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スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

欧州議会選挙 - 投票立会人として働く (その1)

2014-06-10 23:25:50 | スウェーデン・その他の政治
欧州議会選挙の投票日である5月25日。前日の午前中まで日本に滞在し、飛行機でスウェーデンへ戻ってきたばかりなので眠くてしょうがないが、この日は朝からアドレナリン全開。

この日は朝7時半から会場設営。会場は小学校の教室だ。

スウェーデンにおける今回の欧州議会選挙では、スウェーデンから20人の議員を選んで、EUの立法府の一つである欧州議会に送り出すわけであるが、この選挙では大選挙区・比例代表制が適用されている。つまり、スウェーデン全体を一つの選挙区とし、スウェーデン全体の得票率に応じて20議席を比例的に各政党に配分し、各政党はあらかじめ決めておいた候補者リストの上位から当選者を選んでいくのである(有権者が特定の個人を選んで繰り上げ当選させる制度も補完的にはある)。

投票のマネージメントは各コミューン(市)の選挙管理委員会が管轄しており、それぞれのコミューンをいくつの投票区に分けるかは一任されている。例えば、ストックホルム市は大きいので537の投票区があるが、私が今回、投票立会人として仕事をした市は38の投票区に分かれていた。スウェーデン全体で見ると、合わせて5837の投票区が存在する。

私が仕事をするのは、そのうちの1つだ。ただ、投票所として使われるこの小学校は、その周りにある他の2つの投票区の投票所にもなっており、別々の教室が使われているので、投票しに訪れた有権者が、自分がどの教室に行けば良いかがすぐ分かるように張り紙をすることが、会場設営の重要な仕事だ。

投票所となっている教室には、投票立会人が座る机と椅子を用意し、それから投票者のために台と衝立を設置する。そして、教室の入口には、各党の投票用紙を置く。スウェーデンの投票では、自分が票を投じたい党の投票用紙を一枚選び、指定された封筒に入れて封をした上で投票箱に入れる。


※ ※ ※ ※ ※


開場時間の朝8時になった。眩しい太陽が学校の校庭を照らし、今にでも外に飛び出したい気分だ。しかし、投票所には誰も来ない。数分ほどして心配になり、外に出てみたら、学校の入口にはそれでも数人いたが、それは投票しに来た人ではなく、各党の党員やサポーターだ。投票しに来た人に投票所の入り口で自分の党の投票用紙を配ることで、有権者に最後のアピールをするためだ。そのような形でのキャンペーンは投票日当日でも認められている。果たして、投票の直前に党員から笑顔で投票用紙をもらったからといって、その党に票を入れようと決心する人がどれくらいいるのか分からないが、スウェーデンでは投票日当日の一つの光景として定着している。


左派・右派それぞれのサポーター

各党の党員・サポーターのほうが投票しに来る有権者よりも多いなんて!と他の投票立会人と笑い合ってしまったが、それでも8時10分頃になるとポツリポツリと有権者が現れ始めた。

一つの投票所で働く投票立会人は全部で7人、うち1人は代表で1人が副代表。この7人が朝7時半から夜9時まで交代で作業する。投票所には常に少なくとも4人(うち1人は代表か副代表)がいるようにシフトが組まれている。

4人のうち、2人は机に座る。1人は有権者に身分証明書を提示させ、選挙人名簿に名前があるかをチェック。選挙人名簿は住民背番号順になっているので、探すのは難しくない。名簿に名前があれば、もう1人が有権者から投票用紙の入った封筒を受け取り、投票箱に入れる。有権者が自分で票を投じるわけではない。この時、封筒に投票用紙が2枚入っていないかをチェック。私たちの投票所では今回の選挙で2人ほどそういう人がいたので、初めからやり直すよう指示した。


3人目は、教室の入り口に立って、やって来る有権者に投票の仕方を説明したり、投票用紙を入れる封筒を配ったりする。よくあるのは、自分がどの投票区に属するのかがわからない人。有権者には選挙管理委員会から事前に投票カードが送られており、そこには投票区の番号が書いてあるので、それを見ればすぐ分かる。しかし、投票カードを持参せずに投票所へやってくる人もたくさんいる。投票日当日の投票であれば、投票カードがなくても身分証明書だけで投票ができるからだ。本人が自分の投票区を覚えていればよいが、そうでなければ大変だ。既に書いたように、投票所として使われているこの学校は、3つの投票区の投票所となっているため、それぞれの教室を順に訪ねて、選挙人名簿に名前があるかどうかを確認する。どこにもなければ、市の選挙管理委員会に電話で問い合わせることになる。

4人目は、期日前投票で投じられた票の確認を担当する。期日前投票は投票日の18日前から全国で始まるが、自分の属する投票区に関係なく、全国の期日前投票所で投票ができる。期日前投票所は市役所や図書館など公的機関の建物のほか、人がよく集るショッピングセンターや駅、さらに大学などにも設けられている。そこで投じられた票が仕分けされ、その有権者が属している投票区の投票所に、投票日当日に配達されるのだ。もちろん、直前に投票された期日前投票は仕分けが間に合わないだろうし、実は、投票日当日にも開いている期日前投票所が全国に幾つかあり、投票区に関係なく投票できるので、そういう票は投票所には届けられず、即日開票でもカウントされない。その代わり、後ほど行われる数え直しの時にカウントされる。

さて、期日前投票の票が配達されるのは朝10時。それぞれの票は指定された封筒に入れられているわけだが、その封筒はさらに別の封筒に入れられており、ここでは有権者の個人が特定できるようになっている。そのため、期日前投票の票が本当にこの投票所に属しているのかどうかが確認できる。もし間違った投票所に届けられていれば、ミスとして選挙管理委員会に報告しなければならない。

期日前投票の票は、有権者個人の特定ができる封筒から取り出して無名化し、最終的に投票箱へ入れ、即日開票で一緒にカウントするわけだが、無名化し投票箱へ入れるのは、投票がすべて終わってからなのである。何故かと言うと、投票日当日に後悔票を投じることができるからなのだ。つまり、期日前投票を済ませたけれど、その後、気が変わったために別の党に入れるという人だ。そのような行為は、投票日当日に自分の属する投票所で可能だ。もし、そういう人がいれば、その人の期日前投票は無効にして、カウントしないようにするわけだ。

(長くなりそうなので、続きは次回)

欧州議会選挙の結果 (続報) - 議席配分の修正

2014-05-30 14:29:57 | スウェーデン・その他の政治
欧州議会選挙(ヨーロッパ議会選挙)即日開票で結果が出る。これは、投票所の閉場(夜9時)後、投票立会人がその場で投票箱を開けて、票を数えた結果を集計したものだが、ミスを防ぐためにその翌日から改めて票の数え直しが行われる。判断に困るような票も、投票所での即日開票では「保留・無効」扱いにし、その後の数え直しの時に、正式な判断が下される。

例えば、私が担当した投票所では、封筒に2票入れて投票した人が数人いた。どういうことかというと、スウェーデンの投票では、日本のように投票用紙をそのまま投票箱に入れるのではなく、各党の名前や候補者が書かれた投票用紙を、指定の封筒に入れて封をした上で投票箱に入れる。(開票作業は、まずこの封筒を破ることから始まるのだが、封筒には工夫があるため、それほど苦痛ではない)


それぞれの党の投票用紙

この時、二枚入れて封を閉じる人がたまにいる。うっかりなのか、意図的なのかは分からない。投票立会人は有権者から封筒を受け取り、封筒の端っこにある小さな切り込みから、中身が一枚であることをチェックした上で投票箱に入れ、もし複数の票が入っていた場合はその有権者にやり直しを指示することになっているのだけれど、そのチェックをすり抜けるケースが稀にある。(私の投票所では、期日前投票所から送られてきた票の中に5件、そのようなミスがあった)

既に書いたように、そのような票は即日開票ではカウントしない。しかし、例えば、同じ党の票が2つ入っていた場合は、その有権者がその党に票を投じようとした意図は明らかだと判断され、数え直し作業の時に正当な票としてカウントされる。もし、2つの異なる党の票が入っていた場合は、多くの場合、無効となる。

このように、投票日の翌日から始まる数え直し作業では、得票数が修正される。また、投票日当日までに該当選挙区に届かなかった票や海外票なども加えられるため、多くの場合、上向きの修正となる。(即日開票に基づく投票率は48.9%だったが、数え直し後に発表された投票率は51.07%に上昇している)

※ ※ ※ ※ ※


前置きが長くなったが、今回、この数え直し作業によって即日開票後の議席配分までもが修正されることになった。

即日開票では、社会民主党(S)が6議席、環境党(MP)が3議席ということだったが、それが社会民主党(S)が5議席、環境党(MP)が4議席になったのである。

しかも、面白いことに僅かの差で、環境党が社会民主党から議席を奪ったのである。

試しに、エクセルで得票数から議席配分を導くフォーマットを作ってみた。


上段は、数え直し後の得票数配分議席数。社会民主党(S):5議席、環境党(MP):4議席となっている。
下段は、社会民主党が6議席を得るために、最低限必要な票数を計算したもの。これによると、社会民主党があと712票取っていれば、環境党に議席を奪われずに済んだことが分かる。

(数え直し後の結果は、まだ完全な確定ではないようだが、おそらく大きく変化することはないと思われる)

欧州議会選挙の結果

2014-05-28 23:13:58 | スウェーデン・その他の政治
インドに次ぐ、世界で二番目に大きな民主選挙であるヨーロッパ議会選挙(欧州議会選挙)が先週末、開催された。有権者数は約4億人で、選挙で選ばれる議員の数は全部で751人

この751議席は全加盟国28カ国の人口に応じて配分され、スウェーデンは20議席を与えられている。この20議席を巡ってスウェーデンでは選挙が行われた。

前回、5年前のヨーロッパ議会選挙のときは、ある党のヨーテボリ支部の人たちが借りきったレストランで、みんなで夕食を食べながら、公共テレビの開票速報を見て、大騒ぎしていた。

