「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2005・12・23

2005-12-23 07:30:00 | Weblog
 今日の「 お気に入り 」は 、山本夏彦さん ( 1915 - 2002 )のコラム集から 。

 「 人は年をとったからといって利口になるわけではない
  もし利口になるならこの高齢化社会である 、利口だらけになっている
  はずなのにならない 。ついこの間 私は『 機械アル者ハ必ズ機事アリ 、
  機事アル者ハ必ズ機心アリ
』と 古い箴言を引用したら 、少年でも
  分る者には電光のように分って 、大人でも分らない者には全く分らなかった 。
   私は今ファクシミリで原稿を送っている 。それまでは担当者が毎週または
  毎月取りに来ていた 。往復するのに一時間や二時間はかかったろう 。その
  時間は全くいらなくなった 。私ひとりではない 。延べ何十人何百人の執筆者
  がファックスを使えば延べ何百時間何千時間が倹約になる 。
   それだけひまになって 、それだけ給料があがったかというとそんなことは
  全くない 。かえっていそがしくなった 。コードレス電話もまた同じである 。
  あれは自動車のなかまで追いかけてくる 。機械あれば機事があるのである 。
  この考えは産業革命以来の文明の根底をゆるがす危険な考えだから 、たい
  ていの大人は耳を傾けない 。委曲を尽せば尽すほど聞かない 。かえって
  子供のほうが聞いてくれるのである 。
   故に私は子供の友であって大人の友でないことがある 。二人の間に年齢は
  ないのである 。生きている人に友が得られないから 、死んだ人を友とする
  のである 。古い本を読むことは死んだ人と話をすることで 、生きている
  人に友が得難ければ古人を友にするよりほかないのである
。」


  ( 山本夏彦著「 愚図の大いそがし 」文春文庫 所収 )
コメント
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