tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

コロナも落ちつき、これからが観光シーズン、ぜひ奈良に足をお運びください!

酒蔵ささや

2010年07月27日 | グルメガイド
7/22付の産経新聞(夕刊・大阪本社版)の「おいしい日本 ブランド追求編」シリーズで、酒蔵ささやが取り上げられた。見出しは《奈良の地酒 味わい豊か 個性に酔う》で、執筆されたのは同紙奈良支局長の河村直哉氏。フルカラー・全10段(1ページの2/3)という大特集で、軽妙洒脱な文章が、酒欲(?)をそそるきれいな写真とともに掲載されている。抜粋すると…

《ゆえあって奈良で独居している。「奈良にうまいものなし」などと俗にいわれたそうである。作家の志賀直哉も昭和13年の随筆で書いている。とんでもない。奈良は実は、うまいものの宝庫なのだった。大和野菜、大和牛などなど、奈良に来れば舌が欣喜雀躍(きんきじゃくやく)することになる。志賀が奈良に住んだ大戦前は随筆の通りであったか、ないしは、この文豪も味覚に関しては音痴であったか》。

志賀直哉は、随筆「奈良」に「奈良にうまいものなし」と書いた。私は以前「ではこの文豪は、奈良で何を食べていたのだろう」と興味を持ち、図書館で日記(志賀直哉全集)を繰ったことがある。食い道楽で知られているが、案外食べ物の記述は少ない。自宅では、女中さんが料理を作っていたのだろうか。外食では大阪・心斎橋の大丸百貨店の食堂によく足を運んでいたことと、奈良では東向商店街の中華料理屋を贔屓にしていたことが分かった程度である。お弟子の阿川弘之ほどには、「食」に関心があったようには思えない。

その中華屋は、同商店街のまん中あたりにあったと思われるが、今はない(商店街の古老に確かめたが、現存する「上海楼」ではなかった)。ちなみに、志賀を訪ねて東京からやってきた小林秀雄は「奈良にはわらび餅のほか、うまいものはない」と啖呵を切って、東京から取り寄せた浅草海苔の切れっ端をご飯にかけて食べていたそうだから、江戸っ子のやることは違う。


ブラインドセット(グラス3杯で500円)を試飲する(09.12.2撮影)

《それだけではない。奈良はさらに、うまい地酒の宝庫でもあった。考えてみれば、日本最古の起源を持つ神社のひとつとされる大神(おおみわ)神社(奈良県桜井市)がまつる神は、酒の神でもある。そこでの宴のようすは「日本書紀」にも描かれている。「万葉集」にも酒の歌はいくつか収められた。酒好きだったらしい大宰府長官、大伴旅人(たびと)の歌の、意のみ引くと。―なんにもならぬ物思いをするくらいなら一杯の濁った酒を飲むべきだろう(小学館「日本古典文学全集」) 上代の都人のみならず現代にもすぐ通じる。奈良の酒のおかげで、筆者のなんにもならぬ独居の憂さも、歓喜に転じてしまった》。

奈良市の正暦寺(しょうりゃくじ)には、「日本清酒発祥之地」の碑が建っている。『奈良まほろばソムリエ検定 公式テキストブック』(山と渓谷社刊)には「酒の歴史は古く、平城京から出土した木簡にも造酒のことが書かれている。長い間濁り酒だったが、室町時代に清酒が造られ、この上が無いと『無上酒』とまで呼ばれたこの清酒を造ったのが正暦寺。日本の清酒の起源はここから始まる」とある。

大伴旅人の歌は「験(しるし)なき物を思はずは一坏(ひとつき)の 濁れる酒を飲むべくあらし(万葉集 巻3・339)」だ。旅人はこのほかにも酒の賛歌を詠んでいる。「古の七の賢(さか)しき人たちも 欲(ほ)りせし物は酒にしあらし(同341)」「あな醜(みにく)賢しらをすと酒飲まぬ 人をよく見ば猿にかも似む(同345)」など。酒を題材にして人生の楽しみを謳歌する旅人の心根が(酒好きの私には)よく伝わってくる。

日本酒の選び方 (エイムック 1933)

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《昨年12月、古い町並みが残る奈良町に奈良県酒造協同組合が「酒蔵ささや」という店を出した。奈良県下の蔵元37のうち27が約130銘柄を出している。小売りのほか、立ち飲みスタイルのテイスティングバーで試飲することができる。へたな形容は美味を損なうのでよす。大吟醸豊祝(ほうしゅく)(奈良豊澤酒造、奈良市)を口に含んで陶然となり、梅乃宿備前雄町純米大吟醸(梅乃宿酒造、葛城市)に陶酔を重ねた。酔いすぎると味がわからなくなるので、3杯ほどでやめて日を改める》。