その翌年の国政選挙の時は、公共テレビSVTの出口調査員として、投票を終えた人にアンケートをした。

今回の選挙では実際に選挙に関わってみたいと思い、ある自治体の投票所で投票立会人をすることにした。その話は次の記事で書くとして、まずはスウェーデンの選挙結果。



選挙日当日の仮集計における各党の得票率(カッコ内は前回5年前との比較)
一番下の数字は、獲得議席数


現在、ヨーロッパの国々では極右の風が吹いているとして注目が集まっているが、スウェーデンではむしろ、左の風が吹いていると言ったほうが良い。(左派政党は上の赤系の色の党、および環境党)


【 穏健党の惨敗 】
スウェーデンの中道保守連立政権の中心的存在である穏健党(保守党)自由党は大きく後退した。穏健党に至っては国政選挙も含め過去44年間で一番低い得票率だった。国内政治では連立政権に逆風が吹いており、その影響もあるとは思えるが、それ以上に穏健党は選挙キャンペーンにおいて有権者が関心を持つような具体的なテーマを提示して、説得力のある政策主張を打ち出すことができなかった。それが惨敗の原因であろう。

特に今回の選挙に先駆けた世論調査では、有権者が大事だと思うテーマの上位に「環境問題・地球温暖化」「男女平等」が並んでいたが、私の記憶するところ穏健党はこれらのテーマについて特に目立った政策主張を行っていなかった。


【 環境党の大躍進 】
今回の選挙結果におけるサプライズは2つ。

一つは、環境党が大躍進したことだ。国政選挙の世論調査では10~11%ほどの支持率なのだが、今回のヨーロッパ議会選挙では一気に15.3%まで支持を伸ばした結果、穏健党を打ち破って第二党に躍り出た。5年前の選挙と比べても大きく躍進し、議席数を1つ増やした

環境党の支持が強いのは、都市部の若者や子育て世代、そして、大学教育を受けた人が多い地域だ。かと言って、必ずしもエリート政党というわけではなく、10代や20代前半の若者にも根強い人気を誇っている。ストックホルムでは、ストックホルム市ストックホルム県で共に第一党に輝いたし、ヨーテボリ市ウプサラ市でも第一党となった。


ストックホルム県全体における投票結果


ストックホルム市における投票結果


ヨーテボリ市における投票結果


ウプサラ市における投票結果


【 フェミニスト党のラストスパート 】
もう一つのサプライズは、フェミニスト党の議席獲得。この党は2006年の国政選挙の時に立ち上がった党だが、その後の選挙でも目立った支持獲得ができず、ずっと0.5~2%前後の支持率で推移してきた。今回の選挙では半年ほど前から目立ったキャンペーンを始め、ニュースでも取り上げられるようになっていったが、まさか5.3%にまで達するとは殆どの人が考えてもいなかっただろう。

掲げる政策は、男女平等、反レイシズム、反差別。フェミニスト党の支持者にはもちろん女性が多いのだが、それに加えて、20代~30代前半で男女平等に関心が高い男性の票も獲得している。スウェーデンは世界的に見ると男女平等が進んでいるものの、国内ではまだまだ進展が遅いと感じている人も多い。そのような潜在的な支持者の心を、主にホームパーティー(誰かの家や集会場、レストランを借り切って開く少人数の集会)を通じて掴んでいった。


ヨーテボリ市内のある投票区における投票結果。ヨーテボリのこの辺りは左派・リベラルの支持者が多いことで有名だが、フェミニスト党が環境党を押しのけて、第一党になっている。右派・保守系政党は絶滅危惧種


【 スウェーデン民主党の議席獲得 】
一方、極右政党であるスウェーデン民主党については、前回2009年のヨーロッパ議会選挙と比較すると6.5%ポイントも得票率を伸ばし、議席を初めて、しかも2議席も獲得したのだけれど、それほどのサプライズではなかった。この党は2010年の国政選挙においてスウェーデン議会で初めて議席を獲得して以降、6~9%の支持率を推移してきたから、今回はそれより少し得票率を伸ばすだろうと見られていたが、やはりその通りだった。だが、あまりラストスパートはかからなかった

個人的には、この党の候補者がテレビの朝の番組に出て、党のホームページに書いてある公約の一つ(EUは輸入関税を引き上げてEUの予算に充てるべき)についてアナウンサーに尋ねられた時に「そんなことは公約にない」と言い張って、アナウンサーに「つまり、あなた方の党のホームページに書いてある公約は当てにならないということか」と追求され、オドオドしながら「私たちの政策の一つの例にすぎない(?)」と必死に言い逃れしようとしていたのが印象的だ。経験も教養・素養もない候補者を立てて、欧州議会で本当に仕事ができるのかと心配になってくる。

この党の支持者は、環境党とは対照的で、農村部の中卒・高卒の人、そして、スウェーデン南部のスコーネ地方に多い。社会の変化の早さについていけない人々の不満を集めて支持を拡大してきた。(ちなみに、スコーネ地方はもともとデンマーク領で比較的最近、スウェーデンに編入された地域だが、この地方でいつの頃からかスウェーデン民族主義を掲げる極右政党が強くなっていったのは、非常に興味深い現象である。弟コンプレックス的なものが絶対にあると思う)


スコーネ地方の、ある市の投票結果。

極右政党が第一党となったり、大幅に議席を伸ばしたヨーロッパのいくつかの国々と比べ、スウェーデンでは「茶色の風」はあまり吹かなかった、と開票番組の中で誰かが表現していた。開票作業の終わりのほうで、この政党と正反対のイデオロギーを持つ自由党との間で第四党の座を争っていたのが印象的だった。(結局、自由党が僅かに勝った)


【 生き残った中央党とキリスト教民主党 】
私にとって意外だったのは、中央党とキリスト教民主党が生き残ったことだ。キリスト教民主党のトップ候補者は、公共テレビSVTでかつてジャーナリストをしていた有名人なので、まあ分かるが、中央党は政策主張もパッとしない(豚の尻尾)し、トップ候補者もインパクトの薄い中年男性だった(討論を見ていて個人的に嫌いではないのだけど)。候補者リストの3番目に名前のあった若い男性が若者の支持を繋ぎ止めたのだろうか?


【 海賊党 】
前回、5年前のヨーロッパ議会選挙で注目を集め、大躍進を遂げた海賊党は今回は全くダメだった。現在、一連のスノーデン事件でインターネット上の監視や自由について関心が高まっている時だけに、少し不思議ではあるが、ほとんどキャンペーンをしていなかったように思う。街角でたまに「監視のないインターネットで自由にダウンロード」というスローガンを目にしたのだけど、若者の心には届かなかったようだ。


【 ほとんど変化のなかった社会民主党 】
社会民主党は、前回の選挙とほぼ変わらず。国政選挙における得票率や、国政選挙を想定した世論調査における支持率に比べると10%ポイント近く低いが、党としては満足しているようだ。テレビの開票番組ではジャーナリストが「スウェーデンでは左の風が吹いたが、その風は社会民主党を迂回して吹いていった」と表現していた。

ただし、社会民主党のような大政党の得票率がヨーロッパ議会選挙で低くなってしまうのは、ある程度、仕方がない。国政選挙ではどの党が政権を担うか、どの党と組んで連立を構成するかなどといった政権問題が常に有権者の頭にあるので、自由に党を選んで票を投じることが難しい。これに対し、ヨーロッパ議会選挙では有権者はそのような戦略的思考の制約を受けないので、より自由に投票ができる。そのため、大政党よりも特徴のある中小政党(例えば、環境党、フェミニスト党、極右政党)が得票を伸ばす傾向にある。


【 少し伸びた投票率 】
今回の投票率は48.9%と、5年前の45.5%よりも4.4%ポイント上昇した。ヨーロッパ議会の権限が近年、増してきて、具体的な政策議論がしやすくなったことに加え、メディアもより多くの時間を割いて選挙キャンペーンを取り上げたことで、スウェーデンの有権者にとってもEUの政治がより身近なものに感じられたことが背景にあるのだと思う。

ただし、国政選挙の84.6%(2010年)と比べるとまだまだ低い。

欧州議会選挙の投票日

2014-05-25 02:11:38 | スウェーデン・その他の政治
本日は、欧州議会選挙の投票日。スウェーデンでは20議席を争って、投票が行われます。
私は前回の選挙(2010年 国政・地方同時選挙)では、公共テレビSVTの出口調査員をしましたが、今回の選挙では投票所で立会人と開票作業を行います。朝8時の開場から夜9時の閉場、そして、その後の開票作業と、丸一日の仕事となります。

ここ数週間、大変忙しく、欧州議会選挙については全くブログでお伝えできていませんが、今週、いくつか記事を書きたいと思っています。


投票日の18日前から期日前投票が始まり、市役所のほか、中央駅やショッピングセンターなど人通りの多いところに期日前投票所が設けられます。大学も例外ではありません。ストックホルム大学の図書館前のスペースも期日前投票所になっていました。(撮影日:2014年5月13日)

ジャーナリストの政党支持調査と、母集団・サンプルサイズ・標準誤差の話

2014-05-05 02:34:24 | スウェーデン・その他の政治
ヨーテボリ大学ジャーナリズム学部 (Department of Journalism, Media and Communication) のケント・アスプ教授は、マスメディアによる選挙報道の研究で知られるが、2年ほど前に発表された研究がちょっとした話題を呼んだ。

この研究は、スウェーデン国内のジャーナリストの支持政党を調査したものだが、控えめに言っても非常に物議を醸す研究だった。タイトルは『ジャーナリスト集団の支持政党』で、ここではスウェーデン国内のメディアで働くジャーナリストのうち、2362人にアンケートを行い、どの党が好みかを調査している。その結果は、

環境党:41%
左党:15%
穏健党:14%
社会民主党:14%
自由党:7%
中央党:4%
キリスト教民主党:2%

このように、圧倒的に環境党を選んだジャーナリストが多かったのである。この結果にもとづき、アスプ教授は「スウェーデンのジャーナリストが政治論争を報道する時に、環境党が贔屓される恐れがあるではないか」と結論づけた。

ただ、アンケートの対象が2362人であるのに対し、実際に回答したのは1338人であり、回答率は56.6%である(ただ、別の箇所には回答者数1301人とあり不整合。また、2362人は論文には明記されておらず、付録としてスウェーデン・テレビに提出した書類に書かれているという)。非回答者があまりに多いため、結果を一般化するのには無理があるのではないか? まず、この点が批判された。

しかし、それ以上に注目を浴びたのは、メディアごとの内訳である。論文の中では主要メディアごとの統計も掲載されているのだが、公共放送であるスウェーデン・テレビ(SVT)に至っては、回答者のうち52%環境党と答えているのである。

果たして、SVTのジャーナリストの過半数が、環境党を支持しているのか!?

