映画「ほとりの朔子」を映画館で見た。
単館での公開なので渋谷に向かった。映画評論家筋の評判もよく入りはいい。意外にもおじさんたちが目立つ。
二階堂ふみの主演映画が公開になるのはうれしい。「ヒミズ」「脳男」はいずれも自分に鮮烈なインパクトを残し、好きになった。主演となった彼女の演技力を期待して鑑賞した。
大学受験に失敗した朔子(二階堂ふみ)は現在一浪中だ。
8月下旬、朔子は叔母・海希江(鶴田真由)に誘われ海辺の家で、夏の終わりの2週間を過ごすことになった。ヨーロッパ旅行で留守にするもう1人の伯母・水帆(渡辺真起子)の家に向った。叔母海希江は以前この地に住んでいて、旧友が何人もいた。叔母と朔子は血のつながりがない関係である。
朔子は叔母の古い知り合いである亀田兎吉(古舘寛治)や大学生の娘辰子(杉野希妃)、そして甥の孝史(太賀)と知り合う。亀田はラブホテルまがいのビジネスホテルの支配人をしており、高校不登校の甥はそこでバイトしていた。大学生の娘辰子は海の家でバイトしていたが、父親とは仲がよくなかった。亀田を介して知り合った朔子と孝史は同世代で意気投合して親しくなった。久々にこの町に来た海希江、亀田、辰子、後から海希江を追いかけてきた西田(大竹直)たちは、微妙にもつれた人間模様を繰り広げる。朔子は孝史をランチに誘う。しかし食事をしようとした矢先に、彼に急接近する同級生・知佳(小篠恵奈)から連絡が入るが。。。
主題のポスターになっている二階堂ふみが川のほとりに足を差し込む映像は確かに美しい。ただ、芸術的ともいえる映像はそれだけで、ごく自然に田舎の海辺の町にとけこむ二階堂ふみの姿を映し出していく。一生懸命勉強してきたのに本命の大学にも滑り止めの大学にも全部落ちてしまった理系の浪人生である。一度だけ叔母に勉強しなさいよと言われるが、勉強内容に関する会話はほとんどない。本当は勉強しなければならないのに、初めての町で、関係が複雑な大人たちと触れ合い、大人の恋の匂いに微妙に揺らぐ心の動きを表情で示している。役者歴を重ねてうまくなっているのがよくわかる。
今回の二階堂ふみは今までに増してナチュラルな演技である。年齢も設定の役とは差がないこともあって、高校生役の大賀との会話も極めて自然に流れる。日常に通じる匂いを醸し出しているのでいい感じだ。
ウディアレンが得意な「2人が歩くのをカメラを引きながら映し出すドリーショット」がいい。「ヒミズ」では主人公を熱狂的に崇拝する高校生、「脳男」は狂気的な犯罪を犯す少女を演じた。いずれもいいが、ここで見せた二階堂ふみの演技は本来の彼女を感じさせるようで好感が持てる。しかも、この映画の避暑地ファッションはなかなかいいセンスをしている。
共演する鶴田真由と杉野希妃の2人は、いずれも典型的美人である。でも、普通の男性であれば二階堂ふみにより魅力を感じるのではないだろうか?
