映画「ラストマイル」を映画館で観てきました。
映画「ラストマイル」は通販サイトの物流倉庫から出荷された荷物の爆発事件を描く満島ひかりと岡田将生主演の作品。TV中心で活躍する演出家の塚原あゆ子が監督を務める。人気脚本家の野木亜紀子とのコンビでTBSでTVドラマを製作している。コンビのTV番組は見ていない。全面的にTBSが製作に関わっているのが強調されている。「ラストマイル」とは「顧客に荷物を届ける最後の区間」を示す。
11月米国資本の大手通販サイト「デイリーファースト」の西武蔵野にある物流倉庫のセンター長に就いたばかりの舟渡エレナ(満島ひかり)は、チームマネージャーの梨本孔(岡田将生)と一緒に仕事をすることになった。サイト最大のイベント「ブラックフライデー」の準備をしている。ところが、この物流倉庫から配送された段ボール箱に入ったデイリーフォンが爆発して受取人が死亡する事件が発生する。
すぐさま警察から連絡が来て、倉庫内を調べようとするが、エレナは売り上げに影響するのでラインは止められない。厳重なセキュリティで倉庫に入室していると拒否して、配送会社の羊急便に責任を押し付ける。羊急便の売上には「デイリーファースト」のウェイトが高かった。配送センター責任者(阿部サダヲ)は慌てると同時に下請けの零細配送業者も当惑する。
その後も爆発事件が続き、犯人を探るために倉庫の探索が避けられない状況になる。
想像以上におもしろかった。
単なるパニック映画なのかと一瞬思い、観るのを迷ったが観て正解。通販サイトや物流問題とまさに我々の生活に直結するアップデートな問題を取り扱っている。経済小説を読むような肌合いだ。
セリフを聞いて「うーんなるほど」と相槌を打つ場面が多い。爆弾を仕掛けた犯人も最初から絞らせないミステリー的要素もあり名脚本家野木亜紀子女史の腕前に思わずうなる。満島ひかりと岡田将生のコンビのセリフはいかにも現代若手社員らしさがにじみ出ている。2人ともうまい。通販サイトの幹部ディーンフジオカも服装も含めて最近の若手エリートの雰囲気をにじみ出す。
加えて、脇役にまわった俳優陣に主演級が揃いあまりに豪華なので驚く。綾野剛、星野源、石原さとみ、井浦新、松重豊、麻生久美子そして薬師丸ひろ子と続くといったいどうしたの?と思う。自分は見ていないが、『アンナチュラル』(2018)と『MIU404』(2020)の出演者たちだと映画を見終わった後わかる。通販サイト、物流に関係ない2つのドラマを映画ストーリーに組み合わせた巧みさもお見事だ。
⒈登場人物のキャラクター
登場人物が多いのにそんなに混乱しない。TVドラマ出演組の主演級俳優たちも最低限のセリフにとどめている。一方でメインキャストのキャラクターには深入りする。
満島ひかり演じる舟渡エリカは米国に本社がある大手通販サイトの物流倉庫のセンター長だ。異動で着任してきたばかりなのに、早速仕切っている。自分をエリカと呼べという。現代風女性上司ってこんな感じなのかという発言が多い。カスタマーセントリックと言いながら自社利益確保のため配送業者など下請けへの締め付けも強い。
米国本社の株価への影響をまず第一に考えて、ここで物流ラインが止まったらまずいと警察の捜査を妨げる。なかなか家に帰らない。昭和の男性企業戦士と変わらない。いやなやつだと思わせるが、映画の最後までそうだったわけではない。「川の底からこんにちは」から満島ひかりを追いかけるが、今回は良かった。
岡田将生は満島ひかりが来る前からこの物流センターに勤務するマネジャーだ。満島ひかりから仕事のディテールの教えを請う。中途採用組で満島ひかりほどドライではない。もともとハッカーだった過去を持ち、IT系の知識を持つ。この物流センターには正社員は9名しかおらず、数百人の派遣社員に作業させている。正社員は特権階級と言えよう。外資系だけでなく、社労費負担の軽減のために利益を大きく出している会社には多いパターンである。
⒉外資系通販サイトとロケ地
この映画はロケハンに成功している。米国本社の大手通販サイトといえば誰もがアマゾンを想像するし、意識しているのは間違いない。本体からの圧力が強いのは実際はどうなんだろう?ブランド名が違うけど、黒とオレンジのブランドカラーが似ている。
まさかアマゾンに倉庫ではないでしょうと思いつつ、この映画ロケ地はどこだろう?と思っていたら検索して機械工具商社「トラスコ中山」のサイトにロケ地として協力したニュースリリースがあった。埼玉の幸手と群馬の伊勢崎にあるという。ネットを見たらまさに映画に出てくる倉庫だ。いいとこ見つかったね!と言ってあげたい。
