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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

俳優 亀岡拓次

2016年02月08日 | 映画(は行)
脇役だけど主役



* * * * * * * * * *

近頃、人気急上昇中の安田顕さん。
確かに、TVドラマ「下町ロケット」の安田顕さんが素晴らしくいい役で、
好感度上がりましたよねー。



本作の安田顕さんは、そのまま俳優の役。
けれど、脇役専門・・・。
泥棒、チンピラ、ホームレス。
大作から自主制作作品まで、声がかかればなんにでも応じる。
そして監督には重宝されるのです。
・・・しかし、いつまでたってもそれ以上の役がつかない。
こんなふうで、ひたすら撮影現場と飲み屋を行き来する毎日。
そんなある日、ロケ先の長野のふと入った居酒屋で、
そこのおかみ(麻生久美子)に心惹かれてしまうのです。
外人監督による大作のオーディションを受けてみたり、
これまで避けてきた舞台に挑戦したりもしますが・・・。



不器用だけれども愛すべき一人の男の姿が浮かび上がってきます。
いいですね~、このダメさ加減。
でもどういうわけか全くダメなのではなくて、
その脇役としての演技はどうも監督の琴線に触れ、光を放つらしい・・・。
面白いですよねえ。
けれども、舞台ではどうもうまくいかないようでもある・・・。



本作のラストシーンが、彼の人生を暗示しているのです。
砂漠をたった一人で歩む亀岡拓次。
しかし、その手には一輪の花。
それこそが監督が認める「才能」とでも言うべきもの・・・。
いやいや、本人はそんなものはなくても恋人と野原を歩みたい、
と思っているのかもしれません。
けれどやはり彼が歩むのは砂漠の道。
・・・むちゃくちゃ深く人生を語っているような気もします。



寒天のお刺身、食べてみたくなりました。


「俳優 亀岡拓次」
2015年/日本/123分
監督・脚本:横浜聡子
原作:戌井昭人
出演:安田顕、麻生久美子、宇野祥平、新井浩文、染谷将太

満足度★★★★☆

「秀吉はいつ知ったか」 山田風太郎

2016年02月07日 | 本(エッセイ)
やっぱり面白い。信長・光秀・秀吉。

秀吉はいつ知ったか (ちくま文庫)
山田 風太郎
筑摩書房


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中国大返しに潜む秀吉の情報網とその裏にあっただろう権謀を推理する「秀吉はいつ知ったか」。
福澤諭吉と榎本武揚の心理とそのすれ違いを考察する「その後の叛将・榎本武揚」。
歴史的人物の評価の移りかわりや役割の大きさについて思いをはせる「大楠公とヒトラー」
―天才伝奇小説家山田風太郎の発想がかいまみえる「歴史」をテーマにした文章を中心に編まれるエッセイ集。


* * * * * * * * * *

山田風太郎先生のエッセイ集。
…なんだか著者のことは「先生」と呼ぶのが一番ピッタリする気がします。
本著には先生の身の回りのことや歴史のこと、様々なエッセイが収められていますが、
やはり読み応えがあるのはこの「秀吉はいつ知ったか」をはじめとする
歴史上の人物考察のところ。


「秀吉はいつ知ったか」、これはもちろん「信長の死」のことですね。
今考えても、毛利攻めにあたっていた秀吉が信長の死を知り、
即座に戦にケリを付けて京へ駆け上り、光秀を討つ
という行動が、迅速すぎるというのです。
秀吉は信長の死を一体いつどのように知ったのか?
・・・ネタばらしをしてはダメかな?と思いつつ、
まあ、本書には他にも興味深い話が満載なので明かしてしまいましよう。
風太郎先生の見る秀吉は相当に「腹黒い奴」で、
そもそも光秀の謀反をそそのかしたのが秀吉。
だから彼は本能寺の変を予期していた。
だからこそ、「その時」にはもうシナリオができていて、
即座に行動できたのだ・・・と。
こういう陰謀を巡らせる秀吉像は、「信長協奏曲」中の秀吉像に近いですね。


