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精神科医師のブログ。
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安曇総合病院・再構築に関してのまとめ、その1

2012年03月12日 | Weblog
安曇総合病院再構築のマスタープラン作成に向け佳境に入って来ました。
これまでのエントリーとも重複しますが経過と私の主張、プランをまとめておきます。
果たして地域医療再生基金を原資の一部として安曇総合病院にリニアック(放射線治療機器)を導入することが適当なのでしょうか?

安曇総合病院で求められているがん医療は?


がんは老化現象の一種でもありますから高齢になるほどがんは増えます。(小児がんを除く)
その結果、2人に1人が罹患し、3人に1人ががんでなくなる時代です。ですので県議のライフワークである「がん制圧」などという言動はそもそもナンセンスです。がんはコモン・ディジーズ(よくある病気)であり安曇総合病院でも当然、がん患者さんの診療をおこなっていかなければなりません。
もちろん禁煙などの生活習慣に対する介入(一次予防)やドックやスクリーニングなどによるがんの早期発見(二次予防)にも力を入れなくてはいけません。がんが見つかった場合は当院でも可能な手術や化学療法は当院でおこない、困難な手術や放射線化学療法などは松本などの基幹病院でお願いすることになります。
手術や放射線治療は一時的な治療であり、その後の長期にわたる治療は外来化学療法と緩和医療です。これらは生活の場である地域で行なっていかなければいけません。

リニアックはあってもいいですが喫緊の課題とは思えません。がん相談支援センターの相談支援を行なってきた専任の看護師が当院で最もニーズを感じたのは緩和ケア病棟ということでした。緩和ケアは当院で有力な精神科や最近力をいれている在宅医療がとも相性がよい分野ですが、何故か再構築検討委員会がん診療部会では放射線治療機器(リニアック)の導入を優先させ、緩和ケア病棟の設置は当面希望しないという結論でした。現場から見える地域ニーズにどうして声を傾けることができないのでしょうか?


安曇総合病院で放射線治療機器(リニアック)を入れることの是非?


さて県議と院長は何をやりたいのでしょうか?
今後、がん放射線治療は今後より盛んになるでしょうし将来的にはわかりませんが現時点で優先順位の高い課題とはとても思えません。まずは耐震基準を満たさない老朽化した病棟の建て替えが先決でしょう。
院長も補助金(地域医療再生基金)の話がなければリニアックなどいれないと公言していました。リニアックにかける院長の思いといってもしょせんはそのくらいのようです。
 しかし、がん征圧をライフワークとする某県議会議員の肝いりで、当初は原則として2次医療圏に一つの設置が望まれるものの大北地域にはない「がん診療連携拠点病院」を目指すためにはリニアックが必要ということで導入の話がでてきました。しかし患者数等の他の要件が満たせずがん診療連携拠点病院となることはそもそも不可能です。人口3万4000人の木曽医療圏や6万人の大北医療圏では42万人の松本医療圏、56万5,000人の長野医療圏ではそもそも人口背景も違いすぎて都市部に伍する高度専門医療は困難なのです。また山に囲まれた木曽とは異なり大学病院などの高度医療機関の多い松本医療圏に隣接する大北医療圏は患者動態においても影響をうけます。
 このようなこともありすでに厚生労働省の通達でも、「がんに関しては専門的な診療を行う医療機関における集学的治療の実施状況を勘案し、従来の二次医療圏にこだわらず、地域の実情に応じて弾力的に設定する」というように医療圏の考え方自体が変わってきています。今後出てくる第5次医療計画でも当然この考え方に基づいていると予想されます。 
 なお今回の地域医療再生基金では1/3(4億1900万円)しか補助されず2/3の自己資金が必要です。さらに外部コンサルタントの試算では甘い見積もりでも損益分岐点を下回り赤字を生み続けると試算されました。しかし、再構築検討委員会がん診療部会の中間報告では、その試算は無視し独自の試算を提出し「採算性には懸念されるものの放射線治療に伴う入院や患者数増加などの波及効果も考慮し、職員の協力(節約)があれば単独事業ではなく建物の再構築時に地域医療再生交付金を使用して照射機器の導入は可能ではないか」と結論づけていました。
 院長はリニアックを入れれば看板となり医者(特に外科医)も患者も集まるという主張もしていましたが、リニアックと外科は乳がんなどを除けばほとんど関係ないし大学医局も外科医を継続的に派遣することは困難であると当院の外科医も言っています。鍵となる放射線治療医も大学に派遣を依頼するということですが未だ招聘できる目処はたっていません。
現に厚生連病院の中では当院よりはるかに急性期に特化した基幹病院である篠ノ井総合病院ですら、放射線治療医の招聘の目処がたたないため再構築の計画の中では将来的な治療機器設置場所の計画のみにとどまっています。

