーツ党)が議席を獲得したことだ(ただし、これは予想されていたことだった)。この党は、ソマリア沖で大暴れしている海賊が作った党ではない。スウェーデンの党であり、「インターネット上の違法ダウンロードを合法化しろ!」という唯一の政策を掲げて選挙に挑んだ党だ。

スウェーデンでは今年に入ってから、著作権のあるデータの違法ダウンロードを容易にするために開設されて世界的に人気を博してきたサイトの管理者が告発され、一審では罰金刑の有罪判決が出されたことがあったし、著作権保護法の改正によってデータを違法にアップロードしている個人のIPアドレスの特定を、著作権所有者が裁判所に請求できるようになるなどの出来事があった。そのため、違法ダウンロードの是非、著作権保護のあり方、ネット上での個人の隠匿性などを巡って大きな議論が続いてきたのだった。

海賊党(パイレーツ党)の結成は数年前にさかのぼるものの、ネット上でのダウンロードを好む若者の関心を惹きつけて、波に乗るがごとく支持率を伸ばしてきた「一発」政党だった(他の政策分野における主張は全くない)。支持層は、10代から20代の男性が多いという。(続く・・・)


欧州議会選挙と個人指名制度について

2009-06-06 10:05:15 | スウェーデン・その他の政治
EUの立法機関の一つである欧州議会の選挙が明日に迫ってきた。既に2週間前から不在者投票(事前投票)が始まっているが、今回は5年前の欧州議会選挙に比べて有権者の関心が少しは高いようで、前回を大幅に上回る数の人が事前投票を行っているという。

前回2004年の選挙では、スウェーデンがEUに加盟していることのデリット・デメリットや、このまま加盟を続けるべきか否かが大きな関心ごとだったが、今回はほとんどの政党がEUの存在意義を受け入れており、好き嫌いに関わらずEUとはうまく付き合っていく必要があるという現状認識のもと、ではそのEUをどのような方向に導いていくべきかスウェーデンとしてどのような形で影響力を与えていくべきか、という点が盛んに議論されるようになった。そのため、今回は選挙キャンペーンにおける政党間のディベートも多少は面白いものになってきた。

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この欧州議会選挙の投票ルールの基本は比例代表制だ。政党が一つの単位である。立候補者は所属する政党の候補者名簿に名を連ねる。有権者は、支持する政党を一つ選んで投票する。得票数に応じて各党に議席が配分され、各党の候補者名簿の上から順番に議席が与えられる。

しかし、これでは有権者は政党を選ぶことはできても、その政党の特定の候補者を選ぶことはできない。候補者名簿における候補者の順位は政党が決めるからだ。あの候補者が議員としては適任だ!と思っても、その人が名簿の下のほうならば当選する確率はほとんどなくなってしまう。

この欠点を克服するためにスウェーデンでは1990年代半ば頃から、有権者が政党だけでなく、特定の候補者に対する支持を表明できる制度が導入された。(Personröstning:個人指名制度)(欧州議会選挙だけでなく、国政選挙でも)

しかし、個人指名は義務ではない。誰が当選するか、ということよりも、その政党がより多くの議席を獲得し、政党が掲げる政策がきちんと実行されることのほうが大切だ、と考える人は、従来どおり政党だけを選び、誰が議席に座るかについては政党任せにすることもできる。

ただし、もしある候補者が一定数以上の個人指名票を獲得すれば、その候補者が候補者名簿の順位にかかわらず優先的に当選することになる。欧州議会選挙の場合は、その党の得票数の5%以上の数の個人指名票を得れば優先権が得られる。

例えば、保守党(Moderata Samlingspartiet:直訳すれば穏健連合党)の投票用紙はこんな感じ。


保守党の支持者で、個人指名はしたくないという人は、この紙だけを棚から取り、封筒に入れて投票箱に投函する。もし、特定の候補者に対する支持を表明したければ、名前の前にある□にXをつける

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繰り返しになるが、選挙は比例代表制が基本だ。だから、選挙キャンペーンもそれぞれの政党がマニフェストという形で、一つの政策パッケージを提示し、それを叩き台にしながら、他の党とディベートを行う。有権者は、様々な批判に耐えうる真っ当な主張をしているのはどの党かを判断しながら票を投じることになる。

しかし、この個人指名制度のおかげで、個人の名前を売り込もうとする候補者もかなり多くいる。特に、選挙名簿の順番どおりに行けば当選する確率が五分五分か、それ以下の泡沫候補者だ。

とはいっても、日本の選挙のように名前ばかりを連呼をするわけではない。自分は党のマニフェストの中でどの政策領域に重点を置くつもりかを明確にしたり、党のマニフェストに若干反する主張を行うことで、同じ党に属する他の候補者にはない個性を売り込もうとしている。

この制度の良い点は、次のように説明できるだろう。これまでは、各政党の執行部がマニフェストにおける様々な政策領域に優先順位をつける権利を独占していた。有権者は提示されたマニフェストを他の党と比較して票は投じることができるものの、マニフェストの中身に対して影響力を行使することができなかった。しかし、この個人指名制度のおかげで、党の執行部があまり重点を置いていなかった政策の主張(例えば、アルコール税を引き上げよう、ロシアをEUに加盟させよう、とか)を盛んに主張する候補者が、たくさんの指名票を受けて繰り上げ当選するようになれば、党の執行部も考え方を改めざるを得なくなるだろう。つまり、有権者の政党に対する影響力が増す可能性がある。