この研究結果に、先日、SVTの有名政治記者が大きな問題提起を行った。この記者の論点はこうだ。

・SVTには全部で約1100人のジャーナリストがいるが、回答者はわずか93人。この93人の回答をもって、1100人全員の政党支持傾向がどこまで言えるのか? サンプルが果たしてランダムであるのか?

「ジャーナリスト」という職業タイトルは、(スウェーデンでは)ニュース・報道を担当する記者だけでなく、マスメディアの様々な活動の企画から進行に関わるすべての人に使われる。だから、回答者が報道に関わっているとは限らず、子供番組の企画をしている職員かもしれないし、スポーツ番組のレポーターや、バラエティー担当や音声担当の人かもしれない。もし、そうであれば、仮に彼らの多数が環境党支持者であっても、報道にバイアスが掛かる心配はない。研究結果にはその点が明らかにされていない。

・まともな政治記者なら「支持政党はどこか?」などというアンケートには、職業モラルから答えない。自分も今まで何度かそのようなアンケートを受け取ったが、答えることなく、すぐにゴミ箱に捨てた。自分の同僚で政治報道に関わる記者に尋ねても、アンケートに答えたという人は誰もいない。回答したという93人の大部分は報道以外に携わるジャーナリストなのではないか?

すると、まもなくしてアスプ教授が反論した。(括弧内は私のコメント)

・回答率は60%以上であり、問題ない。(← ん? どうして60%以上という計算になる?)

・国内のメディアで働くジャーナリスト全体に占めるSVTのジャーナリストの割合を考えれば、回答者1338人のうちSVTジャーナリストが93人しかいないのはおかしなことではない。(← しかし、サンプル数が少ない上に、SVTの回答率やランダム性が明らかではないので、メディアごとの数字を論文に掲載すべきではないのでは? しかも、アスプ教授は掲載するだけではなくて、SVTが特に偏っている、という趣旨の議論を始めている。)

・このアンケートで尋ねているのは「今の時点でどの政党を最も好むか?」であり、「どの政党の支持者か?」ではない。アンケートを行ったのは2011年で、ちょうど社会民主党の党首がスキャンダルにまみれて、退陣に追い込まれた時であるから、本来、社会民主党を支持するジャーナリストが環境党を選んだ可能性もあり、それが環境党が突出した原因であろう。(← ん? じゃあ、なぜ『ジャーナリスト集団の支持政党』などというタイトルを付けるの?)

このように、非常におかしな回答であると私は思う。問題提起を行ったSVTの政治記者も全く納得していない。また、同じく公共放送であるスウェーデン・ラジオでも、環境党が54%とさらに突出しているが、スウェーデン・ラジオの社長も少し前に反論している。彼は、仮にニュースや報道に携わるジャーナリストに環境党のシンパが多かったとしても、それと、ジャーナリストとしての職業モラルは別物である。まともなジャーナリストであれば、自分の政治選好を拠り所として、ジャーナリストの仕事をすることはない、と指摘している。


※ ※ ※ ※ ※

ここまでは、実は今回の記事の前置き。
上に示した議論以上に面白かったのは、外野によるSVTの政治記者へのツッコミだ。

1100人のSVTジャーナリストに対して回答者が93人というのは少なすぎるというけど、あなたが日頃、報道で取り上げる世論調査の回答者はせいぜい2000人じゃないか!

1100人に占める93人の割合は8.45% (= 93 / 1,100) だけど、有権者全員(700万人)に占める2,000人の割合は、それよりもずーっと小さくて、わずか0.0285 % (= 2,000 / 7,000,000) だ。こんな小さな割合にもかかわらず、世論調査ではその2000人の回答をもとに有権者全体の支持動向を分析し、あなたも真面目にニュースに取り上げているではないか。そんなあなたが、アスプ教授の研究を「サンプルが小さい」と批判するのは、全くもって滑稽だ

さて、どうだろう? これは統計学をきちんと勉強したかどうかをチェックする、非常に良い問題だと思う。果たして、93人のSVTジャーナリストから回答を得たアスプ教授の調査のほうが、2000人から回答を得た世論調査よりも信頼性が高いのか?

もちろん、非回答率の問題やランダム性の問題があるので、ここでは仮に両方の調査において、回答者である93人および2000人がランダムに選ばれていると仮定して議論したい。また、アスプ教授の調査も有権者の支持動向を問う世論調査も、回答の選択肢は複数ある(例、環境党、社会民主党、自由党、etc)が、計算が非常に面倒になるので、計算を楽にするため、選択肢は2つしかないものと仮定する(つまり、「支持する」vs「支持しない」)。


では、信頼性の問題を考えるために、以下の2つのケースを想定してみたい。

(A) 母集団が1,100人であり、ランダムに選んだ93人にアンケートをしたところ、52%が「支持する」と答えた。

(B) 母集団が7,000,000人であり、ランダムに選んだ2000人にアンケートをしたところ、52%が「支持する」と答えた。


さて、どちらの調査結果のほうが信頼性が高いだろうか? 母集団に対するサンプルの大きさが大きい (A)のほうだろうか?

この答えは、信頼区間を求めれば分かる。

信頼区間の幅を決める標準誤差は、以下の式で求められる。

だから、(A)の標準誤差は
となり、95%の信頼区間は、
となる。つまり、母集団における支持率は95%の確率でこの2つの値(42.3%と61.7%)の間に存在するということである。

一方、(B)の標準誤差は
となる。( n/N の比率が0.05以下の場合、二つ目のルートの部分はほぼ1になるので、無視してもよい)
95%の信頼区間は、
となる。つまり、母集団における支持率は95%の確率でこの2つの値(49.8%と54.2%)の間に存在するということである。

結論として、(B)のケースのほうが信頼性が高いのである。母集団(N)に対するサンプルサイズ(n)の大きさは、その比率があまり大きくない場合、信頼性(つまり、標準誤差の大きさ)に意味を持たないということである。

ちなみに、(A)のケースにおいて、サンプルサイズをどれだけ大きくすれば、(B)のケースと同じだけの信頼性が得られるのかを調べてみたい。

Y軸は標準誤差、X軸はサンプルサイズ(n)を示している。(A)の標準誤差を(B)の標準誤差である0.0112まで小さくするには、n=710、つまり、710人もの人にアンケートをしなければならないのである。


このツッコミをした人は自信満々だったが、統計学をちゃんと学んでいないのであろう。標準誤差や信頼区間は、大学1年生向けの初級の統計学で教えている内容である。

2014年 春予算

2014-04-24 01:42:30 | スウェーデン・その他の政治
政府が4月8日に議会に提出した春予算について書こうと思いながら、時間が経ってしまった。

スウェーデンでは毎年9月本予算が国会に提出され、審議を経て可決される。これが次の年の予算年度(1月~12月)に実行されるわけだが、これに対し、毎年4月に議会に提出される春予算は、その年の秋の本予算に向けて具体的な方向性や優先順位を前もって示す、予算折衝のたたき台の役割を持つものである。(経済危機などのために景気状況が深刻な場合には、年内に追加的な財政支出を行うための補正予算の役割を持つことがあるが、今回はそれはない)

以前のブログ記事において、今年に入ってから左派政党だけでなく与党の第一党である穏健党(保守党)も増税を主張するようになった、と書いた。そして、その具体的な増税案は2月20日に発表された。

今回の春予算は、その時の発表に基づくものであった。


中道保守連立政権の予算案(現行税制の変更による歳入の変化分) 】

○ 自動車税の増税: 15億クローナ
○ 酒税の増税: 6億クローナ
○ たばこ税の増税: 7億クローナ
○ 個人年金貯蓄の税額控除制度の廃止による税収増: 46億クローナ
○ 大学生ローンの返済ルールや罰則の変更にともなう歳入増: 6億クローナ
○ 消費税の制度の変更に伴う税収増: 5億クローナ
○ 省庁の予算削減: 9億クローナ

これら合計92億クローナの税収増を毎年見込み、教育や医療制度の改革に充てていくというものである。(ただし、個人年金貯蓄の税額控除廃止は段階的に行われるため、2015年の税収増は70クローナにとどまる。また、一番最後の項目は増税ではないが、支出を削減することでその分、財政的余裕を増やすということである)

大学生ローンの返済ルールや罰則を変更することで税収を増やそうというアイデアについては、実は一悶着あった。

現在、大学生の生活費として国が毎月(4週間)支給する額は、返済の必要がない補助金部分が2,820クローナ(42,300円)、返済義務のあるローン部分が6184クローナ(92,760円)である。(1クローナ=15円で計算)

しかし、穏健党は当初、この補助金部分を300クローナ減額し、逆にローン部分を1300クローナ増額することで、毎年僅かながらの歳入を捻出しようという提案をしたのである。全体としては、大学生の生活費が毎月1000クローナ増えることになるわけだが、学生の多くは喜ぶどころか激しく反発。大学生自治会連合会は長い間、補助金部分の増額を政府に訴えてきたが、それとは全く逆の政策だったのである。

また、国は高等教育の方針として、なるべく多くの人々が、生まれた家庭の所得や職業にかかわらず、大学で学べるようにすることを掲げているが、ローン部分が増え、返済義務が増えるとそれを経済リスクと捉えて大学への進学を思い留まる人が増えるだろうし、その傾向は低所得家庭で育った人ほど大きいと考えられるから、国の方針にも逆行する政策である。大学生からの強い反発を受けて、穏健党はこの提案を再考することを余儀なくされた。その結果、春予算では補助金部分の減額がなくなった一方、ローン部分の増額が1000クローナに抑えられることとなった。

しかし、現在の政権は大学生に冷たく、また、ここ数年の所得税減税によって減った税収の穴埋めを、大学生の生活費をいじることで捻出しようとしている、というネガティブな印象と不信感は拭い切れないものとなった。そのため、若い有権者の票を少なからず失うこととなっただろう。


