「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2005・12・18

2005-12-18 07:10:00 | Weblog
 今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。

 「 何度も言うがわが税制は我々の嫉妬心の上に立っている
  今から十年前二十年前千万円の貯金があるものは持てるもので 、持てるもの
  からは奪うのが正義だと気勢をあげていたら 、いつのまにか自分も千万円の
  預金の持主になって 、しまったと思うならまだしも今度は一億持つものは持
  てるもので 、持てるものから奪うのは正義だと言うのだから 、その根底に
  あるのは 際限のない 嫉妬 だと分るのである 。
   嫉妬心なら劣情で 、劣情がそのままあらわれるのはさすがに恥ずかしいから 、
  それはいつも正義のふりをして出てくる 。私が正義と聞いたら疑うのはこの
  故である 。新聞が税制改革を金持優遇貧乏人いじめだというのは読
  者の多くが貧乏だと思っているから 、それに迎合してのことである

  金持といわれるといやがって 、貧乏人といわれると安心するのは『 進歩的 』
  と関係がある 。正直者はバカをみるとといわれて喜ぶのも似たようなメンタ
  リテからである 。
   百万読者はたいてい貧乏で 、それは正直だからだとこの言葉はいわんばかり
  だから喜ばれるのである 。貧乏なのは儲けようとして儲けそこなっただけか
  もしれない 。バカをみたのはうまく立回ろうとしてしくじっただけかもしれ
  ない 。それをみんな正直のせいにしてくれるから この言葉は耳に快いので
  ある 。
   サラ金で借金でもしないかぎり 、昔のような貧乏はもうないとみていい 。
  金持もまたないとみていい 。あると言いはるのはどこかにあったほうが好都
  合だと思うものがまだいるからである 。」

  (山本夏彦著「『豆朝日新聞』始末」文春文庫 所収)
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