このお店の名物は「本日のお試しブラインドセット 3種 500円」だ。一杯100円、200円、300円の3種類のお酒が楽しめ、しかも100円おトクである。ブラインド(目隠し)なので銘柄は分からない。飲んだあとで銘柄を教えてもらい、気に入ったお酒を四合瓶で買って帰ることもできる。私はブラインドセットのおかげで、地酒のレパートリーが飛躍的に増えた。「酒の味は、値段とは比例しない」ということもよく分かった。自分好みの酒を見つけることが肝心なのだ。
※「酒蔵 ささや」ならまちにオープン!(当ブログ内)
http://blog.goo.ne.jp/tetsuda_n/e/420f2de053bbd5a3567c2d8b55e7311b


篠峯 八反純米吟醸。ふんわり・すっきりが持ち味(09.12.11撮影。以下の2枚とも)

《春鹿純米超辛口(今西清兵衛商店、奈良市)、稲戸屋純米大吟醸(芳村酒造、宇陀市)、往馬(いこま)純米大吟醸(菊司醸造、生駒市)、篠峯夏吟吟醸無濾過(ろか)(千代酒造、御所市)など、すばらしい美酒をいくつも知った。ほかにもうまい酒が並ぶ。食前酒にふさわしいような甘口の酒、料理と合わせて何杯でもいけそうな辛口の酒、どっしりと腰のある酒、など、個性も豊か》。このお店で初めていただいたのが「篠峯(しのみね)」というお酒だ。篠峯とは葛城山の別名で、醸造元の千代酒造は、9月に「古社寺で歩こう会」で訪ねる御所市櫛羅(くじら=葛城山の麓)にある。篠峯は、辛口だがふんわり・すっきりした酒で、料理をますます美味しくしてくれる。

《そもそも麹(こうじ)米も蒸し米も精米を使った「諸白(もろはく)」は奈良に源流があり、南都、つまり奈良の酒は「南都諸白」として人気を博した。しかし江戸時代になり、海運と結びついた伊丹などの酒に主役を譲ってしまった(「日本酒の歴史」など)。「ささや」店主の多山藤樹さん(51)によると、戦後、奈良の酒蔵には他府県の大手酒造メーカーに出荷するところもあり、大手の陰に隠れてしまったそうである。消費者の清酒離れもあって、昭和48年に奈良県下に76あった蔵元は平成20年には37に減ってしまった》。奈良県は、今も近畿では灘の兵庫県、伏見の京都府に次ぐ清酒製造量を誇っているが、酒を桶ごと大手に納める「桶売り」、いわばOME供給の時代が続いたため、県下の酒造メーカーの名前が表に出る機会は少なかった。


もう1本は、篠峯 雄町純米吟醸

《もちろん一方で、奈良でいい酒を造ろうとする努力もあった。平成になったころから、奈良の酒を自分たちのラベルで売ろうとする動きも活発になっていたという。「春日の森、生駒山系、葛城山系、吉野山系など、いい伏流水が全域にあって、バラエティーに富んだ蔵元が各地に点在しています。近県に大きい酒蔵がある。それに勝つには技術、味以外の何ものでもない」(多山さん) 土地の個性と歴史が奈良の酒のひとしずくをなす。酒かすがかもす奈良漬の風味も、この酒どころならではの産物だろう》。
※参考:試飲・購入できる奈良酒専門店『酒蔵ささや』@奈良町(奈良に住んでみました)
http://small-life.com/archives/10/01/1019.php

《酒を味わってもらうのが主眼のため、「ささや」の料理は大和肉鶏胸肉のくんせい、奈良漬などおつまみがほんの数種類。料理店でさらに奈良の酒を味わってほしいと午後7時で店じまいとなるが、リピーターも増えた。地の酒を知り、愛する。食材の地産地消にとどまらず、これもグローバルからローカルへの回帰の、ひとつの現れといってよい。各地でおいしい日本の再発見が進んでいることと思う。こんな次第で筆者も、また奈良で杯を重ねることになる》。店主の多山さんに、「なんでこんなに早く閉店するのですか」聞くと、「ウチで試飲していただいてから、その酒を置いている飲食店に行ってほしいのです」とおっしゃった。なるほど、これは筋が通っている。立ち飲み屋ではなく、酒造組合のアンテナショップなのだから。
※参考:間違いだらけの日本酒選び(さいたま市の池田屋酒店さん制作 PDF形式)
http://1e-sake.chicappa.jp/pdf/machigai.pdf


大和肉鶏胸肉燻製とチーズ(いずれも200円)
           
