国道122号沿いの音楽喫茶 『ドルフィン』

さぁ、音楽を聴け!
コーヒーは自分で沸かして用意して…
そんな仮想の音楽喫茶

大宮・四谷・根津極楽ジャズ巡り 第2章「なぜ彼女の歌に人は惹きつけられるのか?」

2010年02月21日 | マスターの紀行文
今回の「いーぐる」連続講演は、ビリー・ホリデイ特集だった。
ビリー・ホリデイに興味がある僕としては何が何でも参加するつもりでいた。
今回の講師は金丸正城氏で、本職のジャズ歌手ということだ。
残念ながら僕は知らなかったのだが、
本職の歌手がビリー・ホリデイをどのように解説するのかにも興味が引かれた。

金丸氏は、まずホリデイの後期作品から取り上げた。
コモドアやデッカ(どちらもホリデイの歌を録音したレコード会社)は、
良いのが当たり前で知られているが、
声質が落ちてきたといわれている後期のヴァーブなどにもいい作品がある
というのが金丸氏の考えである。
金丸氏がホリデイを聴いたのがヴァーブ盤からということだからのようだが、
これはよく分かる。
僕の場合はデッカの『ラヴァー・マン』が初ホリデイなわけだが、
常にホリデイにふれるのにいいところからふれるとは限らない。
どこを切り取ったとしてもいいのが一流というべきミュージシャンだろう。

さて、その後期のホリデイだが、
一般的に麻薬や飲酒の影響から声質が悪くなってきていると言われているが、
プロの歌手からするとどうもそれは違うようだ。
声の衰えはあるのだが、ホリデイの発声法が変わったことが大きいそうだ。
円熟期からホリデイはルイ・アームストロングの発声法を真似ているとのこと。
ホリデイは低音の発声をなるたけ使わず、高音で歌うことを得意としたようだ。
確かに歌を聴いてみると高音をしっかりととらえていて、
後期であっても高音が丁寧に歌われている。

また、ホリデイは歌に自分の感情を込めないそうだ。
歌詞に自分の感情を込めて歌うのが当たり前のように思えるのだが、
そういった「泣き」の歌い方ではなく、淡々と声とリズムで歌っていく。
実際に残っている映像を見ても、
ホリデイの目はじっと一点から動かず、見ているのか見ていないのかはっきりしない。
というか、その歌うホリデイの目に見ているこっちが吸い込まれそうなほどで
そのじっと見つめる目は歌の歌詞以上に多くのことを語っているように思えた。
金丸氏は「ブラックホールのように吸い込まれる」と表現していたが、
まさに「歌う」ということで聴客を未知の世界へ誘っている。

そのため「奇妙な果実」のように凄惨な歌詞であっても
怒りや悲しみといった感情で歌うのではなく、
その状況だけを非常に淡々と描写し、それが一層生々しさを与えているのだ。

ホリデイが他の歌手と大きく異なるのは、
声でリズムを取り、時に演奏を引っ張り、時に演奏を押し上げていくのだそうだ。
こういった歌手は古今東西なかなかいないそうだ。
その美しい声と正確なリズム感が、
ジャズに比類無き名歌手として名を残すことになったホリデイの核になのだ。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