社会民主党の予算案 】

現政権の発表した春予算に続いて、その3日後の4月11日には、野党第一党である社会民主党が、自分たちの予算案を発表した。

◯ 上記の現政権の増税案をほぼそのまま踏襲: 93億クローナ
◯ 殺虫剤に対する環境税: 5億クローナ
◯ 高所得者に対する増税、家事労働サービス購入に対する税額控除の上限引き下げによる税収増: 19億クローナ
◯ レストランでの飲食にかかる消費税を12%から25%に戻すことによる税収増: 53億クローナ
◯ 若年者を雇う雇用者が支払う社会保険料の減額措置の廃止による税収増: 148億クローナ

以上、合計すると毎年318億クローナの税収増になる。これを、教育や雇用政策、医療、そして、失業保険の給付水準引き上げなどに充てると社会民主党は主張している。


環境党の予算案 】

社会民主党に続き、野党の他の党も自分たちの予算案を相次いで発表した。例として、4月16日に発表された環境党の予算案を簡単に紹介する。

◯ 高所得者に対する増税: 50億クローナ
◯ 環境税の増税: 123億クローナ
◯ 若年者を雇う雇用者が支払う社会保険料の減額措置の引き下げによる税収増: 73億クローナ
◯ 中小企業向けの減税: マイナス54億クローナ
◯ その他: 83億クローナ

合計、毎年274億クローナ(増税とは関係ない中小企業減税を除くと328億クローナ)の税収増となる。(時間の都合で、引き上げられる環境税の内訳やその他の項目など、詳細は割愛した)



このように、政治主導で予算の大枠が提案され、その是非を巡って議会だけでなく、メディアを通じて激しく議論が行われるのは見ていて非常に面白いものだ。今年9月の国政・地方同時選挙は、現政権を担う連立与党と、野党各党の間で増税とその上手な使い方を巡って、激しい争いになってきた。

減税ではなく増税で主要政党が競う選挙戦になるか!?

2014-02-26 16:04:20 | スウェーデン・その他の政治
以前のブログ記事において、現在のスウェーデンでは、これまで続いてきた減税(主に所得税減税)に対する「お腹いっぱい」感が広がっていることを書いた。今年2014年の予算には勤労所得税額控除の控除額の拡大が盛り込まれ、所得税がさらに引き下げられることになったが、昨年12月初めに実施された世論調査では58%がこの減税に否定的であり、肯定的に答えた32%を大きく上回った。社会保障や教育・インフラの充実には税金が必要だと考える有権者が増えており、世論調査では半年も前から社会民主党を中心とする左派3党の支持率が50%前後に達している。一方、連立与党である中道右派4政党の支持率は40%を下回り、低迷が続いている。

<過去の関連記事>
2013-12-17: さらなる所得税減税に有権者の過半数が反対、という世論調査結果
2014-02-01: 国政選挙に向けた世論動向と戦略的投票行動

こんな状況だからこそ、今年9月の国政・地方同時選挙に向けた選挙戦では、増税の必要性も含めた政策議論を是非とも展開して欲しいし、その可能性は十分にあると書いた。2010年の国政選挙では社会民主党を中心とする左派ブロックは有権者の支持を失うのが怖く、積極的な増税を打ち出せず、政策論争もつまらないものとなった。それが大きく変わる可能性があると感じた。


【 穏健党の路線変更 】

実際、その期待通りになってきた。これまでは野党である左派政党が減税に反対し、増税を主張してきたが、その流れに与党の第一党である穏健党(保守党)が同調し始めたのである。1月19日(日)の夜の時事ニュース番組において、スタジオでインタビューを受けたアンデシュ・ボリ蔵相「減税の余地はもうないと思っている。減税はストップだ」と発言。選挙で勝った場合、4年間の新しい任期中にさらなる減税をするつもりはないことを明らかにした。

穏健党は苦渋の選択を強いられたのだろう。本当はもっと減税したい。勤労所得税額控除のさらなる拡大は、昨年の党大会で採択されているので、それを実行したい。しかしこのまま行けば選挙では負ける。世論調査における左派ブロックと右派ブロックの差は10%以上もあり、安定的に推移しているので「もう勝負はついた」と見る専門家も多い。

穏健党が恐れているのは「社会保障を推進する左派ブロック」vs「相変わらず減税を主張する右派ブロック」という構図で選挙戦が進んでいき、守勢に回ってしまうことだ。だから、それを避けるために、「減税はしばらくしない」と宣言する必要があったのだろう。(もう一つの理由は財政の均衡化だが、それについては次回かその次で)

(ちなみに、2006年の選挙では、穏健党を中心とする右派ブロックが仕掛けた「雇用の創出を狙う右派ブロック」vs「福祉漬けを続ける左派ブロック」という構図で選挙戦が進んでいき、政権交代に繋がった)

その後、2月16日の日刊紙のオピニオン欄で同じくボリ財相は現政権のビジョンを提示。「私たちは、労働力の能力向上をこれからも続けていく。そのためにはより多くの知識を提供し、学童には早期のよりよい支援を行い、教育関係者がさらによい仕事ができるように改革を行っていく必要がある。」「そのために必要な財源は、歳出項目の優先順位の再検討や歳出削減、そして、増税を通じて賄っていく」と、ここで増税の可能性も示唆した。


【 そして、増税案へ 】

そして、続く2月20日、穏健党が具体的な増税案を発表した。
自動車税の増税(ガソリン車:年間200クローナ増、ディーゼル車:500クローナ増)
酒税、タバコ税の増税

勤労所得税を中心にこれまで減税を続けてきた穏健党とあって、さすがにここで所得税の増税を含めるわけはない。引き上げても反発が限定的で無難なものばかりだ。

穏健党にとって「減税ストップ」を宣言し、増税まで打ち出すことはかなり勇気のいることだ。穏健党のコアの支持者はさらなる減税を望んでいる。一方で、選挙に勝つためには左右のスペクトラムの中間層に位置する有権者の支持を確保する必要がある。だから、両者の間の微妙なバランスをうまく取らなければならない。

そんなジレンマをうまく表現した風刺画を新聞の社説で見つけた。社説のタイトルは「いつもと変わらぬ昔ながらの新しい穏健党」と、これまた秀逸だが、選挙キャンペーンに使う横断幕には本音である「減税」を小さく目立たないように書こうとしている。(ここは「増税」と書いてあっても同じこと)

出典:Dagens Nyheter(今月半ばの社説からだが、風刺画は10年前にこの新聞が使ったものと同じなのである。今も当時と同じことを穏健党がしようとしていることを皮肉っている。)


【 連立政権内からの反発 】

ところで「減税ストップ」の宣言に対しては、党内だけではなく、穏健党とともに連立政権を構成する他の党からも反発が上がっている。例えば、中央党は中小企業に対する減税措置を公約に掲げており、それを早く実現したいと考えているし、キリスト教民主党も支持層である高齢者の減税を主張している。だから、彼らにとって「減税」という重要な政策手段を連立与党の第一党である穏健党に封じられてしまうと困るわけだ。

一方で、これは穏健党にとってもある意味、都合の良い状況かもしれない。先日もブログで書いたように、中央党とキリスト教民主党は支持率が低迷し、議会での議席獲得に最低でも必要な4%という得票率をクリアするのが難しい。彼らの支持率が伸び悩む理由の一つは、各種政策が連立政権内で共同で決定されるため、第一党である穏健党の意に沿わない政策を打ち立てても、実現の見込みは低く、むしろ連立内の不協和音としてメディアに追求されがちである結果、この2党は独自色を強く打ち出せていないことであろう(これは小政党が連立政権に加わることのジレンマとして一般的に言えることであろう)。結局、有権者にとって、この2党に票を投じる意義が感じられず、それなら穏健党に入れようということになる。

しかし、今こうして穏健党と他の弱小政党との間に政策の違いが見られれば、独自色を際だたせることができ、支持を伸ばして4%というハードルをクリアできるかもしれない。穏健党としても、彼らが生き残って議席を獲得し、連立政権を支えてくれなければ、政権維持の可能性はさらに小さくなってしまうから、むしろ望むところだ。だから、穏健党の戦略としては、選挙戦の期間中、弱小の仲間政党には好き勝手言わせて、自由に泳がせておくことで、彼らに幾らかの票を意図的に持って行かせ、その後、政権を維持できた暁には、自分たちの政策を押し通す、という魂胆なのではなかろうか。


【 減税、減税! の時代は過去のものか 】

いずれにしろ「減税」で支持を集められる時代は終わった。今回の選挙戦では主要政党が社会保障の充実や財政均衡のための増税を打ち出すことで、支持を獲得する戦いになっていくと思われる。(もちろん、歳出削減による財源捻出の話も一方であるだろうが)

穏健党が考えているのは、既に触れた増税案、および歳出削減案で年間70億クローナを捻出すること。これに対し、左派ブロックの社会民主党は所得税などを中心に200億クローナの増税を行っていくと発表している。今のところ、所得課税に関しては高額所得者を対象にした増税が中心のようだが、それだけでは税収の増加は限定的だろう。できれば、現政権が近年行ってきた勤労所得税額控除の一部を撤回してほしいと思うが、中間層の支持を失う可能性もあり、そこまではまだ言及がない。しかし、今後の展開に注目したいと思う。

国政選挙に向けた世論動向と戦略的投票行動

2014-02-01 03:03:42 | スウェーデン・その他の政治
今年9月の国政選挙を前にして、世論動向が注目を集めているけれど、日刊紙DNが今年1月に行った最新の世論調査の結果は以下のとおり(サンプルサイズは約2000)。


(グラフ中の括弧内の数値は、1ヶ月前の前回調査からの変化)

現在、政権を担っている中道保守ブロック4党への支持率合計が37.9%であるのに対し、野党である左派ブロック3党への支持率合計は53.1%。現連立政権は野党側に10%以上も差をつけられている。

このように左派ブロックが50%前後の支持を獲得し、一方で中道保守ブロックへの支持が40%を下回るという状況は、すでに半年以上続いている。今後、選挙を前にした政策議論が加熱していく中で、両者の差は少しは縮まるとは思うが、中道保守ブロックが逆転する可能性は小さく、9月の国政選挙では社会民主党を軸とした左派ブロックが政権を奪還すると見てほぼ間違いないと思う。