ただ、この制度もまだ比較的新しいので、どのように発展していくかは今後、注目に値する。派手なパフォーマンスで個人指名票を集めようとする泡沫候補者も出てくる恐れもあり、そうなると政策議論がないがしろにされてしまうかもしれない。

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Facebookを使っていると、政党の広告だけでなく、個人の候補者を売り込む広告がやたらと目につく(特に若い候補者がネット上の広告を活用している)。

また、最近の傾向として面白いのは、政党の比例名簿の1位とか2位に名前がある候補者のなかに、本来は安泰で個人指名票など必要ないはずなのに、同じ党内の泡沫候補者が繰り上げ当選することで自分が落選という惨めな結果にならないように、「私の名前に×を付けてね!」と念を押しているベテラン議員が出始めたということだ。

ただし、今のところ個人指名を行う有権者は少数派にずぎない。大多数の人が政党だけに投票し、誰に議席が配分されるかは政党任せにしている。

しかし、もし今後、個人指名をする有権者が多数になってくれば、政党があらかじめ用意する候補者名簿が意味を持たなくなるという日も来るかもしれない。それが果たして民主主義の観点から良いことなのか、悪いことなのかは大いに議論する余地があるだろう。


選挙キャンペーンに同行

2009-06-04 08:13:39 | スウェーデン・その他の政治
昨日(水曜日)はちょっと訳ありで、欧州議会選挙に立候補しているある女性候補者の選挙キャンペーンに丸一日同行することになった。彼女はこの日、ヨーテボリ(Göteborg)ボーフースレーン(Bohuslän)地方を訪ねることになっていたのだ。

選挙キャンペーンにもいろいろなタイプがあり、一般的なのは人通りの多いところで街頭演説をしたりすることだが、この候補者のこの日のキャンペーンはちょっと違い、見学や視察、専門家や関係者とのディスカッションがメインだった。

早朝の特急でストックホルムからやってきた候補者とその秘書と落ち合い、3人でまず最初に訪れたのは、ヨーテボリ郊外の漁港に停泊する漁船。実は、この漁船を所有する漁師はスウェーデンの漁業では初めてのKRAV認証を受けた漁業に携わっているため、その活動状況や現状の問題点などの視察を行ったのだ。

KRAV認証といえば、通常は農産物や食肉につけられるエコロジーマークのことだが、最近は水産物にも拡大しようという動きがあり、その初めての適用を受けたのがこの漁師なのだ。彼らは沿岸部に生息するニシンで漁業を営んでいる。しかし、様々な障害や問題を抱えているということで、それを政策的にどう解決できるかが議論された(途中から彼女の所属する党の党首も合流した)。


ローン(Rön)号


漁師の一人


私と候補者(真ん中)


この日の午後は、3人でレンタカーに乗って、ヨーテボリから北に100kmほど行ったところにある水族館にも訪れた。ここでは、海洋生物学専門家に館内の生物をじっくりと説明してもらったあと、この専門家とともに、候補者自身のマニフェストや政策提言についてのディスカッションや意見ヒアリングを行った



これでは、有権者に支持を訴える選挙キャンペーンになっていないではないか、って? 実は、それぞれの視察や見学についてはメディアに対して事前に記者発表が行われており、行く先々で地元メディアがいっぱい集まってくるのだ。視察や見学に一緒について回る記者もいれば、インタビューの時間を別に予約している記者もいる。

地方の新聞などは、ニュースや話題を常を欲しがっているから、候補者がやってきて、視察や見学、ディスカッションをするとなれば、すぐに記事にしたがる。そこで候補者が視察の内容や感じたことを述べたり、問題提起などをすれば、次の日には記事になるから、メディアを利用したキャンペーンというわけだ。


昼ごはんを食べながらインタビューを受ける。地方紙の記者が数人やってきた。

こう書いてしまうと、単なるパフォーマンスのための視察や見学だと思われても仕方がないが、私がこの日、丸一日ついて歩いて感じたのは、かなり得るところの大きい視察だったということ。この候補者自身もある特定の政策分野では非常に詳しい知識を持ってはいるものの、まだまだ情報が欲しいし、他の人から意見を聞きたいと感じているようだった。今現在、用意しているマニフェストや政策提言も、これまでの似たようなやり取りから生まれたものだろうし、今後もさらに精錬されたものに進化していくだろう。

ところで、メディア対応も選挙キャンペーンの重要な要素ではあるものの、彼女はかなり疲れているようだった。車で移動中も携帯にテレビ局やラジオ局から「明日の早朝番組で討論をしてくれないか?」「出演してくれないか?」という依頼が何通か来ていた。そう、スウェーデンでは話題性の高い事件や社会問題について、朝の番組に当事者や専門家、政治家などを招いて、討論させたりインタビューしたりすることが多い。そうなると、早いときには朝6時ごろから放送局でスタンバイしなければならない。だから、とても疲れるらしい。

そんなこんなで、今日はとても勉強になった。


選挙キャンペーン・ポスター

2009-06-01 18:52:32 | スウェーデン・その他の政治
今日は中央党の選挙キャンペーン・ポスター。中央党は、現在の連立政権を構成する中道右派4党の一つ。産業省と環境省を管轄している。名前から想像できるように、右派-左派のスペクトラムの中では、だいたい中央に位置し、社会民主党とも協力関係を持つこともあったが、最近は、中小企業優遇の政策や、雇用保護法の廃止などの政策も打ち出している。


4.97億人の「ヨーロッパ人」が集まれば、さらに力を発揮できる。
(このおばさんは、現職の欧州議会議員で、中央党の比例代表名簿の第1位)


平和・気候変動・雇用。世界が必要としているのは、さらなる意欲に燃えるEU。


ヨーロッパの力を結集させよう!

