映画とライフデザイン

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映画「シャイン」 ジェフリー・ラッシュ

2013-01-03 08:15:33 | 映画(洋画 99年以前)
映画「シャイン」は1996年のオーストラリア映画だ。
ピアノ版「巨人の星」というべき父と子の物語が前半語られた後、練習しすぎで精神に異常をきたした主人公が再度輝く(shine)姿と、その復活に向けた周囲の援助が後半で語られる。ジェフリーラッシュはこの映画でアカデミー賞主演男優賞を受賞している。その受賞は当然というべき緻密な演技だ。

映像は雨の中街のカフェバーに入って行く一人の男(ジェフリー・ラッシュ)を写す。壊れたメガネをしている男は、言葉もたどたどしい。精神に障害があるように見受けられる。店の人が中にいれたくないタイプだが、大雨なのでやむなく入れる。その男はピアノに向かおうとしている。
時代は戻って、その男の幼少時を映す。

少年デイヴィッド(ノア・テイラー)は父ピーター(アーミン・ミューラー=スタール)からのピアノレッスンに毎日励む日々であった。父母と3人の姉妹と暮らしていた。父親はポーランド移民で、二次大戦中はナチスの収容所に入っていた。性格は頑固そのものだ。町で子供のピアノコンクールがあった。たどたどしくピアノの前に座るデイヴィッドがいきなりショパンのボロネーズを巧みに弾く。審査員はアッと驚いた。一人の審査員が家に訪ねてきた。彼には凄い才能がある。自分のもとで練習すれば、一流の演奏家になれる。父は断った。自分のもとでやった方がいい。父は厳格というばかりでなく、その父性は異常なところがあり、自分からデイヴィッドを離さなかった。

父はラフマニノフのピアノ協奏曲3番が好きで、レコードで聴いていた。その曲を息子に演奏したがっていた。難曲である。自分では指導は無理と初めて以前訪ねてきた審査員であるピアノ教師に無給で指導を依頼した。その才能を認めピアノ教師はデイヴィッドを指導し、彼はピアノの神童と言われるまでその腕を伸ばす。
14歳のとき、アメリカ合衆国の音楽家からデイヴィッドへ音楽留学の手紙が来る。しかしながら父親は、留学を許可せず手紙を焼く。19歳になった時再度彼の元に、イギリスの王立音楽院に留学する話が持ち上がる。父は彼が家族から離れることを暴力的に拒否する。デイヴィッドは著名な女流作家であるキャサリン・プリチャード(グーギー・ウィザーズ)と年齢を越えた友情を結んでいた。彼女から父親が反対しても今回は行きなさいと言われていた。家を飛び出す形でロンドンに向かう。奨学金を得て、王立音楽院で一流の音楽家に師事する。デイヴィッドは、コンクールで難曲ラフマニノフの「ピアノ協奏曲第3番」に挑戦し、見事に弾いたものの倒れる。その後精神に異常をきたし始める。。。

難曲ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番との格闘が前半のキーポイントだ。

ピアノレッスンを正式にしたことがない自分がいうのも何だが、この早弾きは超絶技巧と言えるだろう。ラフマニノフと言えば、ピアノ協奏曲2番がメジャーかもしれない。ロシアの大平原をイメージしたような美しい主題ではじまる2番は映画でも「逢引き」や「7年目の浮気」で流れている。ラフマニノフの伝記映画でもこの曲がメインになっている。最初の主題と3楽章の大詰めに流れるメロディはいろんなバックミュージックに繰り返し奏でられている。淀川長治の「日曜映画劇場」の解説が終わるや否や第1主題が崇高に流れていたのが印象的だ。自分の好きな曲の一つである。

一方の3番がそのように町で流れるのは聴いたことがない。軽い主題があるが、その直後からテンポが速まり、強烈な早弾きのピアノが奏でられる。2番は美しいメロディが印象的だが、3番はピアノテクニックを聴かせる曲といったイメージだ。超絶技巧が必要なだけに3番を演奏するピアニストは限られる。

天才ホロビッツは若き日にラフマニノフの前でこの曲を披露し賞賛された。その後晩年にいたるまでこの曲を弾いていた。ホロビッツがこの難曲をいかにも優雅に弾く姿は美しい。あとは鍵盤の女王マルタ・アルゲリッチが情熱的に早弾きする姿もわくわくさせられる。いずれも映像がある。

そんな難曲への挑戦で精神に異常をきたした主人公は精神病院に入る。この映画では、年をとってもお漏らししてしまう彼の姿や突如裸になったりする主人公の異常な部分を映す。ここからはジェフリーラッシュの出番だ。指だけ弾いている部分でなく、ジェフリーが自ら弾いている部分を見せる場面もある。こういう場合、明らかにメロディと指が全く合っていない場合も多い。今回は違う。ジェフリーラッシュにピアノの素養があったのがわかる。主人公の特徴を示すために、その奇行をいろんな形で見せている。


でもこの映画で一番痛快なのは、主人公が「くまんばちのテーマ」を弾くシーンであろう。精神病院を退院した後冒頭のシーンに戻って行く。雨の中カフェバーに入ってピアノの前に座るのだ。どう見ても精神異常者だ。その彼を冷やかすまわりの人間にはお構いなしで、くわえタバコでこの曲を弾き始める。ものすごい早弾きだ。ギャラリーはびっくりする。そして彼の演奏に聴き入り、終わるや否や拍手喝采。冷やかした人間は何も言えない。実にスカッとするシーンだ。

主人公の父親が異常なまでの父性を見せるのが前半のテーマだ。演じる俳優がまさに嫌な奴を演じる。これもお見事だ。後半になると、ダメ男だけどピアノだけはできるという主人公に対して母性本能そのものにいろんな女性が寄ってくる。その母性も後半のテーマだ。こういうのを見ると、人間の善意って捨てたもんじゃないと感じてしまう。


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