国道122号沿いの音楽喫茶 『ドルフィン』

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「いきなり日本語で来るので気を付けてください」

2012年02月05日 | ヒップホップについて
と言ったのは大和田氏である。
ミッシー・エリオットの「ゲット・ユア・フリーク・オン」を流す前である。
そして流れる
「これからみんなでめちゃくちゃ踊って、騒ごう、騒ごう」という暗めの男性の声。
初っぱなから吹き出さざるえない状況だ。
加えて「ぺんぺぺぺぺぺん」とまるで三味線が鳴るかのような音。
一体何なのだ、これは!という度肝の抜かれるトラックである。

東西抗争によりヒップホップの動きは南へと動いていく。
ジャズが様々な音楽様式を吸い込みながら大きくなっていったように、
ヒップホップも南部に広がる「ソウル」やら「R&B」やらを取り込みながら
それまでのヒップホップとは異なる姿へと変わっていく。

今回の『文化系のためのヒップホップ入門』で長谷川氏や大和田氏が
最も新しく取り出したのがここからだそうだ。
日本におけるヒップホップの印象は腰パンに野球帽で
気怠そうなラップというステレオタイプで固まっている部分があるのだが、
それはあくまでも東西抗争辺りまでの話であり、
歴史としてもよく語られる部分なのだそうだ。

問題はその後であり、しかも現在のヒップホップの現状である。
ヒップホップが南へ進出してくる中で1人のキーマンが登場する。
ティンバランドである。
彼は自分の作った曲をミッシー・エリオットやジェイZ、果てはマドンナまでに
提供をしているプロデューサである。
自分もアルバムを出しているのだが、
ティンバランド自身はトラックしか作れないそうだ。
そのトラックはサンプリングした「何か」がループをしているのだそうだ。
「ループ」はヒップホップがヒップホップたらん由縁の1つの要素である。

加えてティンバランドは曲のスピードをドレーよりも落として処理をしている。
これによりまるで三味線のように「ペんペん」とギターが鳴るのだ。
加えて遅くなることで更に空間ができ、
その間を歌とラップが自由に組み込むこめ、ほぼ即興的に作り上げられていくそうだ。

何よりも大事になるのが、ティンバランドの作り出すリズムである。
メロディーはティンバランドは作れないのだが、
リズムはそれまでの「2拍4拍」ではなく、
むしろカリブ海周辺諸国に伝わる「クラーベ」に近いという。

ここで前に『いーぐる』でやっていた村井康司氏の講演とつながりが出てくる。
村井氏はジャズの起源がニューオリンズだけではなく、
実はカリブ海周辺諸国からの影響があったことを前に話している。
その時にリズムとして出てきたのが「クラーベ」である。
「クラーベ」はニューオリンズの葬儀のパレードで流れた
「セカンド・ライン」のリズムと通じ合っているというのが村井氏の考えであったが、
ヒップホップでもここでつながっていくこととなる。
ヒップホップは東や西海岸で生まれたが、
巡り巡って黒人音楽のルーツリズムと言われるものと結び付いていった、
つまりは「先祖返り」をしていったと聴くことができるのだ。

1990年代も中頃である。
それなりに新しい機械や楽器が出て、電子的な音も生まれているのに
リズムは古くから伝わり、伝統の中にいつの間にか埋もれていってしまったものが
再び脚光を浴び、しかも「新しい」感覚と混じり合っていったというように考えられる。

確かにここら辺になってくるとそれまでの東西のヒップホップと違っていて、
果たして歌なのか、ロックなのか、ヒップホップなのか、それ以外なのか、
ジャンルとしても不明確となり、音もザラザラとした妙な緊迫感がある。
それでありながらT-ペインのような「チョップド・N・スクリュード」のように
更にレコードの回転数を落として、それこそテクノのように
「ふぁふぁふぁ~ん」としたまるでパフュームのような音楽を作っている。
(ちなみに件の曲が入ったアルバムが出たのが、パフュームのデビューと重なる)

サンプリング(もしくは演奏)でリズムを作り、それをループさせるという
最小限のヒップホップ条件を用いて、サウスで作られたヒップホップは、
それまでのDJやラッパーたちからは「あんなのヒップホップじゃない」という
ちょっと年期のいった人のような評価を下されている。
それはそうだろう。まるでどこかの応援団がやっているような曲だってあるのだ。
だが丹念にリズムに身を任せてみると、
それはやはりヒップホップの最も深い部分に眠る核がある。

いよいよ最後に現在のヒップホップへと進んでいく。
行き着くところまで行った感のあるヒップホップだが、
「ロック最後の聖域」とも言われる場所が残っている。
それは「駄目な僕」という自分の心の中である。

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