欧州議会選挙における有権者の関心No1は?

2009-05-29 07:24:22 | スウェーデン・その他の政治
欧州議会選挙のキャンペーンが続いているが、スウェーデンの有権者の関心事は何だろうか? 先日も伝えたように、欧州議会の選挙に対する関心はかなり低い。だから、各政党とも自分たちの党に票を入れてもらうために、有権者の関心を引く政策分野で、的を射たPR活動を行おうと必死だ。

経済危機だから、雇用や経済、産業振興に対する関心が高いことは確かだ。しかし、4月末に行われたスウェーデン有権者に対する世論調査によると、有権者の関心事のトップに輝いたのは、何と「環境問題・温暖化問題・エネルギー問題」だった。


有権者の関心事項の上位に入ったのは、
(1) 環境問題・温暖化問題・エネルギー問題
(2) 経済・金融危機
(3) 失業・雇用問題
(4) 医療・介護
(5) 民主主義・国の主権問題

イタリアや旧東欧諸国などでは、環境対策・温暖化対策などに力を入れるよりも、経済政策を優先させるべき、という論調が強まっていることを以前伝えた。

しかし、スウェーデンでは雇用や経済も大事だか、それと同じくらいかそれ以上に、環境対策・温暖化対策が重要だと認識されていることを裏付けている。同時に、スウェーデンの有権者が環境対策・温暖化対策こそ、EUレベルで解決を図っていくべき問題と認識していることを物語っているようだ。(一方で、分からない・関心がない、という回答が多いのは、やはり今回の選挙そのものに対する関心の低さを表している)

世論の関心とともに、各種メディアも盛んに環境問題や環境政策を取り上げているおかげで、欧州議会選挙に名乗りをあげている主要政党はどこも、環境政策・温暖化対策を政党マニフェストの上位に掲げ「自分たちこそ長期的視野に立った、信憑性の高い環境政策を掲げている!」、「スウェーデンがEUの議長国となる2009年後半は、スウェーデン議会と欧州議会の両面からEU全体の温暖化対策をまとめ上げて行きたい」、「スウェーデンが世界的にも早い段階で導入した二酸化炭素税や環境税をEU全体に普及させていきたい」などと、選挙キャンペーンの一環である様々な討論会で口にしている。

実際のところ、環境政策については各党の議論を詳しく聞いていない限り、違いが分からないくらい、どの党の主張にも熱意がこもっている。

他方で、スウェーデンの現政権を構成する保守党「スウェーデン政府は世界でおそらく最も野心的な温暖化対策を実行してきた!」と自画自賛したりすると、野党である環境党からすかさず「まだまだ不十分だ」と横槍が入ったり、同じく野党で、2006年秋まで政権を担当していた社会民主党からは「現在の環境政策のほとんどの基盤は、社会民主党政権の時に形作られたものだ」と反論している。(自画自賛は、スウェーデンの政治風土やスウェーデン人のメンタリティーにはあまりなじまないかも)

そういえば、つい3、4年ほど前まで、保守党やキリスト教民主党などは環境政策や温暖化対策にはあまり関心を示さず、環境税の一つである二酸化炭素税の増税によるガソリン価格の引き上げには激しく反対していた。消費者のことを考えて、ガソリン価格は引き下げるべき、と日本でも聞き覚えのある主張をしていたこともあった。

しかし、それでは支持率が伸びないことに気づいたこれらの党が、今や積極的に環境政策を訴えているのを見ると、世論やメディア報道、そして論説委員や学術界の専門家などをはじめとするオピニオン・リーダーの力がいかに重要な役割を果たしているかが、よく分かる。

スウェーデンでも温暖化問題に対する関心は90年代末からかなり高まってきたが、決定的な役割を果たしたのは、Sternレポートやアル・ゴア、IPCC報告書などだった。


各主要政党の支持者が挙げる関心事項。
赤く示された「環境問題・温暖化問題・エネルギー問題」がどの党の支持者にとっても、優先順位の高い問題であることが分かる


これから、時間の許す限りで、環境政策だけに限らず様々な分野における各党の主張などについても触れていきたいと思う。でも、選挙日が6月7日と間近なので、どこまでできるだろうか。

前回は、社会民主党の選挙ポスターを紹介したので、今回は環境党のポスターを紹介します。次回は、保守党と中央党を紹介します。

欧州議会の熱意を高めよう! でも、世界の熱意(地球の気温)を高めちゃダメよ!


EUの政治家たちよ! 風力発電に賛意を示し、火力発電への補助金を拒否しよう!


EUレベル(ブリュッセル)におけるCO2削減要求を高めよう! 世界の海の水位を低めよう!

欧州議会選挙 迫る

2009-05-22 03:52:28 | スウェーデン・その他の政治
EUの立法機関の一つである欧州議会の選挙が間近に迫ってきた。スウェーデンでも各党や各候補者が様々なキャンペーンを展開している。不在者投票は既に昨日から始まっている。

欧米では、ネット上のネットワーク・コミュニティーとしてFacebookが盛んに利用されているが、ここでも各政党や候補者のキャンペーン・サイトや支援者グループがたくさん形成されている。(私の友人には左派や右派を問わず、政治に関わっている/関心を持っている人が結構いるおかげで、いろんなキャンペーンリンクが送られてくる。)

