長いようで短かった関東大学ラグビーの春シーズン。スタンドで凍えていた東日本大学セブンズから2ヶ月余りしか経っていないのに、締めくくりのオールスター戦は熱中症を心配しなければならないくらいの酷暑。波瀾万丈のリーグ戦を予見させるような激しい気候の変化、というのはもちろんとってつけた理由。あと2ヶ月経つといよいよシーズン本番が始まる。
かつては「実力伯仲」や「下克上」といったキーワードのもと、「戦国リーグ」といわれていたことが懐かしくなってしまうくらいに、上下間の戦いに関しては無風状態に近い状態になっているのが関東リーグ戦グループの現状。もちろん、目下の2強と見なされる東海大と流経大が時間をかけてじっくりチームを作り上げてきた成果がはっきり現れただけのことなのだが、かつての上位校が力を失っている事実も否定できない。「実力伯仲」も、それは大学選手権出場をかけた5位争いであったり、入替戦回避のぎりぎりの戦いであったりするのは正直言って寂しい。何とかこの状況を打破すべく、下位グループ校のパワーアップを望みたいところ。
しかし、今シーズンは少し状況に変化が現れそうだ。それは、永らく低迷状態にあったチームが復活の狼煙を上げたから。関東リーグ戦グループの展望の第2回目として、昨シーズンは5位以下に終わった4チームについての感想と期待するところを書く。
◆日本大学 ~今年こそは上位グループ入りを期待したいが~
私見ながら、日大は昨シーズンのリーグ戦Gでもっともシステマチックに構築された(「流れるような」と表現したい)アタックを見せてくれたチームだった。その担い手として第一に上げられる選手はSHで主将も務めた小川。この名選手にして名スキッパーの卒業による今季の戦力ダウンは織り込み済み。小川自身も加藤HCの指示があったのかも知れないが、自らをコントロールして15人で攻めるチーム作りを意識してプレーしていたように見えた。そういった下準備が出来た上での今シーズンという認識で春の戦いを観たのだが、残念ながらチーム再構築になってしまったのだろうか?という想いを禁じ得ない。
もちろん、上井草での早稲田戦のみを観ただけでは判断できないことは分かっている。しかし、早稲田もベストからはほど遠いと思われた状態の中で、日大はアタックもディフェンスも精彩を欠く状態だったことは偶然ではなかったような気もする。FWは課題のセットプレー(とくにスクラム)の強化が進んでいないように見え、BKもマイケル(トロケ・バー)を除けば相手DFを突破できる選手がいない状況。そのマイケルにしても、まだまだ自然体で(持ち前のパワーを発揮できるような)プレーが出来ていないように感じられる。
とはいっても、選手個々ではけして上位チームに劣っているわけではない。FWではFL大窪のランに力強さが加わり、No.8高橋の状況判断の良さは武器になるはず。また、下地が引っ張るBKラインが機能すれば、マイケルのトライシーンも増えるだろう。問題があるとしたら、気持ちの部分ではないだろうかというのが早稲田戦を観ての感想だった。加藤HCが4年間かけて作り上げたチームではあっても、選手達に求められるのはピッチ上でいかに15人が戦術を共有しつつ、個の判断と能力を活かしたプレーができるかだと思う。何とか壁を越えて欲しいという他ない。
◆中央大学 ~魅力的なBKラインを活かすためにもFWの奮起が求められる~
入替戦は回避できているものの、大学選手権にも届かない6位が定位置となってしまった感がある中央大。たまたま観た試合(立命館との定期戦)の出来が良くなかったのかも知れないが、今年も前途多難を思わせるチーム状態だったことは否定できない。ただ、外部から酒井氏をHCとして招聘したことや、HPに掲載されている選手達の生の声を聞いても、チーム変革に対する意気込みは十分過ぎるくらいに感じられる。すぐに結果は出ないかも知れないが、期待を持たせる部分ではある。
中央大の積年の課題の一つはアタックの局面でとにかくミスが多いこと。その克服のため、どんな努力をしているかを監督自らがHPで語っている。しかし、内容は連帯責任を負わせる罰ゲーム方式の感が強く、正直なところ違和感がある。ミスが起こるのには原因があるはずで、その再発を防ぐためには徹底的に検証を行うことの方が重要のように思われるのだ。ミスが起こるのは技術面よりも、むしろメンタル面に原因があると考える。選手の頭の中にルーティーンの中で、またハプニング的な形でボールを持ったときに何をすべきがしっかりインプットされているのだろうかという疑問を感じることが多い。
