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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「野球の国のアリス」 北村薫

2016年02月23日 | 本(その他)
左右反転、鏡の国の冒険

野球の国のアリス (講談社文庫)
北村 薫
講談社


* * * * * * * * * *

春風に誘われたような気まぐれから、
アリスは新聞記者の宇佐木さんのあとを追い、時計屋の鏡の中に入ってしまった。
その日は夏休みの「全国中学野球大会最終戦」の前日。
少年野球のエースだった彼女は、
負け進んだチーム同士が戦う奇妙な大会で急遽投げることになる。
美しい季節に刻まれた大切な記憶の物語。


* * * * * * * * * *

本作は、講談社「ミステリーランド」という
ジュニア向けミステリの描きおろしシリーズとして描かれたもの。
したがって、ジュニア向けではありますが、
常の北村薫氏とは少し雰囲気も異なり、やや遊び心も感じられる楽しい一作です。
題名からも分かる通り、「ふしぎな国のアリス」を下敷きにしています。


春休み、中学校への入学を待つアリスは、少年野球のエースでした。
でも中学ではもう体型も違う男子ばかりの野球部には入れないだろうと思っています。
そんな彼女の目の前を新聞記者の宇佐木さんが
「大変だ、大変だ」とつぶやきながら、時計屋の鏡の中に入っていってしまった! 
その後をついて、アリスも鏡の向こう側へ入り込んでしまうのです。
そこは元いた世界とそっくり同じ。
ただし、鏡の中なので左右が逆転しています。
そこにはちゃんとアリスの家もあってお母さんもお父さんもいつもと同じ。
けれど、文字が左右反転していて、読みにくいったらありゃしない。
そしてその世界にはなんと、「中学野球大会最終戦」などというものがある。
普通スポーツはトーナメントでどんどん勝ち進み、頂点に立つチームが決まるわけですが、
この大会は、負けたチームがどんどん負け進んで(?)、
最低最悪のチームを決めるというもの・・・。
もちろん、名誉なワケはありません。
とんだ恥さらし。
けれどそれを面白がる風潮がある、というわけなのですねえ・・・。
人は時として残酷なものです・・・。
アリスはそんな地元の最終戦候補に近いチームの助っ人をすることになりますが・・・。


何しろ始めが最悪。
一番バッターとして出場した彼女は、見事にヒットを飛ばしたのはいいのですが、
走りだしたのは、元いた世界の一塁方向。
実はこの世界は左右逆転しているので、3塁方向に走らなければいけなかったのです。
大失敗!!


元気なアリスの様子も楽しいのですが、同じ年の男子たち、
文化系で聡明そうな安西くん、
スポーツの天才でちょっとチャラい五堂くん、
寡黙だけど頼りになる兵藤くん、
それぞれに魅力があって、悩んじゃいますね・・・(何を?)
私もちょっと息抜き感覚に楽しませてもらいました。


「野球の国のアリス」北村薫 講談社文庫
満足度★★★☆☆