「熱闘」のあとでひといき

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Jose Luis Madueno “Chilcano”/すべてはこの1枚から始まった

2013-07-26 01:40:22 | サウス・アメリカン・ジャズ


音楽の大きな楽しみのひとつは、偶然出逢った音がきっかけで音楽観が思わぬ方向へと拡がっていくこと。それはラジオから偶然流れてきた曲であったり、街角で耳にした音であったり、ジャズ喫茶でかかったレコードであったりと、出逢いの形は様々だ。そんな思わぬ邂逅から、それまでは空白だったスペースや時間が埋められていく。

中でも「極上」を提供してくれたのは、とあるCDショップだった。と書くと「月並み」と思われてしまうかもしれない。でも、何の変哲もないお店がとんでもない出逢いを何度も提供してくれたのは偶然ではないような気もする。哀愁感が漂うポルトガルのジャズも、輝く太陽のような歌心に溢れたスペインのジャズも、世界最高水準をひた走るポーランドのジャズも、そして(知名度の割に人気はないが)実はとっても魅力的なハイドンの音楽も「発見」されたのはすべて同じ場所だから。

かつて大宮駅西口アルシェの4階に「ディスクマップ」という名のCDショップがあった。埼玉県ではそこそこの規模とは言っても、東京都内に大規模店舗を構えた大手輸入ショップとは比べるべくもない。しかし、このお店の「バーゲンワゴン」の中は特別で、上でも書いたように、今にして思えば宝の山だった。アウトレット品としてバナナの叩き売りのような状態で処分の憂き目に遭っているCD達が、実は正規品の扱いで売られているものより遙かに内容のある作品だったりするから(理不尽だが)面白いのだ。

私を「サウス・アメリカン・ジャズ」の世界に導いてくれた貴重な1枚が、ここで紹介するペルーの音楽家、ホセ・ルイス・マデュエニョの『チルカーノ』だった。

♪「アフロ・ペルー・ジャズ」との幸運過ぎる出逢い

時は1999年の1月3日。例によってディスクマップのバーゲンワゴンを物色していたら、1枚の一風変わったCDが目に留まった。国籍不明だがラテン系で間違いなしの人がリーダーになっていて、ジョン・パティトゥッチ、スティーブ・タヴァリョーン、アレックス・アクーニャといったビッグネームの人たちの名前もある。チック・コリアのエレクトリック/アコースティックバンド、ラテンフュージョンバンド「カルデラ」の中心メンバー、そしてウェザーリポートの元ドラマーが参加なら間違いないだろうということが(もちろん冒険でもいいのだけど)決定打となった。

果たしてどんな音が出てくるのだろうか? 耳に飛び込んできたのは、多彩なリズムやラテンアメリカの雰囲気が素材として使われた完成度の高いフュージョンスタイルのジャズだった。ただ、リズムはボサノヴァ、レゲエ、4ビートといったお馴染みのものから、聴き慣れないタイプのものまでバラエティに富んでいる。ライナーノーツを読むと、リーダーはペルー人であることが判明。父親も音楽家で、クラシック音楽のトレーニングを積んだピアニストにして作編曲にも優れた才能を持つ若手有望株とある。そういわれてみれば、洗練されたアレンジの中にもアンデス音楽に通じる楽想の曲が混じっている。

これがサウス・アメリカン・ジャズの中核のひとつといえる「アフロ・ペルー・ジャズ」との貴重な出逢いだった。CDは同郷のペルー人、リッチー・セーロン(Richie Zellon)が興したソンゴサウルス・レーベルからのリリース。思えば、最初に聴いたのがレーベル創設者のリーダー作でなかったのが幸いしたのかも知れない。この作品で聴けるような洗練されたスタイルではなく、アフロ・ペルー色が濃厚に織り込まれた高密度のサウンドを聴いたら、すんなりとこの世界(サウス・アメリカン・ジャズ)に入って行けたかどうか疑わしい。

とにかく賽は投げられた。以後、この一風変わったアフロ・キューバン・ジャズとも違う「ラテン・ジャズ」いや「サウス・アメリカン・ジャズ」に真っ正面から向き合うことになったのだった。

♪スーパーベーシスト、ジョン・パティトゥッチの強力なサポート

このアルバムに参加したミュージシャンのなかでも飛びきりのビッグネームはジョン・パティトゥッチだろう。2曲のみの参加だが、リーダーのピアノプレイに華を添えている。この作品以外にも、エリオ・アルヴェス(ブラジル人)、ダニーロ・ペレス(パナマ人)、アジザ・ムスタファ・ザデ(アゼルバイジャン人)といった世界の俊英ピアニスト達をサポートしている偉大なベーシスト。頻繁に共演しているエドワード・シモンもベネズエラ出身のピアニストだ。

♪現代最高のフルート奏者、ペドロ・エウスタ-チェの至芸

『チルカーノ』(ペルーの強いお酒のひとつだそうだ)の最高の聴き所はタイトル曲で披露されるペドロ・エウスタ-チェの超絶技巧を駆使した白熱のフルートソロ。ベネズエラ出身でおそらく現代最高のジャズフルート奏者の1人ではないかと思う。とにかく楽器の鳴り方が違う。ペドロはフルートの他にもエレキベース、バスクラリネット、クアトロを演奏するだけでなく、ズルナーといった中近東の管楽器演奏もお手の物のマルチプレイヤー。最近は、癒やし系の音楽に力を入れるなどジャンルを超越した活躍で注目を集めている。

♪アレックス・アクーニャの圧倒的な存在感

ペルーの他にも様々な国籍のミュージシャン達が集った『チルカーノ』。しかし、やはり中核を担うのはプロデューサーも務めるリッチー・セーロン(ギター)、アレックス・アクーニャ(ドラム)、オスカル・スタニャロ(ベース)といったペルー出身のミュージシャン達。なかでも、圧倒的な存在感を示すのがアレックス・アクーニャだ。ペルー出身者であることは知れ渡っていても、なかなか自身のペルー成分を表に出す機会には恵まれなかった人。ウェザー・リポートやフュージョン系の様々なセッションで披露したしなやかなドラミングのルーツはここにあり!と言わんばかりのスーパープレーの数々でこのアルバムを盛り上げていることは間違いない。


JOSE LUIS MADUENO “CHILCANO” (Songosaurus 724774) -1996-

1) Games (Jose Luis Madueno)
2) Peflections (Jose Luis Madueno)
3) Moonspark (Jose Luis Macueno)
4) Staying At Home (Jose Luis Madueno)
5) Nica’s Prelude (Jose Luis Madueno)
6) Nica’s Dream (Horace Silver)
7) Valsamo (Jose Luis Madueno)
8) Waiting For Tomorrow (Jose Luis Madueno)
9) Going In Circle (Jose Luis Madueno)
10) Joyful Goblin (Jose Luis Madueno)
11) Cilcano (Jose Luis Madueno)
12) Witch Doctors In The Alley (Jose Luis Madueno)

Jose Luis Madueno : Piano, Keyboards, Cajon & Voice
Steve Tavaglione : Tenor & Soprano Sax
Pedro Eustache : Flute
Richie Zellon : Guitar
Ramon Stagnaro : Guitar
John Patitucci : Acoustic Bass
John Pena : Electric Bass
Oscar Stagnaro : Electric Bass
Alex Acuna : Drums & Percussion
Barry Smith : Drums

Recorded during January 1996 at “The Studio” Orland & “Masters Crib” LA
Produced by Richie Zellon

Jose Luis Maduenoの公式サイト
http://www.joseluismadueno.com/english/home.html
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