特捜最前線日記

特捜最前線について語ります。
ネタバレを含んでいますので、ご注意ください。

第420話 女未決囚408号の告白!

2008年07月16日 00時21分32秒 | Weblog
脚本 長坂秀佳、監督 天野利彦
1985年6月19日放送

【あらすじ】
土地ブローカーである夫を殺した容疑で逮捕した女に会うため、足しげく拘置所に通う桜井。証拠も自白も揃っており、女の犯行は明らかだった。だが、桜井は2つの疑問点が引っかかっていた。1つは、凶器の刺身包丁に2本の指の指紋だけが欠落していたこと。もう1つは、犯行直後、女が妹宅で電話を借りるのを見ていた幼女の「お電話が『メリーさんの羊』って言ったの」という謎の証言だった。
裁判が迫っても拘置所通いをやめない桜井の真意を問い質す神代たち。改悛の情も見られず、取調べ中もタバコを催促しては、火の点いたままの吸殻を放り捨てる女の態度に、特命課の刑事らは不快感を隠せないでいた。「彼女のためではなく、私自身のためにすっきりさせたい」と主張する桜井に、神代は再捜査を認める。
強引な取調べから女との面会を禁じられた桜井は、父親の死後、女手一つで娘らを育てた母親や、3人の妹のもとを訪れる。そこで明らかになったのは、激し過ぎる気性ゆえに2度も罪を犯し、肉親からも見捨てられた女の姿だった。1年前のお盆には、母親に「父親の墓参りをしたろう!」と問い質し、否定する母親と口論になり、ナイフを手にするほどの荒れようだったという。火の点いたタバコを放り捨てて立ち去った女の真意は、妹たちにも分からずじまいだった。
やがて、妹たちの証言の断片から、殺された夫が母親の土地を狙っていたことや、女と母親が口論になった直前、墓地の裏で一家五人が焼け死ぬ火事があったことが判明する。もし母親が墓参りに来ていたとすれば、火事の原因となるタバコの投げ捨ての容疑者ということなる。「潔癖で、世間の目を気にする母は、自分のタバコの不始末で火事になったという噂だけでも自殺しかねない」妹の一人から得たその証言で、桜井は真相に気づく。
女は火事の日までタバコを吸ったことはなかった。さも以前から吸っていたように見せかけ、火の点いたタバコを放り捨てたのは、母親をかばうためだった。たまたま夫とともに母親が墓参りする姿を見た女は、母親に墓参りに行ったことを否定するよう仕向け、仮に疑いが向けられたとしても自分の仕業だと印象付けるよう芝居を打ったのだ。その後、土地が値上がりしたため、夫は火事をネタに母親から土地を脅し取ろうとし、女はそれを止めようとして刺殺したのだ。
桜井の推理に対し、「あの女は、自分の苦労が母親のせいだと逆恨みし、憎んでいます。そんな母親をかばうなんて信じられません」と反論する吉野。だが、桜井は「犯行直後、彼女は母親に電話をかけようとした。それが母親を心から憎んでいない証拠だ」と語る。その証拠こそ「メリーさんの羊」、すなわちリダイヤル時に電話機が奏でたメロディー「ミレドレミミミ」だった。女のアドレス帳に残された電話番号のなかで、その音階に当てはまるのは、母親宅のものだけだった。
神代の尽力で再び面会が可能になった桜井だが、女は頑なに面会を拒否。やむなく手紙を送る桜井。「たぶん、あなたは認めようとしないでしょう。しかし、お母さんのことなら心配無用です。お母さんは、初めてあなたの愛と優しさに気づき、それに応えるためにも、自殺など考えず、法の裁きを受けるために自首しました。仮に、私の考え通りだとしても、罪状に大差はないかもしれません。ただ、心が違います。あなたは、心を見直すことができる。そして妹たちも。さらに、私たちにとっても、こうした事件を上辺だけで判断する前に、もう一歩真実に踏み込むことが必要だという戒めになるのです・・・」
そして裁判の日、法廷へと送られる女は、見送る桜井に向けてもう一つの疑問点を明かす。無言のまま、桜井に見せ付けるように握った女の手は、指2本の指紋が残らぬような凶器の握り方とともに、桜井に心を開いたことを示していた。

