映画とライフデザイン

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映画「茜色に焼かれる」 尾野真千子&石井裕也

2021-05-22 22:47:46 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「茜色に焼かれる」を映画館でみてきました。


「茜色に焼かれる」石井裕也監督の新作である。川の底からこんにちは以来追いかけていた監督であるが、最近は題材に関心を持てずロードショーは行っていない。「舟を編む」が好きだ。今回は、コロナ禍での撮影と尾野真千子がシングルマザーを演じるという予備知識だけで公開早々観に行った。都内で上映館が少なく満席である。

高齢者運転による事故で犠牲になった夫と死別してシングルマザーとなった主人公が、中学生の息子と2人なんとか生きていこうとする姿を描く。オダギリジョー演じる夫が高齢者運転の犠牲になるシーンは明らかに現在裁判になっている「池袋の老人暴走事件」を意識している。

石井裕也作品独特のユーモアを持ちながら、いくつもの逸話を重ねていく。いかにも今の世相で取り上げられていそうな話が多い。でも、思想や政治的な要素はなく長時間飽きさせない映像を堪能できた。1年を通じてたぶん上位に評価される作品となるであろう。


葬儀の席に参列しようとする主人公田中良子(尾野真千子)が遺族と関係者にお焼香を止められている。7年前ブレーキとアクセルの操作を誤った加害者である老人の運転で夫(オダギリジョー)が犠牲になった。当事者に謝ってもらえないという理由で慰謝料の受領を拒否して、今後請求しないという示談書にもサインしている。それなのに弔問だ。

家賃2万7000円の公営団地で、中学生の息子純平(和田庵)と2人で住み、ホームセンターで働き慎ましい生活をしている。その一方で、家族には内緒でスペシャル専門の風俗で働いている。夫側の義父が住む施設の費用を支払い、夫が外につくった女の子どもの養育費まで支払っている。一度潰したカフェをもう一度やりたいと思っている。お金はいくらあっても足りない。

息子が学校で突然いじめっ子グループから交通事故の慰謝料をもらっているくせに、税金で補填する公営団地に住んで、しかも母親は売春婦だとからかわれ暴力まで振るわれる。母親にはそのことは言えない。Yシャツに血がついているのを見て、きっといじめられているのではと良子は学校側に強く抗議するが、教員は親身になってくれない。そんな時、良子は偶然に中学校の同級生と再会して心が和む。


ある時、風俗店の同僚ケイ(片山友希)に誘われて飲みに行った時に酔いつぶれてしまい息子が迎えに来る。その際、ケイと息子が意気投合する。ケイに接近しようとするが、どうも良からぬ筋の男と付き合っているのを恐る恐るつけていくのであるが。。。

⒈池袋暴走殺傷事件
高齢者運転による事故が多発している中でも、この事件は最も象徴的な事件となっている。亡くなった母子はじめ被害者の方々は本当にお気の毒である。100キロもスピードが出ているわけだからブレーキとアクセルの踏み間違いが推測される。でも、この事件があった後で、加害者は逮捕されていない。現在裁判進行中である。世間は呆れてものが言えないといったところだ。

政治にしろコロナ対策にせよ良い悪いが世間で言われる。現政権への批判も強いが、野党が政権をとったら大変なことになると、菅政権をかばう人も多い。ただ、池袋事件の加害者に対して腹が立たない人は、左右両派のどちらにもいないだろう。それくらい日本国民の敵といった象徴的存在だ。

「茜色に焼かれて」でも、オダギリジョー演じる夫を車でひいた老人の設定をあえて同じように元上級官僚として、あの事件を思い起こさせる。妙に観客の我々に同情心を起こさせる。ただ、この映画では加害者が亡くなって盛大な葬儀を執り行って多くの参列者が来ているとしているが、現実的にはこうはならないんじゃないかなぁという気がした。


⒉風俗嬢と尾野真千子
尾野真千子の作品は多々あれど、ハズレはない。最近の「ヤクザと家族」ではキャバクラ嬢を演じたが、ここでは口でいかせる風俗嬢となる。ちょっと前多かった普通の主婦って感じではない。


実は、この主人公ってちょっと変人である。交通事故で被害者の遺族となった訳だから、当然保険経由で賠償金が支払われるのであるが、加害者が謝らないという理由でカネを受け取らない。しかも、加害者の死顔を見てやろうと葬式に行く。

こういう人っているのかなあ?しかも、義父の施設の費用の大部分を負担した上に、夫が外腹でつくった子の養育費まで支払う。それでいて、風俗で働いている。設定に無理がある気もするが、あえてここまで大げさにしている。生活苦で食いぶちを風俗に求めるシングルマザーは少なくないだろう。でもコロナじゃ怖くて男どももいかないからきびしいよね。


⒊女体神社
渋谷のセンター街が出てきたと思ったら、川のそばを自転車で疾走したり、風俗店は北関東の匂いもする。東和銀行の店舗外のキャッシュコーナーも出てくるからこの舞台はは群馬かな?なんて思うくらいロケ地はバラバラだ。まあ、ロケハンも大変だからそんなところに統一性持たせるのは無理かな?と思っていたら、神社の境内が出てくる。見たことあるところだ。


この神社の境内に似たところあるなと見ていると、詰めの部分でもう一度出てくる。あれ?これって女体神社じゃないの?と気づく。その後すぐさま氷川女体神社の文字が見えてやっぱりそうかと思う。浦和の奥の奥で、いつも参拝している神社である。派手さは皆無、でも家族で行く。免許取り立ての娘と神社近くの公園までドライブで追随した。

埼玉勤務の時、イマイチ乗り切れない営業マンが行って成績向上を祈ることで知った神社だ。御利益はあった。氷川神社が男の神社で、女体神社が女を祀る。こんなところで出てくるとはびっくり。偶然に主人公が中学校の同級生と神社で再会するが、浦和といっても超辺鄙なこの場所で会うというのは絶対にあり得ない場所だ。

そう言えば、石井裕也監督は埼玉県出身ということに気づく。キネマ旬報ベストテン1位の「夜空はいつでも最高密度の青色だ」よりはこっちの方がいいと思うなあ。


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