亀田の甥で、彼のホテルでバイトをしている孝史(太賀)が割といい味出している。昔から青春映画のヒロインには相手役が付き物で染谷将太といいコンビと思っていたが、大賀とのコンビも悪くない。「桐島。。」「さんかく」など自分が見てきた映画にも出てきたようだが、あまり記憶はない。割と出演作も多いせいか、ナチュラルな二階堂の演技にすんなり合わせられる技量もあるようだ。俳優中野英雄の息子だが、オヤジには似ていない。これから伸びていく俳優だと感じる。
ここでの彼の役柄は福島原発事故のため、この海辺の町に避難している設定だ。高校を転校したが、セシウムで身体が汚染されているとバカにされ不登校になっている。いじめの場面あるけど、こんなこと言う高校生がいるかどうかは少々疑問?朔子と2人で浜を歩いているときに出会った同級生の知佳(小篠恵奈)から、一緒に話したいと言われる。この後の展開がおもしろい。
朔子と一緒に食事している時に、知佳から彼の元に電話が入る。困ったなあ!と一瞬うろたえる表情を見せる孝史だが、朔子は「ここに呼んだら」と言う。すぐさま折り返し電話をして知佳を呼び出す。
「すぐ来るよ」と孝史が言うと、朔子は「じゃ2人で楽しんでね」と食事が来る前に帰る。
一連のシーンに「うーん」と自分はうなった。
浜を歩いている朔子と孝史の姿を見て、同級生の知佳が孝史の携帯を聞いてくる。その直前には孝史をバカにする高校生の男の子と一緒に歩いていたのだ。人のものが欲しくなる人間心理かな?という気がした。別の女性と歩いてみるのを見るとその男が欲しくなるような女の子っているかもしれない。急にその男がよく見えてくるのである。
デート中に電話がかかってきても無視するのが当然だろう。でも、孝史は携帯を机の上においている。電話に出て、しかも一緒にいる朔子の気持ちなんて全く考えない。その行為自体いくらなんでもないよという感じもするが、高校生の男ではそこまで考えないのかもしれない。朔子は気を利かせたお姉さんのような顔をして店を去る。この展開もめずらしい。だいたいこのパターンは高校生の恋愛映画だったら、泣きが入るパターンがほとんどだ。朔子はがっかりするが、失意泰然といった顔をする。脚本のリズムがいい。このあたりで見せる二階堂の表情がなかなかリアルだ。
いきなりプロデューサー杉野希妃という名が冒頭のクレジットに出てくる。その後で出演者としてもクレジットが。。なるほどこの美人女子大生なのね。(調べると後輩のようだ。ずいぶん年下の役やるねえ。こういうタイプのすげえ美人って学部には昔からいたなあ。)学校でて随分と変わった履歴の方だ。キムギドクの作品に彼女が出ていたのはよく覚えている。ロッテルダム国際映画祭の審査員になるというのはすごいなあ。
西田(大竹直)は人気の大学教授で、女子大生辰子が通っている大学に出張講座に来た。妻もいるのに叔母の海希江と逢引きしようという下心で来たみたいだ。でも接近してきた辰子と帰り道に西田の車で同乗する。その後は。。。。こういうさばけた子もいるとは思うけど?!
映画を通じて見せ場は数多くあるが、「脳男」のようにエキセントリックな刺激はまったくない。ずば抜けて強い印象を与えるシーンもない。でもおもしろい要素はたくさんある。
兎吉のホテルに時折売春で訪れるオヤジの振る舞いと彼が来たときにする音楽セッティングの話、原発集会に予期せぬ形で呼ばれてしまったときの、主催者側の期待とは違う話をする孝史の振る舞い、ヤル気満々で来た大学教授が肩透かしをくって、2人での逢引きができず、みんなで会うことになってしまい教授がすねるシーン(このときの大学教授の気持ちって男としてよくわかるなあ:こんな場面何回か自分も経験している、同じようにむかついたなあ)などなど。。
刺激的な台詞があるわけではないが、日常の延長のようでいい感じだ。飲み会のシーンでは本当に飲んでいるんじゃないか?と思わせる雰囲気を感じる。そういうナチュラルな感じがいい。
1つだけ難点を言うと、英語の字幕だ。役者が話すセリフとイメージがどうしても違って読める。これって付けておく必要あるのかしら?