「天狗党始末」ではあの「恋歌」でも読んだ
水戸の天狗党にまつわる悲惨な事件のことに触れています。
戦国時代も興味深いですが、幕末もまた色々なドラマ満載です。


ラストの「安土城」では、信長に反旗を翻した光秀の心情を小説風に仕立てています。
光秀は、信長が彼の意に反した人々への残酷な処分を目の当たりにし、
恐怖を感じるのです。
命を奪うことはあたり前。
時には当人のみならず一族のプライドも生きる意欲も根こそぎにしてしまう。
そんな時に、信長から家康のもてなしの準備を言い渡された光秀が、大失敗。
まずい・・・、このままでは自分もどんな罰を受けるかわからない・・・
非常な恐怖を感じた光秀が・・・
ということなんですね。
全ては、どこまで行っても想像の域をでないのですが、
それがまた歴史の面白いところ。
楽しめる一冊です。

「秀吉はいつ知ったか」 山田風太郎 ちくま文庫
満足度★★★★☆

ドンファン

2016年02月06日 | 映画(た行)
心の目で真実を見てほしい



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私、ジョニー・デップ作品はかなり見ていると思い込んでいましたが、
実はそうでもないことに気付きました。
最近作はほとんど見ていますが、古いものは見ていないものもかなりあるようです。
「チャーリー・モルデカイ」ですっかり失望し、
「ブラックスキャンダル」は全然観る気が起きず、
仕方ないから若き日のジョニー・デップを見ようと・・・。


それで、この「ドンファン」ですが、
あの伝説の伊達男ドンファン、その人のストーリーかと思っていたら、
なんと現代の物語です。


仮面にマント、剣まで携えるという時代錯誤のスタイルをした若い男(ジョニー・デップ)が
ビルの屋上から飛び降り自殺をしようとしています。
そこへ呼ばれたのが精神科医であるジャック・ミクラー(マーロン・ブランド)。
自分はドンファンだと主張する男に話を合わせ、
なんとか納得させて、彼を病院へ連れて来ました。
ドンファンは、ジャック医師に自分の数奇な運命と愛の遍歴を語ります。
どう考えても変だ。
馬鹿げている。
周りの医師は「妄想」と決め付け、クスリを服用させるようジャックに迫るのですが、
ジャックは妙にドンファンの話に心惹かれてしまうのです。
彼の話は、詩的で情熱的、女性に対しての賛美に満ちています。
ジャックはこのところすっかり仕事の意欲も減退し、引退も何日か先に迫っていました。
夫婦生活も倦怠に満ちています。
ところがドンファンの語るストーリーを聞くうちに、
みずみずしい情感や女性を愛する気持ちが蘇る気がするのです。


確かに、ドンファンの語るストーリーは
惨めな現実をバラ色の妄想で包み隠したニセのストーリーなのかもしれない。
しかし、彼自身がいいます。
「そのように見えるかもしれないけれど、心の目で真実を見てほしい」と。


う~ん、ジョニー・デップの真骨頂を行く作品ですね。
ナイーブそうな青年は、どこか風変わり、というか普通じゃない。
が、捉えきれないそこのところが魅力。
見るからの「変人」ではなくて。
病院の女性看護師たちが皆ドンファンを観るだけで虜になってしまうというのもおかしい。
ジャック医師の奥さん役がフェイ・ダナウェイ。
往年の男女2大俳優を配置したのもナイスです。
洒落た作品でした!!

ドンファン [Blu-ray]
マーロン・ブランド,ジョニー・デップ,フェイ・ダナウェイ
ワーナー・ホーム・ビデオ


「ドンファン(1995年)」
1995年/アメリカ
監督・脚本:ジェレミー・レビン
出演:ジョニー・デップ、マーロン・ブランド、フェイ・ダナウェイ、ジェラルディン・ペラス
ジョニー・デップの魅力度★★★★★
満足度★★★★☆

ザ・ウォーク

2016年02月04日 | 映画(さ行)
頼むから、早く降りて~



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本作、以前IMAXシアターの3Dで予告編を見たのです。
高所恐怖症気味の私はそれだけで「ひえ~!!」と思い、
これは絶対に見るべきでないと固く心に誓ったのですが・・・、
しかし好奇心には勝てませんでした。
だってね、あとでDVDで見るくらいなら、やっぱりホンモノ(?)を見たい・・・。
ということで、あえて見ましたよ。IMAXの3D!!!