スウェーデン人は、国政選挙や地方選挙では世界的に見ても高い投票率を誇っているが、残念ながら欧州議会の選挙となると熱はずいぶん冷めてしまうようだ。前回、2004年の欧州議会選挙では投票率は40%に満たなかった。EUという巨大な機構がスウェーデン人にとってはそれだけ遠い存在であり、EUで何が議論されているのか、そして、EUが自分たちの日常生活にどのような影響を与えているのか、関心が持てないという人も多いし、自分が投じる一票が持つ影響力もあまりない、という無力感を感じている人も多いようだ。

投票率を具体的に挙げるならば、スウェーデンがEUに加盟した1995年の選挙では41.6%1999年の選挙では38.8%2004年の選挙では37.9%だった。次第に低下していることが分かる。

しかし、現実にはEUが持つ政治的権力はますます大きくなっている。農業政策・漁業政策・犯罪の取り締まり、経済・ビジネスの分野、環境政策、などEUレベルでの決定が、スウェーデンの国内法よりも優位に立つ政策領域は数え上げたらきりがない。だから、欧州議会・閣僚理事会(ともに立法)での決定や欧州委員会(行政)の発するEU指令、さらには欧州裁判所(司法)のくだす司法判断のために、スウェーデンが国内法を改正しなければならないケースが毎年増えている。だから、EUは加盟国市民にとって遠い存在などでは全くない。したがって、EUに対して影響力を行使する一つのチャンネルとして、立法府である欧州議会選挙で一票を投じることは、実はとても重要なことなのだ。

スウェーデンの選挙管理委員会各種メディアは、市民の関心を少しでも高めようと、欧州選挙のキャンペーンを盛り上げようと躍起になっているし、いくつかの市(コミューン)では、市の職員が人の集まりそうなところに移動式投票所を設けるなど、積極的な活動を展開しているところもあるようだ。

国政・地方選挙と同様、欧州議会選挙でも18歳以上の市民に参政権があるものの、若い世代は比較的低い関心しか示していない。そのため、高校3年生のクラスを訪ねて、キャンペーンや質疑応答を行っている党や候補者もいる。

6月7日の投票まで、あと2週間あまり。世論調査によると現時点で、実際に投票しようと考えているスウェーデンの有権者は半分に満たないというし、選挙があることすら知らない人もいるようだ。さて、残りの期間のキャンペーンでどこまで投票率を伸ばすことができるのか。注目したい。


例えば、これは社会民主党の新聞広告。

Agera för förändring.
(変革のために行動しよう)
Tillsammans kan vi vända jobbkris till framtidstro.
(私たちと共に、雇用危機を将来への希望に変えていこう)


絶好のメーデー日和

2009-05-07 06:58:41 | スウェーデン・その他の政治
5月1日メーデー。スウェーデンをはじめとするヨーロッパの多くの国では休日となっている。スウェーデンの各地では、社会民主党左党(旧共産党)が組織するデモ行進が行われる。ヨーテボリなどの大きな町では、この二つに加えて、シンディカリストやアナーキストなどの極左の団体もデモを行う。

この日は友達と一緒に、左党の集会を遠目に眺めたあと、社会民主党のデモ行進がやってくるのを待つことにした。天気は晴天。休日とあって、メーデーへの関心に関係なく、たくさんの人々が町に繰り出している。


ブラスバンドを先頭にやってきた。流れてくるのはお馴染み「インターナショナル」



社会民主党ブルーカラー系労組LOの幹部陣。ヨーテボリでは、これまで10数年間にわたって市長を務めてきた男性政治家が退陣し、女性の市会議員が市長の座を引き継ぐことになった。中央で赤い旗を掲げている人の後ろに、少しだけ映っている赤い服の女性がその新市長



ブルーカラー系労組LOの傘下にある業界別組合の旗。業界別組合の下には企業や職場ごとにもローカル支部があり、大企業の労組になるとローカル支部で独自の旗を持っているところもある。



プラカードを掲げた人々。デモ行進には数千人規模の参加者。通り過ぎるまでに20分以上かかった。



デモの行く先はヨータプラッツェン(Götaplatsen)。ここで演説会が始まる。



垂れ幕のおじさんは、今年6月の欧州議会選挙社会民主党から立候補している人。比例名簿の第2位なので当選はほぼ確実。彼はかつてはボルボ(Volvo)で金属工として働きながら、労働組合の活動で活躍し、しまいにはボルボの役員会議労組の代表として席を持つにいたる。そこで10数年にわたって経営陣との折衝に携わってきた。その活躍が評価され、このたびの欧州議会選挙では政治家に転身して、候補者名簿に名を連ねることになった。


労組LO社会民主党はちょうど難局を迎えている。社会民主党は昨年末から支持率が急激に低下している。党首のイメージ挽回を図ると共に、中道右派連立の現政権に対抗するための信憑性のある政策的提案を、いかにして国民に提示できるかが大きな課題だ。しかし、中道右派政権の中心的存在である保守党(穏健党)が、かなり「社民党的な」政策を実行しているため、彼らとは一線を画した政策的対案を社会民主党が示すのが難しくなっている

他方、労組LOのほうはボーナススキャンダルで窮地にいる。国民年金とは別の、付加的な役割を果たす協約年金を管理するために、労働組合と事業主団体が共同企業を設立しているのだが、この企業の取締役に対して、ボーナスの大幅な引き上げが実行されることが3月下旬に明るみになったのだ。しかも、この引き上げを決定した企業役員会議には労組LOの代表も同席しており、ゴーサインを出していたことも明らかになった。そのため、LO代表は組合員からの激しい批判にさらされたものの、LO代表を続投する、という決定を2週間ほど前に表明したばかりだった。