⒊物流問題
今やまともな会社であれば、業種問わず物流問題で頭を悩ませるはずだ。運転手が確保できるのか?物流倉庫をどの場所に置くか?受けてくれる配送業者がいるのか?品目あたり単価いくらで合意するか?政府のお達しもあり、労働時間問題とも直結する。この映画ではまさにアップデートな問題にも関わりを持つ。
火野正平と宇野祥平が2人でやっている零細の業務委託系の運送屋もクローズアップする。通販サイトで注文すると、必ずしも大手の配送者が配達に来るだけではないのは自分も承知している。映画のセリフでは一個あたり150円の単価で引き受けているのだ。爆弾が入っているから受け取れないとなると金にならない。ガソリン代その他を加味して利益出るのかなと思ってしまう。
ところが、こういう配送業者がいないとネット通販全盛の現代の生活は成り立たない。困ったものだ。なつかしいアメリカの「ヴェンチュラハイウェイ」をバックで流す。2人が運転する軽自動車に妙にお似合いだ。
⒋野木亜紀子
TVドラマに縁がなくなった自分でも「逃げるは恥だが役に立つ」は好きだ。他のTV番組は見ていない。映画では「罪の声」や「カラオケ行こ」は観ている。両方とも好感をもっている。でもその2作と比較してこの映画は格段にいい脚本だ。通販会社や物流会社の関係者にそれなりの取材をしないと書けないと思う。セリフに不自然さがない。
爆弾仕掛けた犯人探しというこの映画の主題に関しても、ここでは言えないが数人にあやしいと思わせる行動をさせたり、セリフをいわせたりして我々の予測を迷わせようとする。うまい!若手エリート社員と言われる面々のセリフがいかにもそれらしく生意気なのが現実的に聞こえる。
意識的だと思うが、映画内の配役でそれぞれの幹部に女性を揃えた。主演の物流倉庫センター長だけでなく、米国本社も女性幹部で、麻生久美子演じる警察の署長も女性である。もちろん監督、脚本に加えてプロデューサーも女性である。女性比率が高い作品だけど、配送関係者の男性の苦労にも言及を怠らずフェミニスト的な匂いは感じられない。いずれにしても次回作も楽しみだ。
映画「ラストマイル」は通販サイトの物流倉庫から出荷された荷物の爆発事件を描く満島ひかりと岡田将生主演の作品。TV中心で活躍する演出家の塚原あゆ子が監督を務める。人気脚本家の野木亜紀子とのコンビでTBSでTVドラマを製作している。コンビのTV番組は見ていない。全面的にTBSが製作に関わっているのが強調されている。「ラストマイル」とは「顧客に荷物を届ける最後の区間」を示す。
11月米国資本の大手通販サイト「デイリーファースト」の西武蔵野にある物流倉庫のセンター長に就いたばかりの舟渡エレナ(満島ひかり)は、チームマネージャーの梨本孔(岡田将生)と一緒に仕事をすることになった。サイト最大のイベント「ブラックフライデー」の準備をしている。ところが、この物流倉庫から配送された段ボール箱に入ったデイリーフォンが爆発して受取人が死亡する事件が発生する。
すぐさま警察から連絡が来て、倉庫内を調べようとするが、エレナは売り上げに影響するのでラインは止められない。厳重なセキュリティで倉庫に入室していると拒否して、配送会社の羊急便に責任を押し付ける。羊急便の売上には「デイリーファースト」のウェイトが高かった。配送センター責任者(阿部サダヲ)は慌てると同時に下請けの零細配送業者も当惑する。
その後も爆発事件が続き、犯人を探るために倉庫の探索が避けられない状況になる。
想像以上におもしろかった。
単なるパニック映画なのかと一瞬思い、観るのを迷ったが観て正解。通販サイトや物流問題とまさに我々の生活に直結するアップデートな問題を取り扱っている。経済小説を読むような肌合いだ。
セリフを聞いて「うーんなるほど」と相槌を打つ場面が多い。爆弾を仕掛けた犯人も最初から絞らせないミステリー的要素もあり名脚本家野木亜紀子女史の腕前に思わずうなる。満島ひかりと岡田将生のコンビのセリフはいかにも現代若手社員らしさがにじみ出ている。2人ともうまい。通販サイトの幹部ディーンフジオカも服装も含めて最近の若手エリートの雰囲気をにじみ出す。
