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日本清酒のルーツ/菩提もと清酒20年の歩み(奈良日日新聞「奈良ものろーぐ」第28回)

2018年08月03日 | 奈良ものろーぐ(奈良日日新聞)
毎月第4金曜日、奈良日日新聞に「奈良ものろーぐ」を寄稿している。先月(7/27)掲載されたのは「日本清酒のルーツ 菩提もと清酒20年の歩み」。日本の清酒の起源が正暦寺で創案された「菩提酛(もと)づくり」にあるということは、奈良検定の公式テキストに記載されている通りで、今や常識となっている。
※トップ写真は「菩提酛清酒祭」の様子

しかしこの事実は永い間忘れ去られていて、約20年前に「再発見」されたというから驚く。その陰には、県下の若手醸造家などご関係者の血のにじむような努力があった。まさに驚きと感動のドラマである。では記事全文を紹介する。

奈良は清酒の発祥地である。「酒の歴史は古く、平城京から出土した木簡にも造酒のことが書かれている。長い間濁り酒だったが、室町時代に清酒が造られ、この上が無いと『無上酒』とまで呼ばれた。この清酒を造ったのが正暦寺(しょうりゃくじ)。日本の清酒の起源はここから始まる」(『奈良まほろばソムリエ検定 公式テキストブック』)。

元奈良県工業技術センター所長で「なら泉勇斎」店主の山中信介さんによると「正暦寺で創案された菩提もとは、現在の酒母(酵母を大量に含むアルコール発酵の元)の原型ですし、諸白(もろはく)造り(麹用の米と蒸し米の双方に精白米を使う)も、この寺から始まりました」。

私は「正暦寺が清酒の発祥地」ということは、室町時代から連綿と伝わる周知の事実だと思っていた。しかしこの事実は約20年前まで忘れ去られていたというから驚く。

日本酒製造のピークは昭和50(1975)年だが、その後はバブル崩壊後の不況の影響で減少し、平成15(2003)年には半減した。このような状況の中、危機感を覚えた県下の若手醸造家が、正暦寺や県工業技術センターなどの協力を得て平成8年、「奈良県菩提もとによる清酒製造研究会」を発足させた。当初に参加した蔵元は15社。

同年11月に書かれた同会の資料には「菩提もとによる製造は、大和酒の伝統を生かし、かつ酒質のレベルアップを図ることが目的。(中略)ただ古い文献を集めて酒造の歴史・技術を検証することのみに終わらず、先人の知恵を現代の酒造りに生かし、未来へと継承することが私たちの責務」と宣言している。

平成12年にまとめられた「菩提もとの基本条件」には、①酒母は正暦寺で造る②酒母の製造工程では生米を使う③乳酸菌は添加せず「そやし水」(天然の乳酸菌が含まれた仕込み水)を使う④正暦寺由来で県工業技術センターが分離した正暦寺乳酸菌を使う⑤育種改良した正暦寺酵母菌を使う⑥寺領の米と水を使う⑦最適な米麹を使う、とある。

酒造業者が自らの蔵で酒母(菩提もと)を造るのは、リスクが高い。昔から蔵に住み着いた微生物に対し、正暦寺乳酸菌や酵母菌が影響を与える可能性があるからだ。しかし酒母を正暦寺で造るためには、国税庁の許可が必要になる。お寺と同会の熱意により、平成10年「酒母製造免許」が交付された。現在、日本の寺院で酒母製造が許可されているのは、正暦寺だけである。
 
このような努力の甲斐あって醸された菩提もと清酒は、濃醇でわずかな酸味がアクセントとなり「高級な白ワインみたい」と世評が高い。現在、菩提もと清酒を造っているのは、菊司醸造(生駒市)、上田酒造(同)、倉本酒造(奈良市)、八木酒造(同)、今西酒造(桜井市)、油長酒造(御所市)、葛城酒造(同)、北岡本店(吉野町)の8社だ。奈良のうま酒・菩提もと清酒は、夏はキリッと冷やして味わっていただきたい。

※本稿制作にあたっては住原則也氏の論文「清酒のルーツ、菩提酛の復元」を参考にさせていただきました。


末尾に掲げた天理大学・住原則也氏の論文(PDF)は、27ページもの労作であり、これがなかったら今回の記事は到底書くことができなかった。住原氏には深く御礼申し上げる。

国民の日本酒離れに危機感を覚えて、若手醸造家が立ち上がり、室町時代の製法を再現した。しかも「伝統を生かし、かつ酒質のレベルアップを図ることが目的」としたことが素晴らしい。白ワインの味に慣れた現代の消費者の嗜好にもマッチするからだ。

「奈良県菩提もとによる清酒製造研究会」の皆さん、ありがとうございました。奈良県はこれをテコに「清酒発祥の地」を大いにアピールしてまいりましょう!


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