このような状況なのですが院長はリニアックの導入は、がん診療部会での決定事項であり放射線治療機器の導入はするのだと言っています。一般職員の全く知らぬところで県議と院長で補助金が申請がすすめられ、まるでそれが病院の決定事項のように物事が進んでいくことに恐ろしさを感じます。
がん診療を熱心に行なってきたわけでもなく2年後には定年となる院長が何故今、突然リニアックにこだわるのか理解できません。ハコをつくりキカイを入れることが実績になるとでも思っているのでしょうか?

結論として地域医療再生基金をつかってのリニアックの導入はあまりにリスクが高すぎると言わざるを得ません。

一番の懸念は職員の士気(モラール)の低下、それから引き起こされる医療崩壊です。

県からもその実現性を懸念されており、今からでも他のがん診療関連(緩和ケアなど)のプランに振り替えることもしっかりとした計画があれば可能であると言われており、メンツにこだわらずまずは当初の計画通り老朽化した病棟の建て替えを中心とした計画を行うべきです。
リニアック導入はその後に考えていけばいいことだと思います。

なぜ、安曇総合病院への放射線治療機器という話しに?

まちの病院がなくなる!?

2012年03月12日 | Weblog
北アルプス地域ケアシンポジウムの第2回として、城西大学の伊関友伸(ともとし)先生を安曇総合病院にお招きし当地域の医療再生のヒントとすべく講演会が開催された。
地域住民、病院職員の他、医師会の先生方や行政職の方の大勢の参加があった。
院長、次期医師会長、保健所長の挨拶のあとに講演があった。


(座長であったためこの角度からの写真)

講演の内容を箇条書きでまとめてみる。

医師不足の様々な要因(医師数の抑制、高齢長寿化、病院での死の増加、医療の高度化専門分化、女性医師の増加・・・)
かつては一人の内科医がみていたものも複数の臓器別専門科の医師がみるようになったということ。
月~金の日勤帯以外の平日夜間や休日の時間を何人の医師で担うかが重要になるとうこと・・。(例えば緊急内視鏡のできる医師)
卒後臨床研修義務化により若手医師の大学病院離れがすすみ、地方の病院から大学病院や基幹病院に医師が引き上げられ地方の中小病院の医師不足が決定的になったということ。
若い医師には教育の環境が、年配の医師には休める環境がなければ医師は集まらないということ。
そのためにはある程度の集約化は必然なこと。
安曇総合病院の精神科や整形外科ではある程度人数が集まり教育の体制もあるから若い医者があつまるという好循環がうまれていること。

医療の高度・専門化に対応した病院と医療の高度・専門化に対応できない病院に二極化が進んでいること。
住民、そして政治家が無理をいって医師が集団離職し病院が成り立たなくなり2人の患者さんのために92人の職員を雇用し毎月8000万円の赤字を垂れ流した公立病院の実例。
そして地域医療再生のためにいくつかの病院が事業母体を超えて統合した実例。

特に地方の病院では総合医が重要だということ。
総合医は地域の複数の病院や医療福祉機関が連携して育てていくことが重要だということ。
当地区でも良い総合医養成のプログラムをつくり若手医師をあつめることは可能であろうということ。
しかし志のある医学生を、ただのまして食わせても来ない、いい先生とじっくり語り合える場をつくることが重要なこと。

医療が福祉の肩代わりをするのではなく行政がきちんと主導して地域に必要な福祉を根付かせることが重要なこと。
行政がきちんと動かなければ福祉ビジネスがはびこる土壌になりうること。
旧藤沢町の小さな病院と老健が核となった地域包括ケアの実例。

