暑い都市は、色気がありません。
熱い夏、むしろアフリカの砂漠の方が、心ときめきます。
猛暑の中での最高の贅沢・・・。
小職の場合、シャワーを浴び、エアコンの効いた書斎で読書すること。
木製のデスクと人間工学に基づいたアームチェアが必須です。
中でも、朔太郎や中也の詩篇がメインディッシュ。
中学時代から、心を遊ばせる趣味です。
旅上
ふらんすへ行きたしと思えども
ふらんすはあまりに遠し
せめては新しき背広をきて
きままなる旅にいでてみん。
汽車が山道をゆくとき
みずいろの窓によりかかりて
われひとりうれしきことをおもはむ
五月の朝のしののめ
うら若草のもえいづる心まかせに。
萩原朔太郎は、1883年に前橋に生まれ、子どもの頃は秀才。
第5高等学校へ進学するが落第。
第六高等学校も落第、慶大予科中退・・・という波乱の学生時代・・・。
そうした中、彼は都会の中で数々の名作を生み出します。
1942年に肺炎で死去。教科書的には、「日本近代詩の父」と呼ばれているようです。
「純情小曲集」「月に吠える」「青猫」「氷島」などの詩集。
十代には、マンドリンにはまったり、カメラに熱中したりと、好奇心のかたまりのような存在だったようです。
東京での作家、文学者との交流、近代化の進むTOKYOでの生活が朔太郎の作風を決定づけたように思います。
早く涼しくならないかなあ~。
都市を歩くことが大好きな私にとって、猛暑はまさに敵です。
エアコンの効いた部屋で、朔太郎とともに、心遊ばせたいと思います。
群衆の中を求めて歩く
私はいつも都会をもとめる
都会のにぎやかな群衆の中に居ることをもとめる
群衆はおほきな感情をもった浪のようなものだ
どこへでも流れていくひとつのさかんな意思と愛欲とのぐるうぷだ
ああ ものがなしき春のたそがれどき
都会の混みたる建築と建築との日影をもとめ
おほきな群衆の中にもまれていくのはどんなに楽しいことか
みよこの群衆のながれていくありさまを
ひとつの浪はひとつの浪の上にかさなり
浪はかずかぎりなく日影をつくり 日影はゆるぎつつひろがりすすむ
人のひとりひとりにもつ憂いと悲しみと みなそこの日影に消えてあとかたもない
ああ なんというやすらかな心で 私はこの道を歩いていくことか
ああ このおほいなる愛と無心のたのしき日影
たのしき浪のあなたにつられて行く心もちは涙ぐましくなるようだ。
うらがなしい春の日のたそがれどき
このひとびとの群は 建築と建築との軒をおよいで
どこへどうしてながれ行こうとするのか
私はかなしい憂鬱をつつんでいる ひとつのおほきな地上の日影
ただよふ無心の浪のながれ
浪の行方は地平にけむる
ひとつの ただひとつの「方角」ばかりさしてながれ行かうよ。