《【酒蔵ささや】奈良市西寺林町22▽TEL0742・27・3383▽10~19時▽木曜定休▽カウンターで飲める地酒はグラス(約50ミリリットル)1杯100~500円。きき酒ブラインドセットは3種類の酒を試すことができ、500円。おつまみは、ドライフルーツ300円、大和肉鶏胸肉くんせい200円、奈良漬100円など。季節の野菜を使ったおつまみもある。いまの時期はヤマブキの佃煮100円》。産経の記事は以上である。
※参考:奈良酒専門店 酒蔵ささや(かぎろひNOW)
http://kagiroi.narasaku.jp/e16827.html

平城遷都1300年祭の今年、「日本酒で乾杯推進会議 奈良大会」(奈良県酒造組合)が10/16(土)、奈良県新公会堂で開催される。県酒造組合のブログによると《“ニッポン人には日本が足りない“といわれる近年、日本酒で”乾杯“することによって、日本文化や伝統が持つ素晴らしさを多くの方々に見つめなおしていただきたいと考えて「日本酒で乾杯推進会議」が2004年10月1日「日本酒の日」に設立されました。現在、全国各地で「日本酒で乾杯」実践の動きが高まってきており、運動の推進母体となる「日本酒で乾杯推進会議」の会員数も、当面の目標3万人に迫ろうとしています》。

《奈良県酒造組合では、平城遷都1300年祭の今年、「日本酒で乾杯推進会議」の全国大会を奈良県に誘致し、日本清酒発祥の地 奈良から日本酒文化を広げようと計画しています。その実施要領が、下記のようにほぼ決定しましたのでお知らせします。日本酒で乾杯推進会議へのご入会は「酒蔵ささや」で申込用紙にご記入下さい。(入会無料)》。1300年祭の年に、清酒発祥の地・奈良で「日本酒で乾杯推進会議」を開くという趣向がいい。ぜひ盛大に開催し、奈良の地酒を全国にPRしていただきたいものだ。
http://yamatoumazake.blog54.fc2.com/blog-entry-49.html

産経新聞のこの記事は、「酒蔵ささや」の存在を世に知らしめただけでなく、「奈良にうまい酒あり」をPRする絶好の機会となった。河村さん、有り難うございました。酒蔵ささやさん、一層のご繁盛をお祈りいたします。私も、またお邪魔しますので。
※トップ写真は店主の多山さんとN先輩(09.12.11撮影)。お店はこのあと満員になった

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4 コメント

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みんなの力で (tetsuda)
2010-07-29 06:21:13
N先輩、コメント有り難うございました。写真も無断で使わせていただき、失礼しました。

> 昨晩のご意見まことに同感、素晴らしいと思いました。

遅くまでお付き合いいただき、深謝です。次回はぜひ、ささやさんの吟醸酒で一杯やりたいものです。

酔った勢いで大言壮語してしまいましたが、みんなの力で、この素晴らしい奈良県を盛り上げてまいりましょう。
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写真お礼申します (エヌ)
2010-07-28 07:35:01
昨晩のご意見まことに同感、素晴らしいと思いました。「大好きな奈良をもっと多くの人に分かってほしい。たくさんの国宝、歴史、文化遺産のある奈良の価値を正しく知ってほしい。そのために行動しており、見返りなど求めません。あえていえば、満足感、充実感があることがみかえりでしょうか」軸をしっかり持ってぶれずに、前向きに、決して愚痴らず発信し続けるtetsudaさんの毎日は、私に勇気と目標を与えています。
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良いお店です (tetsuda)
2010-07-28 06:01:57
かぎろひさん、コメント有り難うございました。

> 奈良酒が紹介されると、わが事のように喜んでしまいます。ささやさんには、
> ちょくちょく、思わずふらっと入ったりして、かなり馴染んでおります^^;

本当に良いお店ができました。奈良の日本酒の美味しさをアピールするアンテナショップですね。

> 「かぎろひNOW」のご紹介までしていただきありがとうございます。

良い記事でしたので、リンクを貼らせていただきました、多謝。お店で、お会いできるかも知れませんね。
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ささやさん (かぎろひ)
2010-07-27 15:10:43
こんにちは

この記事、うれしく拝読した1人です。
奈良酒が紹介されると、わが事のように喜んでしまいます。

ささやさんには、ちょくちょく、思わずふらっと入ったりして、かなり馴染んでおります^^;
こういうお店ができて、とても喜んでいる1人でもあります。

多山さんは、さすがに蔵元さんだけあって、お酒のことをほんとうによくご存じなので、お話も楽しいですし。

そうそう、と思いながら読み進めてきて、おっと「かぎろひNOW」のご紹介までしていただきありがとうございます。

また行きたくなりました~♪
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