ジッタン・メモ

ジッタンは子供や孫からの呼び名。
雑読本の読後感、生活の雑感、昭和家庭史などを織り交ぜて、ぼちぼちと書いて見たい。

〔08 七五の読後〕 【年収300万円時代を生き抜く経済学】 森永 卓郎 知恵の森文庫 

2008年12月18日 | 2008 読後の独語
【年収300万円時代を生き抜く経済学】
                    森永 卓郎 知恵の森文庫 

著者の森永さんはクイズ番組で漢字のよく読めるタレント、ときどき新聞などで非正規社員の問題を取上げ正論を吐く人という印象を持っていた。
先日、久米宏の「テレビってヤツ」は瀬戸内寂聴、姜尚中、YOU などと並んでゲスト出演していた。
寂聴さんは、86歳の人生を通じての今を「こんなひどい時代はない、なぜ若い人は動かないのか、怒らないのか」を問い、森永さんは「株主に顔を向けるが従業員を切り捨て解雇する」経営者のモラルの荒廃を指摘していた。
「年収300万円」のこの本でもとりあげているが、小泉改革の為した最悪のものは市場原理主義を導入し、返す刀で、日本の終身雇用制度の根幹をぶち壊したことだ。
この点を明かにしたこの本に共感は残ったが、主張のいくつかには違和感も残った

● 終身雇用ありて 奇跡のニッポン復活し
1億総中流とは、昭和30年から40年代に見られた国民意識だった。
働くものに上流の意識はなかったが、下流とも思わぬ、まあ、いい時代だった。
あの頃、世界中から奇跡のニッポンと経済成長を讃えらたが、各国からの日本人論は集団主義で個性がない人種であると農協の海外旅行を例にひかれてモーレツに皮肉られた。
しかしこの狭い国土で育った日本人の悪くてもよいものは、一種の集団帰属主義ではなかったか。
会社や左右いづれの組織体でも、自分は、そのなかのひとつの歯車として自認する風潮があり、ある種の運命共同体意識で何度かの危機を乗り越え、発展にそれぞれが汗を流した。
まさにそれは、中世武家社会からの「一所懸命」とした精神的風土だった。
いま、そのすべての規範と価値観を企業と政治は放り出した。

●お役人 休まず、遅れず、働かず
いま民間企業は不況と人員削減の嵐の真っ只中にある。
だが社保庁など官公庁の公務員に解雇削減の嵐は吹いていない。
皮肉にも、この制度に穴を開けたほうは、終身雇用制度によってそのとばっちりは受けてない。
だれも雇用制度の官民格差を問題にしてはいない。
不思議な話だと思う。

 ● 同期生 明日の社長も夢に入れ
昔は一握りのエリートだけを正規にする社員制度とは違っていた。
新入社員の同期のだれかが、末は社長か重役かを一応の夢にした時代があった。

● 学力差 それはそのまま収入差
著者森永が入社した1976年の国大授業料は3万6000円。
2003年の授業料は52万8000円だそうだ。
昔は普通の家庭でも、成績がよければ東大には行けた。 いまはとても行けまい。
14・5倍の授業料となっている。
アメリカ型格差社会が定着してきているわけだ。
育ちのリッチさが決め手になっている。
2000年の東大生の家庭平均年収は1016万円。
内、10・4%は1550万円以上の年収。
これらの家庭が塾づけの子どもを育てブランド力のある東大、早稲田、慶応、上智などに入学させる。  
 昭和20~30年代までは貧乏人の倅でも成績がよければ東大に行けた。
青白き頬の苦学生がそこかしこにいた。
奨学金とバイトでやっていけた。
25年前、私が編集局に移動した時代に、深夜まで仕事を分かち合った先輩は東大出身だったが、さりとてリッチな環境にはいなかったようだ。  
リタイア直前、局には何人かの赤門出身生がいたが、かれらは、いづれも富裕な商人、金持ちの家庭出身者であることをいろんな機会に伺った。

● 痛み知る閣僚財布は9000万
9000万円は小泉内閣の閣僚連の資産額だったそうだ。
このリッチ感覚で国民には「痛みに耐えて」などの構造改革をすすめた。
もっとも今の麻生は首相官邸にこもらず、国会でのうっぷんストレスは帝国ホテルなどのバーで過ごすリッチ派で、日夜、未曾有(ミゾユウ)の雇用危機、景気対策に頭を絞っている。