【 戦略的投票行動について 】

選挙結果を占う上で重要になる一つの要因は、戦略的投票行動だ。ここで私が言う戦略的投票行動とは、本当は別の党を最も支持しているのだけど、選挙では別の党に票を投じる、というもの。スウェーデンにおいて、実はこの戦略的投票行動は無視できない。

なぜかというと、それは選挙システムにある。スウェーデンの国政選挙は完全に比例代表制であり、有権者は政党を選ぶようになっている(支持する政党の候補者リストの中から特定の候補者を選ぶ補完システムもある)。ただし、小党の乱立を防ぐために、全国での得票率が4%に満たない政党は、たとえ得票率が3.9%あり、全議席数(一院制)である349を均等配分したとして13議席を獲得できる計算になっても、1議席も貰えないことになっている。私のブログでは、これまでも4%ハードルと呼んできたが、この制度があるために、弱小政党は何とかして4%以上の投票率を実現しようと躍起になる。これまでの選挙を振り返ると、そのような政党の典型例は、キリスト教民主党だ。

しかし、4%以上の投票率を実現しようと躍起になるのは、なにも政党側だけではない。実は有権者の一部もなのだ。

例えば、キリスト教民主党は、穏健党・自由党・中央党とともに現在の中道保守連立政権(中道保守ブロック)を構成しているが、もし、仮にキリスト教民主党が4%未満の支持しか得られなかった場合、彼らの議席(14~19くらい)がスッポリ抜け落ちてしまい、中道保守ブロックの支持者にとっては大きな痛手となる。そのため、中道保守ブロックの他の3党の支持者の一部が、本当はあまり支持していないけれど選挙ではキリスト教民主党に票を投じていると考えられる。

そのため、戦略的な投票行動を取る有権者の数は、選挙の結果に少なからずの影響を与えることになる。また、政党支持を調べる世論調査では「もし今日が投票日であればどの政党に票を投じますか?」という質問が一般的に用いられているが、回答者の中には、戦略的な配慮をした上での自分の投票行動を答える人も多いだろうから、有権者の本当の支持とは若干乖離していることに注意しなければならない。

では、どれだけの乖離があるのだろうか?

テレビ局や新聞などが行っている多くの世論調査では「もし今日が投票日であればどの政党に票を投じますか?」だけを尋ねているが、スウェーデン統計庁(SCB)の定例調査ではその質問に加え、「あなたの考え方に一番近い政党はどの党ですか?」と、有権者の実際の支持政党も尋ねているので、両方の質問の回答を比較してみることにする。

2013年11月にスウェーデン統計庁(SCB)が行った世論調査の結果は以下のとおり(サンプルサイズは5000強)。
(先に示したDNの世論調査と結果が異なるが、これは調査したタイミングが違うことやサンプリング手法の違いが考えられるし、もちろん、単なる誤差の範囲という可能性もある)


キリスト教民主党を見ると、「支持する」と答えているのは3.0%なのに、「票を投じる」と答えているのは4.1%おり、その差は1.1%。つまり、戦略的な投票行動のおかげで、かろうじて4%という「水面」から頭を出していることになる。

また、今年9月の国政選挙を前にして、中央党も4%ハードルの付近を彷徨っているが、この政党も、有権者の投票行動と支持が1%近く乖離している。

一方、この2党と自由党とともに中道保守ブロックを構成している穏健党は、実際に支持している有権者が28.0%もいるのに、票を投じてくれるのが25.5%しかいない。つまり、穏健党の支持者が、連立政権の維持には欠かせない弱小2政党に票を投じて、サポートしているのだと想像できる。

(よく見ると、スウェーデン民主党も、投票する有権者が実際に支持する有権者を上回っており、また、社会民主党も乖離しており、それはそれで詳しく分析してみると興味深いが、この記事では脇道にそれるので、省略。)


【 今回の国政選挙では、戦略的投票行動が減るのではないか? 】

さて、最初に紹介した今年1月の世論調査に戻ろう。先ほど触れた、キリスト教民主党中央党の2党の支持率は、それぞれ3.4%3.1%と、かなり低い水準に達している(この調査では「もし今日が投票日であればどの政党に票を投じますか?」と訊いている)。回答者が自らの戦略的投票行動の可能性をどこまで加味して答えているか気になるところだが、もしこのように4%から大きく下回る状態が続けば、これまで意図的に票を投じてサポートしてきた人たちも、自分たちがサポートしても4%ハードルを超えるのは難しそうだから、それなら自分が本当に支持する党に票を入れようと考えるかもしれない。

また、戦略的投票行動のそもそもの目的は中道保守ブロックを勝たせることにあるのだから、左派ブロックとの支持率の差が今のように大きく乖離している状況が投票日まで続けば、自分がサポート票を投じてキリスト教民主党か中央党に4%ハードルをクリアさせて、議席を取らせることができたとしても、結局、左派ブロックには勝てない、と諦めて、自分の支持政党に票を投じるかもしれない。

いずれにしろ、この2党が4%ハードルをクリアできず無議席となる確率は、これまでの選挙以上に高いと思う。だから、中道保守ブロックの獲得議席割合は後退こそすれ、支持率よりも高くなることはないと思う。

さらなる所得税減税に有権者の過半数が反対、という世論調査結果

2013-12-17 13:15:55 | スウェーデン・その他の政治
来年2014年の予算については9月にこのブログで触れ、一つの目玉が第5次勤労所得税額控除(femte jobbskatteavdraget)であることを書いた。第5次というのは、現行の第4次勤労所得税額控除よりも控除額が拡大することを意味する(平均的な勤労所得の人で月270クローナ、日本円にして約4000円の追加減税)。この勤労所得税額控除は現政権が2007年予算で初めて導入した。GDPに占める租税・社会保険料の割合が、世界的に見てもスウェーデンは高く、それを少しずつ下げていくことが導入目的の一つだった。それ以来、控除額が徐々に拡大され、2014年は4度めの拡大となる。

この勤労所得税額控除は、導入された当初の規模であれば意味はあったと思うが、それがどんどん拡大されていき、今さらに拡大することに対しては私は否定的だとブログで書いた。そもそも、現政権は今の社会をどのように変えていきたいのか、様々な社会・経済問題をどのように解決していきたいのか、というビジョンがもはや無くなってしまい、政権を奪還した2006年には強力な政策的切り札と考えられたこの勤労所得税額控除を、今は芸もなく繰り返しているだけのように感じられる。

実は12月初めに実施された世論調査によると、スウェーデンの有権者の過半数もこの第5次勤労所得税額控除 (femte jobbskatteavdraget) に否定的であることが明らかになった。


全体では、「あまり良くない」「大変悪い」と答えた人が58%で、「まあまあ良い」「大変良い」と答えた34%を大きく上回る。また、男女別に見ると、男性の方が肯定的な人の割合が若干大きいものの、否定的な人の割合は男女とも6割近い(男女間の差は有意)。また、学歴別に見ても、高学歴になるほど肯定派の割合が若干高くなるが、否定派の割合は58~59%と中卒・高卒・大卒でほとんど差がない(差は非有意)。

一方、支持政党別に見ると、現在の中道右派政権を構成する4党の支持者は、肯定的な人の割合が61%の穏健党(保守党)の支持者を筆頭に50%前後であり、4党全体としては肯定が57%、否定が35%だ。これに対し左派ブロック3党の支持者は、否定的な人の割合が95%に及ぶ左党の支持者をはじめ、全体として15%が肯定的、80%が否定的だ。これは予想できる結果だ。(極右のスウェーデン民主党は肯定24%、否定74%と左派ブロックに近い)


より興味深いのは、都市部に住むホワイトカラーの有権者の動向だ。この世論調査によると、都市部に住む有権者でも33%が肯定的、61%が否定的という結果であり、否定的な人が多いことが分かる(ただし、都市部以外の有権者との差は非有意)。また、ホワイトカラーでも否定派(62%)が肯定派(33%)を大きく上回る(否定派の割合が他のグループより大きいが非有意)。

2006年の国政選挙における政権交代の背景として挙げられる一つは、都市部に住み、そこそこの所得があるホワイトカラーの中流有権者が社会民主党から穏健党(保守党)へと支持を大きく変えたことだ。そのため、2010年の国政選挙では社会民主党を中心とする左派ブロックは、彼らの支持をさらに失うのが怖く、積極的な増税を打ち出せなかった。しかし、減税に否定的な見方をする有権者が現在これだけおり、しかも、選挙の結果を大きく左右しかねない中流階級においても否定派が多数だということは、今回の選挙キャンペーンでは増税の必要性も含めた政策議論を展開できるかも知れない。是非ともそうなってほしい。

「スウェーデンでは減税を主張する党は選挙で負ける」などという非常に大雑把で、的確とはいえない言説が日本では一部で広まってしまった。減税の主張が必ずしも得票率の上昇には結びつかないことはその通りなのだけれど、過去2回の国政選挙において減税を主張する陣営が勝利したことから分かるように、この言説は正しいものとはいえない。税金はできれば低いほうが良い。しかし、同時に社会福祉・社会保障の水準は今まで通りに維持したい、と多くの有権者が考えている。2006年と2010年の国政選挙において中流階級が社会民主党から穏健党を中心とする中道右派陣営に支持を大幅に変えたのは、それまでの社会保障の水準を維持しながらも、制度をスリムアップすることで減税が可能だということを中道右派陣営が説得力のある形でアピールできたからだと思う。政権交代から7年が経った今、減税は実現され、仕事のある人の可処分所得は増えた。しかし、その一方で社会保障サービスには質の低下や制度の綻びが顕著になっている。昨年のPISA調査も非常に残念な結果となったことも、先日明らかになったばかりだ。それなのに、政権側から打ち出されるのは相変わらず、減税、減税。そのことに対するウンザリ感が現在、有権者の間に蔓延しているということなのだと思う。

2014年予算の発表

2013-09-18 09:25:48 | スウェーデン・その他の政治
2014年の中央政府予算は今日(9月18日)にスウェーデン議会に提出されるが、その中身については、すでに大部分が先週から今週にかけて明らかにされてきた。

ラインフェルト首相が8月半ばの演説において述べたように、勤労所得税減税の拡大、国税所得税の課税最低限の引き上げ、年金受給者の減税が来年の予算に盛り込まれることになった。

