宇月原晴明「かがやく月の宮」新潮社
紫式部かとおぼしき女性がある物語を読んでいるところからはじまる。
彼女が読んでいるのは、よく知られた「竹取物語」ではない、これが真のかぐや姫の物語であるとひそかに伝えられた一巻。
その巻物のタイトルが「かがやく月の宮」で、書き出しが「いずれの御時にか女御更衣あまたさぶらいける都に」と始まっている。
内容は、竹取翁という不思議な老人が守っている美しいと評判の、しかし、誰も見たことのない姫と、五人の求婚者。
その噂話を聞き興味を持った若いみかどが主人公。
かぐや姫の謎を解くのに鍵として出てくるのが異国の伝承物語で、月の女神アルテミスと女神に挑んだ王の話。
物語の中で、別の物語が語られる。
ストーリー的には「竹取物語」と同じ道をたどる五人の求婚者の失敗談が、政治的な立場と駆け引きだったり、それぞれおもしろい顛末になっている。
物語の中に別の物語という、三重に重なった構造で、かぐや姫とは何者だったのかという解釈につながっている。
かぐや姫とは人間ではなく、異国の伝説の錬金術の成果なのか?不老不死の薬は副産物なのか?
姫は生身の人間でないのか?錬金術で醸成された鉱石?
見た人が一番会いたいと思う人に見える、意識の鏡?
みかどが、受け取った不老不死の薬を不二の山で焼いてしまうところで、「かがやく月の宮物語」は終わっていて、読み終わった女性は、かぐや姫が消えてしまったのではなく、もしもみかどの后になっていたらどうだろう?と考えて、そこからの物語を書こうと筆を執る。
光る姫とみかどの間に生まれる、光る皇子の物語にしよう、と考えつき、その書き出しが、「いずれの御時にか女御更衣あまたさぶら給いける中に」とはじまる。
というところで、この小説は終わる。
一番興味深い設定は、体の弱い若いみかどと、優秀な兄、美貌の姉との関係。
異母兄姉ではあるが、みかどは姉に恋しているし、姉は兄に恋している。
兄は、女帝である母に殺され、姉はその時みずから殉死してしまう。
すぐ発熱して寝込んでしまうような繊弱なみかどの描写、夢うつつに浮かぶ姉の姿が、妖しく美しく、いかにも宮中奥深く隠された恋の香りで、いいんですよ。
そこから、アマテラスとスサノオも、姉と弟だが恋慕だったのではないかという解釈が出てきて、おもしろいと思った。
アルテミスは月の女神、アマテラスは日の女神というのも重ねられていて、みかど(天皇)は日の御子であるというのも重ねられている。
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