特捜最前線日記

特捜最前線について語ります。
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第300話 鏡の中の女!

2007年04月02日 16時47分53秒 | Weblog
脚本 佐藤五月、監督 天野利彦

ある事件を解決して東京に戻る途中、富士川の河口で溺死体に遭遇した特命課。死体の身元を調べようとした矢先、東京地検特捜部が割って入り、捜査を遮った。神代が東京地検に出向いて問い質したところ、被害者は地検が大物実業家宅に潜入させた検事だった。その実業家は、特命課が数年前から脱税や不正経理などの疑いで捜査を続けていた。数ヶ月前には、実業家の会社の経理部長と運転手が相次いで不審な死を遂げており、実業家が証拠隠滅を図ったものと推測された。検事の溺死事件を捜査の突破口にしたいと考える神代だが、特命課の介入を嫌う地検は捜査資料を引き渡そうとしない。
実業家宅を訪れた神代だが、応対に出た実業家の娘は、使用人の死など気にも留めていない素振りを見せる。なおも問い詰めたところ、娘は事件当夜、パーティーに出席していたと主張。出席者の証言から、娘のアリバイは証明される。
ようやく検事の解剖所見を入手した特命課は、胃の内容物から死の直前の足取りをつかむ。検事はおでん屋で女と落ち合い、電話を掛けた後、女に資料を渡して慌てて出て行ったという。おでん屋の主人の証言によると、女は実業家の娘だった。その時刻にはパーティー会場にいたはずであり、神代は再び娘を訪ねて真偽を確かめる。質問に答えず、父親の権力を振りかざす娘に、「世間ではあなたの父親を犯罪者と見ている」と挑発する神代。
おでん屋に残されたメモから、検事が電話した先を突き止めた特命課。そこでは実業家の娘と瓜二つの女が、小さな食堂を切り盛りしていた。驚きを隠して接触した神代に、女は夫が事故で入院中だと語る。やがて、夫は手当てのかいなく死亡。所轄署の調査では、事故ではなく殺人の疑いが濃いという。夫が検事の協力者だったと知った神代は、おでん屋で検事と会っていたのは、実業家の娘ではなく、食堂の女だったのではないかと推測する。戸籍を調べた結果、二人は双子の娘だと判明。一度は実業家との関わりを否定した女だが、夫の葬儀を終えると、ひそかに姉である実業家の娘と接触。一緒に父親を説得しようとするが、娘は取り合おうとしなかった。
一方、検事の解剖所見を洗い直したところ、胃に残された水の成分から、別の場所で殺害された可能性が浮上。それが実業家宅ではないかと睨んだ神代は、実業家宅に乗り込み、「検事の死体に残っていなかったコンタクトレンズが、応接の水槽内にあるはず」と迫る。去勢を張る娘に、神代は室内に仕掛けられた盗聴器を見せつける。「お父さんにとって、あなたは道具に過ぎない」と指摘し、執事が運んできた飲み物を差し出す神代。不安にかられる娘に、「あなた方親子の信頼関係とは、その程度のものか」と揺さぶりをかける。娘が意を決して口を付けようとしたとき、神代はコップを張り飛ばす。
やがて水槽からコンタクトレンズが発見され、娘はついに観念する。そこに駆けつけた食堂の女は、娘と衣装を取り替え、身代わりになろうとする。手の荒れ具合から入れ替わりに気づく神代だが、時すでに遅く、娘は青酸をあおって屋敷に火を放っていた。その後、食堂の女は、検事から預かった資料を公表し、実父である実業家の罪を証言。世間から身を隠すように去っていく彼女を、神代はひとり見送るのだった。

久々に主役を務めた神代課長が、大物実業家の不正を暴くべく執念を燃やす姿を描いた一本です。自分の地位を守るためには娘すら切り捨てようとする父親と、その父親を盲目的に尊敬する娘。そんな父と娘の偽りの信頼関係に静かな怒りを燃やす神代。深い信頼関係で結ばれた娘を目の前で失った神代の過去(詳細はDVD傑作選Vol2収録の第50~51話を参照)を知る者には、沈着冷静な表情の裏に隠された深い哀しみに思いを馳せずにはいられません。毒をあおって死を選んだ娘を抱きかかえ、「死ななくてもよかったんだ」と愕然とする神代。ごく短い台詞と表情だけで、溢れんばかりの情感を表現する二谷英明の熱演に圧倒されます。

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