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哲学の科学

science of philosophy

二足歩行術(5)

2024-11-30 | その他



スフィンクスによれば、人間は昼、二本足で歩く。逆に言えば、二本足で歩く間が昼間である。沈む太陽を、少しでも呼び戻せられれば、幸せと感じられるでしょう。■








(101  二足歩行術  end)





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二足歩行術(4)

2024-11-23 | その他


現代のロボットは、シーラカンスに比べて、かなり単純な制御で動かされています。これでは、不整地など、現実の環境に適応できないのは仕方ないでしょう。
二本足の人間は、このヒレから進化した脚を使って走ったり、立ち続けたりしなければならないので、関節や筋肉を相当、複雑に制御しています。倒れないだけで立派なものです。
人体の姿勢歩行の制御系は、脊髄腰部、延髄、脳幹、間脳視床、大脳辺縁系、大脳皮質、と六、七段階に積み重ねられた制御系の階層によってコントロールされています。上位の層が下位の層を監視、調整しています。
どの階層が劣化しても、パーキンソン病、アルツハイマー病などの不具合を顕示して、よろめき歩きとなり、歩行困難になります。
まさに三本足人生から、車椅子、外出不能、ねたきりと、一方的に劣化は進み、回復はありません。
各階層の神経細胞の伝達機能が劣化するので徐々に運動能力が衰えていきます。多段階の冗長系なので神経系の迂回伝達路はたくさんあり、劣化した回路を放棄して、回り道する回路を補強すれば、なんとか運動を回復できる場合が多い。リハビリではその訓練をしてくれます。
リハビリで迂回路神経を使用できるようになれば、劣化機能は補完できますが、元の性能までは回復できません。
なんとか立てるようになった、とか、少し歩けるようになった、という回復でも、人生の成功感は取り戻せます。








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二足歩行術(3)

2024-11-16 | その他


一九八〇年代、通産省機械技術研究所は自動運転の研究の最先端でした。隣の筑波宇宙センターにいた筆者は、宇宙用AIの相談のため機械研の舘暲博士を訪ねた際に、自動運転実験を見学させてもらいました。「実用にはまだまだ」と彼は言っていました。
今日、自動車運転の完全自動化は、実用に達しています。一方、二足歩行ロボットも当時から研究されてきましたが、人体の歩行制御に匹敵するスムーズな自動機構は、いまだに達成されていません。
二足歩行に限らず、人体のほとんどの自動機構は、現代にいたっても、ロボット化されていません。呼吸、睡眠、咀嚼、嚥下、排便、外分泌、内分泌、興奮、鎮静など、体内で無意識に行われている種々の不随意の人体自動調整機能は、人間的生活の基礎であり、個人の幸福にとっては何よりも重要なものです。しかし脳脊髄系にあるそれらの神経回路の構造も機構も、医学的にも、科学的にも、いまだに、あまりよく分かっていない、と言わざるをえません。
現代の医学研究者は、もちろん熱心に脳脊髄系の研究を進めていますが、ますます困難な研究領域である、ということが分かってきています。たとえば本章でテーマにしているこの歩行という簡単そうなメカニズムは、科学として解明されたというにはほど遠い状況です(一九九五年 K. G. ピアソン「Proprioceptive regulation of locomotion.」 Pearson, K. G. 1995)、(二〇一六年 大畑光司「歩行をどう分析しどう臨床に生かすか」)。

動物は、二本足あるいは四本足、六本足または多足などを構成する関節と筋肉を神経信号で動かして移動しています。脊椎動物では、四本足はシーラカンスのような古代魚のヒレ足から進化しています。
三億数千万年前ころ、シーラカンスの類から進化した肺魚が水際を這っていたようですが、ヒレ足を構成している手足の指は八本とか腿の骨は数本とか、今の陸上動物より多くの関節を持っていて、込み入った神経回路でコントロールしていたらしい、と推測されています。








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二足歩行術(2)