LOも社会民主党もそんな憂き目に遭ってはいるものの、やはり経済情勢が今のような状況だから、雇用対策の重要性を主張したい、たくさんの人々がデモに参加したようだ。特に、ヨーテボリは社会民主党が強い。2006年の総選挙では全国的に社会民主党が敗退したものの、ここヨーテボリでは社会民主党が市の政権を維持した。

ヨーテボリの演説会では、新しく市長になった女性議員Anneli Hulthén(アンネリー・フルテーン)と、欧州議会選挙に立候補する、上の垂れ幕の男性Olle Ludvigsson(オッレ・ルードゥヴィクソン)などが演説した。

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帰り道のこと。ある市バスに乗った。歩き疲れたためにクタクタになりながら座席に腰を下ろし、斜め前の見ると、向かい合った座席に母親と3人娘が座っていた。どこにでもある、ありふれた光景だが、母親の横顔がふと気になった。

あれっ!? あの人は、去年ゴットランド島で開かれた「政治ウィーク」で、私が「風力発電セミナー」を聴講していた時に、私の隣に同席していたあの市会議員だ! いや、もっと正確に言えば、今は新しいヨーテボリの市長になった、あの女性議員だ!

そう、彼女は演説を終えた後、娘たちと帰宅する途中だったのだが、ちゃんと公共交通を使っていたのだ。そういえば、彼女は普段も市の庁舎に自転車で通勤している。別になにかのパフォーマンスというわけではない。市長になった秋以降も、ヘルメットをかぶって、自転車のかごに議会書類の詰まったカバンを入れて自転車を漕いでいる。

まさかこんなところで遭遇するとは思ってもいなかったので驚いた。と同時に、こういう光景、つまり市や県の幹部や国会議員もが、こうして普通に公共交通を利用している光景は、いかにもスウェーデンらしいとつくづく思った。


そういえば、ゴットランド島でも友人と一緒に食事をしながら撮った写真の背景に、この女性議員がちゃっかり収まっていた。

「社会主義国」スウェーデンの恐怖!? (2)

2009-04-26 18:57:19 | スウェーデン・その他の政治
前回のスウェーデン・ルポ続編。そして、社会保障の本質についての世界で最も分かりやすい説明も。
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「社会主義」に向かおうとしているアメリカの将来がどのようなものなのか? それを探るためにWyatt Cenacが身の毛もよだつような恐ろしいスウェーデンの旅をさらに続けることに・・・

この不可思議な社会を作った責任は誰にあるのか? その責任を追及すべく、社会民主党の国会議員にインタビューすることになった。


(↑ 画像をクリック)

この髭面のおじさんはレイフ・パグロツキー(Leif Pagrotsky)愛称はパッガン。中央銀行の職員をスタートに、財務省の政務次官など経て、外相・産業相・教育相などを歴任する。今でも社会民主党の国会議員。


「これまで国民を社会主義によって痛めつけてきたことを謝罪する気はあるのか?」
「謝罪することは何もない。むしろ、俺たちはアメリカに勝ったんだよ。」


それでも納得しないWyatt Cenac。社会全体によって国民の生活を支えるシステムも、イケア(IKEA)の家具のように壊れてしまうんじゃないのか!?


そして、非常に分かりやすい社会保障の講義。
「Say these five average Swedish women chosen randomly from the street represent my income.」(← やっぱりこれが、アメリカ人がスウェーデンに対して持っているステレオタイプ)


税金として3人持っていかれたとしても、政府はそれを自分のふところに入れてしまうわけじゃないんだよ。必要に応じて、サービスとして現物給付で戻してくれる。

なるほど、つまりこれはgovernment-fundedということなんだね。

「Frodo Baggins couldn't see how broken his country was!」


最後の頼みの綱は、Abbaのビョーン(Björn)。Abbaは「Money money money」「The winner takes it all」などの資本主義賛歌(Capitalist anthem)を作ってきた。大金持ちの彼は、富の再配分の危険性を理解してくれる、世界で唯一のスウェーデン人かもしれない。

しかし、ここでも期待は大外れ。American-inspired hitsを作ってきたビョーンが言うには、資本主義の絶賛ではなく、「非常にアイロニックな視点から“お金”を描写しているんだよ。」資本主義賛歌だと認めさせてインタビューを先に進めようとしても、頑なに拒む。


極めつけは「Baconnaise」。ベーコンとマヨネーズを合わせた、この脂っこい食品が資本主義の恩恵だと説得しようとするが・・・。(こんなもの食べているから太るんだよ)

「I couldn't stay in a country that turns women into statues as pleasure creatures and men into bearded gnomes.」
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この2回にわたる短いエピソードには、もちろん誇張もあるのだけど、伝えようとしたメッセージとは結局、「FOX NEWSなどが描いている“社会主義国スウェーデンの恐怖”というプロパガンダがいかに根拠のないもので、スウェーデンという国でも人々は普通に生活しているし、むしろ満足している人もたくさんいるし、経済もアメリカと少なくとも同じくらい豊かなんだよ。」ということだと思う。

アメリカの保守派が槍玉に挙げているのは、オバマ政権の大規模な経済介入や社会保障の改善などだが、これからの4年間、もしくは8年間のうちに、アメリカの社会が“まるでスウェーデンみたいに”なるわけでもないし、なれるわけでもない。だから、杞憂に過ぎないことを認めるべきだろう。

「社会主義国」スウェーデンの恐怖!? (1)