【感想など】
一見して憎み合っているかのように見えた母と娘の、深い愛と絆を描いた一本です。布団に枕を置く仕草、絞ったタオルを干す仕草・・・何気ない仕草を積み重ねる演出だけで、辛らつな言葉とは裏腹の、強くて深い絆を描き出す手腕は、お見事と言うほかありません。ラスト近くになって、針仕事をする母親を見て真似をする幼き日の女が描かれます。それはドラマ的にも母と娘の絆の証明という意味深いシーンですが、単にそれだけではなく、視聴者に対して、無条件で親を慕った幼き日々へのノスタルジーとともに、それだけ深かったはずの親との絆が途切れがちになっている現状を、淡い後悔とともに思い起こさせる効果をもたらしているのではないでしょうか。

2つの謎のうち、「メリーさんの羊」が「言葉」でなく「音」だったというのは、まさに長坂氏ならではの「奇想」であり、これもまたお見事。真相が分かった上で見返すと、幼女の証言の一つひとつ(たとえば桜井の「男の声?それとも女の声?」という質問に「お電話の声」と答えるなど)が納得でき、「裁判まで残り○日」というテロップにいちいち「メリーさんの羊」が流れるあたり、長坂氏にとっても会心のトリックだったことが伺えます。その割に、と言ってはなんですが、もう一つの謎は、ラストで桜井に心を開いたことを示す以外に、特に大きな意味があったとは思えず(私が理解できなかっただけ?)、少し残念です。

6 コメント

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凶器の握り方は (鬼親爺)
2008-07-16 06:33:13
ゴルフのグリップでしょう。遊園地に勤務する(たしか)三女が言っていましたが、女はゴルフが得意だった。

私も一度目に見たときは握り方の意味が解りませんでした。そのことだけに集中しながら見直してようやく解りました。

放送を見ただけで(録画しないで)解った視聴者は少なかったのではないかと思います。この人の脚本はこういうの多いですね。

録画して繰り返し見ることを意識して要求していたのでしょうか。それだけの価値のある作品を書いているのだから、ということで。(放映時はビデオデッキがぼつぼつ普及しはじめていた時期でもあったと記憶しています。)

私としては、ゴルフのグリップではなくて、母親の彫刻刀の握り方であったほうが良かった。
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あああ (特オタ)
2008-07-16 13:14:51
なるほど。グリップでしたか・・・。
いいですね、このブログ。自分が気づかないところも教えてもらえるんで。
でもまあ、いい映画は3回観ないと解らないなんて誰かが言ってましたしね。
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やっぱり (神木)
2008-07-16 14:32:29
「心が違う」という桜井刑事の言葉。
やっぱり心に響きました。
この言葉は、もう20年以上、私の心に残り続けている名言の一つです。

最後の握り方の件ですが、
『長坂秀佳シナリオ集』をみると、「ゴルフのクラブを握る持ち方」と指定があります。
鬼親爺さんのおっしゃるように、これが、母親の彫刻刀の握り方だったとしたら、大きな意味も出てきますし、もっとぐっときたのかもしれませんね。


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まとめてお返事 (袋小路)
2008-07-17 02:42:46
皆さん、いつもコメントありがとうございます。
しばらく放置していたにも関わらず、再開すると早速コメントいただけ、嬉しい限りです。

鬼親爺さん、神木さんのご指摘で謎は解けましたが、確かに、なぜここでゴルフの握り方をする必要があったのでしょうね?
検察の考えていた握り方には何の意味があり、ゴルフの握り方だったと判明したことで、何が解決したというのでしょう?長坂氏が「メリーさんの羊」で燃え尽きたと理解するほかないのでしょうか。

繰り返し見るたびに、新たな発見や感動のある映画や作品は確かにありますが、はじめからそれを前提にするのはどうかな、と個人的には思います。一度見ただけで理解でき、なおかつ繰り返し見たいと思わせるような作品こそ、本当の名作と言えるのではないでしょうか。
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ようやく拝見しました (リュウジ)
2008-10-12 13:38:14
咄嗟に握ってゴルフのグリップになるか?というのが一番の疑問です。
プロゴルファーじゃないんだから(笑)。
「メリーさんの羊」のネタだけでも名作だと思うんですけどね。
特捜はネタを詰め込みすぎて蛇足になっている話が結構あり、もったいなく感じます。
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リュウジさんへ (袋小路)
2008-10-14 23:38:50
順調に視聴が進んでいるようで何よりです。
ご指摘のとおり、わざわざ「2つの疑問」にする必然性は薄いですよね。メリーさん1本に絞った方がすっきりしたと思うのですが、それだと女の心理描写にはつながらず、トリックの一人歩きになってしまったでしょう。難しいものです。
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