「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2005・12・24

2005-12-24 08:50:00 | Weblog
 今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。

 「まことに投書は記事の生き写しである。これを見るごとに私は我々の『口』は
  何のためにあるかを思わずにはいられない。他人と同じことを言うためにある。
  ちがうことを言うのは恐ろしい。だからキャンペーンという。
  同じことをいっせいに言うことである。」

 「投書は掲載されることを欲するから、掲載されないと予想される文を投ずる者は
  ない。投書は常に新聞と同意見である。すこし違った意見があっても、それは
  色どりに採用されたのである。
  新聞と投書の仲は戦前と同じである。二・二六事件の前後の新聞は、政党者流を
  利権の亡者、財閥の走狗と書くこと毎日のようだった。それをまに受けて青年
  将校は閣僚重臣を殺した。殺したのはよくないがその憂国の至情は諒とすると
  新聞は書いたから、諒とする投書が集まった。ほら血書まであると写真入りで
  報じたから、投書はさらに集まった。集まったのではない。集めたのである。」

  (山本夏彦著「愚図の大いそがし」文春文庫 所収)
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