1974年、当時世界一の高さを誇るワールド・トレードセンターの
ツインタワーにワイヤーを張って、命綱なしに綱渡りを達成した、
フィリップ・プティ氏の実話です。


いやはや、フィリップ・プティ氏に扮するジョセフ・ゴードン=レビットは、
自由の女神のトーチのてっぺんに立ち、当時のことを語るのですよ。
海の向こうに浮かぶマンハッタンのビル群、ツインタワー。
確かに絶景。
しかし・・・彼が立っているのは手すりの外。
あわわ・・・。
私はもう、それを見ているだけでお尻の辺りがムズムズしてきます。
自分ならそもそもそこに立つこともできない。
全く、気持ちをざわざわさせる映像です。
でもよく考えてみたら、ここもCGですよね・・・。



こんな命知らずの綱渡りをしようとするのはアメリカ人、
とばかり思っていたのですが、
なんと彼はフランス人だったのですね。
子供の頃にサーカスで見た綱渡りで、綱渡りに魅せられて、特訓。
家族の大反対の末勘当されて、
とうとうパリで綱渡りやジャグリングをする大道芸を生業にしてしまった。
そんな時、ニューヨークで建設中のワールド・トレードセンタービルの新聞記事を見て、
いつか必ずここで綱渡りをする!!と決意したのです。
実際の綱渡りのシーンは最後の最後。
そこに至るまでのあれこれは退屈かと思っていましたが、
なんのなんの。
そこに至るまでの準備段階こそが、「綱渡り」なのでありました。
そもそも、まともにそんなところで綱渡りをしたいと言っても許可が出るわけがない。
そこで極秘裏に準備を進めますが、つまりそれは不法侵入。
フィリップはビルの工事現場をまるでスパイのように様々な変装で訪れつつ、
徹底的に調べあげます。
・・・でもこれは、当時だからできたことで、
セキュリティに神経質な今なら、たちまち逮捕されたかもしれませんね・・・。
この「犯罪」の協力者を集めるのもまた、大変なことでした。
そこで育まれる友情も素晴らしいし、
チームワークなくしては無理ということもつくづく身にしみる。



そして、いよいよクライマックス・・・。
コワイ、コワイ・・・。
110階。
411メートルの高さです。
どうしてこんなところに足を踏み出すことができるのか。
全く理解できません。
それも一度のみならず・・・。



「た、頼むから、早く降りて~」

と、私はひたすら思い続けていました。
そしてラストシーンで気づくのです。
本作はあのツインタワーへの追悼を込めた作品なのでした。
世界中の人がこのいっとき「夢」を共有したツインタワーの・・・。


さて、そして思うのです、
ジョセフ・ゴードン=レビット。
もちろん、本当にそんな高さのワイヤーを歩いたわけではありませんが、
かなり自在に綱を渡れるように修行したようですね・・・。
それが凄い。
そしてまた、彼は生粋のアメリカ人のはずですが、
なめらかなフランス語の上に、あえてフランス訛りの英語。
まあ、そこら辺の本当の「感じ」は、私にはわかりませんけれども。
役者魂ですなあ・・・!



なんにしても、すんごい作品です。


「ザ・ウォーク」
2015年/アメリカ/123分
監督:ロバート・ゼメキス
出演:ジョセフ・ゴードン=レビット、ベン・キングズレー、シャルロット・ルボン、クレマン・シボニー、セザール・ドムボイ
高所感★★★★★
満足度★★★★★

「流」 東山彰良

2016年02月03日 | 本(その他)
エネルギッシュ!!

東山 彰良
講談社


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1975年、偉大なる総統の死の直後、愛すべき祖父は何者かに殺された。
17歳。
無軌道に生きるわたしには、まだその意味はわからなかった。
大陸から台湾、そして日本へ。
歴史に刻まれた、一家の流浪と決断の軌跡。
台湾生まれ、日本育ち。
超弩級の才能が、はじめて己の血を解き放つ!
友情と初恋。
流浪と決断。
圧倒的物語。


* * * * * * * * * *

第153回直木賞受賞作。
どの方も絶賛の本作に興味があって手に取りました。
最近私の中ではちょっとした台湾ブームなのです。
台湾の高校野球チームのことを描いた映画「KANO」、
吉田修一さんの台湾新幹線をテーマとした「路」。
どちらも素晴らしく魅力的な物語でした。
そんな中で私が気になったのは、台湾に住む人々の対日感情。
台湾を長く統治下においていた日本のことを、
地元の方は良くは思っていないのではないかと。
もちろんそういう向きのあるのですが、
でも、そればかりではない。
そんな経緯も本作に書かれていたので、
ちょっぴり学習もさせていただきました。