加えて、脇役にまわった俳優陣に主演級が揃いあまりに豪華なので驚く。綾野剛、星野源、石原さとみ、井浦新、松重豊、麻生久美子そして薬師丸ひろ子と続くといったいどうしたの?と思う。自分は見ていないが、『アンナチュラル』(2018)と『MIU404』(2020)の出演者たちだと映画を見終わった後わかる。通販サイト、物流に関係ない2つのドラマを映画ストーリーに組み合わせた巧みさもお見事だ。
⒈登場人物のキャラクター
登場人物が多いのにそんなに混乱しない。TVドラマ出演組の主演級俳優たちも最低限のセリフにとどめている。一方でメインキャストのキャラクターには深入りする。
満島ひかり演じる舟渡エリカは米国に本社がある大手通販サイトの物流倉庫のセンター長だ。異動で着任してきたばかりなのに、早速仕切っている。自分をエリカと呼べという。現代風女性上司ってこんな感じなのかという発言が多い。カスタマーセントリックと言いながら自社利益確保のため配送業者など下請けへの締め付けも強い。
米国本社の株価への影響をまず第一に考えて、ここで物流ラインが止まったらまずいと警察の捜査を妨げる。なかなか家に帰らない。昭和の男性企業戦士と変わらない。いやなやつだと思わせるが、映画の最後までそうだったわけではない。「川の底からこんにちは」から満島ひかりを追いかけるが、今回は良かった。
岡田将生は満島ひかりが来る前からこの物流センターに勤務するマネジャーだ。満島ひかりから仕事のディテールの教えを請う。中途採用組で満島ひかりほどドライではない。もともとハッカーだった過去を持ち、IT系の知識を持つ。この物流センターには正社員は9名しかおらず、数百人の派遣社員に作業させている。正社員は特権階級と言えよう。外資系だけでなく、社労費負担の軽減のために利益を大きく出している会社には多いパターンである。
⒉外資系通販サイトとロケ地
この映画はロケハンに成功している。米国本社の大手通販サイトといえば誰もがアマゾンを想像するし、意識しているのは間違いない。本体からの圧力が強いのは実際はどうなんだろう?ブランド名が違うけど、黒とオレンジのブランドカラーが似ている。
まさかアマゾンに倉庫ではないでしょうと思いつつ、この映画ロケ地はどこだろう?と思っていたら検索して機械工具商社「トラスコ中山」のサイトにロケ地として協力したニュースリリースがあった。埼玉の幸手と群馬の伊勢崎にあるという。ネットを見たらまさに映画に出てくる倉庫だ。いいとこ見つかったね!と言ってあげたい。
⒊物流問題
今やまともな会社であれば、業種問わず物流問題で頭を悩ませるはずだ。運転手が確保できるのか?物流倉庫をどの場所に置くか?受けてくれる配送業者がいるのか?品目あたり単価いくらで合意するか?政府のお達しもあり、労働時間問題とも直結する。この映画ではまさにアップデートな問題にも関わりを持つ。
火野正平と宇野祥平が2人でやっている零細の業務委託系の運送屋もクローズアップする。通販サイトで注文すると、必ずしも大手の配送者が配達に来るだけではないのは自分も承知している。映画のセリフでは一個あたり150円の単価で引き受けているのだ。爆弾が入っているから受け取れないとなると金にならない。ガソリン代その他を加味して利益出るのかなと思ってしまう。
ところが、こういう配送業者がいないとネット通販全盛の現代の生活は成り立たない。困ったものだ。なつかしいアメリカの「ヴェンチュラハイウェイ」をバックで流す。2人が運転する軽自動車に妙にお似合いだ。
⒋野木亜紀子
TVドラマに縁がなくなった自分でも「逃げるは恥だが役に立つ」は好きだ。他のTV番組は見ていない。映画では「罪の声」や「カラオケ行こ」は観ている。両方とも好感をもっている。でもその2作と比較してこの映画は格段にいい脚本だ。通販会社や物流会社の関係者にそれなりの取材をしないと書けないと思う。セリフに不自然さがない。
爆弾仕掛けた犯人探しというこの映画の主題に関しても、ここでは言えないが数人にあやしいと思わせる行動をさせたり、セリフをいわせたりして我々の予測を迷わせようとする。うまい!若手エリート社員と言われる面々のセリフがいかにもそれらしく生意気なのが現実的に聞こえる。
意識的だと思うが、映画内の配役でそれぞれの幹部に女性を揃えた。主演の物流倉庫センター長だけでなく、米国本社も女性幹部で、麻生久美子演じる警察の署長も女性である。もちろん監督、脚本に加えてプロデューサーも女性である。女性比率が高い作品だけど、配送関係者の男性の苦労にも言及を怠らずフェミニスト的な匂いは感じられない。いずれにしても次回作も楽しみだ。