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映画「伊豆の踊子」 美空ひばり版

2014-06-29 06:57:24 | 映画(日本 昭和34年以前)
映画「伊豆の踊子」美空ひばり版は昭和29年(1954年)公開の松竹作品

「伊豆の踊子」はノーベル文学賞を受賞した川端康成が小説家を志してまもなく書いた短編小説である。川端自らが、旧制一高時代に伊豆を旅した思い出に基づき書かれた作品といわれている。
昭和初期に田中絹代、38年に吉永小百合、49年に山口百恵と当代きっての大スターによって演じられている。
この3作が有名であるが、17歳になろうとする美空ひばりが踊り子を演じている。 監督は松竹の看板野村芳太郎である。当時戦後を代表する歌姫美空ひばりはこのころ年間10本程度のペースで映画に出演していた。作品の背景や踊り子という設定を加味すると、ルックスも含めて一番リアルに近いのはこの作品かもしれない。

時代は昭和のはじめ、第一高等学校の学生である主人公水原(石浜朗)は、沼津経由で伊豆の修善寺に向う馬車の中にいた。温泉場にいる小説家をたづねていき、そこで歓待を受けたが、気分がのりきれなかった。温泉場の部屋から外を眺めると、1人の踊り子が目に付いた。純情無垢な姿を見て心ときめかせた。
そのまま主人公が下田に向かって旅立つと、温泉場で見かけた踊り子(美空ひばり)が、旅芸人の一行とお茶屋で一緒に休んでいた。話をすると、一行はどうやら下田に向かうようだ。旅芸人一行は踊り子かおるの兄である栄吉が率いていた。
自分とは違う身分の一行たちと話をしながら進む道中は楽しいものであった。一行はまた別の温泉場に入り、宿をとる。旅芸人たちは仕事で宴会に呼ばれた。宴会の酔客の前で踊りを披露したが、かおるは酔客たちにからまれていた。その宴会の様子が音で伝わり、主人公は少女を不憫に思った。
主人公は黙って道中ついていくだけだったが、徐々に踊り子にひかれるようになっていったが。。。

1.美空ひばり
天才少女として売り出した美空ひばりは、昭和25年に「悲しき口笛」を大ヒットさせている。
そのとき、まだ13歳、花菱アチャコ、榎本健一、堺俊二、そして芸能界での後見人川田晴久などの戦前からの大スターを従えて映画「東京キッド」を作り映画界でも基盤をつくる。昭和26年の芸能雑誌「平凡」の人気歌手ランキングでは女性でトップとなる人気ぶりだ。男性を含めても岡晴夫、小畑実につぐ3位で田端義夫、藤山一郎という名歌手よりも人気が高い。
そんなひばりが16歳のときにつくった映画だ。声がわりしているので、大人になったときのひばりの声に近い。
小柄なひばりがここでも小さく見える。恋愛を知らない少女のようだ。

2.大衆の人気者
横浜の天才少女として売り出しているひばりに対しては、やっかみが強かった。
NHKの「のど自慢大会」に出たときには、完璧な歌にもかかわらず、鐘が一つもならない仕打ちを受ける。
笠置シズコの物まねをしていたが、歌うなといわれ、服部良一からも冷たい仕打ちを受ける。
そんなことになってもひばりは上昇志向を持ちながら成長していく。

自分が幼稚園生から小学生になりテレビの歌謡番組に関心を持ち始めた昭和40年代初頭、ひばりは女性歌手の中で一歩抜けた大スターだった。ひばりの最大のヒット「柔」、1人酒に胸にしみる響きの「悲しい酒」ブルーコメッツと一緒に歌ったGS風「真赤な太陽」とヒット曲が続く。小学生の自分には彼女の振る舞いが尊大なおばさんのイメージにしか感じなかった。
竹中労の本でそのイメージが少し変わった。

3.旅芸人への差別
伊豆路を下田へ向って進むとき、温泉場のある町に入ろうとすると、そこには看板が立っていた。
「乞食と旅芸人入るべからず」となっている。乞食はともかく、旅芸人まで何で差別するのと思ってしまう。そういえば上原善広「日本の路地を旅する」というノンフィクション本を読んだときに、いわゆる伝統的に差別を受ける人たちと並列で旅芸人が書いてあったのを思い出した。
お茶屋のおばさんが、旅芸人をあんな連中とさげすむのに対して、学生にすぎない主人公に対して旦那とよぶ。

野村芳太郎が監督をつとめるからか、社会性が強いのかもしれない。

戦前は大学や旧制高校はもとより旧制中学すら行く人は少なかった。
大正時代、旧制高校に合格できれば、よほどのことがなければ帝国大学にいけた。少数なるゆえ、特権階級的な存在だった。竹内洋「学歴貴族の栄光と挫折」には、この本が書かれた大正14年の旧制高校の入学最低点がのっている。旧制高校全体の入学最低点が800点換算で平均403点なのに一高は503点、三高が458点、五高354点で開きがある五高だって東大に行ける。佐藤栄作総理大臣も五高出身だ。数字から見ても一高は特権階級の中の超エリートとわかる。
ここでも主人公は一本線の入った帽子に学ランで旅行する。
ある意味自己顕示欲甚だしいという気もするが、みんなそうしていたようだ。

最近格差社会の話がいたるところで語られるが、この当時における格差は半端じゃない。
今の方がましだと思うんだけど

4.石浜朗
吉永小百合には高橋英樹、山口百恵には三浦友和という男性コンビがいる。ここでは石浜朗だ。
そののちにホームドラマでよく見た石浜の中年紳士振りが目に浮かぶ。ここでの彼の美青年ぶりには正直驚いた。鼻筋がきれいで、整った顔立ちだ。ダルビッシュを思わせる甘いマスクといえる。
現代のジャニーズファンは真っ青だろう。実生活では当時立教の学生
正直ひばりには不釣り合い。でもそれがこの映画の自然さを生むのかもしれない。

5.竹中労&中村とうよう
名ルポライター竹中労は女性雑誌の記者として名を売り、名エッセイをたくさん残している。彼の文章力は凄い。念入りな取材に基づく臨場感あふれるリズミカルな文を読むとどれも唸らせられる。その竹中の傑作が「完本 美空ひばり」である。都市伝説が多いひばりの生涯であるが、竹中がひばりサイドに近い時期もあり一番真実をつかんでいる本だと思う。ノンフィクション自伝の傑作である。その竹中労が、数多くあるひばり映画の中で一番好きなのは「伊豆の踊子」だという。興味深いのでみてみた。

竹中の本によれば、戦後、気取った左翼知識人により歌謡文化は一歩下に見られている。
1967年に竹中労がキューバに行った時、ひばりのレコードを持参していった。しかし、同行した音楽評論家中村とうよう氏から「物笑いの種になる」と叱られたそうだ。偉そうに!と思ってしまう。左翼ばかりでなくインテリと称する人々からひばりの歌は嫌がられる。でもそれとは反対に、圧倒的大衆の支持があったことを竹中はこの本で述べている。
(調べると、中村の方が竹中より年下だ。こんな奴一発殴ってしまえばいいものの、そうはいかないか。。。中村が存命中にこういう文章書いて、中村を苦しめる方がよっぽどの暴力だ。関係ないと思うけど中村とうようは自殺している。中学の頃彼の評論も読んだが、それだけの人物ということだ)

(参考作品)
伊豆の踊子
出しゃばらない美空ひばり

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