1950年代の半ばに『ジャンゴ』、『コンコルド』、『フォンテッサ』、『大運河』と立て続けに名盤を生み出し続けたMJQ。同じ頃、ソニー・ロリンズとジミー・ジュフリーをそれぞれゲストに迎えた『アット・ザ・ミュージック・イン』の2枚も素晴らしい内容の作品に仕上がっている。
だが、ジャズが大きな転換点を迎えた1960年以降のMJQはあまりフォローされてるとはいえないようだ。やはり、1960年に録音された『ヨーロピアン・コンサート』が集大成になってしまったのだろうか。解散直前の1974年に録音された『ラスト・コンサート』で再び脚光を浴びるが、そこに至るまでの10年余りは不遇の時代だったと言えるだろう。
では、時代の最先端を行くようなジャズを生み出し、一世を風靡した感のあったMJQは時代に置いていかれてしまったのだろうか。正直に告白すると、私自身もそんな想いを抱いていた。『フォンテッサ』や『大運河』の世界に満足していたこともあるが、ジャズ初心者ゆえに他に興味を持ったアーティストがあまりにも多く、MJQを十分にフォロー(賞味)せずに来たとも言える。
しかし、かれこれ5年くらい前のある日のこと、無性にMJQの音楽が聴きたくなりCDを買い集めた。そこで得た結論は、MJQをしっかり聴き込んでいなかったことがいかに大きな損失だったかということ。名曲をちょっとばかし知っていただけで、MJQを聴いた気分になっていただけの話だったのだ。このグループの演奏は密度が高いだけでなく、とても深い内容を持っている。
とくに衝撃を受けた1枚は『ピラミッド』だった。もちろん、このレコードのことは昔から知っていて、帯に記された「MJQの頂点」というフレーズがずっと気にはなっていたものの、購入するに至らなかったのだった。タイトル曲を聴いたとき、一瞬「これもMJQの演奏なのか!?」とホッペタをつねりたくなるくらいにショックを受けた。レイ・ブラウンがマヘリア・ジャクソンの熱唱にインスパイアされて作曲したアーシーなブルースナンバーだ。
もちろん、ミルト・ジャクソンもジョン・ルイスも生粋の「ブルースの人」だ。でも、ポピュラーチューンにも通じる演奏をMJQから聴けるとは夢にも思わなかった。(実は、『ヨーロピアン・コンサート』の第2集にもしっかりこの曲は入っているのだが、つい最近2枚組のCDを手にするまで第2集の演奏は知らなかったのだった。)
まずはミルト・ジャクソンがジョン・ルイスの心のこもったサポートを得て、これ以上はないと言うくらいに熱き想いをヴァイブにぶつける。これがサックスだったらかなり暑苦しい演奏になったに違いない。それとは対照的に、ジョン・ルイスは極限までに絞り込まれたピアノタッチで(ミルトとは違った形で)熱き想いを綴っていく。この2人のまったく異なるプレースタイルによる「心と心の交流」が最大の聴き所。であると同時に、MJQのもっとも感動的な場面の記録にもなっている。どうして、今までこんな大切なことに気づかなかったのだろうか。
『ピラミッド』では、耳慣れたスタンダード・ナンバーの「ハウ・ハイ・ザ・ムーン」も聴き応えがある作品に仕上がっている。散文調のそれこそ「断片」を繋いでお馴染みのフレーズを浮かび上がらせてみせる斬新な手法はジョン・ルイスならでは。このアルバムを聴いたことで、それまでMJQに対して抱いていたイメージは180度以上変わった。これは嬉し過ぎる再発見なのだ。
その後、MJQがギアチェンジをして『サード・ストリーム・ミュージック』に取り組んだり、オーネット・コールマンの『ロンリー・ウーマン』を取り上げたりした60年代前半は、マイルスやコルトレーンらが新境地を切り拓いて邁進していた時期にもあたり、どうしても地味なMJQの音楽は顧みられなかった部分があった点は否めない。でも、彼らもしっかりと時代に残る仕事をしていたのだ。ということで、今は『ピラミッド』以降のアルバムをじっくり聴き込んでいる。
そういえば、ジョン・ルイスの労作『ブルース・オン・バッハ』も殆ど手つかずのままだ。ちょっと時間はかかったが、「宝の山」を掘り当てたような嬉しい気分になっている。
◆The Modern Jazz Quartet “Pyramid”
1) Vendome (John Lewis)
2) Pyramid (Ray Brown)
3) It Don’t Mean A Thing [If It Got Got That Swing] (Duke Ellington & Irving Mills)
4) Django (John Lewis)
5) How High The Moon (Nancy Hamilton & Mogan Lewis)
6) Romain (Jim Hall)
John Lewis : Piano
Milt Jackson : Vibraphone
Percy Heath : Bass
Connie Kay : Drums
Recorded in April, 1959 – January, 1960