(参考作品)
単館での公開なので渋谷に向かった。映画評論家筋の評判もよく入りはいい。意外にもおじさんたちが目立つ。
二階堂ふみの主演映画が公開になるのはうれしい。「ヒミズ」「脳男」はいずれも自分に鮮烈なインパクトを残し、好きになった。主演となった彼女の演技力を期待して鑑賞した。
大学受験に失敗した朔子(二階堂ふみ)は現在一浪中だ。
8月下旬、朔子は叔母・海希江(鶴田真由)に誘われ海辺の家で、夏の終わりの2週間を過ごすことになった。ヨーロッパ旅行で留守にするもう1人の伯母・水帆(渡辺真起子)の家に向った。叔母海希江は以前この地に住んでいて、旧友が何人もいた。叔母と朔子は血のつながりがない関係である。
朔子は叔母の古い知り合いである亀田兎吉(古舘寛治)や大学生の娘辰子(杉野希妃)、そして甥の孝史(太賀)と知り合う。亀田はラブホテルまがいのビジネスホテルの支配人をしており、高校不登校の甥はそこでバイトしていた。大学生の娘辰子は海の家でバイトしていたが、父親とは仲がよくなかった。亀田を介して知り合った朔子と孝史は同世代で意気投合して親しくなった。久々にこの町に来た海希江、亀田、辰子、後から海希江を追いかけてきた西田(大竹直)たちは、微妙にもつれた人間模様を繰り広げる。朔子は孝史をランチに誘う。しかし食事をしようとした矢先に、彼に急接近する同級生・知佳(小篠恵奈)から連絡が入るが。。。
主題のポスターになっている二階堂ふみが川のほとりに足を差し込む映像は確かに美しい。ただ、芸術的ともいえる映像はそれだけで、ごく自然に田舎の海辺の町にとけこむ二階堂ふみの姿を映し出していく。一生懸命勉強してきたのに本命の大学にも滑り止めの大学にも全部落ちてしまった理系の浪人生である。一度だけ叔母に勉強しなさいよと言われるが、勉強内容に関する会話はほとんどない。本当は勉強しなければならないのに、初めての町で、関係が複雑な大人たちと触れ合い、大人の恋の匂いに微妙に揺らぐ心の動きを表情で示している。役者歴を重ねてうまくなっているのがよくわかる。
今回の二階堂ふみは今までに増してナチュラルな演技である。年齢も設定の役とは差がないこともあって、高校生役の大賀との会話も極めて自然に流れる。日常に通じる匂いを醸し出しているのでいい感じだ。
ウディアレンが得意な「2人が歩くのをカメラを引きながら映し出すドリーショット」がいい。「ヒミズ」では主人公を熱狂的に崇拝する高校生、「脳男」は狂気的な犯罪を犯す少女を演じた。いずれもいいが、ここで見せた二階堂ふみの演技は本来の彼女を感じさせるようで好感が持てる。しかも、この映画の避暑地ファッションはなかなかいいセンスをしている。
共演する鶴田真由と杉野希妃の2人は、いずれも典型的美人である。でも、普通の男性であれば二階堂ふみにより魅力を感じるのではないだろうか?
亀田の甥で、彼のホテルでバイトをしている孝史(太賀)が割といい味出している。昔から青春映画のヒロインには相手役が付き物で染谷将太といいコンビと思っていたが、大賀とのコンビも悪くない。「桐島。。」「さんかく」など自分が見てきた映画にも出てきたようだが、あまり記憶はない。割と出演作も多いせいか、ナチュラルな二階堂の演技にすんなり合わせられる技量もあるようだ。俳優中野英雄の息子だが、オヤジには似ていない。これから伸びていく俳優だと感じる。
ここでの彼の役柄は福島原発事故のため、この海辺の町に避難している設定だ。高校を転校したが、セシウムで身体が汚染されているとバカにされ不登校になっている。いじめの場面あるけど、こんなこと言う高校生がいるかどうかは少々疑問?朔子と2人で浜を歩いているときに出会った同級生の知佳(小篠恵奈)から、一緒に話したいと言われる。この後の展開がおもしろい。
朔子と一緒に食事している時に、知佳から彼の元に電話が入る。困ったなあ!と一瞬うろたえる表情を見せる孝史だが、朔子は「ここに呼んだら」と言う。すぐさま折り返し電話をして知佳を呼び出す。
「すぐ来るよ」と孝史が言うと、朔子は「じゃ2人で楽しんでね」と食事が来る前に帰る。
一連のシーンに「うーん」と自分はうなった。
浜を歩いている朔子と孝史の姿を見て、同級生の知佳が孝史の携帯を聞いてくる。その直前には孝史をバカにする高校生の男の子と一緒に歩いていたのだ。人のものが欲しくなる人間心理かな?という気がした。別の女性と歩いてみるのを見るとその男が欲しくなるような女の子っているかもしれない。急にその男がよく見えてくるのである。
デート中に電話がかかってきても無視するのが当然だろう。でも、孝史は携帯を机の上においている。電話に出て、しかも一緒にいる朔子の気持ちなんて全く考えない。その行為自体いくらなんでもないよという感じもするが、高校生の男ではそこまで考えないのかもしれない。朔子は気を利かせたお姉さんのような顔をして店を去る。この展開もめずらしい。だいたいこのパターンは高校生の恋愛映画だったら、泣きが入るパターンがほとんどだ。朔子はがっかりするが、失意泰然といった顔をする。脚本のリズムがいい。このあたりで見せる二階堂の表情がなかなかリアルだ。
いきなりプロデューサー杉野希妃という名が冒頭のクレジットに出てくる。その後で出演者としてもクレジットが。。なるほどこの美人女子大生なのね。(調べると後輩のようだ。ずいぶん年下の役やるねえ。こういうタイプのすげえ美人って学部には昔からいたなあ。)学校でて随分と変わった履歴の方だ。キムギドクの作品に彼女が出ていたのはよく覚えている。ロッテルダム国際映画祭の審査員になるというのはすごいなあ。
西田(大竹直)は人気の大学教授で、女子大生辰子が通っている大学に出張講座に来た。妻もいるのに叔母の海希江と逢引きしようという下心で来たみたいだ。でも接近してきた辰子と帰り道に西田の車で同乗する。その後は。。。。こういうさばけた子もいるとは思うけど?!