2009-04-24 06:18:23 | スウェーデン・その他の政治
民間企業への大規模な公的支援、各種銀行への資金注入、そして、保険会社の国有化・・・。アメリカではここ数ヶ月の間に、市場自由主義・資本主義を標榜する国とは思えないくらい大胆な市場介入策が行われてきた。金融危機に対処するためではあるが、市場に対する国の関与とコントロールは着実に拡大している。

銀行や金融機関への公的資本の注入や国有化は、スウェーデンが1990年代初めに行い、当時の金融危機・経済危機を3-4年のうちに最悪の状態から立て直すことに成功した教訓がある。このことは昨年秋にもこのブログで「the Stockholm Solution」として特集した。
2008-09-15: The Stockholm Solution (1)
2008-09-17: The Stockholm Solution (2)
2008-09-19: The Stockholm Solution (3)
2008-09-21: The Stockholm Solution (4)

当時、財務副大臣としてその舵取りを行ったボー・ルンドグレーン(Bo Lundgren)は、現在は国債管理庁の長官を務めるが、アメリカ発の金融危機の懸念が囁かれるようになった昨年春からIMFなどに招かれて、スウェーデンの教訓を説いて回っていた。今年の3月にも、アメリカ議会に招かれて、演説を行っている

また、世界の新聞や雑誌にもたびたびインタビューを受けてきた。下のリンクは、そのほんの一部を紹介。
2008-09-22 (New York Times): ”Stopping a Financial Crisis, the Swedish Way”
2009-01-22 (New York Times): Sweden’s Fix for Banks: Nationalize Them
2009-02-15 (the Washington Post): "Nationalize the Banks! We're all Swedes Now" (by Matthew Richardson and Nouriel Roubini)

(注:ただし「the Stockholm Solution」はあくまで金融システムのメルトダウンを防ぐ措置であり、アメリカ政府が自動車産業に対して行っているような民間企業への積極的支援は含まれない。これまで書いたように、スウェーデンは企業の救済をすることには非常に消極的だ。また、アメリカやフランスなどで見られるような保護貿易主義経済ナショナリズムも、スウェーデンの過去の教訓とは関係がない。)
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とはいえ、政府による大規模な経済介入を懸念する声も、さすがアメリカとあって根強い。オバマ政権の緊急経済プランを批判したい人たちにとって、アメリカ世論を震え上がらせるためには、ある一単語を叫ぶだけで十分。その単語とは、socialism

そう「自由経済への介入は、社会主義への第一歩だ!」というわけだ。しかも「このままだと、スウェーデンみたいな社会主義国になってしまうぞ!」と叫んでいる人もいる。アメリカでは「社会主義」という言葉に対する拒否反応が強いらしく、このような大袈裟な主張もまことしやかに議論されているようだ。


そんな中、アメリカのコメディー番組「The Daily Show」が、スウェーデン特集を放映した。「社会主義国」スウェーデンがどんなに恐ろしい国で、人々が惨めな暮らしをしているのかを調査するために、スタンドアップ・コメディアンのWyatt Cenacがスウェーデンに渡った!


(↑画像をクリック)


高い税金のおかげでお先真っ暗なスウェーデンでは、車までもが海に身投げするほど。


と、ここまでの出だしは良かったのだけど、次第に明らかになるのは全く予期しなかったスウェーデン像・・・。あれっ、人々は普通に生活しているし、何だか幸せそうではないか・・・!


しかし、資本主義の魅力とは、成功した者が報われること。スウェーデンのお金持ちはきっと贅沢な暮らしをして、大きな家やテレビをいくつも所有し、「社会主義」の社会に不満を漏らしているに違いない。というわけで、スウェーデンのポップスター、ロビン(Robyn)の自宅を訪ねることに。

だが、ここでも期待が外れる。しかも、最後の極めつけはロビンの台所で見つけたあるもの。「スウェーデンではポップスターも、こまめに牛乳パックを洗って、リサイクルしていた!」


頭の中がすっかり混乱してしまったこのWyatt Cenacは、最後にスウェーデン人に向かってこう叫ぶ。
「Wake up, people! You are living in a socialist nightmare!」

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今日はこのリンクをスウェーデン人の同僚に送って、みんなで大爆笑していた。
「Do you really want to change America into Sweden!?」 とマジな顔をして警告しているオッサン(上のほうの写真)に対抗するためには、これくらいな軽いタッチのルポタージュのほうが、むしろ効果があるかもしれない。

欧州議会選挙 - お寒い関心

2009-02-16 03:17:36 | スウェーデン・その他の政治
4年ごとに総選挙(国政・県・市議会)が行われるスウェーデン。次の総選挙は2010年9月。だから、選挙と選挙のちょうど真ん中にあたる昨年2008年は、スウェーデンの政治の舞台は比較的静かだった。

いつものことだが、選挙が近づくにつれ、各党の動きも盛んになる。総選挙で掲げる公約を具体的に決めていくために各党内で盛んな議論が行われ始めたり、メディアなどで公言して、世論や他の党の反応を見てみたり、というように総選挙に向けた準備が少しずつ始められていく。

今年2009年は、そんな動きが次第に活発になっていく年だ。

しかし、今年はもう一つイベントがある。スウェーデンの総選挙ほど国内では盛り上がらないものの、ヨーロッパ政治には重要な意味を持つ政治的イベント。それが欧州議会選挙だ。


欧州議会ストラスブール(フランス)ブリュッセル(ベルギー)に置かれ、議席数は現在785。これが27加盟国に配分される。配分は人口に応じてだが、小国に有利になるように配慮されているので、人口925万人のスウェーデンには19議席が与えられている。(これに対し、人口が8000万人を超えるドイツは99議席。人口ではスウェーデンの8.6倍だが、議席数は5.2倍に過ぎない)

