特捜最前線日記

特捜最前線について語ります。
ネタバレを含んでいますので、ご注意ください。

第506話 橘警部・父と子の十字架(前編)

2009年12月27日 03時17分20秒 | Weblog
脚本 長坂秀敬、監督 宮越澄
1987年3月12日放送

【あらすじ(前編)】
ある雨の夜、強盗殺人事件が発生。通報を受けた新宿東署に居合わせた橘は、同署の刑事らとともに現場に急行する。そこでは、泣き叫ぶ赤ん坊と、その両親の死体を前に、逃げもせず呆然とする男がいた。逮捕された男は前科持ちで、本件に加え、未解決の6件の強盗殺人についても自分の犯行と認めた。だが、橘はそのうち一件だけは、男の犯行ではないと直感する。それは、雨の夜の事件の数日前に発生した、金貸しの女社長殺しだった。男を無罪とする根拠は何もない。ましてや、男は自白しただけでなく、犯行状況を詳しく語っている。仮にその一件が無実だったとしても、男の死刑は確実だが、それでも橘はこだわった。それは事件の夜の雨が、かつて長崎に妻子を“捨てて”きた夜の記憶を呼び起させたためかもしれない。
そんな橘に、桜井は「手を引くべき」と忠告する。新宿東署が煙たがっている上に、橘の家庭の問題を察していたのだ。橘と同居中の長男・信一が長崎へ帰っており、橘の元には妻から離婚届が送られていた。「長い人生のなかで、男が家庭を第一に考えねばならんときがある」神代からの伝言が、橘の胸に重く響いた。
そんななか、長崎にいるはずの橘の次男・健二が新宿東署に補導される。健二は橘への連絡を拒み、代わりに連絡を受けた紅林と叶が東署に向かう。「あの橘警部のご子息と知っていれば、ご親切にできましたのに・・・」捜査課長のあからさまな嫌味に耐え、健二の身柄を預かる二人。ふて腐れる健二に、叶は「その態度は何だ!親父が憎ければ直接ぶつかれ」と叱責する。
その後、再び補導された健二が、今後は橘を呼び出す。報せを受けて、慌てて東署に向かう橘。長崎から戻った信一も、叶らとともに駆けつける。事情を聞こうともせず、健二を張り倒す橘。健二は「見たか!正面からぶつかったらこうだよ!」と捨て台詞を残して走り去る。心配する信一に、橘は「追うな!放っておけ」と言い捨てた。
その頃も、橘は一人、捜査を続ける。拘置所に男を繰り返し訪ねるが、男は「どうせ死刑だ。どっちだっていいじゃないか」と取り合わない。だが、それで諦める橘ではない。目撃証言を洗い直し、犯行現場を調べ、第一発見者である若い巡査を尾行する。そんな橘の姿を、息子たちに見せる紅林。「お父さんは今、ある事件を追っている。すでに解決済みで、放っておけば誰も傷つかない事件だ。それでも橘さんは追い続けている」「何のために?」「刑事だからだよ。それが橘さんだからだよ」
父の仕事の意味を確かめるべく、橘の後を追う健二。その目の前で、橘は尾行していた巡査から問い詰められる。「なぜ私を疑うんです?」何の根拠もないだけに、言葉もない橘。「もう私をつけ回さないでください。私の家庭を乱さないでください」妻に先立たれ、幼い二人の息子や年老いた母親と暮らす巡査にとって、同じ警官から疑いの目を向けられるのは耐え難いことなのだ。巡査の息子たちの年齢は、2歳と5歳。くしくも長崎で別れたときの信一と健二と同じ年齢だった。その偶然が、橘の心をさらに締め付ける。
その夜、帰宅した橘に、息子たちが別居を持ちかける。健二が家出したのは、妻に離婚を決意させるためだった。息子たちを思って離婚に踏み切れないでいた妻だが、実は、他に好きな男がいたのだ。「母さんが一人で苦しんでいる間、あんたは何をしよった!今、あんたがやっているのは、一人の警官を苦しめているだけじゃなかか!自分の家庭も守れんくせに、人の家庭を壊すなんて最低ばい!」健二の言葉が、橘の胸に突き刺さる。
翌朝、橘を気づかい捜査を離れるよう奨める神代と桜井は。に、橘はこう答えた。「息子に“あんた”って呼ばれました。あんたはただ刑事をやっていただけじゃないか、と」言葉もない神代と桜井に、橘は続ける。「お気遣いはありがたいのですが、もう少しの間、刑事をやっていたいと思いますので・・・」一礼して立ち去る橘の背中に、二人がかける言葉はなかった。(後編につづく)

【感想など】
基本的には一話完結ながらも、三話全体を通して壮大なストーリーが展開される「最終三部作」。その導入編となる本編は、橘の抱える“父と子”のドラマの完結編となる一本でした。“父と子”は、特捜では叶編の「掌紋300202」や、的場編の「父と子のエレジー」でも扱われており、それ以前に「刑事くん」などでも見られるように、長坂氏にとっての永遠のテーマと言えるもの(長坂氏の著書「術」によれば、長坂氏自身の父親との葛藤がベースとなっている)。
それだけに、今回の脚本の濃密さは“異常”なほどで、「橘と息子たち」というメインのドラマに加えて、「男が背負う過去(これもまた父との葛藤が背景)」のドラマ、「巡査と母、そして息子たち」のドラマ、そして「父を知らない叶と、父に反発する健二」のドラマが絶妙に絡み合い、さらに以降2話に続くドラマの伏線(序盤に登場した新宿東署の捜査課長の描写など)も巧みに配しているなど、非常に省略しづらいものとなっています。
このため、当初は短くまとめようと思っていたのですが、やはり断念して2度にわけて掲載させていただくことにしました。間を空けずに後編を投稿しますので、何卒ご容赦ください。

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