一般に、スウェーデンでは予算編成に先駆けて、経済状況の分析が行われる。そして、もし現在の税制や社会保障制度、行政経費、公共支出の構造を維持し続けたとすれば、来年の経済および労働市場の状況のもとではどれだけの財政的余裕が生まれるかが判断される。その上で、その財政的余裕をどのように使うかが議論される。使い方としては、減税に充てるという方法もあるし、社会保障や公共投資、行政経費の増額という方法もある。一方、もし財政的余裕がマイナスと判断されれば、その分の増税、もしくは支出削減が必要とされる。そのようにして、財政の収支バランスを維持する形での予算編成が行われてきたおかげで、スウェーデンの財政は非常に安定したものとなってきた。

ただし、問題はこの財政的余裕の大きさが、予測する機関によって異なることである。政府は自分たちの管轄下にある財務省の内局に計算を任せている。しかし、財務省の予測には政府の様々な思惑が混ぜ込められており、楽観的な予測をすることもある一方で、必要以上に悲観的な予測を出すこともある。

これに対し、同じく財務省の管轄下にある国立経済研究所(Konjunkturinstitutet)も常に経済予測を発表し、予算編成に先駆けた財政的余裕の推計を行っている。ただ、この機関は財務省の外局であり、独立した自治権を持っているため、経済分析の中身に政府が口を出すことはできないため、経済予測の精度も信頼性もはるかに高い。

さて、今回の予算編成に先駆けて政府が発表した財政的余裕は250億クローナ(3750億円)。この枠をどのように使うかが、予算折衝の焦点となるのだが、すでに書いたように穏健党を中心とする連立政権は、勤労所得税減税の拡大、国税所得税の課税最低限の引き上げ、年金受給者の減税を正式に2014年予算に盛り込むことを決めている。これらの減税を合計すると175億クローナとなる。つまり、250億クローナの財政的余裕の半分以上が減税に費やされるということである。しかも、175億クローナの減税のうち、実に120億クローナ分は勤労所得税額控除の拡大が占めている。だから、現政権が2014年予算に込めた意気込みの中心的な政策は、この勤労所得税額控除(Jobbskatteavdraget)だと言っても良い。

私の意見はすでに前回書いたように、勤労所得税額控除(Jobbskatteavdraget)は現在の連立政権が2006年に政権をとってから、もう飽きるくらい聞いた政策でウンザリしているし、それをさらに拡大する意義はほとんどなくなっているから、減税ではなく社会保障などの公共支出に充てるべきだというもの。

ただ、そのこと以上に私が批判的なのは、今の政府が1年後に控えた選挙を前にして、手のひらをひっくり返したような大盤振る舞いをやっている点である。

実は、政府・財務省は2014年の財政的余裕を250億クローナと見ているのに対し、政府とは独立した経済分析を行っている国立経済研究所(Konjunkturinstitutet)は、2014年は余裕がゼロか、あってもせいぜい60億クローナくらいだと判断しているのだ。

この大きな差はどう説明ができるかというと、一つには経済成長率・失業率などの経済パラメーターの予測の違いによるものであろうが、おそらく大部分は連立政権が選挙で再選できるように、あまりに楽観的な数字を持ちだして、大々的な減税(および支出拡大)をやろうとしているためではないかと思う。現に、連立政権は来年は財政赤字が発生し、借金に頼らざるをえない可能性が高く、その翌年、もしくは2016年になって財政が均衡化するだろうと見ているようである。

私は、景気の減退期に減税したり、財政支出を増やして景気を下支えする政策に反対はしないけれど、来年の選挙に勝つための票取りの政策であることが見え見えの、あまりにあからさまなやり方なので閉口してしまう。

このことは、2、3年前の予算編成のときの議論を見れば、より明らかになる。2012年予算の編成時(2011月9月)には、国立経済研究所は300億クローナの財政的余裕を予測していたが、政府は150億クローナの余裕しかないと見て、緊縮的な予算を発表した。この時は、世界景気が今以上に低迷しており、より積極的な財政出動が期待されていただけに、どうしてそこまで財布の紐をきつく締めるのか、という批判が諸方面から上がっていた。特に、中央政府の債務残高はGDP比で40%を切っており、国際的に見ても財政はかなり良好なので、財政バランスの維持に必要以上に神経質になる必要はなかった。そのような批判に対し、ボリ財務大臣は「世界経済が金融危機に苛まれている中、私達は財政を赤字にして国の債務を増やすようなことはしてはならない」と答えていた。

【過去の記事】
2011年9月21日:2012年予算の議会提出 - ビジョンの欠如

その時に比べれば、現在の経済状況は少しは良い状態である。その証拠に株価も高いし、国債の利率(10年国債)も昨年の1.15%から2.50%へと上昇している。だから、2011年の段階で緊縮的予算を組み、なぜ今になって、財政の収支バランスを無視した大盤振る舞いをするのか・・・。まるで、上り坂でブレーキを踏み、下り坂でアクセルを踏んでいるようなチグハグな感じである。

現政権の狙いは、勤労所得税額控除を柱とする減税を行うことで、現在、社会民主党など左派陣営に吹いている追い風を、1年後の選挙までに自分たちの方へ吹かせることだろう。それに、いま減税を打ち出すことで、政策主張における社会民主党との違いが明確になる。そうすれば、「自分たちは減税の党。社会民主党は増税の党」という分かりやすい対比をこれから本格的に始まる選挙キャンペーンで強調することができる。

有権者がどう反応するかが注目されるが、もし選挙の争点が「減税」とか「家計の財布の厚さ」になってしまうと、社会民主党は怖気づいてしまい、(例えば、社会保障の充実のための)増税ということを口にできなくなり、左派・右派の掲げる政策主張にあまり違いがなくなり、つまらない選挙戦となってしまうことである。2010年の国政選挙は、そういう特徴が強く出ていたと思うから、今回はそうはなってほしくない。

国政選挙を1年後に控えて

2013-09-11 09:24:18 | スウェーデン・その他の政治
来年9月に国政・地方同時選挙がやって来る。政策議論は各政党が普段から展開しているので、選挙前に公約・マニフェストが深い議論もなくにわかに発表される日本の選挙とは異なる。政策議論が次第に激しさを増していき、本格的な選挙キャンペーンが早くもスタートするのが、選挙までの1年間である。

スウェーデンは6月半ばから次第に夏休みに入り、7月中は国中がバカンスとなる。政界も7月初めのゴットランド島での政治ウィーク「Almedalen」を除けば全く静かであり、8月に入ってから再び通常営業に戻る。

そんな8月に恒例となっているのは、各党の党首による「夏の演説」。それぞれの党が8月中旬から下旬にかけての1日を選び、メディアを集めて演説を行う。スウェーデンの気候から言えば8月は晩夏か初秋なので「夏」というイメージは必ずしも当てはまらないが、いずれにせよ、9月に入ってから開会されるスウェーデン議会での政策議論に向けた、各党の所信表明演説という役割を持っている。特に今回は国政選挙を1年後に控えていることもあり、各党は公約に盛り込みたい政策・改革案をここで発表して、世論の注目を集め、メディアを通じた議論を起こそうとしたりもする。

注目が集まったのは、当然ながら与党第一党である穏健党(保守党)の党首であり、首相でもあるラインフェルトの演説。


彼を中心とした連立政権も任期2期目の後半に入り、政権交代時に感じられた改革の意気込みも、目新しさもほとんど感じられなくなってしまった。だから、選挙を前に、この社会のこれからについてのビジョンと、新たな改革への意気込みを示してくれることが期待された。

しかし、全くつまらない演説だった。それはなにも、その日は天気が悪く、重い雲が空にどっしりと垂れ込めていたことだけが理由ではなかった。

演説の焦点は「160億クローナの減税」だった。しかも、その減税の大部分は政権交代直後から導入してきた勤労所得税額控除(jobbskatteavdrag)の拡大に過ぎず、多くの有権者にとってもう飽きるぐらい聞いたであろう減税政策だった。

・第5次 勤労所得税額控除(jobbskatteavdrag)(120億クローナ)
・高齢者を対象とした減税(11.5億クローナ)
・所得税のうち国税分の課税対象となる最低所得額の引き上げ(30億クローナ)

確かに、勤労所得税額控除は一番最初の導入時には意味があったと私は思う。もともと凸凹だった所得税の限界税率が綺麗に階段状にならされ、低所得階層の限界税率がそれなりに低くなった。しかし、それをその後、ただ拡大するだけの政策には大きな意義は感じられない。減税の直接的な狙いは、家計の手取りが増え、消費が拡大することによる景気上昇であるし、もちろん家計にとっては嬉しいことではあろうが、一方で税収が削られてしまう。その税収を意味のある政策に充てるという選択肢もありうる。学校教育や高齢者福祉の分野では、もっと多くの予算が必要だと私は思うから、ラインフェルト首相が演説で掲げた ”Mer kvar av lönen”(よりたくさん手元に残るように)というスローガンには賛同できない。

この第5次 勤労所得税額控除は2010年の国政選挙の時の選挙公約だった。だから、それを任期最後の1年に実現させようということは分かるが、2014年の国政選挙を勝ち抜きたいのであれば、今後の社会の進む道を指し示す、新たなビジョンの提示が必要だったと思う。ラインフェルト首相も就任からすでに8年目に入り、政権疲れに苛まれているように感じる。

世論調査ではここ1年半近く、左派ブロック(社会民主党・環境党・左党)が右派ブロック(穏健党・自由党・中央党・キリスト教民主党)を上回っており、一番最近の世論調査(8月)でも左派ブロックが51.0%に対し、右派ブロックが39.0%となっている。このまま行けば、1年後の国政選挙では政権交代も考えられるが、その1年の間に世論が大きく変化することも大いにありうる。


今後は、来年9月の選挙に向けた政策議論について、なるべく頻繁に書いていきたいと思う。

オバマ大統領のスウェーデン公式訪問 (9月4日・5日) 続き

2013-09-05 02:23:59 | スウェーデン・その他の政治
オバマ大統領を載せたAir Force Oneは、4日午前10時に予定通りアーランダ国際空港に着陸。オバマ大統領はあらかじめ準備されたキャデラックに乗り込み、すぐさま首相官邸に向かった。ストックホルム市内は今日の日中はバスがほとんど運休した上に、混乱があらかじめ分かっていたので一般車両も市内への乗り入れを避けたためか、非常に静かで休日のような雰囲気だった。


