特捜最前線日記

特捜最前線について語ります。
ネタバレを含んでいますので、ご注意ください。

第377話 住宅街の殺人ゲーム!

2008年01月23日 02時22分19秒 | Weblog
脚本 佐藤五月、監督 宮越澄

ある夜、橘の近所のスーパーに押し入った強盗が、店長を刺殺して逃走。やがて現場付近で死体となって発見される。所轄署では、「店長の反撃を受けてナイフで刺され、逃げる途中に出血多量で死亡した」と結論づけるが、橘は強盗の顔面に残った痣に着目。何者かに暴行を受けたのではないかと推測する。だが、強盗が婦女暴行で出所したばかりの近所でも札付きの悪党だったため、所轄署は捜査の継続を認めない。「前科者だからこそ、偏見を排して捜査すべき」という橘の主張で、特命課が捜査に乗り出す。
現場付近の住人を調べ上げ、強盗を目撃していると思しき4名の住人に協力を仰ぐ特命課。老人と会社員は「たまたま一緒に酒を飲んでいた」ため、主婦と受験生は「寝ていて何も気づかなかった」ため、強盗など見ていないと証言する。やむなく現場付近に立て札を掲げて目撃者を募る橘に、老人の妻が「うちの人は結石で苦しんでいる、もう取り調べないで」と訴える。付近の家の二階から、鏡で様子を窺う者がいることに気づいた橘は、その家を訪ねる。そこにいた娘は「何も見ていない」と証言を拒む。娘は3年前、死んだ強盗に襲われ、そのショックで寝た切りとなっていた。
その後も目撃者は見つからず、立て札も住人に撤去される。そんななか、特命に若い女の声で「私、誰かが殴っているのを見ました」との電話が掛かってくる。やはり、強盗は誰かの暴行を受けていた。再度4名の住人を集める橘。「酒を飲んでいた」と主張する老人に、「結石の貴方が、なぜ酒なんか飲むんです?」と問い詰める橘。口裏を合わせていたことが発かれ、老人と会社員は狼狽する。そこに、主婦の夫が現れるが、主婦は皆の面前で夫の浮気を罵る。「あんたのせいで、私は毎晩眠れないのよ!」と叫ぶ主婦。「奥さん、あの夜は寝ていたんじゃないのかね?」との指摘に、主婦は逆切れする。アリバイが崩れた住人たちに「貴方たちの誰かが奴を殺し、それを皆でかばっている。違うか?」と追及する橘だが、住人たちの口は重かった。
その夜、橘は暴走族に怒りを露にし、警察の無力を批判して「父さんが止めないなら、俺が奴らをぶち殺してやる」と口走る息子を見て、最悪の推理へと至る。「強盗の死は、容疑者4人によるリンチによるものではないのか?」三度住人らを呼び出すと、橘は目撃者の存在を明かし、「目撃者が証言する前に、自分の口から言ってほしい」と語りかける。住人らの罪を軽くするためにも、目撃者に辛い思いをさせないためにも、それが最善だと考えたからだ。しかし、住人らは依然として沈黙を保ち、ついに特命課の説得を受けた娘が現れる。「強盗を殴っていたのは、この人たちです」忸怩たる想いで娘の証言を聞いていた橘だが、意を決して4人の取調べを開始する。
「俺たちは何もしようとしない貴様ら警察の代わりに、社会正義のためにやったんだ」と開き直る会社員。だが、主婦の証言で、会社員は他の誰かの名を呼びながら強盗を殴りつけていたことが判明。それは、会社員に左遷を告げた上司の名だった。同様に、主婦は夫の浮気相手である若い娘への憎悪を、老人は耄碌扱いしたバスの運転手への怒りを、受験生は受験勉強に追われるストレスを、手負いの強盗にぶつけていたのだ。うつむく4人の前に、橘の怒りが静かに響く。「あんたらは、社会正義の名のもとに、自分より弱い者を苛めただけだ。奴のしたことと何ら変わらん!」

