来年2014年の予算については9月にこのブログで触れ、一つの目玉が第5次勤労所得税額控除(femte jobbskatteavdraget)であることを書いた。第5次というのは、現行の第4次勤労所得税額控除よりも控除額が拡大することを意味する(平均的な勤労所得の人で月270クローナ、日本円にして約4000円の追加減税)。この勤労所得税額控除は現政権が2007年予算で初めて導入した。GDPに占める租税・社会保険料の割合が、世界的に見てもスウェーデンは高く、それを少しずつ下げていくことが導入目的の一つだった。それ以来、控除額が徐々に拡大され、2014年は4度めの拡大となる。
この勤労所得税額控除は、導入された当初の規模であれば意味はあったと思うが、それがどんどん拡大されていき、今さらに拡大することに対しては私は否定的だとブログで書いた。そもそも、現政権は今の社会をどのように変えていきたいのか、様々な社会・経済問題をどのように解決していきたいのか、というビジョンがもはや無くなってしまい、政権を奪還した2006年には強力な政策的切り札と考えられたこの勤労所得税額控除を、今は芸もなく繰り返しているだけのように感じられる。
実は12月初めに実施された世論調査によると、スウェーデンの有権者の過半数もこの第5次勤労所得税額控除 (femte jobbskatteavdraget) に否定的であることが明らかになった。
全体では、「あまり良くない」「大変悪い」と答えた人が58%で、「まあまあ良い」「大変良い」と答えた34%を大きく上回る。また、男女別に見ると、男性の方が肯定的な人の割合が若干大きいものの、否定的な人の割合は男女とも6割近い(男女間の差は有意)。また、学歴別に見ても、高学歴になるほど肯定派の割合が若干高くなるが、否定派の割合は58~59%と中卒・高卒・大卒でほとんど差がない(差は非有意)。
一方、支持政党別に見ると、現在の中道右派政権を構成する4党の支持者は、肯定的な人の割合が61%の穏健党(保守党)の支持者を筆頭に50%前後であり、4党全体としては肯定が57%、否定が35%だ。これに対し左派ブロック3党の支持者は、否定的な人の割合が95%に及ぶ左党の支持者をはじめ、全体として15%が肯定的、80%が否定的だ。これは予想できる結果だ。(極右のスウェーデン民主党は肯定24%、否定74%と左派ブロックに近い)
より興味深いのは、都市部に住むホワイトカラーの有権者の動向だ。この世論調査によると、都市部に住む有権者でも33%が肯定的、61%が否定的という結果であり、否定的な人が多いことが分かる(ただし、都市部以外の有権者との差は非有意)。また、ホワイトカラーでも否定派(62%)が肯定派(33%)を大きく上回る(否定派の割合が他のグループより大きいが非有意)。
2006年の国政選挙における政権交代の背景として挙げられる一つは、都市部に住み、そこそこの所得があるホワイトカラーの中流有権者が社会民主党から穏健党(保守党)へと支持を大きく変えたことだ。そのため、2010年の国政選挙では社会民主党を中心とする左派ブロックは、彼らの支持をさらに失うのが怖く、積極的な増税を打ち出せなかった。しかし、減税に否定的な見方をする有権者が現在これだけおり、しかも、選挙の結果を大きく左右しかねない中流階級においても否定派が多数だということは、今回の選挙キャンペーンでは増税の必要性も含めた政策議論を展開できるかも知れない。是非ともそうなってほしい。
「スウェーデンでは減税を主張する党は選挙で負ける」などという非常に大雑把で、的確とはいえない言説が日本では一部で広まってしまった。減税の主張が必ずしも得票率の上昇には結びつかないことはその通りなのだけれど、過去2回の国政選挙において減税を主張する陣営が勝利したことから分かるように、この言説は正しいものとはいえない。税金はできれば低いほうが良い。しかし、同時に社会福祉・社会保障の水準は今まで通りに維持したい、と多くの有権者が考えている。2006年と2010年の国政選挙において中流階級が社会民主党から穏健党を中心とする中道右派陣営に支持を大幅に変えたのは、それまでの社会保障の水準を維持しながらも、制度をスリムアップすることで減税が可能だということを中道右派陣営が説得力のある形でアピールできたからだと思う。政権交代から7年が経った今、減税は実現され、仕事のある人の可処分所得は増えた。しかし、その一方で社会保障サービスには質の低下や制度の綻びが顕著になっている。昨年のPISA調査も非常に残念な結果となったことも、先日明らかになったばかりだ。それなのに、政権側から打ち出されるのは相変わらず、減税、減税。そのことに対するウンザリ感が現在、有権者の間に蔓延しているということなのだと思う。
