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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

パプーシャの黒い瞳

2016年02月26日 | 映画(は行)
ジプシー詩人の孤独



* * * * * * * * * *

実在のポーランドのジプシー詩人、
ブロニスワヴァ・バイス(愛称パプーシャ)のストーリーです。



ジプシーというのは文字を持ちません。
けれど、パプーシャは子供の頃から言葉や文字に興味を持ち、
独学で文字を覚えました。
父親ほどに年の離れた男との結婚や、
ナチスの迫害(ユダヤ人だけじゃなかったんですね!)などを経て時が進む・・・。
彼女は生活のことや自分の思いを言葉にして紡ぎます。
ある日、秘密警察から身を隠すため、
イェジ・フィツォフスキという青年が彼らとともに暮らすことになります。
そこで彼は、パプーシャに詩人としての才能を見出すのです。
フィツォフスキは、2年間のジプシー生活の後、
ジプシーの生活をまとめた本にパプーシャの詩を加えて出版しました。
それが思わぬ評判になったのです。
ところが、このことはジプシー社会では受け入れられなかった。
「古くから伝わるジプシーの秘密を外部に晒した」として、
パプーシャとその夫を村八分のようにしてしまったのです。



冒頭の方で、パプーシャが生まれた時のシーンがあります。
母親が町のショーウィンドウに飾ってあるお人形に憧れて
パプーシャ(=人形)という名前をつけたのですが、
周りからその名前は不吉だと言われてしまうのです。
聡明で、文字を読みこなすようになったパプーシャに
不吉なことなど何もない、と思えたのですが、
その文字を読むことが逆に不幸を招くことになってしまったという悲しい運命。
一般社会で彼女の詩がどんなに賞賛されても、
彼女は自分の愚かさを呪うだけ。



定住せずに旅から旅への生活。
人々は彼らを差別し、時には危害を加えたりもする。
それも大変なのですが、でも、彼らにはまだ自由があった。
けれど二次大戦後、一般社会が落ち着きを見せた頃から、
またジプシーたちの受難が始まります。
ポーランドのジプシーに対する強制的な定住政策。
無理やり押し付けられた家で、一気に彼らが精彩を欠いていくように思えました。
そんな時と同じくして、更にパプーシャは、
周りから爪弾きにされ、孤立を深めていくのです。
幼い時に旅をした野や森や水辺がどんなに懐かしかったでしょう・・・。


全編モノクロの本作はこんな切ない物語にふさわしい。
特に、旅をする馬車やジプシーたちの群れがくっきりと水面に写っているシーンが
ため息が出るくらいに美しかった。
水鳥が飛びたつシーンも、ジプシーの生活を暗示しているようでステキでした。



「ジプシーが文字も歴史も持たないのは、それをするのがつらすぎるから・・・」

パプーシャの言葉が重く残ります。

パプーシャの黒い瞳 [DVD]
ヨビタ・ブドニク,ズビグニェフ・バレリシ,アントニ・パブリツキ
紀伊國屋書店


「パプーシャの黒い瞳」
2013年/ポーランド/131分
監督・脚本:ヨアンア・コス=クラウゼ、クシシュトフ・クラウゼ
出演:ヨビタ・ブドニク、スビグニェフ・バレリシ、アントニ・パブリツキ

歴史発掘度★★★★☆
画面の美しさ★★★★★
満足度★★★★☆