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精神科医師のブログ。
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進行した認知症の終末期の経過(NEJMより)

2009年10月26日 | Weblog
臨床医学系のジャーナル(雑誌)でもっとも権威のあるとされるのがNew England Journal of Medicineというジャーナルである。
このジャーナルの最近の号にアメリカのボストン近郊の高齢者施設(Nursing Home)における進行した認知症の高齢者の終末期の観察の前向きコホート研究が掲載された。


The Clinical Course of Advanced Dementia →→→日本語要約はこちら
NEJM Volume 361:1529-1538 October 15, 2009 Number 16:Susan L. Mitchell, M.D., M.P.H., et al.
 

「認知症が進行すれば、摂食の問題がでてきて、熱が出たり、肺炎などになり亡くなる。」

「意思決定をおこなう代理人が進行した認知症の経過や予後に対して知っているほど患者が終末期に積極的医療をうけないことが多くなる。」

という、そんなことは当然知っているよというような結論だが、進行した認知症に限って冷静に観察して記述された研究はいままでなかったらしい。
これは高齢になればなるほど増える認知症であるから、世界的にみればその終末期の状態まで達することのできる人は案外少ないということなのかもしれない。(この研究の対象者もほとんどが白人女性だ。)
何かの本に認知症の終末期の説明として「老化が3倍早くすすむようなもの」というのがあったが、実感としては確かにそういうイメージでもある。
認知症が記憶や見当識などの認知の病気のみならず、身体症状も進行する全身疾患のだということは認知症が進行しないとなかなか理解しづらい。

終末期にはセルフケアが困難となる認知症高齢者であるから、その生命予後はケアの質に大きく左右される。
発熱エピソード、肺炎、摂食障害というのも誤嚥(ごえん)性肺炎という観点から観るとほぼ同じものをみているような気がする。

認知症を抱える家族の介護者会などがあるとそういう雰囲気も自然に伝わりやすくなるかとは思う

著者らの主張は「進行した認知症は末期癌や末期心不全と同様の緩和ケアを要する状態で、積極的な医療介入は差し控えるべき。(直接はそうは言っていないが)」というものだ。

この辺にはもちろん医療費削減という意図が絡んでいるのだろうが・・。

認知症で亡くなる方のほとんど(93.8%)がナーシングホームで亡くなっているのは周囲がそういうものだというコンセンサスがあるからだろうか。
日本でもこの値は地域によりだいぶ異なってくるのではないか。

疑問点としてEating Problem(摂食の問題)の定義が今ひとつはっきりしないことをあげたい。
一瞬一瞬を生きている認知症高齢者の摂食嚥下の問題として

・誤嚥を繰り返す状態。
・モグモグするだけで飲み込まない状態。
・注意がそれやすく食事に時間がかかりすぎる状態。
・食べることを拒否する状態。

などがあげられるがもう少し細かく突っ込んでみたいところだ。
このことに関しては非がん患者のターミナルとして、認知症のタイプごとに分けて検討すると何か見えてくるかもしれない。

いずれにしろ、終末期の認知症で本人の意思決定も困難な状態での経管栄養や胃ろうからの栄養、中心静脈栄養などを行うかどうかは難しい問題ではある。
経腸栄養や中心静脈栄養を行った場合のまとまった報告というのがあるかどうかは不明である。(余命は当然ケアの質によって左右される。)
個人的には積極的にはおすすめしないのではあるが・・。


参考)
Incidence and survival of dementia in a general population of Japanese elderly: the Hisayama study
Journal of Neurology, Neurosurgery, and Psychiatry 2009;80:366-370:Y Matsui1,2, et al.

日本の久山町で認知症の発症率、経過などを追ったコホート研究。


参考エントリー

終末期治療中止ガイドラインについて

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