ただし、今年の選挙から総議席数が736議席に削減され、少しスリムになる。スウェーデンに与えられる議席数もこれに伴い18に減る。

欧州議会の選挙日は2009年6月7日。27加盟国で一斉に行われるが、選挙はそれぞれの加盟国ごとに比例代表制で行われる。

スウェーデンでは国全体が一つの大選挙区とされる。そして、スウェーデンの各政党が候補者リストを用意。有権者は「政党」に投票する。その得票率に応じて、各政党に18の議席が配分され、欧州議会に送られる、という形だ。

欧州議会ではそれぞれの加盟国の国政政党ではなく「欧州政党」が一つの構成単位となり、EUの議会政治を展開する、とは言うものの、スウェーデンにおける欧州議会の選挙ではスウェーデンの国政政党が一つの単位だ。(おそらく、他の加盟国でもそうではないか…?)

現在、欧州議会に議席を持つ、スウェーデン選出の19名の議員の内訳を見てみると


最後のユニ・リスタンだけ、聞き慣れない党かもしれないが、これはEUを通じたヨーロッパ統合に懐疑的な人々の集まりとして、前回2004年選挙で名乗りを上げ、欧州議会に議席を獲得した党だ。欧州議会選挙が6月に行われることから、Junilistan(“6月候補者名簿”)という名前を党に付けたのだった。欧州議会選挙での大成功を、スウェーデンの国政選挙でも! ということで、2006年の総選挙に参加したものの、4%ハードルをクリアできず、敗退。「EUに懐疑的」という以外に具体的な公約がなく、方向性の見えない党だ。

こうして、スウェーデンから選出された議員たちが、他の加盟国選出の議員たちと「会派」というか「政党グループ」もしくは「欧州政党」を形成して、政治を行う。上に挙げたスウェーデンの政党は、次のような「政党グループ」に加わっている。


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欧州議会選挙は、各党の主張が分かりにくい。スウェーデンの国政選挙のように各党が具体的で細かい公約を掲げて、それを叩き台に盛んな議論が行われる、ということはない。スウェーデンの各政党が「うちの党は、ヨーロッパで××を実現したい」なんて主張したところで、それを実行しようと思えば、他国選出の議員や政党を協議し、妥協し・・・、国政とは比べ物にならないほど複雑な政策過程を経ないといけないから、説得力に欠ける。

だから、スウェーデンにおける欧州議会選挙に対する関心は、非常に低い。これは、過去の投票率を見れば分かる。1999年は38.8%、2004年は37.85%。国政選挙や地方選挙なら80%を超える投票率を誇るスウェーデンだが、ヨーロッパ全体の話になると、ここまで落ちるのだ。

原発論議の再燃(1)‐老朽化した原発を更新すべきか?

2009-02-05 10:23:10 | スウェーデン・その他の政治
1980年の国民投票によって、原子力発電所の段階的廃止を選択したスウェーデン。しかし、実行までには時間がかかり、これまで1999年と2005年に一基ずつ原子炉が閉鎖されたに過ぎない(バーシェベック原発1号・2号基)。

現在使用中の原子炉は10基であり、スウェーデンの電力需要の約45%を賄っている。水力発電が約45%、そして、残りを風力などの再生可能エネルギーが占める。

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地球温暖化(気候変動)問題への対処が急を要する現在、スウェーデンの政界は与野党を問わず、EUの温暖化ガス削減目標よりも厳しい目標を自ら課すことに決め、2030年までに2005年比で30%~40%を削減する目標を打ち立て、そのための行動計画を策定しつつある。(強い政治的イニシアティブがあれば困難な問題も解決可能と考える姿勢と、問題意識の高さは立派だと思う!

さて、ではこの文脈の中で原子力発電をどう位置づけるか?は、スウェーデンで一つの政治的争点となってきた。(1) エネルギー需要を全体的に抑えていきながら、原発を削減し、再生可能なエネルギー源(風力・バイオマス・波力など)の開発と普及を急ぐ、という主張が一方であり、他方には (2) 温暖化ガスを出さない原発は“クリーンな”電力エネルギー源だから、むしろ増やしていくべきだ、という主張もある。

基本的に、野党である左派政党は(1)を主張してきた。一方、連立与党を構成する中道右派政党はこれまで沈黙を保ってきた。少なくとも次の総選挙までは、原発の議論は持ち出さないようにしていた。

ただし、唯一の例外は、自由党。地球温暖化の議論や、エネルギーの話になるたびに「原発をもっと作れ! 国内でのウラン採掘を認めろ!」と、一党だけで大騒ぎして、与党連立の足並みを乱してきたのだった。(実は連立与党の中の中央党は、もともと反原発を掲げていた)

各党のスタンスをまとめると・・・

<与党>
保守党(穏健党):原発賛成だけど、あんまり大きな争点にしたくない!
自由党:賛成! 賛成! ウラン採掘も認めろ!
中央党:1980年国民投票で原発反対キャンペーンの旗頭だった伝統を受け継ぐ……今でも?
キリスト教民主党:原発はどちらかというと賛成だけど、うちの党のマニフェストでは優先順位が低い……

<野党>
社会民主党:党の大多数が原発反対、でもエネルギー集約型産業の労働組合の一部は賛成
左党(左翼党):原発反対!
環境党:原発断固反対! 既存の原子炉も寿命を待たず廃止せよ!