映画を通じて見せ場は数多くあるが、「脳男」のようにエキセントリックな刺激はまったくない。ずば抜けて強い印象を与えるシーンもない。でもおもしろい要素はたくさんある。
兎吉のホテルに時折売春で訪れるオヤジの振る舞いと彼が来たときにする音楽セッティングの話、原発集会に予期せぬ形で呼ばれてしまったときの、主催者側の期待とは違う話をする孝史の振る舞い、ヤル気満々で来た大学教授が肩透かしをくって、2人での逢引きができず、みんなで会うことになってしまい教授がすねるシーン(このときの大学教授の気持ちって男としてよくわかるなあ:こんな場面何回か自分も経験している、同じようにむかついたなあ)などなど。。
刺激的な台詞があるわけではないが、日常の延長のようでいい感じだ。飲み会のシーンでは本当に飲んでいるんじゃないか?と思わせる雰囲気を感じる。そういうナチュラルな感じがいい。
1つだけ難点を言うと、英語の字幕だ。役者が話すセリフとイメージがどうしても違って読める。これって付けておく必要あるのかしら?
(参考作品)
ほとりの朔子 | |
浪人生のひと夏 | |
私の男 | |
二階堂ふみの真骨頂 | |
『こんにちは赤ちゃん』のBGM・・・
「この、エロ親父!」
冒頭、浪人生・朔子(二階堂ふみ)と叔母・海希江(鶴田真由)が海辺の街を歩く、穏やかなシーン。英語字幕スーパーが流れるせいもあり、日本であって日本でないような、無国籍な避暑地の景色が心地良かったです(ロケ地は、三浦半島の某所?)。
本作のことを「社会派青春夏物語」と評する向きもありますが、それは少々「頭でっかち」な解釈ではないでしょうか。
主役を演じた二階堂自身、「朔子の青春の物語・・・周りの大人たちにとっての青春物語・・・大人になるのも、そんなに悪いことじゃないって気付かせてくれる、そんな作品です」と
総括していますが、それさえも大袈裟な印象です。「浪人生の少女が、将来の目標を見つけた、ひと夏の成長物語」・・・で充分でしょう。
脇役では、兎吉(古館寛治)、その娘・辰子(杉野希妃)の存在感が光っていました。
『こんにちは赤ちゃん』のBGM・・・
「この、エロ親父!」
いずれもこの映画を象徴する言葉ですね。
「こんにちは赤ちゃん」が流れた時のあの売春オヤジの顔とホテルの支配人であるオジサンの顔をつい思い出して笑ってしまいます。
>本作のことを「社会派青春夏物語」と評する向きもありますが、それは少々「頭でっかち」な解釈ではないでしょうか。
>「浪人生の少女が、将来の目標を見つけた、ひと夏の成長物語」・・・で充分でしょう。
これらは同感です。そんなに難しく考えることはないでしょう。
ただ、字幕はちょっと余計かな?といった印象。俳優がしゃべる日本語の響きと字幕の英語があっているように思えないので。。。
どうもありがとうございました。