特捜最前線日記

特捜最前線について語ります。
ネタバレを含んでいますので、ご注意ください。

第340話 老刑事・96時間の追跡!

2007年08月26日 20時03分45秒 | Weblog
脚本 大野武雄、監督 野田幸男

刑務所の移設に伴う囚人護送に協力する特命課。船村は体調不良のため一人だけ移送が遅れた青年を刑務間とともに護送する。青年は殺人罪で服役していたが、模範囚のため半年後には釈放の予定だった。励ます船村への感謝を込めて、青年は江ノ島を描いたスケッチを船村に贈る。「囚人仲間の似顔絵を描いたり、作曲も手がけたり、ちょっとした芸術家ですよ」好意を込めた刑務官の言葉に恐縮する青年を見て、船村は「なぜ、こんな男が人殺しを・・・」と嘆息するのだった。
上野駅に到着し、刑務官に後を託して船村が引き上げた直後、青年は脱走した。施設で育った青年にとって、唯一の肉親は花屋に勤める妹だけであり、特命課は妹をマークする。電話を受け、廃屋へと出かけていく妹。「青年からの呼び出しか?」と尾行する船村だが、そこで見たものは、施設で育った仲間とともにバイオリンの稽古に励む妹の姿だった。
一方、残された囚人の荷物から現れた似顔絵は、かつての恋人のものだと判明。恋人が青年との思い出の場所である江ノ島に旅行中だと知り、船村は後を追う。発見した恋人は、他の男と結婚していた。恋人は、青年が殺人を犯したことが信じられず、服役後も頻繁に面会に行っていたが、半年前に「もう来るな」と突き放され、それ以降は会ってもらえなくなったという。周囲の薦めで結婚した今も、彼女は青年の無実を信じていた。青年から贈られた江ノ島のスケッチを砂に埋め、船村は立ち去る。
そんななか、青年が手錠を切るために街工場に潜入したことが発覚。現場に残された血痕は、青年が喀血したものだった。青年は半年前から癌を患い、余命数ヶ月の状態だった。付近に潜伏していた青年を追い詰める船村だが、青年は「あと2日待ってください。3日後には自首します!」と必死に懇願した末に、通り掛った子供を盾に逃走する。
青年を脱走に駆り立てた原因を探るべく、脱走当日の移送コースを回って録画した映像を繰り返し見る船村。だが、何の手掛かりもつかめない。「何かを見たのではなく、聞いたのでは?」吉野の閃きを得て、再度移送コースを回る船村の耳に、バイオリンの音色が響く。そのバイオリンは、入院中の妻のために、老人が毎日奏でていたものだった。「妹たちのバイオリンだ。」船村の直感を裏付けるように、妹たちが練習していた曲は青年が作曲したものだと判明。「その発表の場が2日後にあるに違いない」妹に青年の逃走を明かし、協力を求める船村。「私は、奴を捕まえるために頼んでいるんじゃない。奴に治療を受けさせたいんだ」だが、兄の病状を察した妹は「助からないなら、兄の願いを叶えさせてあげてください!」と協力を拒む。そこに紅林らが駆けつけ、2日後に施設で発表会があることを船村に告げる。施設に網を張ろうとする船村の前に立ちはだかり、隠されていた真実を語る妹。「兄は人殺しじゃありません。私がやったんです」その日、妹はかねてから言い寄られていた男に襲われ、暴行を受けた。立ち去ろうとした男を背後から撲殺した直後、青年が駆けつけ、妹の罪をかばったのだった。
施設では、青年や妹が世話になった老女教師が退任を迎え、その慰労会で妹たちがバイオリンを演奏することになっていた。客席に紛れ、青年が現れるのを待つ船村たち。そこに付近を警備中の警官が現れ、異変を告げる。施設の前庭では、青年が息絶えていた。最後の願いを叶えんと、青年の遺体を窓際へと運ぶ刑事たち。窓越しに兄の遺体を眼にした妹が、兄への想いを込めて奏でるバイオリンの音色に、刑事たちはいつまでも耳を傾けていた。

移送される囚人の脱走劇に秘められた、悲しい真実を描いた一本です。とても殺人者には見えない模範囚の好青年が、残り半年の刑期を待てずになぜ脱走したのか?そこには、不治の病という悲劇があり、やがて妹の罪をかばって服役していたというもう一つの悲劇も明らかになります。妹の告白に「よく言ってくれたね。悪いようにはしない」と優しく声をかけるおやっさんですが、ラストシーンでは、演奏を終えた妹をパトカーに乗せて、連行します。恋人との未来を捨ててまで妹を守ろうとした青年の願いも虚しく、彼女はやはり殺人者として裁かれるのでしょう。青年の気持ちはもちろん、兄への感謝と申し訳なさ、そして罪の意識に苦しむ妹の気持ち、青年の無実を信じ続ける元恋人の気持ち、すべての気持ちを受け止めながらも、刑事としておやっさんにできることは、真実を明らかにすることだけ。結局、刑事という仕事は誰も救ってやれないのだという、特捜(特におやっさん主演作に顕著)で繰り返し語られたテーマが、人々の善意に溢れるエピソードゆえに、よりいっそうの重さと苦さを持って語られます。
前回に引き続き、プロット的にはありふれた話なのですが、さり気なく伏線を張り巡らせた展開のうまさや、人物像の丁寧な描写によって、見る者を引き込みます。ラストシーンも言ってしまえば「ベタな展開」ですが、それでも感動させられてしまうのが、脚本・演出のうまさだと言えるでしょう。

1 コメント

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Unknown (特捜大好き)
2021-12-08 04:11:42
これ最初見たとき、一緒に見ている家族の前で嗚咽を堪えるのが大変だったが、歳とった今見ると、涙が少し出そうになったが矛盾を考えると感動できず。

まず、第一にこんな優しいお兄さんが死ぬ前に演奏を聞きたいからと刑務官に暴行働いたり刃物でさしたり子供を人質にとるなんて絶対ないでしょ!聖人君子のような人だよ!
それに死にそうな犯人が上野駅で、しかも手錠までしてるのに二人の刑事に勝てるわけないだろ?

それにさ、昔の恋人もふられたと思って、さっさと子供のいるようなオッサンと結婚してるし、その割りにはまだ元彼を好きみたいだしさあ、なんか、あざといんだよね。

それにさ、これって殺人でなくて正当防衛だろ!最初から正直に言えばいいのに馬鹿みたいと思った。最後は妹が兄と対面する場面もなく連行されちゃって、昔と違って感動できなかった。
私が歳をとって賢くなったのかな? (笑)
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