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しかし、ここ数日、原発を巡る新たな展開が見られる。

これまでの争点は原発の増設を認めるか否か、だったが、新たに争点となっているのは、既存の原子炉の寿命が来たときに、新しい原子炉と取り替えるのか否か、なのだ。

上に挙げた自由党は、もちろん賛成なのだが、今回新しい動きを見せているのは、キリスト教民主党だ。

この政党は、かなり小さな政党で次の選挙では議席が取れないのではないか、という憶測もあるくらいだ。そんな極小政党が、支持率の回復を狙ってかどうか、既存の原発が老朽化した時に新しい原発と取り替えるべきだ!と声を上げ始めたのだ。(この党は、同性結婚にスウェーデンの政界では唯一反対している党。与党の他の3党はこの党に見切りをつけ、野党と手を結んで、同性結婚を認める法を可決する方針を決めたので、ここぞとばかり名誉回復を狙っているのかもしれない。)

ことの発端は、この党の党首が1月30日の日刊紙のオピニオン欄に投稿した記事。


(日本の新聞にはほとんど見られないオピニオン記事は、スウェーデンでは政治家や行政機関の上級職員、研究者、NGO・NPO、各種利益団体、ジャーナリストなどが投稿し、主要日刊紙は毎日掲載する。「読者の声」とは違い、かなりまとまった分量を書ける。この記事がきっかけとなり社会的議論が始まることが多く、スウェーデンの社会や政治を動かす一つの原動力となっている、と言っても過言ではないかもしれない。)

この記事がきっかけとなって、再び原発論議に火がついたのだ。原発問題は次の総選挙まで持ち出さない、という与党合意ができていたはずなのだが、ずいぶん速い速度で議論が進行している。

そして、与党の中では、保守党・自由党・キリスト教民主党が手を組んで、原発反対を掲げる中央党に難題を突きつけている! さて、どうする中央党?(この記事を書いている現在、スウェーデン議会の建物では中央党議員の緊急会合が開かれている)


P.S. 私自身は、原発推進には懐疑的ですので、少し憂慮しながら議論を追っています。

アメリカ的選挙キャンペーンをスウェーデンに持ち込むと・・・

2009-01-22 08:17:40 | スウェーデン・その他の政治
一昨日はアメリカ大統領の就任式だった。あまり期待しすぎてもいけないが、これまでの共和党の8年間よりは、少なくとも良くなるのではないかと思う。とはいえ、大統領首席補佐官にユダヤ系で過度に親イスラエル的なRahm Emanuelを起用したこともあり、今後の中東情勢にどのような影響を与えるのか、不安の種もありそうだ。

以前、このブログでアメリカ大統領選挙のキャンペーンについて取り上げ、政策論争とは全く関係のないキリスト教信仰の話だとか、候補者の家族や生い立ちの話だとか、相手に対する「泥塗り」「パイ投げ」(ネガティブ・キャンペーン)などが目立つ、ということを書いた。

スウェーデンの選挙キャンペーンも、最近はアメリカ大統領選的な要素が若干ふえる傾向にあるもの(とは言っても信仰の話はない)の、まだまだ健全だといえる。選挙運動中は、各党が短いスローガンを大きく叫んだり、党や議員のイメージだけ訴えたりするよりも、具体的で“細かい”議論を展開する傾向にある。

政敵の政策の批判をするときは「聞こえはいいが、それでは予算が×%オーバーしてしまう。××億クローナのお金をどこから調達するのか?」とか「減税を掲げるうちの党は、××億クローナの所得税減税をする一方で、××の予算を××クローナだけ引き下げる。」などと、とにかく細かい数字を頻繁に用いる。あるジャーナリストに言わせれば、このような具体的で細かい数字を出した議論はスウェーデン人の得意技だという。

これは、もちろん民主主義にとってはいいことだ。具体的な議論ができるということは、実際の選挙に至るまでの長い準備期間のあいだに、選挙公約の中身が深まっていき、各党の立場の相違が、お互いにとっても、有権者にとっても、より明確になっていく。それから、数字を使った議論ができるということは、一見うまいことを言っているように見える公約のアラ探しができ、予算の裏づけのない「人気取り公約」が暴露されることにつながる。

他方、アメリカのようなお祭り騒ぎはなく、とても地味なのだ。プラカードを掲げて、キャーキャー騒ぐようなことはしない。端的なスローガンを盛り込んだキャンペーングッズを作ったり、選挙ボランティアを大々的に使った、お金のかかる運動はあまり見られない。もっと極端な見方をすれば「面白味やスリリングに欠ける」と表現することも可能だ。

スウェーデンの選挙もアメリカのようになればいい、なんて思っているスウェーデン人はあまりいないだろうが、アメリカとスウェーデンの選挙活動の、そんな違いを風刺したコメディーがテレビであった。

オバマが使った「Yes we can!」マケインが使った「Country first」のような短くインパクトのある選挙スローガンを、スウェーデンの政治家が真似したらどうなるのか?という話だ。




オバマの「Yes we can」をフレドリック・ラインフェルト首相が真似すると、

「Ja, vi ska tillsätta en utredning.」
(我々はこれから調査委員会を設けて、(改革に向けた)調査を始めます。)


マケインの「Country first」をアンダーシュ・ボリ財務大臣が真似すれば、

「Utifrån vår allmänna ekonomiska strategi är det prioriterat att sänka skatten på arbete.」
(経済政策に関するわが党の一般的戦略に鑑みれば、まず第一にすべきことは労働にかかる課税を下げることである。)

このように、スウェーデン人が真似をしようとすると、どうもうまく行かない。やっぱり地味で、長ったらしい文句になってしまう……、というジョークなのだ。