おそらく大学ラグビー界でもっともミスが少ないチームは帝京だと思う。とくに、相手がミスしたときのチームとしての反応の速さが素晴らしく、(一瞬プレーを止めてしまった相手チームの選手達を尻目に)あっという間にボールをゴールラインまで運んでしまう。リーグ戦Gでは東海や流経にしてもハプニングに遭遇すると判断に迷っている場面が多く、ここが帝京との大きな差を生み出している部分だと思う。帝京の選手は罰ゲーム(あるいはコーチの叱責を受けること)がいやだからミスをしないのでなく、普段の練習でどんな状況になっても自然体で動けるようにトレーニングを積んでいるからミスをしないのだと思う。監督が指摘していた「セルフジャッジが多い」ことは、プレーに集中できていないことの裏付けのような気がする。
とは言っても、ほぼ4年生で固めたBKラインはリーグ戦を戦う上で大きな武器になるはずだ。FBにはエースの羽野が居るし、SHにも楽しみな新人が2人も加わった。とくに住吉のスピードは魅力たっぷりで、FW3列やSOとのコンビネーションが合ってくれば得点力は上がるはずだ。ここ数年の中央で気になるのは、BKでオープンにワイドに展開したところでアタックが途切れてしまいがちなところ。フォローが遅れてターンオーバーされたり、2次攻撃の段階でBKラインに並んでいるのはFWの選手ばかりという状況が生じていた。ここも工夫が必要な部分だと思う。タテのスピードを活かして、狭くコンパクトなラグビーで活路を拓いて欲しいと個人的には思っている。
◆大東文化大学 ~一気にパワーアップで序盤戦の主役間違いなし。それ以上にも期待!~
Cグループの試合だったとは言え、大東大が立正大を相手に見せたラグビーは、春シーズンでもっとも印象に残るものとなった。僅か半年前には入替戦であわや(2部落ち)もあり得たチームとは思えないくらいに溌溂としたラグビーだった。指導体制が替わってもなかなか体質改善が進まないチームが多い中で、青柳新監督以下の新首脳陣がどんなマジックをかけたのか知りたいところ。おそらくは、元来の攻撃ラグビーを思い出させ、結果を出すことで自信を持たせることに腐心したのではないだろうか。そういった意味でも、結果論かもしれないが、Cグループからの再スタートが幸いしたのかも知れない。
大東の持ち味は、パスを繋ぎに繋いで最後は大外で勝負するランニングラグビー。それが、いつしか強力な個の力に頼ってしまうラグビーになっていた。とくに現役トンガ代表2名(フィリピーネとエモシ)が同時にピッチに立っていた時代は、アタックの局面ではチームの一体感がなくなっていたように感じられた。そうして大きくチームのバランスが崩れたところで、強力な2人がチームを離れたことを機に攻撃力が一気に低下。そして、下位に低迷することになってしまった。また、レギュラーシーズンに負傷者が相次ぎ戦力ダウンを強いられたことも大きかった。
今シーズンだが、FWにハフォカ、BKにサウマキといった大型かつ強力な新人が加わったことが大きい。とくに当面はインパクトプレーヤーとして終盤からの登場になりそうだが、サウマキが豪快なランニングでトライの山を築くシーンがすでに目に浮かぶ状態になっている。彼らの他にも、BKを中心に春の段階からレギュラーに抜擢された新人が多く、このことがチームによい刺激を与えている。激しいレギュラー争いがチーム力を押し上げることは間違いない。課題はFWのセットプレーだが、闘将の高橋主将が最前線に立って引っ張るFWは力負けしないはず。怖いのはやはり怪我、そして強力な選手に依存してしまう体質が生まれてしまうことだが、序盤戦に前年度上位校とあたることで逆に緊張感を持って試合に臨むことが出来るだろう。久しぶりとなる「モスグリーン旋風」でリーグ戦を活性化させて欲しい。
◆立正大学 ~潜在力は十分。大東大に負けず暴れて欲しい~
悲願の1部復帰で意気上がる立正大。2部降格前の1部リーグでの戦いでは不完全燃焼のまま終わってしまった感が強い。とにかく、慎重な戦いに徹していた感があり、ゲーム終盤になってようやくエンジンがかかって猛攻を仕掛けるものの、時既に遅しという闘いぶりだった印象が強い。しかし、春のセブンズ大会では、そんな過去を忘れさせるような積極的に仕掛けるチームへと変貌を遂げていたので安心した。また、大東大戦では、相手の勢いが勝って一方的な展開となってしまったが、潜在力の高さは見せてくれた。
昨シーズンは2部に所属し、今シーズンも大東大戦しか観ていないためチームの特徴はまだわからないが、基本的にはSOツトネを軸としたオープン展開志向のチームだと思う。また、BK展開では飛ばしパスやロングパスを使ったワイドな攻撃を目指しているようだ。ただ、大東大戦ではWTBにボールが渡った段階でアタックが詰まってしまうことが多く、効果的な攻撃ができていなかった印象が強い。FWとの連携を交えた工夫が必要なようだ。期待の選手はセブンズで活躍したNo.8 の加藤、決定力のある早川、パワフルな鶴谷ら。序盤戦は苦戦を強いられるかも知れないが、最初から積極果敢な攻めを見せて欲しい。
