二人の時が交差する時
* * * * * * * * * *
知り合いの家にあずけられて、友だちもなく退屈しきっていたトムは、
真夜中に古時計が13も時を打つのをきき、
昼間はなかったはずの庭園に誘い出されて、
ヴィクトリア時代のふしぎな少女ハティと友だちになります。
「時間」という抽象的な問題と取り組みながら、
理屈っぽさを全く感じさせない、カーネギー賞受賞の傑作です。
* * * * * * * * * *
「ナルニア国」を後にして、再びファンタジーの世界へ踏み込んでいこうと思います。
本作は私の大好きな「時間」をテーマとして扱ったもの。
トムは、弟がはしかにかかり、うつらないようにと、
ひと夏を親類の家で過ごすことになります。
しかし友達もいなく、思い切って遊ぶこともできないので退屈。
夜は眠れません。
ある夜、真夜中に古時計が13の時を打つのを聞き、
こっそり起き出して外に出てみます。
そこには、あるはずのない庭園が広がっていて、ハティという少女と知り合います。
それからトムは毎晩その庭園に通うことになりますが、
いくつかのことに気付きます。
庭園でかなり長い間過ごしても、家に戻るとほとんど時間が経過していません。
この庭園や人々はヴィクトリア時代にあります。
トムがいる現代からは同じ場所の何十年も以前の姿なのです。
そしてトムがこの庭を尋ねるたびに、庭ではかなりの時が過ぎています。
ハティははじめ小さな女の子でしたが、次第に成長しています。
ただし、トムにとってはいつも仲良しのハティなので、
トムは彼女が成長していることにあまり気がついていません。
やがて、ハティがもう「子ども」ではなくなってしまう時、大きな出来事が・・・。
あるはずのない、ふたつの時間の交差。
限りなくロマンを掻き立てられます。
似た話はいくつかあるのですが、
私がはじめてであったのはロバート・ネイサンの「ジェニーの肖像」。
書かれたのは、「ジェニーの肖像」が1939年。
この「トムは真夜中の庭で」が1958年なので、
やはり「ジェニーの肖像」が原点と言えるでしょう。
けれども、本作は少年の成長をテーマとした児童文学というところに大きな意義があります。
時を行き来する冒険。
秘密。
淡い初恋。
長い時間による町や人々の変化を知ること。
通常子どもは昔のことなんか考えません。
親や祖父母が子どもだったことがあるなどとはあまり考えないでしょう。
けれど、トムは自分の目で見て体験して、時の流れを知ります。
2つの孤独な魂が呼び起こした奇跡。
うーん本当に私は、この物語を子供の頃に読んでみたかった。
本作のスケートにまつわるエピソードが素敵です。
スケート靴を受け渡す方法も感動的ですし、
トムとハティが凍りついた川面を遠くの街までずーっと滑り通していくシーンがなんとも印象深い。
爽やかで、そして甘酸っぱい。
子どもでなく大人が読んでも、十二分に感動的な物語でした。
「トムは真夜中の庭で」フィリパ・ピアス 岩波少年文庫
満足度★★★★★
トムは真夜中の庭で (岩波少年文庫 (041)) | |
スーザン・アインツィヒ,Philippa Pearce,高杉 一郎 | |
岩波書店 |
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知り合いの家にあずけられて、友だちもなく退屈しきっていたトムは、
真夜中に古時計が13も時を打つのをきき、
昼間はなかったはずの庭園に誘い出されて、
ヴィクトリア時代のふしぎな少女ハティと友だちになります。
「時間」という抽象的な問題と取り組みながら、
理屈っぽさを全く感じさせない、カーネギー賞受賞の傑作です。
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「ナルニア国」を後にして、再びファンタジーの世界へ踏み込んでいこうと思います。
本作は私の大好きな「時間」をテーマとして扱ったもの。
トムは、弟がはしかにかかり、うつらないようにと、
ひと夏を親類の家で過ごすことになります。
しかし友達もいなく、思い切って遊ぶこともできないので退屈。
夜は眠れません。
ある夜、真夜中に古時計が13の時を打つのを聞き、
こっそり起き出して外に出てみます。
そこには、あるはずのない庭園が広がっていて、ハティという少女と知り合います。
それからトムは毎晩その庭園に通うことになりますが、
いくつかのことに気付きます。
庭園でかなり長い間過ごしても、家に戻るとほとんど時間が経過していません。
この庭園や人々はヴィクトリア時代にあります。
トムがいる現代からは同じ場所の何十年も以前の姿なのです。
そしてトムがこの庭を尋ねるたびに、庭ではかなりの時が過ぎています。
ハティははじめ小さな女の子でしたが、次第に成長しています。
ただし、トムにとってはいつも仲良しのハティなので、
トムは彼女が成長していることにあまり気がついていません。
やがて、ハティがもう「子ども」ではなくなってしまう時、大きな出来事が・・・。
あるはずのない、ふたつの時間の交差。
限りなくロマンを掻き立てられます。
似た話はいくつかあるのですが、
私がはじめてであったのはロバート・ネイサンの「ジェニーの肖像」。
書かれたのは、「ジェニーの肖像」が1939年。
この「トムは真夜中の庭で」が1958年なので、
やはり「ジェニーの肖像」が原点と言えるでしょう。
けれども、本作は少年の成長をテーマとした児童文学というところに大きな意義があります。
時を行き来する冒険。
秘密。
淡い初恋。
長い時間による町や人々の変化を知ること。
通常子どもは昔のことなんか考えません。
親や祖父母が子どもだったことがあるなどとはあまり考えないでしょう。
けれど、トムは自分の目で見て体験して、時の流れを知ります。
2つの孤独な魂が呼び起こした奇跡。
うーん本当に私は、この物語を子供の頃に読んでみたかった。
本作のスケートにまつわるエピソードが素敵です。
スケート靴を受け渡す方法も感動的ですし、
トムとハティが凍りついた川面を遠くの街までずーっと滑り通していくシーンがなんとも印象深い。
爽やかで、そして甘酸っぱい。
子どもでなく大人が読んでも、十二分に感動的な物語でした。
「トムは真夜中の庭で」フィリパ・ピアス 岩波少年文庫
満足度★★★★★