2024-11-09 | その他


床に固定されていた閲覧用の椅子の脚に、右のつま先が引っ掛かったのでしょう。右足の着地点が予想地点からずれてしまった。、体軸に予想しない回転力がかかり、重心が不測の速度で右側に移動していきます。
左足が着地している間に、右足の次の一歩で重心をすばやく移動して体制を立て直すべきです。中脳の制御回路が高速で運動出力の計算をしていたのでしょうが、間に合いませんでした。
あるいは足の筋肉の収縮力が予想運動モデルより弱すぎて計算結果を実行するのに必要な筋肉収縮速度が出なかった結果かもしれません。
こういう運動は、力が積分されて速度に代わるという原理を、身体が知っているからできます。力ベクトルが三次元空間で積分されて速度ベクトルがつくられる、というニュートンの力学第二法則を脳脊髄系の制御システムに組み込んでおかないとできません。
歩行制御の脳脊髄システムへの入力は、足裏の圧力センサー、視覚、三半規管、筋肉の張力センサーなどです。これらの神経信号が制御回路で計算されて、足腰の筋肉の収縮弛緩を指令する運動神経に出力されます。
脳脊髄の回路は神経細胞をネットワークに組み上げて作られていますから、個々の神経細胞が劣化するとだめになります。老人のアルツハイマ―病など、神経細胞の内部構造が劣化するので回路の計算性能が維持できなくなります。
老人が転びやすいのは、筋肉の衰えと同時に、運動制御の神経回路が劣化するからです(二〇二一年 山縣 桃子、建内 宏重、市橋 則明「高齢者における歩行中の運動制御と転倒との関連」日本基礎理学療法学雑誌)。老人が転びやすくなったら、筋肉細胞の弱化であるとともに、神経細胞の劣化、つまり認知症、が現れる予兆ということができます。
転倒制御に限らず、咀嚼運動、嚥下運動、発声運動など日常生活に重要な、無意識に実行できる運動制御機能の多くは、円滑に機能している場合は、当然のごとく使っていますが、阻害されると重大な生活困難に陥ります。
ハンドルがふらつく自動車を運転させられるドライバーは、すぐ降りたくなるでしょう。神経回路の老化は、ふつう、病院に行っても治りません。神経系の障害の多くは現代医学では解明ができていません。研究は世界中で進められていて、この数十年で相当な発展をみせていますが、神経回路の複雑なメカニズムの全容が解明されるのは次の世代を待たなければなりそうです。

健康な時は、何も考えずにスムーズに歩くことができる。足腰が悪くなるとそうはいきません。歩くことに集中しないと転んだり、つまずいたりします。
歩行運動はふつう無意識でうまく実行できる。運動中の人間は、いつも無意識に注意を怠らず、各瞬間、次にどう動くかを計算して行動している。自分は考えて運動している、とは思っていません。
これは不思議な現象です。左右の足を交互に運ぶことなど、まず意識しません。あっちへ行こうと思うだけで、そっちへ足は動いていきます。これはつまり、歩行の制御に、大脳はほとんど使わない、ということです。
人間がいつも、ものを考えるために使っている大脳は、歩行運動にはほとんど不要である、つまり歩行は主に無意識な自動運動である、といえます。自動運転の車に座っているだけで目的地に到達する、というような現象です。







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二足歩行術(1)

2024-11-02 | その他


(101  二足歩行術  begin)




101  二足歩行術


スフィンクスは、目の前を通りかかる旅人に謎をかけて、回答できないことを理由に食べ殺していました。
「朝は四本足、昼は二本足、夜は三本足。これは何か」。オイディプスに「それは人間だ」と答えられると、谷底へ身を投げて死んだ、といわれています。

人間は一歳の誕生日前後で二足歩行するようになりますが、初めはすぐ転ぶ。起き上がりがうまくできることが二足歩行の最重要課題です。
次に、転ばずに歩き続けるためには、安定した歩行術というものを身につけなければいけません。一歳児は毎日毎時間の練習の末、これができるようになります。大人はこの技術の習得が完了しているので、無意識でも転ばずに歩ける。老人になると注意を怠ると転ぶ。杖を使っても自由にはいきません。
二足歩行という運動を実現するためには、二本の脚を持っていて、そこについている筋肉が使える必要があります。それだけではだめです。連続的な筋肉運動を動的に安定させるための制御回路を、脳内に装備している必要があります。
二足歩行する人体の体軸は常に倒れ続ける。足の筋肉を動かして、倒れる方向に体重を移動することで重心を保つことができる。つまり必要な筋肉が周期的に収縮と弛緩を繰り返して動き続けることで静かにゆっくり重心の移動が行われます。
これに特化した特殊な制御回路が必要です。脊髄腰部と脳の中心部にあるこの制御機構の回転が阻害されると、よろよろと倒れてしまいます。

後期高齢者の筆者はスフィンクスの言うところの三本足で移動すべき時期に達した人間ですが、杖を使うのは面倒なので、ふつうは二本足で、足元に多少用心しながら、歩きまわっています。先日、本屋の店内で、椅子の足につまずいて転倒してしまいました。







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