ジッタン・メモ

ジッタンは子供や孫からの呼び名。
雑読本の読後感、生活の雑感、昭和家庭史などを織り交ぜて、ぼちぼちと書いて見たい。

〔読後のひとりごと〕 【彰義隊遺聞】 森 まゆみ 新潮社

2006年03月24日 | 2006 読後のひとりごと

【彰義隊遺聞】 森 まゆみ 新潮社
彰義隊の敗北を「烏合の衆とて早くも大半何れかに落ちのびるという有様」。「烏合の衆」として江東区史は彰義隊を評価しているとのことだが、こうした権力側には楯突かない維新史観は結構根強く残っているのではないか。
 薩長土肥のサムライは常にまぶしい光を浴びて維新史で喝采を博すが、幕臣小栗上野介などは百万両伝説とともにチャンバラ映画でも悪役として描かれていた。  
著者はあとがきで、松岡英夫の「岩瀬忠震」「大久保一翁」を読み、川路、小栗などを知るにつけ旧幕側にも優秀な人材がいたことを知ったと書いていたが、これはまったくの同感。
私も同著「岩瀬忠震」を読んでから、徳川側の要人たちの生き方に関心を持った一人だ。

隊士から幇間になりながら矜持を守った松廼家露八、墓をつくり守り続けた天王寺詰頭の 小川椙太、隊を最初に提唱した伴門五郎、隊との袂を分けた渋沢成一郎などさまざまな 生き方がよく調べられていてリアルな表情をともなって再現された。
 
私の曾祖父の辰也が関宿藩の藩士だった。
五万六千石の関宿藩で130名が15歳の主君を担いで卍隊を結成し 彰義隊に加わった事情が委曲をつくされて紹介されていた。
これは大変ありがたかった。
調べたいと思った手がかりができた。

 勝海舟も認めているように、彰義隊は鳥羽伏見の戦い以後の江戸市中警護を託された幕府側正規軍であった。
徳川慶喜の身辺をとりまく「床机」から隊の名前となったようだが、慶喜が水戸へ下ることから、輪王寺、徳川霊廟の守護が彰義隊旗揚げの名分となったようだ。
天野八郎と渋沢の二派に別れたのもこの辺に原因があったらしい。
とまれ1000名の彰義隊が維新元年の旧暦5月、雨の上野公園を血で染めた。


 私の近所の古民家の額絵に鉄舟のものがある。
注意してみると、山岡鉄舟の揮毫はいろいろな所でみかけた。
鉄舟は13歳より禅学と剣を修めた人だそうだが明治20年に8か月かけて10万380枚の揮毫を書いたと本書にあった。
その散在したものがこの埼玉の当地にも残っているということか。
この人は慶喜とともに移った静岡藩藩政の輔翼を勤め、牧の原台地の開墾指導にあたって遠州茶の基を作ったという。

徳川慶喜は明治に入って78歳まで生き、21人の子供を残した。
江戸市民は一に幕府びいき、二に慶喜嫌いと屈折していたそうだ。
この本はそうした江戸下町っ子の彰義隊への聞き書きや伝聞、消息話などをひろく集めた。
ただ、集めすぎた感じは否めない。
微に入り細を究めての聞き書きから、話が横道にそれたり、同じ話が何度も繰り替えされて、刈り込み不足の印象は残った。
ただ、幕末史の大切な終章をたどるとき、大きな花火のような光芒を見せた上野彰義隊の全容がほぼ理解できたことはなによりも得がたい収穫だった。


 ■■ジッタン・メモ■■
彰義隊から会津、函館戦争関連の読書メモ

 【明治小説集】地の果ての獄 山田 風太郎 (読了日時不明)
 【南国太平記】上 下 直木三十五       (読了日時不明)
 【西郷隆盛の遺書】 伴野 朗 新潮文庫         20001029 
 【渋沢栄一 人間、足るを知れ】永川 幸樹 KKベストセラーズ  
                                                                           20050121
【散華 会津藩の怨念】永岡 慶之助 双葉文庫     20010409
 【会津藩燃ゆ】星 亮一 廣済堂文庫           20020610 
 【封印の近現代史】谷沢 永一 ・ 渡部 昇一 ビジネス社 20040908
 【罪なくして斬られる 小栗上野介】大嶋 昌宏 学陽書房
                                                                        20040530
 【幕末暗殺】黒鉄ヒロシ PHP研究所            20030616
 【魔群の通過】山田 風太郎 廣済堂文庫         19990517
 【一枚の幕末写真 追跡】 鈴木 明 集英社文庫     19990916
 【辞世のことば】 中西進 中公新書                  19870906
【幕府オランダ留学生】 宮永孝 中公新書            19871015
【近世日本国民史】 開国日本1 講談社文庫         19871016
 【天狗争乱】 吉村 昭 朝日新聞社            19980211



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