● 市場原理 津々浦々にひろまって
 機会の平等は建前で、結果の不平等となる社会。
 小泉改革はアメリカ型社会を見習った。
そしていま”ミゾユウ”の金融危機をもたらしたのもそのアメリカだ。

● 首切りのたがを外した季節風
閉塞感漂うきびしい師走の風が吹いている。
連合という労組も長らくストも忘れ、闘い方も、団結もできない空念仏の非力な組織だが、そうこうしているうちに瀬戸内さんの言うようにこの国は怒りを忘れた。
怒りを社会的デモにつなげられないひ弱な国にもなっている。
 企業は株主の顔色を見て、景気悪ければ解雇など当たり前の顔だ。
昔のように従業員と一蓮托生で倒産危機を乗り切る姿勢など皆無だ。

● 日経連 雇用を3つにグループ化
95年、日経連は雇用を3つのグループ化に分けて提唱。
長期能力活用型グループ、これは従来の正規社員。
高度専門能力活用型グループは、非正規社員。
雇用柔軟型グループは派遣、契約、パート。
こうして少数の正規社員を雇用のコアにして、終身雇用の道を捨てた。
これで将来につながる優秀な企業などできるわけはない。


● 正社員 7~800万円よき時代
2001年当時、日本の所得は650万円。
2位は米、3位はドイツ。
フランスは430万円、イギリスは360万円だとか。
2008年、一方で1億円、一方で100万円、その間にもっとも多い300~400万円の一般サラリーマン。
三極構造が根付いている。

 ● 転職を繰り返すたび転げ落ち
転職成功は前の会社でとりわけ業績を挙げた人で、スカウトされた一握りの連中。
あとの転職組は階級分化がすすんだ結果だとこの本にある。
アメリカ人は安定雇用が常態化していた日本に羨望していたが、その日本は逆にアメリカ型の雇用に青写真を抱き実践しつつある。
成果主義賃金などは実は絵に描いた餅などだが、なかなか内部にいると気づかない。
平成14年の厚生労働省の資料が引用されている。
転職での年収ダウンは
二十代前半 18・1%
二十代後半 26・3%
三十代前半 35・0%
三十代後半 44・1%  

● 正社員 雇用機会は縮んでる
非正規社員の採用が多く、この”負け組み”層が社会の主流になってきている。
団結こそ力。だから労組の存在理由があり罷業権も時に行使して、それなりの対抗力も抵抗力もあった。
蟹工船の本がそろって読まれるきびしい現実が、いまある。
9月から12月までに共産党には1万3000人が門を叩いたという時世だ。(12/14 テレビ東京「田勢康弘の週刊ニュース新書」)
 しかしデモも見えず、抗議のストも起きない。
社会に活力がなく閉塞感漂う未来なき暗い社会構造になってきている。
トヨタ、ソニー神話が崩壊したいまだからこそ、非正規社員の雇用制度が見直され、弱い者同士が手をつなぐ変革への闘いがあってもよいのではと思うのだが・・。

● この本を逃散のすすめという書評あり
● 身の丈にあった暮らしを諭されて

「『逃散』の勧め」というこの本への書評を著者自ら紹介もしている。
今の閉塞感の強い社会で逃散のすすめは誰にでもできる。
300万円でもいいじゃんか。
身の丈にあった生活を楽しめ、と下層階級分化の組み入れを受け入れよという主張にも聞こえる。

これほど過酷に痛められている非正規社員に対してなぜ闘えと呼びかけないのか 。
壁一つ挟んだ隣向こうの室内で孤立感を深めている若者たちに強訴、一揆のてほどきを示して欲しかった。
  はじめ逃散したり無宿人に扱われた連中もやがて強訴や一揆の主力の一員に変わったという近世史の事実もある。

身の丈という300万円のタコ堝に潜ることだけを若者に勧めて欲しくない。

ドリームを追うな。「タスク」(課題)を持てと著者に勧めるなら、その課題に社会性のひろがりと繋がりを示すことががあってもいいんではないか。

瀬戸内さんが語る場に著者もいて、しきりに頷いてたのだから、この点、いかがかとの読後感が残った。





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