“街のダニ”の死の影に隠された、醜い人間性を描き出した一本。第283話「或る疑惑」といい、第309話「撃つ女」といい、ツボにはまったときの佐藤五月脚本の切れ味には、唸らされるものがあります(同じ脚本家の頭から第325話「超能力の女」や先日の第373話「呪われた死者の呼ぶ声」のような怪作が生まれるのが不思議でなりません)。今回も、先に挙げた2話ほどではないにせよ、容疑者がみんな共犯というオチ事態は珍しくないものの、社会正義の名のもとに、日常のストレスのはけ口として殺人を犯すという発想が、ひと捻り効いています。
「安心して暮らせる街にするために、周囲に迷惑をかけるだけの“街のダニ”に、何もしない警察に代わりって市民の手で制裁を加える。それのどこがいけない!」という住人たちの主張は、時折現れる暴走族(街宣車や選挙演説車も同様)にうっとうしい想いをさせられる私にとって、大いに頷けるものがあります。しかし、ひとたびこの理論を認めてしまえば、その制裁の対象が無制限に拡大し、収拾がつかなくなるのもまた必然であり、少なくとも法や警察が認めるはずがありません。(市民にこうした想いを抱かせないのも、為政者の責任だと思うのですが・・・)
また、都合が悪くなる度に「年寄りだと思ってバカにするな!」と切れる老人をはじめ、自分を省みることなく、被害者意識だけを肥大させた住人たちの姿も醜悪この上なく(ゲスト俳優さんへの褒め言葉です)、実に嫌な思いにさせてくれます。また、ラストでようやく会社員が漏らした「バカなことをしてしまった」という台詞が、人を殺したことへの反省や罪の意識でなく、単なる後悔でしかないというところに、より大きな絶望感が味わえて最高です。
ラストで見せた橘の苦い表情の裏にあるもの、それは、愛する我が子も、そして(刑事という立場でなければ)自分でさえも、同じ状況で彼らと同じ行為を働かない保証はないという、目を背けたくなるような現実だったのではないでしょうか?

3 コメント

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ん~… (ですとら)
2008-03-09 02:39:45
まとめて見ている途中での書き込みです。
話の切り口としては、社会のダニが許せず自分たちの生活を守るんだと見せかけてストレス発散で殺すというのは、面白くもあり、えっ?とも思わせるものでした。
確かに私自身も社会のダニ人間のクズに制裁を加えてやりたいと思うことはままあります(そういう今日も実は思ってしまいました…)。でも目の前にそのダニが来てもそそのかされてブロックで殴るというのは、さすがにやるか?とも思えます。
ただ、仰るとおり、そう言っておきながら本当にそうか?とも思えてします。
普段は悲惨な事件の結末にドスーンと来る絶望感が特捜の特徴ですが、今回は別の意味での絶望感に感心した一作でした。
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お疲れ様でした (袋小路)
2008-03-10 21:34:03
ですとらさん、まとめ視聴お疲れ様でした。コメントが着ているかもと見てみたら、一気に9件もの書き込みがあり、さすがに驚きました。
特に都会に暮らしていると、社会のクズに不快な気にさせられることは多々ありますが、犯人も言っているように、クズを殺して一生棒に振るのは愚かなことです。お互い、クズへの制裁は心の中で下すにとどめておきましょう。
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私が橘ならこう言う (桂龍一朗)
2016-01-14 17:44:49
私が橘の立場ならきっと住民たちにこう言います。

橘・「確かにアイツは札付きの悪党だった。正直、個人的にはアンタたちを賞賛したいぐらいだ。だが、許せない事が1つだけある。それはアンタたちと同じ被害者であるこの娘さんの事を誰1人考えてやれなかった事だ!!。どうしてこの娘さんの言い分も聞いてやってくれなかったんだ!!!。」。
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