かつては「実力伯仲」や「下克上」といったキーワードのもと、「戦国リーグ」といわれていたことが懐かしくなってしまうくらいに、上下間の戦いに関しては無風状態に近い状態になっているのが関東リーグ戦グループの現状。もちろん、目下の2強と見なされる東海大と流経大が時間をかけてじっくりチームを作り上げてきた成果がはっきり現れただけのことなのだが、かつての上位校が力を失っている事実も否定できない。「実力伯仲」も、それは大学選手権出場をかけた5位争いであったり、入替戦回避のぎりぎりの戦いであったりするのは正直言って寂しい。何とかこの状況を打破すべく、下位グループ校のパワーアップを望みたいところ。
しかし、今シーズンは少し状況に変化が現れそうだ。それは、永らく低迷状態にあったチームが復活の狼煙を上げたから。関東リーグ戦グループの展望の第2回目として、昨シーズンは5位以下に終わった4チームについての感想と期待するところを書く。
◆日本大学 ~今年こそは上位グループ入りを期待したいが~
私見ながら、日大は昨シーズンのリーグ戦Gでもっともシステマチックに構築された(「流れるような」と表現したい)アタックを見せてくれたチームだった。その担い手として第一に上げられる選手はSHで主将も務めた小川。この名選手にして名スキッパーの卒業による今季の戦力ダウンは織り込み済み。小川自身も加藤HCの指示があったのかも知れないが、自らをコントロールして15人で攻めるチーム作りを意識してプレーしていたように見えた。そういった下準備が出来た上での今シーズンという認識で春の戦いを観たのだが、残念ながらチーム再構築になってしまったのだろうか?という想いを禁じ得ない。
もちろん、上井草での早稲田戦のみを観ただけでは判断できないことは分かっている。しかし、早稲田もベストからはほど遠いと思われた状態の中で、日大はアタックもディフェンスも精彩を欠く状態だったことは偶然ではなかったような気もする。FWは課題のセットプレー(とくにスクラム)の強化が進んでいないように見え、BKもマイケル(トロケ・バー)を除けば相手DFを突破できる選手がいない状況。そのマイケルにしても、まだまだ自然体で(持ち前のパワーを発揮できるような)プレーが出来ていないように感じられる。
とはいっても、選手個々ではけして上位チームに劣っているわけではない。FWではFL大窪のランに力強さが加わり、No.8高橋の状況判断の良さは武器になるはず。また、下地が引っ張るBKラインが機能すれば、マイケルのトライシーンも増えるだろう。問題があるとしたら、気持ちの部分ではないだろうかというのが早稲田戦を観ての感想だった。加藤HCが4年間かけて作り上げたチームではあっても、選手達に求められるのはピッチ上でいかに15人が戦術を共有しつつ、個の判断と能力を活かしたプレーができるかだと思う。何とか壁を越えて欲しいという他ない。
◆中央大学 ~魅力的なBKラインを活かすためにもFWの奮起が求められる~
入替戦は回避できているものの、大学選手権にも届かない6位が定位置となってしまった感がある中央大。たまたま観た試合(立命館との定期戦)の出来が良くなかったのかも知れないが、今年も前途多難を思わせるチーム状態だったことは否定できない。ただ、外部から酒井氏をHCとして招聘したことや、HPに掲載されている選手達の生の声を聞いても、チーム変革に対する意気込みは十分過ぎるくらいに感じられる。すぐに結果は出ないかも知れないが、期待を持たせる部分ではある。
中央大の積年の課題の一つはアタックの局面でとにかくミスが多いこと。その克服のため、どんな努力をしているかを監督自らがHPで語っている。しかし、内容は連帯責任を負わせる罰ゲーム方式の感が強く、正直なところ違和感がある。ミスが起こるのには原因があるはずで、その再発を防ぐためには徹底的に検証を行うことの方が重要のように思われるのだ。ミスが起こるのは技術面よりも、むしろメンタル面に原因があると考える。選手の頭の中にルーティーンの中で、またハプニング的な形でボールを持ったときに何をすべきがしっかりインプットされているのだろうかという疑問を感じることが多い。
