この年の春のフランスは、好天続きで、しかもこのアルザスで4月末だと言うのに、連日30度であった。
アルザスは寒い地方なので、保存食も充実している。特に果物の保存としてジャムや果実酒は一般的でこの家庭にも地下にはたくさんの瓶が並んでいた。
さて、名残惜しいこの家とお別れの時間が来た。
コルマールに向けて出発だ。
山なのでカーブも多く、途中で少し車に酔ってしまった。しかし悟られないようにと辛抱していたが、奥さんは言葉が少なくなった私に気付きさりげなく「大丈夫か?」と何度か聞いてくれた。
口数が少なく、話しかたも静かで落ち着いている。細やかな心配り、的確な発言は本当にありがたかった。
彼女といると安心感のようなものを覚えるのだ。
街に下りると真っすぐな道になるので、もう大丈夫。
あちこちの煙突の上に巣のようなものが見える。
ここがコウノトリの巣で有名なマンステールである。フランス人ならその名を聞くとチーズを思い浮かべる。
そのチーズがよく知られているのは味ではなく、匂いだ。それも強烈な匂いで有名なのだ。
これは試してみなくては。確かに匂いはひどいが、味はチーズの苦手な私が食べてみてもまずまずだ。
フランス人も「匂いは悪いが味はいい。」と言う。
(他のフランス人とチーズの話やアルザスの話になった時、このチーズの話題はいつもすることにしているが、皆同じ意見だ。)
コウノトリの巣の町を抜けると、いよいよコルマールだ。「ここが私の通った小学校、ここが私の住んでいたところ」とムッシュの説明を聞いているうちに、観光の場所に着いた。
小さな川が流れ、おとぎの国のように可愛い街だ。店の看板もとても可愛らしい。
コロンバージュという木組みの家が特徴である。
ここに来たら、お昼はもちろん「シュークルート」だ。ジョルジュもフーケであったとき、勧めてくれていた。
ムッシュがアルザスと言えば白だということで白ワインもお任せした。
一人ずつ大きな陶器の器(コウノトリなどアルザスゆかりのものが描かれている)で供される。
フランス人は屋外で食べるのが好きである。私は強い日差しなので屋内の方が本当は有難いが、郷にいれば郷に従えだ。
食べても食べても減らないので、完食は出来なかったが、ソーセージのおいしさはさすがにドイツと隣接していることを感じさせた。
こう言う街は美術館もあるのだが、歩いているだけで満足だ。
クグロフと言うお菓子も有名なのだが、お腹がいっぱいなので、次回の訪問の時に残しておこう。
コルマールの駅に送ってもらい、ホームで見送ってくれた彼ら、決して長い滞在ではなかったが、最初の出会った時の印象と少しも変わることのない温かいおもてなしに、いっそう近い友人となったことは確実だった。
来日の希望も持っており、奥さんは日本語を少し教えると、日本語を学びたいと言ってくれた。
テキストを送ろうと約束したのに、いいテキストが見つからず、気になったままだ。
メールも手紙もそんなに頻繁ではない。しかし心のこもったメールが忘れたころに届くのだ。
もちろん今回の震災に当たってもすぐにメールが届いた。そしてその後、私たちが出会ったプロヴァンスを訪問したからと言って、プロヴァンスの特産のはちみつやお菓子が航空便で届き、私の心をいやしたことは言うまでもない。プロヴァンスに行って私のことを思い出してくれたその彼らの心はいつまでも私の胸に残るだろう。
この訪問から二年後、この夫婦より先に、長男夫婦が新婚旅行先として日本を選んでくれるのだった。
そのうれしい出来事は、別の項に記したい。
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