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田中利典師の「山の行より里の行」(中外日報「随想随筆」②)

2024年08月21日 | 田中利典師曰く
今日の「田中利典師曰く」は、〈「山の行より里の行」②僧侶派遣業〉、中外日報「随想随筆」欄に、4回連続で掲載された文章の第2回である(師のブログ 2016.7.24付)。当時、アマゾンが始めた「お坊さん便」(僧侶派遣業務)が話題になっていた(2019年10月、アマゾンでの取り扱いは終了)。
※トップ写真は、株式会社よりそうのサイトから拝借

より正確に申し上げると、株式会社よりそうが取り扱う「お坊さん便」の、アマゾンのサイトでの取り扱いを停止したということで、同社はまだこの業務を取り扱っている。それなら、地域の葬儀社が提供しているサービスと同じことなので、あまり抵抗はないように思われる。では、以下に全文を紹介する。

「山の行より里の行」②僧侶派遣業 田中利典著述集280724              
しばらく休んでいました回顧著述集です。今回は今年5月に中外日報社で連載させていただいた原稿の元原稿の第2稿。昨年話題となったAmazonの僧侶派遣業務について、私なりの立場で、少し述べています。よろしければご覧ください。

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僧侶派遣業
昨年の12月、お釈迦様成道会の日にAmazonが僧侶派遣業務を開始して、仏教界内外で物議を醸し出した。宗教行為を商品化するとは何事かと仏教界からは大反発があったが、一部の僧侶の中には歓迎するむきもある。

もうずいぶん前の話になるが、あるお寿司屋さんで、そこの大将が語った言葉に感心した。「回る寿司屋がどんどん出来て、私達が困ると思っている人がいるが、違うんだよ。子どもの頃からああしてお寿司を食べる習慣をつけてくれるのは嬉しいねえ。いつかは大人になってこっちに来てくれるようになるのだから…」というような話であった。

ものは考えようという単純な話ではない。何事も現実に起こることはその時代の要請、ある意味必然なのだから、あらがいようがない。Amazonの僧侶派遣も善し悪しの問題ではなく、現実に社会の要請があって、物事は起こっているのである。Amazonの前にはイオングループの葬祭業参入という事例がすでにあって、そのときも全日本仏教会が遺憾の意を述べて、葬儀費用の明示化を一時、イオンに取り下げさせたことがあった。

私は昨春、田舎の自坊に帰ったが、私の寺は檀家がない。檀家寺ではなく、いわゆる信者寺、祈祷寺である。といって、葬祭法儀をしないわけでも、出来ないわけでもない。ただ檀徒がないからオファーがないし、ことさら参入しようとは思わない。長年の信者さんで、檀家寺との縁がない方だけをお受けしているようなことである。だからAmazonの問題もどこか無責任に、評論家的な立ち位置で、もの言いが出来る。

いま、先祖代々のお寺と檀家との関係が壊れつつあるのは明白であろう。そもそも檀家制度という日本独特の制度が出来たのは江戸時代になってからのこと。当時の日本人の人口はせいぜい2200万人前後だったそうで、現在の日本の人口は1億2600万人を超えているから、わずか400年ほどで約6倍の伸びを見せたわけである。

物事は2割3割の増加には内部努力で対応出来るが、5倍6倍となると、そんな程度ではなんともならない。組織自体、構造自体を作り直さないと対応など出来ようがないのである。

その点、檀家制度は明治の神仏分離や戦後の農地解放という大変革期を乗り越え、よくぞここまで持ってきたモノだと関心さえする。その時々の先輩僧侶達の血の滲むような努力と、それを支えた一般庶民の信仰力のお蔭であったという意外はないだろう。それでも、である。もうなんとも出来ない時代を迎えたと言っていいのではないだろうか。

今までのあり方が全否定されたわけではない。檀家と関わりを持てない都会人が増え、檀家制度を支えてきた地域での共同体も喪われて行く中で、日本仏教が新たな要求に晒されているということだ、と私は理解している。

今までのあり方で通用するお寺もある。一方、過疎化のあおりを受けて、廃寺となる地方寺院もたくさんある。今まで以上に日本人の信仰心を問うような活動を仏教界が要求されていると思うことが肝要なのだ。

Amazonを通じて、葬祭をこなし、僧侶との出会いを求めた人は決して無宗教な人間ではない。寿司屋の親父の話ではないが、「大いに結構、いずれは本物の寿司を握っているウチに来るんだ」、くらいの気持ちで、あたふたせず、ドンとしていてもよいのではないだろうか。

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中外日報の「随想随筆②」(平成28年5月20日掲載)で連載させていだいた文章の元原稿を転載しました。
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