映画とライフデザイン

大好きな映画の感想、おいしい食べ物、本の話、素敵な街で感じたことなどつれづれなるままに歩きます。

映画「下町(ダウンタウン)」 山田五十鈴&三船敏郎

2017-11-22 18:13:12 | 映画(日本 昭和34年以前)
映画「下町(ダウンタウン)」(昭和32年:1957年)を名画座で観てきました。

「流れる」の併映である。「蜘蛛巣城」「どん底」三船敏郎と山田五十鈴の共演があるが、ほぼ同じ時期にこんな映画がつくられていたとは知らなかった。DVDもないようだ。映画は出征した夫を待つ女が、ふとしたことで労務者の男と知り合うという話である。

戦後4年たった東京下町、静岡から上京したりよ(山田五十鈴)は茶の行商をしているが顧客はなかなかいない。シベリヤから還らぬ夫を幼い留吉と共に待っていた。葛飾を行商中に鉄材置場の番小屋の男鶴石(三船敏郎)と出会う。彼女を小屋に入れ火にあたらせ、茶まで買ってくれた。彼はシベリヤからの復員者だった。

りよは下谷稲荷町の幼友達きく(村田知英子)の二階を借りている。きくは療養所の夫のため闇の女をしている玉枝(淡路恵子)へ部屋を貸し、客の世話をしてその上前をはねていた。きくはりよにもそういう商売をしたらと持ちかけてくるが、客に声をかけられたとき、そんな話は聞いていないといった。その夜、おきく夫婦と玉枝は売春の疑いで警察に呼ばれた。


鶴石に留吉もなついているので、三人で一緒に浅草へ遊びに行った。激しく雨に降られ、三人は小さな旅館で休んだ。夜半、鶴石が彼女にささやきかけてき、抱こうとした。りよは一瞬抵抗したが、再度迫られたとき心は崩れ、りよの方から男の首を激しく抱いた。翌朝、鶴石は面倒を見てくれると言って別れたあと、しばらくして鶴石の事務所へ行くと、彼の姿が見えないのであるが。。。

1.林芙美子
この時代設定は昭和24年である。自らの半生を描いたといわれる「放浪記」をみると、若き日から相当苦労したようだ。「浮雲」で仏印から帰国後身を落としながらも一人の男と腐れ縁の恋をする女を高峰秀子が演じる主人公にしても、ここで山田五十鈴が演じる主人公にしてもなんか切ない女である。

女性の地位が低いので、今のように大学卒の女性総合職として、下手をすると男より稼ぐ女はその当時はいない。仮に学があってもまともな仕事にありつけないこともある。いきなり、山田五十鈴が飛び込みで住戸をまわり、お茶はいりませんか?と行商する姿が切ない。昭和24年前後にはこういう女はいっぱいいたんだろう。いろいろ言うけど、今は誰もが幸せだ。

2.山田五十鈴
演技は本当にプロ中のプロである。戦争未亡人とほぼ同じようなつらい思いをしている女を上手に演じる。なかなか売れない行商でつかれている時にやさしくしてくれる男ができた。出征した夫を待つ身でありながら、魅かれた男と結ばれるなんて、どちらかというと日活ポルノみたいなストーリーである。「いけないわ!」と言いながら、夜這いで迫る三船敏郎の身体を両手でぐいっと抱きしめるシーンが妙に情感をおぼえる。


青空文庫に林芙美子「下町」はあった。でもかなり短い短編である。多作で身をつぶしたといわれる林芙美子があくせく書いた一作なんだろう。淡路恵子演じる身を売る女や売春の斡旋をされそうになる多々良純の存在など映画もいくつかの設定を加えているが、それでも短い。本来であれば、その後の主人公の行方まで描いてもいいんだろうけど。しかし、林芙美子は若くして昭和26年に亡くなっている。あと10年生きてくれれば、短編がつなげられたのにと思う。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする