特捜最前線日記

特捜最前線について語ります。
ネタバレを含んでいますので、ご注意ください。

第389話 さらば、海の老兵!

2008年03月07日 00時55分29秒 | Weblog
脚本 宮下隼一、監督 野田幸男

東京湾に停泊中の船に殺人犯が潜伏中との情報を得て、海上を急ぐ橘たち。救難活動に出動した海上保安庁の巡視艇が、橘らの航行を遮る。事情を説明する橘だが、巡視艇の老船長は「人命尊重が第一です。海には海のルールがある」と橘を制止。救難活動終了後、巡視艇に先導されて船舶に向かったものの、すでに犯人は陸上に逃走した後だった。
殺人事件の被害者は、強請りの常習者。遺留指紋から、犯人は被害者と刑務所仲間の元船員だと判明していた。橘から事情を聞いた船長は、犯人の名を聞いて顔色を変える。
改めて捜査を続けるなか、橘は老船長が犯人の行方を探し回っていることを知る。老船長は、かつて犯人が船員同士の喧嘩で相手を負傷させたのを捕らえた後、その身元保証人になり、就職先などを世話していた。その原因は、3年前の海難事故にあった。犯人の父親を乗せた漁船が台風で難破した際、救助に向かった老船長は、高波に阻まれ助けることができなかった。それから犯人がグレ始めたことに、老船長は深い責任を感じていたのだ。
犯人の友人の「行き先に心当たりがある」との言葉にだまされ、食事をおごらされる老船長。見かねた叶が友人に食ってかかるが、老船長は叶を制止し、「働く気があるなら、その辺の会社にこれを持っていけ」と友人に名刺を渡す。
その後の捜査で、被害者が工場排水を海に垂れ流している企業を強請っていたことが判明。ようやく違法排水の企業を探し当てた桜井らは、被害者から強請られていたことを認めさせ、犯人が被害者の後を引き継いで強請り続けていることをつかむ。
一方、橘は老船長の妻が心臓病で入院していることを知る。かつては父の後を継ごうと海上保安学校に通っていた老船長の息子は、「あいつは母さんより海を選んだ」と、父と海を憎むようになっていた。神代から、老船長が明日付けで退官することを知らされた橘は、その事実を息子に告げる。「海にしか生きられなかった男が、今日、その海を捨てようとしているんだ。君たちともう一度やり直すために」老船長がロッカーに残した手旗を渡す橘。そこには息子の名前が記されていた。もう教える相手もいない手旗を、それでも捨てることができなかった老船長の気持ちを察したとき、息子は思わず落涙する。
そんななか、犯人の友人が老船長を訪ねてくる。老船長の名刺で仕事を見つけた友人は、恩返しのために調べ上げた犯人の恋人の行方を明かす。半信半疑尾の叶には反発する友人だったが、自分の言葉を信じ、犯人の身を案じる老船長に対しては「奴は、あんたのことを本当の親父みたいな人だと言ってた。あいつに、これ以上罪を重ねさせないでくれ!」と頭を下げる。
恋人を捕らえた橘は、犯人が停泊中の船に潜伏していることを聞き出す。老船長の指揮のもと、海上保安庁の巡視艇で急行する橘。追い詰められた犯人に自首を勧める老船長。「どうしてこんなバカなことをした」「あの工場の奴ら、海を汚しやがった、その償いに金を出させて何が悪い」「それが海の男のやることか。親父が死んだ海を汚しているのは、貴様も同じだ」と断罪され、海に飛び込む犯人。老船長の指揮のもと、海上保安庁の職員たちに救助された犯人は、殺人の動機を語る。「お前は親父と同様に、海の側でちまちま生きるしかないチンピラだ」と罵られ、カッとなって殺したのだという。老船長は「もういっぺん、やり直すんだ。わしはいつまでも見守っている。陸へ上がってからも」と犯人を抱きしめる。
こうして事件は解決し、東京湾へ戻る巡視艇。突堤で手旗を振る人影を認めた老船長と橘。「シュジュツセイコウ、オカエリナサイ、オトウサン」かつて自分が教えた手旗信号を振る息子の姿を見て、感極まる老船長。その新たな人生の門出を祝うかのように、巡視艇は夕陽の中で汽笛を鳴らし続けた。

「人間と深い絆を保ちながら、海は生きてきた。その紺碧の波濤を、命を賭けて守り続ける男たちとともに」冒頭の橘によるナレーションが、海上保安庁を主役にしたドラマのオープニングのように格好良い一本。寡黙な老船長を演じるのは、惜しくも一昨年に亡くなられた田村高廣氏。私にとっては「助け人走る」の文十郎さんの颯爽とした姿が忘れられません。ちなみに、犯人役はいつまで経っても年齢不肖な穂積ぺぺ。レッドバロンやメガロマンでの微妙な活躍ぶりが忘れられません。
少し残念なのは、老船長の「海へのこだわり」に対する描写が乏しく(飲み屋で「我は海の子」を歌うシーンくらい)、「海を捨てて陸(おか)へ上がる」という決意がどれほどのものか、視聴者に伝わりづらいこと。また、老船長が「何か事情がある」と信じていた犯人の動機が実にちんけなものだったこと。
脚本の詰めの甘さが田村高廣氏の重厚な演技に助けられた、との見方もあるでしょうが、手旗の使い方や犯人の友人の存在(見る人によっては、友人の存在は蛇足かもしれませんが・・・)などは、うまくドラマを盛り上げています。また、冒頭のナレーション以外にも、男心をくすぐる台詞が印象に残ります。特に忘れられないのは、橘が老船長の息子に語った台詞です。「男が仕事をするってことは、愛する者を守るためでもあるんだ。不器用かも知れないが、それが精一杯の愛情表現だったんだよ」働くお父さんたちの胸中を代弁するかのような台詞は、仕事の没頭する余りに家庭を壊してしまった橘の口から語られるだけに、なお一層の重みが感じられます。

1 コメント

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こんな場面を追加 (桂龍一朗)
2016-01-14 18:00:35
私が脚本家ならこんなシーンも追加します。

保積ペペ・「うるせェ!、飛んでやる!、飛んでやるぞ!。」。

橘・「アア、いいとも。飛べ!、さっさと飛べ!、飛び込め!。お前みたいな恩知らずは魚のエサにでもなった方が世のため、人のためだ!。」。
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