この勤労所得税額控除は、導入された当初の規模であれば意味はあったと思うが、それがどんどん拡大されていき、今さらに拡大することに対しては私は否定的だとブログで書いた。そもそも、現政権は今の社会をどのように変えていきたいのか、様々な社会・経済問題をどのように解決していきたいのか、というビジョンがもはや無くなってしまい、政権を奪還した2006年には強力な政策的切り札と考えられたこの勤労所得税額控除を、今は芸もなく繰り返しているだけのように感じられる。
実は12月初めに実施された世論調査によると、スウェーデンの有権者の過半数もこの第5次勤労所得税額控除 (femte jobbskatteavdraget) に否定的であることが明らかになった。
全体では、「あまり良くない」「大変悪い」と答えた人が58%で、「まあまあ良い」「大変良い」と答えた34%を大きく上回る。また、男女別に見ると、男性の方が肯定的な人の割合が若干大きいものの、否定的な人の割合は男女とも6割近い(男女間の差は有意)。また、学歴別に見ても、高学歴になるほど肯定派の割合が若干高くなるが、否定派の割合は58~59%と中卒・高卒・大卒でほとんど差がない(差は非有意)。
一方、支持政党別に見ると、現在の中道右派政権を構成する4党の支持者は、肯定的な人の割合が61%の穏健党(保守党)の支持者を筆頭に50%前後であり、4党全体としては肯定が57%、否定が35%だ。これに対し左派ブロック3党の支持者は、否定的な人の割合が95%に及ぶ左党の支持者をはじめ、全体として15%が肯定的、80%が否定的だ。これは予想できる結果だ。(極右のスウェーデン民主党は肯定24%、否定74%と左派ブロックに近い)
より興味深いのは、都市部に住むホワイトカラーの有権者の動向だ。この世論調査によると、都市部に住む有権者でも33%が肯定的、61%が否定的という結果であり、否定的な人が多いことが分かる(ただし、都市部以外の有権者との差は非有意)。また、ホワイトカラーでも否定派(62%)が肯定派(33%)を大きく上回る(否定派の割合が他のグループより大きいが非有意)。
2006年の国政選挙における政権交代の背景として挙げられる一つは、都市部に住み、そこそこの所得があるホワイトカラーの中流有権者が社会民主党から穏健党(保守党)へと支持を大きく変えたことだ。そのため、2010年の国政選挙では社会民主党を中心とする左派ブロックは、彼らの支持をさらに失うのが怖く、積極的な増税を打ち出せなかった。しかし、減税に否定的な見方をする有権者が現在これだけおり、しかも、選挙の結果を大きく左右しかねない中流階級においても否定派が多数だということは、今回の選挙キャンペーンでは増税の必要性も含めた政策議論を展開できるかも知れない。是非ともそうなってほしい。
「スウェーデンでは減税を主張する党は選挙で負ける」などという非常に大雑把で、的確とはいえない言説が日本では一部で広まってしまった。減税の主張が必ずしも得票率の上昇には結びつかないことはその通りなのだけれど、過去2回の国政選挙において減税を主張する陣営が勝利したことから分かるように、この言説は正しいものとはいえない。税金はできれば低いほうが良い。しかし、同時に社会福祉・社会保障の水準は今まで通りに維持したい、と多くの有権者が考えている。2006年と2010年の国政選挙において中流階級が社会民主党から穏健党を中心とする中道右派陣営に支持を大幅に変えたのは、それまでの社会保障の水準を維持しながらも、制度をスリムアップすることで減税が可能だということを中道右派陣営が説得力のある形でアピールできたからだと思う。政権交代から7年が経った今、減税は実現され、仕事のある人の可処分所得は増えた。しかし、その一方で社会保障サービスには質の低下や制度の綻びが顕著になっている。昨年のPISA調査も非常に残念な結果となったことも、先日明らかになったばかりだ。それなのに、政権側から打ち出されるのは相変わらず、減税、減税。そのことに対するウンザリ感が現在、有権者の間に蔓延しているということなのだと思う。
違うのは、政治家なのか、マスコミなのか、有権者なのか・・・。
そうとばかりは言えないと思う。どこかのアンケートで、増税はやむを得ないと考えている国民が過半数というのをみたことがあるもん。日本の国民だって馬鹿じゃないから増税はやむを得ないのはみんなよく分かってる、ただ政治家が責任をもってその必要性を語らずに空気で増税されていくのに苛立っているというのが本当の現状なんだと思う。多分日本でだって財政の道筋をちゃんと示せる人が出ればたとえ増税するといっても票は集まると思う。どこの政治家も増税したら票が離れる、減税すれば票が集まるって考える。でもそれは国民を愚弄してるのも同じだと思う。