午後3時前から始まったオバマ大統領とラインフェルト首相による合同記者会見では、シリア問題とNSAによる盗聴スキャンダルに焦点が集まった。ラインフェルト首相は、スウェーデンの立場として、アメリカが国連の決議なしに軍事行動を起こすことには反対であると主張。先日、現地入りした国連の調査団がサンプルを持ち帰っており、その分析が現在続けられているため、その結果を待った上で、国連を通じた解決策を探るべきだ、と続けた。

ラインフェルト首相のこの声明は、スウェーデンの立場を明確にしたという点では良かったと思う。しかし、その立場をアメリカに対して積極的に強調するというよりは、「スウェーデンは小国であるから国連を通じた解決の道しか選べない」という消極的なニュアンスを交えてしまったのは、非常にまずかったと思う。大国であるアメリカにはもっと別の道もあり、それを選ぶことは仕方ない、と認めているとも解釈できるからだ。

実際、ラインフェルト首相は「大国であるアメリカが、今シリアに対して行動を起こさなければならないと焦っているのは理解できる」(大意)と発言している。これでは、国連決議を待たず単独行動を取ろうとしているアメリカを擁護していると理解されても無理はない。


その後、オバマ大統領は市内にあるシナゴーグを訪れ、第二次世界大戦中にハンガリーで多数のユダヤ人を救ったスウェーデン人外交官ラオル・ヴァッレンベリを追悼。実際彼のおかげでスウェーデンの庇護旅券を手に入れ、一命を取り留めたユダヤ人の生存者と面会した。

その次の訪問先は、スウェーデンの環境技術の視察をすることになっている王立工科大学(KTH)。その途上の大統領一行をStrandvaganにて撮影した。



重厚なリムジンが2台。うち1台目のリムジンにオバマが乗っていた。30台もの車輌。頑強で重そうな車が多かった。おまけに最後は救急車。これが現代版の「大名行列」だ。



米大統領の訪問というとAir Force Oneが話題になるが、それ以外にも多数の輸送機がリムジンや護衛の専用車両、随行員、コック、医者、燃料、物資を運ぶ。上のイラストにあるように、Air Force Oneと同型のボーイング747が他のスタッフを運ぶほか、C-17が人員輸送のためのブラックホーク(ヘリコプター)を輸送し、C-141がリムジンなどの車両や物資を輸送する。ちなみに、ブラックホークは大統領が搭乗している時はホワイトホークに名を変えるとか。

オバマ大統領のスウェーデン公式訪問 (9月4日・5日)

2013-09-04 01:07:54 | スウェーデン・その他の政治
今日、9月4日(水)の午前中、オバマ大統領がストックホルムのアーランダ国際空港に到着する。現職のアメリカ大統領がストックホルムを訪れるのは初めてであるし、スウェーデン首相との会談のためにこの国を訪れるのも初めてだ。2001年に当時のブッシュ大統領がヨーテボリを訪れ、スウェーデンの歴史に残る大混乱になったことがあったが、あの時はヨーテボリで開催されていたEU首脳会談に出席するためで、スウェーデン政府との会談のためではなかった。

今週後半にロシアのサンクト・ペテルスブルグで開催されるG20首脳会談に出席する途上で立ち寄るわけだが、訪問が決まったのがわずか3-4週間ほど前のことであり、スウェーデンでは大きなニュースとなった。そして、オバマ大統領を迎えるための準備が突如、政府を挙げて初められた。シリア情勢のために直前のキャンセルもありえたが、幸い訪問は現実のものとなった。(一方、先週後半にストックホルムを訪れる予定だったイギリス外相は、武力行使の是非を巡る議会の混乱のため、訪問をドタキャンしている)

もともと、オバマ大統領はG20に合わせてロシアのプーチン大統領と米ロ首脳会談を計画していたが、エドワード・スノーデンの件で両国間の関係が悪化したため、キャンセルとなった。一説には、そのために時間ができたおかげでストックホルム訪問が実現したようだ。

オバマ大統領は翌日5日(木)の午前中には再びアーランダ空港から旅立つため、滞在は24時間ほどだが、スウェーデン政府は2000人の警察官のほか、水上を警備する沿岸警備隊、領空を監視する国防軍のレーダー部隊・対空ミサイル部隊・戦闘機部隊などを大動員して、ストックホルムの安全確保を行う。

アーランダ空港から市内に続く高速道路E4は大統領の車列が通過する前後、1時間近くにわたって完全に閉鎖されるし、ストックホルム-ウプサラ間の鉄道もこのE4と交差する箇所がいくつかあるため、ストップ。また、上空も飛行禁止となる。

市内も、訪問先となっている首相官邸、王宮、アメリカ大使館、そして滞在する予定のグランド・ホテルのほか、環境技術視察のために訪れる王立工科大学(KTH)、そしてそれらを結ぶ道路は閉鎖される。そのため、ストックホルムの中心部は5日正午あたりまで麻痺することになる。私の知人もオフィスの窓がオバマが通過する予定の道路に面しているために、4日は職場が立入禁止になると言っていた。


すでに今日3日の段階でも、市内の要所には1つあたり2.7トンのブロック片が2kmにわたって置かれて、バリケードも用意されていた。路上に突如として現れた道路標識には「4日0時から5日24時まで駐車車両撤去」と書かれている。中心街のゴミ箱なども完全に撤去された。

オバマ大統領の訪問に合わせて、アメリカの外交・軍事政策などに反対するデモも企画されている。警察によると、許可したデモの数は、火曜日夕方の時点で10団体だという。


ストックホルムの中心部。オレンジの点は、オバマ大統領が訪ねる主な場所であり、一般の通行が封鎖される箇所。一方、紫色の点は、オバマ大統領に対するデモが予定され、警察が許可を出している場所。国会議事堂・王宮の前や、アメリカ大使館に比較的近い所のデモも認められており、驚きだ。


【スウェーデン訪問の目的】

今回の公式訪問では、シリア情勢や気候変動問題についての意見交換や、スウェーデンの環境技術の視察(王立工科大学)、第二次世界大戦中にハンガリーで数多くのユダヤ人の命を救ったスウェーデン人外交官ラウル・ヴァッレンベリへの追悼(ストックホルム市内のシナゴーグ)、他の北欧諸国の首脳との共同会談などが盛り込まれているが、訪問の一番の目的は、自由貿易協定のようだ。

日本ではTPPが盛んに議論されてきたが、EUとアメリカの間でも自由貿易協定を結ぶために、今年7月から協議が続けられている。GDPでみれば世界最大の経済を持つアメリカと、人口で見れば世界最大の市場を持つEUとの間の自由貿易協定は「先進工業諸国のリベンジ」だと表現される。つまり、新興国に追いつかれ、経済が近年低迷してきた「かつての」先進工業国がこの貿易協定を起爆剤に、再び世界経済をリードしていくことを狙っているということだ。

貿易障壁がなくなり、大西洋をまたいだ自由な貿易が可能になれば、資源配分が効率的になり価格が低下するし、規模の経済がより大きく働くようになるし、競争が加速され経済成長が促進される。これは賃金の上昇や消費者価格の低下という形で家計も潤す、etcと言われるが、実際には反対も根強い。特に、低成長産業を抱え、生産性が低い南欧諸国にとっては、アメリカとの自由貿易は脅威であり、保護貿易を志向しているため、EU内でも足並みが乱れている。別の例としては、自国の映画産業に対する保護政策をとっているフランスだ。

一方、スウェーデンは近代から現代に至るまで、基本的に自由貿易の立場を貫いてきた。ヨーロッパ及び世界に門戸を開き、技術を進んで取り入れ、それを更に発展させ、国外の市場に商品を販売することで自国の経済を発展させてきた。今でも、輸出はGDPの半分を占めている。スウェーデン経済そのものは小さいにもかかわらず、輸出の規模だけを見ると大国ブラジルに匹敵する。また、製品を作るためには輸入財も欠かせないわけだが、輸入障壁が取り除かれ、輸入材がより安価に手に入るようになれば、最終製品の価格も抑えられ国際競争力が増すことにつながる。だから、輸入に関税をかけることも消極的だった。経済学の論壇でも歴史的に自由貿易派が主流であり、経済政策に大きな影響を与えてきた。

だから、アメリカは、そんなスウェーデンと協調路線を取ることで、EU内の論調がより自由貿易志向になるようにオピニオンリーダーとなり、保護貿易的な国々を説得する役割をスウェーデンに期待していると言われている。


【非関税障壁が大きな課題】

自由貿易を阻むものとしては、まず関税が挙げられる。ただし、EU-アメリカ間の平均関税率は4%ほどでしかなく、南欧諸国の繊維産業の保護のために高い関税が課せられている衣類・アパレルなどを除けば、関税は主要な貿易障壁とは言えないようだ。

一方、大きな障壁となっているのは、安全基準や環境基準をめぐる認可制度の違いだ。現状では市場・国ごとに異なる安全基準や環境基準が地元行政によって要求されており、メーカーは市場ごとに検査を行い、個別に認可を得なければならない。同じ一つの商品でも、メーカーによっては、異なる基準を満たすために、市場ごとに異なるモデルを開発して供給することも珍しくない。そのための余計な費用が価格に上乗せされるだけでなく、外国メーカーの進出が認可プロセスのために遅延すれば、公正な競争にならず、それによっても消費者も不利益を被ることになる。

そのため、異なる行政同士の認可基準の統一を図ることで、片方の市場で認可を受けた製品はもう一方の市場でも自動的に販売できるようにすることが望ましい。そのための協議がEUとアメリカの間で続けられているわけだが、実際には安全性をめぐって国同士で考え方の大きな隔たりがある。

たとえば、畜産分野。アメリカでは鶏肉のサルモネラ菌対策として、後に肉を塩素水に漬けて殺菌することが認めているが、スウェーデンをはじめとするヨーロッパでは飼育の段階からの衛生管理でサルモネラ菌を駆逐する方法を採っている。(後者の鶏肉のほうがより多くの手間と費用がかかるため、値段が高くなり、アメリカの鶏肉と競争すれば負けてしまう)

