「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2005・12・05

2005-12-05 06:45:00 | Weblog
 今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。

 「このごろケンカは少くなったが、以前は多かった。見ると弱いほうがさきに手を出す。まっ青になってふるえている。強いほうは弱いほうが手を出すのを見守っている。ふるえるくらいなら逃げればいいというのは人情を知らないもので、弱いほうは恐怖にかられてほとんど倒れんばかりの姿勢でつかみかかる。」

 「私は人を個人と法人に分けて、わが法人の九割は個人の化けたものだと言ったことがある。国家もまた法人だから図体は大きくても似たところがある。戦争でも弱いほうがさきに手を出す。強いほうは待っている。
 昭和十六年、だれが見ても勝ちみのない戦さをわが軍がはじめたのは恐怖心からだった。すでにゴムも鉄も石油もない。戦うなら今をおいてはない、あとになればなるほど勝てなくなるという理由ではじめるのは、はじめる理由が薄弱だと他人は思うが当人は思わない。
 これまでもあったことである。これからもあるだろう。」


  (山本夏彦著「不意のことば」-夏彦の写真コラム-新潮社刊 所収)
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