精神医療は長期入院患者の地域移行と病床削減という流れではあるが、一方で総合病院精神科の高密度高機能な病床機能はますます重要性がましているということ。
厚生連の病院である安曇総合病院も池田町の有志が土地をうった代金をもとに作られ、過去にも分裂の危機を乗り越えてきたこと。
地域住民も当事者であり、行政と住民の他に医療専門職がいるため、地域医療再生は民主主義のよいレッスンたりうること。
病院もきちんと情報公開してみんなで議論することが大切なこと。
厚生連の病院は日赤や済生会などと並んで税制などでも優遇される公的病院といわれるが公的病院は次のような9原則があるということ。

・・・今回の目玉はこの9原則であった。

公的病院の9原則。

1. 普遍的且つ平等に利用し得るものであること。
2. 常に適正な医療の実行が期待しうること。
3. 医療費負担の軽減を期待しうること。
4. その経営主体は当該医療機関の経営が経済的変動によって左右されないような財政的基礎を有し、且つ今後必要に応じ公的医療機関を整備しうる能力(特に財政的な能力)を有する者であること。
5. 当該医療機関の経営により生ずる利益をその医療機関の内容の改善のための用途以外に使用しないような経営主体であること。
6. 社会保険制度と密接に連携協力し得ること。
7. 医療と保健予防の一体的運営によって経営上、矛盾を来さないような経営主体であること
8. 人事行務等に関し、他の公的医療機関と連携、交流が可能であること。
9. 地方事情と遊離しないこと。


民間病院も医療の一翼をになっているが、特に公的病院は地域や医療システム(特に保険制度)を守る使命があることがわかる。
この9原則は古い厚生連の文献から発掘されて厚生労働省も知らなかったという。
今後も公的病院と認定される病院や病院グループもでてくるのだろうか?

この9原則から考えて安曇総合病院の再構築はどうあるべきなのか。

驚いたのは伊関先生が地域医療の歴史(健康保険や国保、厚生連)に深く関心をもたれており次はそのテーマでの本を準備されているということだった。佐久病院史や若月俊一著作集も読み込んでおり、当該地域の医療の歴史や現状に関してもよく調べておられた。

市立大町総合病院や安曇野赤十字病院との連携や役割分担がうまく出来ず、地域医療再生資金でリニアックとICUを作り急性期医療をやらなければ安曇総合病院はおしまいだというような外野からの一部の声に翻弄されていっこうにまとまらない再構築の計画ではあったが、伊関先生の講演でヒントと元気をいただき希望が見えてきたような気がする。

やはり、やたらと新しいことに手をださず、今いる医療者を大事にして、がん診療も救急医療も高齢者の支える医療ももう少しづつ丁寧にやればいいのだ。
救急はまず当直医の専門外などの理由で初めから見ないということをなくすことだろう。
救急外来に出ている医師のレベルを底上げすべく医師、看護師で救急の勉強会などをおこなうことが必要だと思う。
高齢者に関しては老人保健施設や回復期リハ病棟、緩和ケア病棟をもち在宅医療のネットワークを充実させ、長期化した入院患者さんによる満床で当院で見ている高齢者の患者さんを本当に必要なときに断らなくてもすむような体制にしよう。
安曇野赤十字病院の救急部の藤田先生は北の砦を宣言しているのだから、当院で手にあまる血管系の救急などに関しては松本より20分は近い安曇野赤十字病院の救急部門をもり立てていければ良いのではないか。
その代わりに精神障害をかかえる合併症の方、回復期リハビリテーションを必要とする方、在宅高齢者などは早期に転院してみていけば良いのだ。

政治家には松糸高規格道路の早期建設に力を入れてもらおう。
そして例にあげられたように大北地区(市立大町総合病院、安曇総合病院)にも例えば信州大学の地域医療推進学講座(厚生連や長野県の寄付講座)の分室を置くなどして一般内科、総合診療・家庭医療を中心とした教育をおこない総合診療医のチーム根付かせることである。

長野厚生連の盛岡理事長も言っているように今後はリニアックの計画はいったん白紙に戻した上で、いよいよ再構築のマスタープランを本格的につくっていくわけであるが、住民も行政も地域の各病院の職員も医療専門職、皆が当事者として地域の医療のありかたを真剣に考え優先順位の高い課題を一つ一つ解決していければと思う。