似たような問題は、牛肉についても言える。アメリカでは、牛の飼育で成長ホルモンを投与することが認められており、その結果、投与しなかった場合と比べて肉の量が平均14kg多く、その分、高い収益が得られる。一方、EUでは認められていない。

その他方で、アメリカのほうがEUよりも厳しい基準を設けているのがチーズだ。アメリカでチーズを販売するためには厳しい安全検査をクリアせねばならず、費用がかかるため、資金に余力のない国外の中小生産メーカーのアメリカ進出が阻まれているという。

この他、金融機関の規制・監督の仕方、公共調達の際の入札制度(アメリカが障壁を設けている)、そして、個人情報の保護などでEUとアメリカとの隔たりは大きく、大きな課題が残っている。特に、個人情報保護については、昨今のスノーデン事件を契機に、EU諸国は非常に警戒している。


以上のような細かい点について、オバマ大統領とスウェーデンのラインフェルト首相が意見交換をすることはないだろうが、太平洋をまたぐ大きな自由貿易協定と、それを巡るEUとアメリカ、そしてEU加盟国内の思惑の違いが、今回のオバマの公式訪問の背景にあるようだ。

ベルルスコーニ首相の統治

2011-12-03 23:19:06 | スウェーデン・その他の政治
様々なスキャンダルが暴露されながらも有権者から一定の支持を受け続けるイタリアのベルルスコーニ首相。そして、そんな彼が長い期間にわたって権力の座に居座り続けることを許してきたイタリアの政治。



これらはスウェーデンでも嘲笑の的となっている。全くもって理解できない、というのが多くの人の持つ印象だと思う。しかし、イタリア生まれであり、19歳でスウェーデンに移住したドキュメンタリー映画監督Erik Gandiniによると、逆にスウェーデンで起きた政治スキャンダルの例をイタリアで紹介しても理解されないという。

たとえば、モナ・サリーンチョコレート・スキャンダル。国会議員としての出費を払うためのクレジットカードを使って、チョコレートをはじめとする私的購買を行い、それが発覚したために社会民主党の次期党首候補から外され、女性初のスウェーデン首相となるチャンスを逃し、議員職も一時期辞めた。それから、現在の中道保守政権下で通商担当大臣に任命された穏健党の議員。彼女は、自宅の掃除のために闇で人を雇っていたことが発覚。また、その家もタックスヘイブン(租税回避地)に登録された企業の所有とすることで課税逃れをしていたことも明らかになった。また、同じときに任命された文化大臣は、公共放送の受信料をそれまで16年にわたって支払ってこなかったことが発覚(文化大臣は公共放送も所轄に置いているため、特に由々しき事態とみなされた)。この二人は、任命から1週間ほどで辞任に追い込まれた。

こんなスキャンダルの例をイタリアで紹介すると、逆に大爆笑になるという。「そんな些細なことで辞任に追い込まれたの?」、「全く別の惑星の話みたいだ」、「スウェーデンでは政治家はすべての面で完璧でなきゃダメなのか?」

イタリア生まれのこの映画監督は、Videocracyというドキュメンタリー映画を2009年に発表している。ベルルスコーニが権力を維持するために、自分の民放チャンネルを使って巧みに支持を維持してきたことを描いた映画だ。

この監督の強みはイタリアの政治だけでなく、スウェーデンなど他の国の政治のあり方も知っているため、視野が広いことだ。彼によると、ベルルスコーニ首相の統治の間に次第に形成されてきたのは、これまでの独裁やファシズムとは異なる、一種の全体主義だという。

ベルルスコーニ首相の戦術は主に二つ。

一つ目は、自身に向けられる批判のすべてに「共産主義者の陰謀」とレッテル張りをし、左派 vs 右派という単純な二項対立の争いに仕立て上げること。そうすると、議論が低レベル化して行き、本来なされるべき事実の検証首相としての適性の検証から議論の焦点が逸れることになる。そして、それが繰り返されていくうちに、メディアも世論もそれを取り上げることに倦怠感を感じるようになり、スキャンダルが人々の話題から消えていく。

二つ目は、他の国なら辞任に追い込まれて当然だと考えられる様々なスキャンダルに対して、逆に開き直ることで自分の人気の糧にしてしまうこと。「俺は美女が大好きだよ。イタリア人の皆さんと同じようにね。男が好きである(つまりホモ)よりは良いでしょ?」などがその例だ。彼の使うこの手のレトリックは少なからずの有権者に「確かにそうかも」と納得させる効果を持つらしい。

そしてこれらの戦術が、彼の支配するメディアによって有効に展開される。低俗な番組による「パンと見世物」で視聴者・有権者の心を掴んでいく。

私もベルルスコーニの統治については、スウェーデンの公共テレビSVTのイタリア特派員のまとめた本を読んだことがあるが、やはりそこから浮かび上がってくるのは、自分を中心とした劇場を作り上げ、社会全体を巻き込んでいく姿だ。ここでは、リーダー像は完璧なものである必要はない。むしろ、いろんなスキャンダルが起こったほうが、庶民に親近感を与えられる。そして、時には批判も浴びて、メディアの渦中に立つことで、カリスマが逆に高くなる。庶民からすれば「またあの人か」と呆れる反面、「でもあの人なら頼りがいがある」という妙な安心感につながっていく。それが、ベルルスコーニが一部の有権者からのあつい支持を維持できる一つの要因ではないか、と私は理解した。

ちなみに、彼を称える歌がある。「シルヴィオ、あなたがいてくれて本当に良かった!」 選挙キャンペーンの一環として作られたものだが、「首相」ではなく「大統領」と呼ばせているところが、ちょっと怖い。(イタリアには大統領が別にいる)



この映画監督Erik Gandiniによる「Videocracy」のトレーラーはこれ。


2012年予算の議会提出 - ビジョンの欠如

2011-09-21 14:05:05 | スウェーデン・その他の政治
2012年の予算がスウェーデン議会に提出された。


先日このブログでも触れた、レストランでの飲食にかかる消費税は現行の25%から12%へと引き下げられることになったし、歳出面では鉄道・道路インフラへの投資をはじめ、失業者への雇用支援学校教員のスキルアップのための予算低所得者を対象にした住宅手当の増額が盛り込まれることになった。

一方で、昨年の国政選挙のときに政権側が公約として掲げていた年金生活者の減税勤労所得税額控除制度の拡大は見送られた。欧米の深刻な財政危機を受けた世界的な不況のために、この秋から来年にかけて経済成長や税収が落ち込むとみられ、そのような減税の余裕が今はないと判断されたためだ。

今日提出された予算案に対する主要新聞や銀行エコノミストなどの評価はかなり否定的なものが多いようだ。年金生活者だけを対象にした減税や勤労所得税額控除が見送られたことが原因ではない。むしろ、これらの減税の先送りは当然だという見方が多い。それよりも問題であるのは、歳出面での中身の無さだ。

既に触れたように2012年はスウェーデン経済が大きく冷え込むと予測される。それならば、歳出面をもっと充実させ、より拡張的な財政政策を行うべきだという声が強い。毎回の予算編成にあたっては、もし前年と同じ政策を行ったと仮定した場合にどれだけの財政的余裕が生まれるかが算出される。国政選挙の前の選挙キャンペーンにおいても様々な主体がこの数字を推計し発表する。この数字がもしマイナスであれば増税か歳出削減が必要であることを意味し、それとは逆にプラスであればその余裕を使って減税を行なったり、歳出の積極的な拡大を行えるというわけだ。

その中でも信頼性が高いのは国の機関の一つである国立経済研究所の発表するものであるが、彼らは2012年には300億クローナ(3600億円)の財政的余裕が生まれると推計している。これに対し、アンデシュ・ボリ財務大臣が今日発表した予算案の各項目(歳出の増減や増税・減税)を足し合わせてもその半分の150億クローナにしか達しない。スウェーデンは他の先進国とは異なり債務残高が非常に低い水準にある(中央政府債務残高は対GDP比で35%ほど)から、何らかの景気対策が求められる今、どうして財布の紐をそんなに堅く締める必要があるのかという不満が上がるのは当然だ。

本来必要とされる歳出項目はたくさんある。例えば、インフラ整備にしても特に鉄道の長期的な維持や投資のためには、今回盛り込まれたよりももっと多額の予算を計上する必要があるという声は強いし、教員の給与の引き上げや、教育以外の社会保障分野の予算の増額の必要性は多くの人が認めている。仮に経済研究所の推計が誤りで、実際の財政的余裕はもっと少なかったとしても、景気後退期だから財政赤字となっても仕方がない。

ボリ財務大臣は、自ら緊縮的な財政政策を展開するのに対し、金融政策を担当する中央銀行に対しては景気状況を考慮し、より拡張的な金融政策を行うべきだと意見を述べている。中央銀行は利上げ重視のタカ派が主導権を握っているため、景気状況に合致しない形で利上げが行われることを懸念した発言だが、少し滑稽に聞こえる(もちろん中央銀行は財務省から独立しているので、あくまで財務大臣の意見に過ぎないが)。それ以上に滑稽なのは、ボリ財務大臣が大きな歳出拡大は景気が上向きになる2013年から14年に可能になる、と考えていることだ。これでは、財政政策がプロサイクリカルになってしまう。政府の財政諮問委員会の委員長を務めていた経済学者もこの点に非常に批判的である。

現在の連立与党の問題は、ビジョンの欠如だ。2006年秋に政権を取って以来、約束してきた制度改革に着手してきたわけだが、そろそろネタ切れの感が否めない。2010年秋の再選以降、ラインフェルト首相にとって勤労所得税額控除制度(Jobbskatteavdrag)がいわば唯一の切り札となってしまい、スウェーデン社会が抱える問題を解決するすべての鍵は、この制度のさらなる拡張だと言わんばかりの発言もあった。前述の通り、この制度の拡張は2012年は見送られることになったため、自分達の政策の焦点をレストランの消費税半減に移して、これによって若者・非熟練労働者の雇用が増えるだろう!と訴えているが、これも雇用に対する効果はあまり期待できないという見方が強い。

2003年に党内を刷新して2006年の国政選挙で見事に政権を勝ち取った穏健党(保守党)であるが、新たな長期的なビジョンをきちんと示せなければ、次の選挙では勝てないだろう。