1975年、台湾に暮らす17歳・葉秋生の破天荒な青春記。
彼の祖父は中国本土から、蒋介石率いる国民党の一派として
この台湾へ渡ってきたのです。
中国では共産党と闘い、平気で人を殺したという・・・。
そんな祖父が、秋生が17歳の時に何者かに殺害されてしまう。
犯人はわからないまま時が過ぎて、
彼の受験があったり、
兵役やヤクザとの抗争があったり、
甘酸っぱくも切ない恋があったり。
近頃の日本では忘れられた何か湧き上がるようなエネルギッシュな生き様に、
引きこまれてしまいます。
そして終盤、9年の後、
ついに祖父の死の謎が解き明かされる。


最後まで読んで、もしかしてこれは「ミステリ」にカテゴライズされる物語だったのか、
と気づくのですが、まあ、そんなことはどうでもいいことですね。
歴史、特に戦争は、かくも数奇な運命を人に強いる。
力のある物語でした。

「流」 東山彰良 講談社
満足度★★★★★

愛さえあれば

2016年02月02日 | 映画(あ行)
南イタリアでの出会い。何も起こらないはずがない。



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スサンネ・ビア監督なので、もう少し苦いストーリーかと思ったのですが、
以外に軽いロマンチックコメディでした。



美容師のイーダ(トリーネ・ディアホルム)は、
長く乳がんの治療を続けてきたのですがようやく一段落
・・・と言うところでいきなり夫の浮気が発覚。
動揺が収まらないまま、娘アストリッドの結婚式のために、南イタリアへ旅発ちます。



一方、会社を経営するイギリス人のフィリップ(ピアース・ブロスナン)は、
妻の死を忘れるように仕事に打ち込んできました。
そのため息子とはやや疎遠になっていたのですが、その息子の結婚式のために、南イタリアへ。



新郎新婦の父と母という立場で、イーダとフィリップは出会います。
始めは最悪の場面ではありましたが、
その後次第に二人の気持ちは接近していきます。


南イタリアのソレント。
青い海、レモンの果樹園。
降り注ぐ太陽の光。
まあ、な~ンてロマンチックなんでしょ。
これで何も起こらないわけがないじゃありませんか。
そう、まあ主役のお二人のロマンスは誰にでも想像がつきますが、
あるのですよ、一大破局が・・・。
始めからこの青年は危ないと思いましたよ・・・。
でも結婚前にわかってよかったじゃないですか。



それにしても、イーダの夫の最悪ぶりには呆れてしまいます。
会社の若い女の子と浮気。
それも自宅のソファーで。
おまけに、娘の結婚式に彼女まで同伴って、いくらなんでもそれはないでしょ。
・・・でもね、ライバルがピアース・ブロスナンで、
南イタリアの別荘とレモン果樹園付きというのはあまりにも分が悪くて、
気の毒な気もしちゃいますが・・・。


「年をとってもあんたなんかと一緒にお茶を飲む気になれない」
とイーダは夫に言います。
そりゃそうだよね・・・ホント。
私だってピアース・ブロスナンとお茶を飲むほうがいいわ・・・。


イーダがいつも着ているワンピースとカーディガンの組み合わせがおしゃれで素敵でした。
ビビッドカラーがよく似合う。
もちろん、真紅のドレスも。
おばあちゃんと言われるくらいの歳になっても
こういう色を着こなせたらいいなあ・・・と思います。


それから、この邦題「愛さえあれば」というのが
あまりにもベタでいけません。
全然内容を想定できなくて、安っぽいラブストーリーに思えてしまいます。
デンマーク語の原題は「坊主頭のヘアドレッサー」だそうです。
それもまたあまりにもストレートですが、
「なんだろう?」と、興味は引きますよね。
もう少し、なんとかして欲しかった・・・。

愛さえあれば [DVD]
ピアース・ブロスナン,トリーネ・ディアホルム,モリー・ブリキスト・エゲリンド,セバスチャン・イェセン,パプリカ・スティーン
東宝


「愛さえあれば」
2012年/デンマーク/116分
監督:スサンネ・ビア
出演:ピアース・ブロスナン、トリーネ・ディアホルム、セバスチャン・イエセン、モリー・ブリキスト・エグリンド、パプリカ・スティーン
ロマンチック度★★★★☆
満足度★★★.5