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精神科医師のブログ。
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飲まなくていい薬~デポ剤

2012年03月14日 | Weblog
最近、疲れがたまっていたせいか神経に潜んでいた水痘帯状疱疹ウィルスが再活性化し帯状疱疹となった。
最初は筋肉痛か腰痛のような変な感じの痛みで、次に知覚が過敏になってピリピリと痛痒いとおもったら最後に皮疹が出現し皮膚科受診して診断確定した。

筋肉痛でシップをはって皮疹が出現してシップかぶれと思うという人がいるのも納得の経過だった。
処方された高価な帯状疱疹の薬(今回はファムビル)を処方され1週間薬を毎日飲むことになった。
朝昼夕と1日3回、普段飲んでいた寝る前の薬を加えて1日4回である。
しかし当初こそ飲んでいたが食事の時間も不規則でありmきちんと飲み続けるのは難しく結局コンプライアンス(後述)は7割くらい。
早めの内服で水疱の広がりは抑えられ、かゆみは残るが1週間程度でほぼ治癒した。

自分で薬を飲んでみて毎日内服している患者さんを尊敬の念が強まった。

患者さんの中には薬をほぼきちんと飲む人と、割といい加減な人の2種類にわかれる。
そして薬が必要な人に限って飲みたがらず、必要がない人に限って欲しがる。
きちんと習慣的に飲む人はいいが、いい加減な人は薬が徐々にあまってきたり眠剤だけ先になくなったりする。
うつ病や神経症圏の人はきちんと飲む人が多いが、気分障害や非定型精神病の人に多い印象である。
統合失調症の人間はなんどか再発を繰り返してやっときちんと飲むようになることが多い。
飲まなくなる理由としては当初は副作用によるものが多く、徐々に飲み忘れが多いようだ。

きちんと処方されたとおり飲むかということを「コンプライアンス」といい、必要と思って飲むことを「アドヒアランス」という。
『コンプライアンス=服薬遵守』 という概念は、『医療従事者の指示に、患者さんがどの程度従っているのか』という視点での評価がされているのに対し、アドヒアランスは、指示されたことに忠実に従うというより、患者が主体となって、『自分自身の医療に自分で責任を持って治療法を守る』かという患者さんの視点からの言葉である。

再発率や再入院率はこのコンプライアンス、アドヒアランスと相関する。
まったく薬がのめていないことをノンコンプライアンスといい、飲んだり飲まなかったりすることを部分コンプライアンスという。
一般的にコンプライアンスは50%程度と言われている。
ノンコンプライアンスは全ての要因が患者さん側にある訳ではなく、医療関係者と患者さんとの信頼関係の不足(患者さん情報の収集不足、患者さんの生活習慣に対する無理解、服用困難な処方・剤形の選択、事前の十分な服用意義の説明不足、等)という事も多い。

統合失調症治療で失敗の最多原因はアドヒアランスの低下という研究もあり、いかにこのアドヒアランスを高めるかということが医師や薬剤師の仕事となる。
そのためには「俺の言うことを信じて、つべこべいわずに言われたとおり飲め」というのではなく(当初はそういうこともあるが)、多職種で、薬の期待される作用や予想される副作用なども全て当事者に伝えて納得してもらった上で自分の治療を決定するというShared decision making(シェアド デシジョン メイキング)という考え方が広まりつつある。
つまり『患者さんが参加し、実行可能な薬物療法を計画、実行』するということである。 

コンプライアンスは服薬回数と相関しており、服薬の回数が少なければ少ないほどコンプライアンスが向上する。自分の感覚からいってもこれはわかる。

そのためか最近製薬会社の開発する薬も最近の薬は半減期が長く1日に1回または2回の内服ですむのが多い。
入院中の急性期や不安が強く頻回に内服が必要な場合は1日3回や4回のこともあるが慢性期にはなるべく少ない回数で少ない量のくすりをと考えて処方計画を検討する。
吸収や飲み合わせ、薬物動態を考えてではあるが、覚醒に働く薬は朝食後、鎮静に働く薬は夕食後や寝る前などの1日1回~2回にまとめていくことが多い。

個人的には寝る前に1回という処方が好きである。
これは多少なりとも鎮静にはたらく薬を使えば睡眠状態も改善することにもつながるし日中のImpaired Perfomanceも防ぐことができるからだ。
また飲む時間を決めておけばダラダラと夜ふかしをすることを防げ生活のリズムを整えることにもつかがる。
「せめて日が変わる前に飲んで夜は覚悟をきめて寝てください。(これをシンデレラ睡眠という)」と伝えることが多い。

さて抗精神病薬(主に統合失調症の薬)の中には持効性抗精神病薬(通称デポ剤)というものがある。
これは、その名称の通り、効果が長期間持続する抗精神病薬で、1回の注射で2~4週間程度、効果が持続するものである。
定型抗精神病薬のデポ剤にはブチロフェノン系のハロペリドールのデポ剤(ハロマンス。ハロペリドール+マンス(1ヶ月)という意味)と、フェノチアジン系であるデカン酸フルフェナジンのデポ剤(フルデカシン)などがある。
ハロマンスは注射後、4日後~21日後くらいに血中濃度が治療域に達し効果が高まり約1ヶ月間有効である。血中濃度が上下しないせいか、錐体外路症状などの副作用も内服薬と比べても出にくい印象であるが副作用がでても薬をすぐに抜くというわけには行かないのでもともと経口薬で同じ薬をつかっている場合に切り替える。また初回の注射は入院中におこなって副作用をみることが多い。
しかし躁状態や幻覚妄想状態で薬がきちんと飲めない場合に一時的に使うことが多く強制治療で侵襲的なイメージがあり、患者さんの希望で定期的に使っている方もいるにはいるがどちらかと言えば使用は消極的選択であった。
しかし外国ではもっと種類も多く積極的に使用されているそうだ。



最近になって副作用が少なく陰性症状にも効果が期待できる非定型抗精神病薬であるリスパダールのデポ剤(リスパダール・コンスタ)が登場した。
臀部にしか注射できない、2週間に1度の注射で、有効血中濃度に達して効果が出るまでに1ヶ月程度はかかる、ハロマンスなどとくらべても非常に高価(25mgなら2万3520円を月に2回)であり自立支援医療を適応しないととても使えないのなどの難点はある。
しかし痛みも少なくなるように工夫され副作用もでにくく効果も安定しており、当事者のかたも内服をしなくてもいいということで一旦始めると気にいってくれる方が多い印象である。

デポ剤であれば通院されていればコンプライアンスは100%となるわけで治療者も家族も最低限のお薬が確実に効いているという点で、薬を飲んでいるかどうかを確認する必要もなくなりそれ以外の内容(社会スキルの獲得や心理的な相談)などに時間とエネルギーを割くことが出来る。
薬を飲んだか親にしつこく確認されてケンカとなり家族内での居心地がわるくなって調子を崩すようなケースなどに最適であろう。
デポ剤を使っている患者さんを仕事帰りにも来やすい夕方の時間にあつめグループワークと注射をセットで行なっているクリニックもあるようである。いいアイディアだと思う。

このデポ剤であるが今後の治療の中心となる可能性を秘めており、他の非定型抗精神病薬(エビリファイやジプレキサ)のデポ剤も開発中という噂もある。さらには3ヶ月に1度でいいという注射も開発されているらしい。
ここまで来ると夢の「飲まなくてもいい」薬の誕生であろう。