スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

国政選挙に向けた世論動向と戦略的投票行動

2014-02-01 03:03:42 | スウェーデン・その他の政治
今年9月の国政選挙を前にして、世論動向が注目を集めているけれど、日刊紙DNが今年1月に行った最新の世論調査の結果は以下のとおり(サンプルサイズは約2000)。


(グラフ中の括弧内の数値は、1ヶ月前の前回調査からの変化)

現在、政権を担っている中道保守ブロック4党への支持率合計が37.9%であるのに対し、野党である左派ブロック3党への支持率合計は53.1%。現連立政権は野党側に10%以上も差をつけられている。

このように左派ブロックが50%前後の支持を獲得し、一方で中道保守ブロックへの支持が40%を下回るという状況は、すでに半年以上続いている。今後、選挙を前にした政策議論が加熱していく中で、両者の差は少しは縮まるとは思うが、中道保守ブロックが逆転する可能性は小さく、9月の国政選挙では社会民主党を軸とした左派ブロックが政権を奪還すると見てほぼ間違いないと思う。


【 戦略的投票行動について 】

選挙結果を占う上で重要になる一つの要因は、戦略的投票行動だ。ここで私が言う戦略的投票行動とは、本当は別の党を最も支持しているのだけど、選挙では別の党に票を投じる、というもの。スウェーデンにおいて、実はこの戦略的投票行動は無視できない。

なぜかというと、それは選挙システムにある。スウェーデンの国政選挙は完全に比例代表制であり、有権者は政党を選ぶようになっている(支持する政党の候補者リストの中から特定の候補者を選ぶ補完システムもある)。ただし、小党の乱立を防ぐために、全国での得票率が4%に満たない政党は、たとえ得票率が3.9%あり、全議席数(一院制)である349を均等配分したとして13議席を獲得できる計算になっても、1議席も貰えないことになっている。私のブログでは、これまでも4%ハードルと呼んできたが、この制度があるために、弱小政党は何とかして4%以上の投票率を実現しようと躍起になる。これまでの選挙を振り返ると、そのような政党の典型例は、キリスト教民主党だ。

しかし、4%以上の投票率を実現しようと躍起になるのは、なにも政党側だけではない。実は有権者の一部もなのだ。

例えば、キリスト教民主党は、穏健党・自由党・中央党とともに現在の中道保守連立政権(中道保守ブロック)を構成しているが、もし、仮にキリスト教民主党が4%未満の支持しか得られなかった場合、彼らの議席(14~19くらい)がスッポリ抜け落ちてしまい、中道保守ブロックの支持者にとっては大きな痛手となる。そのため、中道保守ブロックの他の3党の支持者の一部が、本当はあまり支持していないけれど選挙ではキリスト教民主党に票を投じていると考えられる。

そのため、戦略的な投票行動を取る有権者の数は、選挙の結果に少なからずの影響を与えることになる。また、政党支持を調べる世論調査では「もし今日が投票日であればどの政党に票を投じますか?」という質問が一般的に用いられているが、回答者の中には、戦略的な配慮をした上での自分の投票行動を答える人も多いだろうから、有権者の本当の支持とは若干乖離していることに注意しなければならない。

では、どれだけの乖離があるのだろうか?

テレビ局や新聞などが行っている多くの世論調査では「もし今日が投票日であればどの政党に票を投じますか?」だけを尋ねているが、スウェーデン統計庁(SCB)の定例調査ではその質問に加え、「あなたの考え方に一番近い政党はどの党ですか?」と、有権者の実際の支持政党も尋ねているので、両方の質問の回答を比較してみることにする。

2013年11月にスウェーデン統計庁(SCB)が行った世論調査の結果は以下のとおり(サンプルサイズは5000強)。
(先に示したDNの世論調査と結果が異なるが、これは調査したタイミングが違うことやサンプリング手法の違いが考えられるし、もちろん、単なる誤差の範囲という可能性もある)


キリスト教民主党を見ると、「支持する」と答えているのは3.0%なのに、「票を投じる」と答えているのは4.1%おり、その差は1.1%。つまり、戦略的な投票行動のおかげで、かろうじて4%という「水面」から頭を出していることになる。

また、今年9月の国政選挙を前にして、中央党も4%ハードルの付近を彷徨っているが、この政党も、有権者の投票行動と支持が1%近く乖離している。

一方、この2党と自由党とともに中道保守ブロックを構成している穏健党は、実際に支持している有権者が28.0%もいるのに、票を投じてくれるのが25.5%しかいない。つまり、穏健党の支持者が、連立政権の維持には欠かせない弱小2政党に票を投じて、サポートしているのだと想像できる。

(よく見ると、スウェーデン民主党も、投票する有権者が実際に支持する有権者を上回っており、また、社会民主党も乖離しており、それはそれで詳しく分析してみると興味深いが、この記事では脇道にそれるので、省略。)


【 今回の国政選挙では、戦略的投票行動が減るのではないか? 】

さて、最初に紹介した今年1月の世論調査に戻ろう。先ほど触れた、キリスト教民主党中央党の2党の支持率は、それぞれ3.4%3.1%と、かなり低い水準に達している(この調査では「もし今日が投票日であればどの政党に票を投じますか?」と訊いている)。回答者が自らの戦略的投票行動の可能性をどこまで加味して答えているか気になるところだが、もしこのように4%から大きく下回る状態が続けば、これまで意図的に票を投じてサポートしてきた人たちも、自分たちがサポートしても4%ハードルを超えるのは難しそうだから、それなら自分が本当に支持する党に票を入れようと考えるかもしれない。

また、戦略的投票行動のそもそもの目的は中道保守ブロックを勝たせることにあるのだから、左派ブロックとの支持率の差が今のように大きく乖離している状況が投票日まで続けば、自分がサポート票を投じてキリスト教民主党か中央党に4%ハードルをクリアさせて、議席を取らせることができたとしても、結局、左派ブロックには勝てない、と諦めて、自分の支持政党に票を投じるかもしれない。

いずれにしろ、この2党が4%ハードルをクリアできず無議席となる確率は、これまでの選挙以上に高いと思う。だから、中道保守ブロックの獲得議席割合は後退こそすれ、支持率よりも高くなることはないと思う。

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