おそらく大学ラグビー界でもっともミスが少ないチームは帝京だと思う。とくに、相手がミスしたときのチームとしての反応の速さが素晴らしく、(一瞬プレーを止めてしまった相手チームの選手達を尻目に)あっという間にボールをゴールラインまで運んでしまう。リーグ戦Gでは東海や流経にしてもハプニングに遭遇すると判断に迷っている場面が多く、ここが帝京との大きな差を生み出している部分だと思う。帝京の選手は罰ゲーム(あるいはコーチの叱責を受けること)がいやだからミスをしないのでなく、普段の練習でどんな状況になっても自然体で動けるようにトレーニングを積んでいるからミスをしないのだと思う。監督が指摘していた「セルフジャッジが多い」ことは、プレーに集中できていないことの裏付けのような気がする。
とは言っても、ほぼ4年生で固めたBKラインはリーグ戦を戦う上で大きな武器になるはずだ。FBにはエースの羽野が居るし、SHにも楽しみな新人が2人も加わった。とくに住吉のスピードは魅力たっぷりで、FW3列やSOとのコンビネーションが合ってくれば得点力は上がるはずだ。ここ数年の中央で気になるのは、BKでオープンにワイドに展開したところでアタックが途切れてしまいがちなところ。フォローが遅れてターンオーバーされたり、2次攻撃の段階でBKラインに並んでいるのはFWの選手ばかりという状況が生じていた。ここも工夫が必要な部分だと思う。タテのスピードを活かして、狭くコンパクトなラグビーで活路を拓いて欲しいと個人的には思っている。
◆大東文化大学 ~一気にパワーアップで序盤戦の主役間違いなし。それ以上にも期待!~
Cグループの試合だったとは言え、大東大が立正大を相手に見せたラグビーは、春シーズンでもっとも印象に残るものとなった。僅か半年前には入替戦であわや(2部落ち)もあり得たチームとは思えないくらいに溌溂としたラグビーだった。指導体制が替わってもなかなか体質改善が進まないチームが多い中で、青柳新監督以下の新首脳陣がどんなマジックをかけたのか知りたいところ。おそらくは、元来の攻撃ラグビーを思い出させ、結果を出すことで自信を持たせることに腐心したのではないだろうか。そういった意味でも、結果論かもしれないが、Cグループからの再スタートが幸いしたのかも知れない。
大東の持ち味は、パスを繋ぎに繋いで最後は大外で勝負するランニングラグビー。それが、いつしか強力な個の力に頼ってしまうラグビーになっていた。とくに現役トンガ代表2名(フィリピーネとエモシ)が同時にピッチに立っていた時代は、アタックの局面ではチームの一体感がなくなっていたように感じられた。そうして大きくチームのバランスが崩れたところで、強力な2人がチームを離れたことを機に攻撃力が一気に低下。そして、下位に低迷することになってしまった。また、レギュラーシーズンに負傷者が相次ぎ戦力ダウンを強いられたことも大きかった。
今シーズンだが、FWにハフォカ、BKにサウマキといった大型かつ強力な新人が加わったことが大きい。とくに当面はインパクトプレーヤーとして終盤からの登場になりそうだが、サウマキが豪快なランニングでトライの山を築くシーンがすでに目に浮かぶ状態になっている。彼らの他にも、BKを中心に春の段階からレギュラーに抜擢された新人が多く、このことがチームによい刺激を与えている。激しいレギュラー争いがチーム力を押し上げることは間違いない。課題はFWのセットプレーだが、闘将の高橋主将が最前線に立って引っ張るFWは力負けしないはず。怖いのはやはり怪我、そして強力な選手に依存してしまう体質が生まれてしまうことだが、序盤戦に前年度上位校とあたることで逆に緊張感を持って試合に臨むことが出来るだろう。久しぶりとなる「モスグリーン旋風」でリーグ戦を活性化させて欲しい。
◆立正大学 ~潜在力は十分。大東大に負けず暴れて欲しい~
悲願の1部復帰で意気上がる立正大。2部降格前の1部リーグでの戦いでは不完全燃焼のまま終わってしまった感が強い。とにかく、慎重な戦いに徹していた感があり、ゲーム終盤になってようやくエンジンがかかって猛攻を仕掛けるものの、時既に遅しという闘いぶりだった印象が強い。しかし、春のセブンズ大会では、そんな過去を忘れさせるような積極的に仕掛けるチームへと変貌を遂げていたので安心した。また、大東大戦では、相手の勢いが勝って一方的な展開となってしまったが、潜在力の高さは見せてくれた。
昨シーズンは2部に所属し、今シーズンも大東大戦しか観ていないためチームの特徴はまだわからないが、基本的にはSOツトネを軸としたオープン展開志向のチームだと思う。また、BK展開では飛ばしパスやロングパスを使ったワイドな攻撃を目指しているようだ。ただ、大東大戦ではWTBにボールが渡った段階でアタックが詰まってしまうことが多く、効果的な攻撃ができていなかった印象が強い。FWとの連携を交えた工夫が必要なようだ。期待の選手はセブンズで活躍したNo.8 の加藤、決定力のある早川、パワフルな鶴谷ら。序盤戦は苦戦を強いられるかも知れないが、最初から積極果敢な攻めを見せて欲しい。