42 幽霊はなぜ怖いのか?
小学生のころ、多摩川園のお化け屋敷によく行きました。友達、二、三人と入る。先頭を歩くのはいやでしたね、怖いから。暗闇から不気味な人形が飛び出すものが一番怖かったような記憶があります。たいてい腐敗した死体のように作った人形でした。多摩川園は、客が少なくなったためでしょうが、消えてしまいましたが、今でもこういう商業施設はやっていけているのでしょうか?
大人になってからは、子供のお供で何度か似たようなお化け屋敷に入った経験がありますが、子供の反応に興味が行っていたからか、全然怖さは感じませんでした。さらにじゅうぶん年をとった今では、幽霊どころか、ガンも放射能もちっとも怖くありませんが、年齢と関係なく幽霊が怖いという人は多いようです。
この世で一番怖いものは何、と小学生に聞くと、たいていの子は、幽霊、お化け、などと答える。夜暗くてさびしいところは怖い。墓場は怖い。などと言います。ハロウィーンなどは幽霊が怖い子供たちが皆との遊びに変えることで怖さを紛らそうというお祭りでしょう。大学生くらいまでその気分は残っているようで、肝試し会などで暗い墓場に行ってくる、とか、お化け人形とか、ホラー映画とか、怖いから大好きという若い人は多い。
年をとって人生経験豊かになると、とにかく現実世界に忙しくて、夢や幻やおとぎ話や幽霊の話などには興味がなくなります。「この世で一番怖いものはお金のために人をだます人間だ」などと言うようになります。しかし、子供は正直です。正直に幽霊を怖がる。原始人や未開人も幽霊をひどく怖がるようです。
幽霊が怖いということは人類共通の、生まれつきに近い感性ではないでしょうか?
もしそうであるとすれば、動物の中で人類だけが幽霊を怖がるという性質を持っているということでしょう。なぜそうなのか?
なぜ人間は幽霊を怖がるのか? 拙稿本章ではそれを調べてみましょう。
幽霊はなぜ怖いのか?
というより、まず、怖くない幽霊などいるのか?
怖いから幽霊がいるのではないか?
漫画のオバQなど幽霊のようだが、怖くない。あれは、妖精のようなもので人間に悪さをしないから怖くない、といわれます。幽霊は死んだ人が恨みを持って出てくるものだから怖い、といわれます。
ところで幽霊は人に害を及ぼすのか?昔の人は、幽霊に取り殺されたりしています。怖いものであるからには、ひどい害を及ぼすものであるはずです。
しかし現代人の感覚では、幽霊は人を殺したり、障害を与えたり、物を壊したりしない。江戸時代くらいから後の幽霊は、「うらめしや」と怖い声で言うだけで、ものを変形したりする物理的運動能力はないようです。
それではなぜ、そんな無能力の幽霊が怖いのか?
見かけが気持ち悪いから?死体みたいな外観をしているから?「うらめしや」と怖い声で言うから?恨む必要がないのに関係ない私たちまで勘違いして恨みそうだから?
昔の人が信じていた幽霊は、やたらに嫉妬深いというか、八つ当たりというか、自分が死んでしまったのにまだ生きているやつはけしからん、と思うのか、見境なく生きている人を殺したりしたようです。吸血鬼やゾンビみたいに生きている健康な人を襲って死なせて仲間に引きずり込む。
そういう迷信を信じていた昔の人たちの不安はよほど強かったようで、葬式や埋葬の習慣はその不安を緩和するためにできてきたといえるようです。
ところで、その人類共通の生得的ともいえる素朴なその感情はどのような仕組みで作られているのでしょうか?
幽霊はなぜ怖いのか。一見素朴に見えるこの問いには、人間は人間というものを何と思っているのか、という深遠な存在論の一端が含まれています。